このラミラダ海外派遣研修に次の課題を持って行きました。
〈1、インクルージョンの実情を知る。〉日本の統合教育は、インクテグレーション(統合・障害児を、障害を持たない子ども達のクラスに入れる)からインクルージョン(全ての子どもが、単に場所を同じくするだけでなく、地元の学校生活と社会生活に包みこまれる必要から、子どもすべてをもとから一体のものとしてとらえようとする)へ変化してきています。日本の約9倍の子ども達が特別な援助を受けているアメリカの教育の現場を体験し、実情を知りたいと考えました。
また、アメリカでは全障害児教育法によって教育の場での特別の援助はIEP(個別教育プログラム)を作成しての指導が確立されているときいているので〈2、IEPの実際をしりたい〉です。
バリアフリーは段差が無いとか、スロープが付いているとか、障害者や老人にとってやさしい施設という観点で語られることが多いようですが、むしろ「人の視線の温かさ」をいうのではないかと思い〈3、バリアフリーを感じる〉の3つを課題にしました。
全ての課題について、充分研修をしてきたとはいえませんが、これらの課題を持って見てきたアメリカのスペシャルエデュケーション(特別な教育)について報告をします。
■IEPについて
ノーウォーク・ラミラダ教育事務所のスペシャルエデュケーション担当のスプロールさんから話を聞きました。彼自身が難聴の方で、いつもそばに難聴犬がいました。胴にplease don't pet meと書いた布を付けていました。
州の法律で、同年齢の子ども達と離して分けてはいけないというのが、基本にあります。この基本の考えそのものが、インクルージョンのことだと思います。
クラスで学習を進めていく中で、この子は理解するのに時間がかかるとか、苦手なので手だてが必要というのが出てきます。担任の先生は、この苦手なところを、細かくチェックしていきます。その時のチェックは、両親にも了解を得たうえで、話し合いをしながらやっていきます。つまり、ハンディキャップを持っているからという理由ではなく、その子に合った教育が必要だから、必要な教育をしましょうというのが、スペシャルエデュケーションです。州立の盲学校はあるそうですが、いわゆる日本にある障害児学級とか養護学校はありません。スペシャルエデュケーションを必要とする子ども達は、リソースルーム(通う)の形で
学習をします。その時に必ず立てられるのが、IEPです。
実際に使っているIEPの用紙をいただいて来ました。メンバーは、校長、担任、両親、スペシャリスト(必要なスタッフ)で、年に1回は保護者の意見を聞く、校長は週に1回見直しをする、6、7人のチェックが入る等の話を聞いて来ました。残念ながら、こういう教育の必要から、こういうプログラムを立てて……というのは、子どもによって違いますよということで、また、プライバシーの関係もあって、具体的な内容はお聞きできませんでした。
■難聴の子ども達への指導(イーストウッド小学校)
この小学校では、Hard of Hearing(難聴)のクラスが4つありました。このうち2つのクラスは聞こえが悪く、ほとんど話ができない子ども達のクラスでした。年齢の低い子ども達のクラスは実物に触れたり、感じたりすることが大切な学習で、実際にバナナやリンゴを食べて勉強をしていました。小さい子ども達の見本になってもらうために、高学年の子が入っていて、先生が「良いお手本になってくれています」と言っていました。
スピーチができるクラスの子ども達は、名前、年齢、好きなことを、手話で一人ずつ話をしてくれました。英語がしっかり分からない私にも、よく聞き取れました。で、私も日本式の手話で「私の名前は木下です」と自己紹介してきましたが、あっちの手話を教えてもらうんだった…と後悔しています。このクラスの先生に、私も難聴の子どもの先生だったんですよと話をしたら、「オー」と言って抱きしめてくれました。補聴器のフィッティング、聴力検査等は、学校ではなく、お医者さんにやってもらうそうです。
この学校でTeacher of the Deaf(耳の聞こえない)Program Specialistのジャニスさんに会って話を聞きました。彼女は、子ども達に教えるのはもちろん、両親の話を聞いたり、担任にアドバイスをしたり、校長先生に難聴の子ども達について説明をしたり、という仕事を受け持っているそうです。この辺の30校の担当で、難聴のクラスは学区に関係なく、聞こえの具合によって分けているそうです。イーストウッド小学校の校長先生が、一諸に案内してくれたのですが、ジャニスがいることでたいへん勉強ができ、難聴のことがよく分かったと言っていました。
