イソップの宙返り・97
               
樵(きこり)とヘルメスの神
男が川のそばで木をきっていたら、斧(おの)を川の中に飛ばしてしまいました。
大事な斧が流されたので、嘆いていると、ヘルメスの神がやってきました。
泣いているわけを聞いて、川に潜って金の斧をもって上がってきました。
男がこれではないと言うと、今度は銀の斧をもって上がってきました。
これでもないと言うと、3度目には男がおとした斧をもって上がってきて、男の正直を誉めて、3つともくれました。
         
これを聞いた欲張りが、川に斧を投げ入れました。
ヘルメスの神がやってきて、川に潜って金の斧をもって上がってきました。
欲張り男が、それだとウソをついたので、ヘルメスの神は、男の斧も取り上げてしまいましたとサ。
寓意・神意は正しいものの味方をする。
☆     ☆
極東の凡俗が考えまするに・・・
「正直の頭(こうべ)に神宿る」て諺がありますね。
ああ、「正直は一生の宝」てのもありましたね。
正直は、一生を通じて心がけなければいけない、って意味でね。
              
「神は死に絶えた」て粋な言い方が流行っています。
そう言えば、「神宿る」って言われるわりには正直者はバカを見ることが多いように思えるんですがね。
やっぱり、神は死に絶えたのかなぁ?
            
でも、日本では詐欺罪の処罰は軽いですねぇ。贈収賄でも軽いですねぇ。
ほとんど執行猶予付きですもんねぇ。
詐欺なんか、「だまされた方がバカなんだ」って言う気風がありますね。
       
でもねぇ、日本人ってみんな正直でしょう?
落とし物が出てくる確率は世界でも抜群に良いっていいますよね。
外国人の旅行者が、落とした財布が届けられたなんて感激している記事にお目に掛かります。
あれ外国ではありえない話だそうですねぇ。
            
よく聞く話に、外国に到着して空港の両替所で、カウンターの横の肘につけるように財布を置いていたのに、係員と話していたら、無くなっていたなんてのがありますよね。
日本だったらどうかなぁ。
係員が注意してくれるんじゃあない?
       
でまあ、ドロボウの話に脱線。
ボク、若い頃に見学で、スリ取り締まり係の刑事さんの後を一日ついてまわったことがあるんですよ。
いえいえ、ボクだけではなく実務法律家になるのに、実習としてやりましたね。
で、それで知ったこと。
          
はじめは地味な話から。
地見(じみ)って商売があるのご存じ?
地味ではなく地見。
百貨店の大食堂のチケット売り場のカウンターの下の隙間を、一日中見てあるくヤツがいるんですよ。
食堂のチケット売り場では、子供が走り廻るしで、みんな注意散漫になるでしょう?
それで、小銭を落としてしまう。
それを後から来た人が気がつかないで、カウンターの下の隙間に蹴りこんでしまう。これを探してまわると結構な収入になるんですねぇ。
で、地面ばっかり見て歩くから、地見。
自動販売機の並んでいるところでは、片っ端から返却穴に指を入れて歩く人っているでしょう?
気がついている?
あれは何ていうんでしょうねぇ。
穴見かなぁ。
         
スリでも、すれ違いざまにスリ取るなんてのは、和服で懐に紙入れをいれていた時代の話で、洋服の内ポケットの財布をスル名人は、今は少ないそうですがね。
それに、こんな職人芸のヤツは数えるほどしかいないから、この手の被害が報告されると「あいつヤ」なんて、スリ係が感知して、重点的に後をつけられ、商売になりにくいって聞きますねぇ。
       
今時に、内ポケットの財布を盗るのは強盗的なやりかたしかないようですねぇ。
混んでいる電車の乗りかけに3人で取り囲むやりかた。
目をつけたカモより二人が先に乗り込んで、後からの一人が背中を抱え込むんですねぇ。
身動きができないようにして、盗るんですワ。
後から背中を抱え込む姿から、「バッタ」って言う。
ええ、ボクは、この実習のお陰で、気がついて助かったことがあります。
           
スリの被害で多いのは、買い物カゴから財布を盗るの。
でも、財布が籠からのぞいているのは、犯罪誘発行為。
つい誘惑に勝てないで、手を出してしまう少年がいるんですよね。
あれは、犯罪者を作っているようなもの。
       
そう言えば、関西はひったくりが、最近増えましてね。
しゃれたショルダーが流行っているでしょう?
あれが、ひったくり、カッパライ犯罪を増やしたと思いません?
もしそうなら、ショルダーの流行が少年犯罪を誘発したと言えないこともない。