染色体が組換えを起こすとき
〜有性生殖の秘密

遺伝的組換えというと難しそうですが、簡単に言うと遺伝子の本体であるDNAが切れて、違うDNAとつなぎ変わることを言います。組換えは生物自身が持っている働きで、すべての生物種が持っている機能です。DNAは体の設計図のようなものですから、本当は変わってはいけないものです。ではどうして生物は組換えをするのでしょう。実は本当の所よく分かっていないのです。考えられる可能性としては以下のものがあります。

(あちこちにと言うボタンがありますが、ここを押すとそれに関連した説明を見ることが出来るようになっています。)



組換えの役割


1)有害遺伝的変異(DNAに入った傷や間違え)を治す:

DNAは有害な化学物質や紫外線などによる傷を絶えず受けています。これを治すのに組換えが使われています。私たちの体には父親から来た染色体と母親から来た染色体の二本がありますが、そのうち一方がだめになっても、組換えが出来ればもう片方からDNAの情報をコピーすることが出来ます。組換えの機能が失われますと、遺伝子の傷が治されないままになり、

ガンになったり、異常な細胞や個体が出来たりします。


2)子孫の遺伝子の多様性を増やす:

私たちの兄弟を見てみましょう。皆同じ親から出ていますけど、顔形や性格など全然違う個性を持っていますね。つまり、私たちは親の遺伝子のコピーを単純に引き継いでいるわけではないわけです。私たちが子孫を残すときには、必ず遺伝子の組換えが起こるようになっているわけです。

組換えは、

子孫を残す特別な分裂様式減数分裂)の時

に盛んに行われるようになります。反対に、組換えは通常の細胞分裂の時にはほとんど起きないようになっています。このことは、理想的な染色体工学や遺伝子治療の大きな足枷になっています。なぜ減数分裂期に組換えが活性化されるか、その制御機構を調べることも我々の目標の一つです。


3)有性生殖において子孫を残すことそのものに必要:

ほとんどすべての生物種が何らかの形で「性」と言うシステムを持っていることは、生物学の大きな謎です。性を持つ生物は、必ず両性の交配によってしか子孫を作り出すことが出来ません。有性生殖では、精子や卵子を作ることが必要ですが、組換え機能を失った場合、正常な卵子や精子を作ることが出来なくなってしまうことが分かってきています。組換えは、不妊の問題とも関係がある可能性があります。


4)異種間雑種による遺伝情報の拡散を防止:

ライオンとヒョウの異種間雑種はレオポンと呼ばれますが、これは一代限りで子孫を残すことが出来ません。これが生物の「種」を分ける大きな壁になっているのです。その原因の一つには、精子や卵子を作る際の減数分裂の時に、

父親と母親の染色体の似たもの同士を対合させる機構

相同染色体の対合)

があるためだと考えられます。両親が遺伝的に近接している場合のみ、相同染色体の対合は安定に保持され、正常な精子や卵子が出来ることになるわけです。この相同染色体の対合にも、組換え反応が重要な役割をしていると考えられています。染色体の対合するメカニズムは、大きな謎の一つでしたが、最近それに関わる因子や、対合に関わる染色体領域に関する研究が進みつつあります。


5)利己的なDNA寄生体の染色体からの排除:

私たちの身の回りにはウィルス等の病原体がうようよしています。これらの中には、エイズウィルスのように染色体の中に潜り込んでしまう厄介なものも数多く存在しています。このようなレトロウィルスの他にも、トランスポゾンという利己的DNAが存在し、好きあらば我々の染色体に潜り込んで、その陣地を増やそうともくろんでいます。

減数分裂期の組換えは、このような寄生体の侵入にともなう染色体上の異常を検出して、正常な染色体の情報に組み換える働きがあります。私たちはその機構も調べています。


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