■スペシャルデイクラス(ラ・プルマ小学校)
ラ・プルマ小学校では、スペシャルデイクラスという名前で18人の子ども達が学習をしていました。自閉のお子さんが2人いて、1人の子は先生と1対1でパズルをしていました。数ヵ月前までは、椅子に座らないで床に寝ていることが多かったんだけれども、今は座ってよくやっていますという様子を見せてもらいました。子ども達は、それぞれパズルやレゴのようなものをやっていました。女の子が私に、ノートをやるたびに見せに来てくれました。絵を見ながら文がバラバラになっているのを構成したり、絵の物の名前を右の単語から選んだりの学習していました。ノートを見せてくれるので「good」と誉めると、またやっ
て見せてくれて、次は「nice」とか、一生懸命いい言葉をさがして、やり取りをしてきました。教室の壁にドルの計算の問題が貼ってあって、数の学習はお金を中心にやっているという話でした。広告等、物の写真を切り抜いて、物の値段がどのくらいかの掲示もありました。お金を使えることは、大切ですと話をしていました。
もう1つのスペシャルデイクラスでは、黒板に向かって皆で、B・bのつく言葉を探す学習をしていました。Bのつく単語のカード(色つき)が黒板にたくさん貼ってありました。アシスタントの先生が3人いて、ボランティアの方も入っているそうです。
スペシャルデイクラスに通っているスペインの自閉のお子さんのクラスを見学しました。スペイン語が話せるアシスタントの人が一緒にクラスに入っていて、ちょうど行った時は、スナックタイムで、家から持ってきたお菓子を皆で食べているところでした。休憩の時間、昼食の時間、その他に参加していますが、このように、アシスタントの方と一緒に行くことが多いそうです。
■ハートプログラム(ガーデンヒル小学校)
ここでは、1日のうち、30分〜1時間、特別の学習をして戻っていくメインストリーミングの形をとっていました。その学習をしている子ども達がこのガーデンヒル小学校の独特のハートプログラムに先生として参加しています。
H(Happy幸福)E(Eager熱心)A(Amazing驚く)
R(Reading読む)T(Tutors教える)
のHEART READING CLUBという学習が学校全体で進められています。1週間に2日、15分〜20分間、本を読むプログラムです。このプログラムにお子さんが参加してもいいですか、という許可を両親にとります。参加することになると、家にその本を持って行って両親に読んで聞かせたり、読んだ本の名前等を記録することが必要になってきて、こういうように進めて下さい、誉めるといいですよといった内容が書いてあるTutor Handbookもできています。このハートプログラム学習の先生として、ボランティア、大学生、そして特別な学習をしている子ども達が入ります。先生の役目をしてもらってもいいかという許可も両親からとります。その許可の用紙には、読み方を教えると同時に、本を読む気にもなるし、読む力に自信がつくと書いてありました。たくさんの子ども達が、ここで学習して読めるようになっていきましたと話をしてくれました。
4ー3、町の中のサイン
バリアフリーを肌で感じる……というところまではいきませんでしたが、車イスのマークをとっても多く目にしました。「あ、仕事だ」と言って、写真をたくさん撮ってきました。レストランやお店はもちろんですが、駅、地下鉄、地下道の8段の階段の所にもついていました。
ユニバーサルスタジオでは、駐車場に車イスをゆとりを持って動かせる場所を取った広さで、ずっと車イスマークが並んでいました。スタジオの中でも、一番前の席は、車イス用で、手助けが必要な時はいつでも、という表示と一緒にマークがついていました。と、ここまで書いていたら、ふじ組のお母さんに勧められて読んでいた『五体不満足』の本の中に、著者の乙武さんのアメリカ旅行記があって(p234〜)ユニバーサルスタジオのことがかいてあったので一部引用します。
【 車椅子への対応も完璧だ。日本で車椅子に乗っていると、あまり遊園地などへ行こうという気にならないし、行っても疲れるだけということが多いのだがこの日は別。さまざまなライブ・ショーの最前列には、きちんと車椅子席が設けられているし、アトラクションでは乗り物の真横まで車椅子で行くことができる。
車椅子用トイレもあたりまえのように設置してあり、園内のどこを探しても、段差の「だ」の字も見つからない。障害者への配慮が「娯楽」という部分にまで、しっかりと行き届いているアメリカ。さすがだなぁ。】
そうなんですよね。同感!