第3話 いざレッスンを

 高校時代、同級生が音楽大学を目指していました。最初は半信半疑でしたが、彼は、すでに受験のためにピアノやソルフェージュを習っていて、専攻楽器のレッスンも月に1度、東京まで通い、NHK交響楽団の先生についているとのことでした。音楽をただ楽しみとしてしかとらえていなかった私にとって、専門の道に進むということ自体考えてもみませんでしたし、自分の進路をきちんと考えている彼をうらやましくも思えました。
 そんな彼の姿を見ていると、同級生で、そして音楽を愛好するものとして、やはり同じような「夢」を抱くようになりました。しかし、「夢」は考えているばかりでは実現しません。いろいろと自分なりに考えたあげく、ある夜、勇気をふりしぼって教則本に書いてあった先生の電話番号を回してみました。
 「もしもし、わたくし、江川と申します。先生に楽器を教えていただきたいのですが…」
 「君は今、何年生?」
 「はい、高校2年です。」
 「じゃ、まだ早いね。高校3年になったら、また電話くれるかい。」
 「わかりました、ありがとうございました。」
 胸の高鳴りを抑えながらのやりとりで、きちんと話ができたかわかりませんが、最初のもくろみはあっさりと崩れ去りました。
 次の作戦は、群馬県榛名湖のほとりで開催されていた、サマーキャンプに参加しようというもの。ここには全国各地から高校生が集まってきて、自分の楽器と吹奏楽を学ぶことができました。吹奏楽の指導は、金子登氏ほか、各楽器の指導も著名な先生方がそろっていました。当然、前述した先生も。同じ年代、同じ愛好者が集まっているわけですから、いろいろな情報も収集できますし、意見交換もできました。楽器のレッスン、吹奏楽合奏、キャンプ・ファイヤー、講師陣のミニ・コンサートなどなど盛りだくさんの内容でした。その中で、一番の忘れがたいことは、阪口新氏のサクソフォーンによる「ユーモレスク」(ドボルザーク)の演奏でした。その甘美な音色は、サクソフォーンの受講者のみならず、すべての受講者を魅了しました。私は、そのコンサートが終わったあとすぐに、どうしたらあんな音色が出るのだろうかと練習してみました。当然、そんなすてきな音色が、すぐ出るはずありません。しかし、音楽を志す上で、美しい音色は、人を魅了するだけの力があることを、この時知りました。(つづく)

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