| <低体温症>
 以前、秀山荘ワンポイントでも紹介した標高による気温の変化、体感温度が関係してきますので重複になると思いますが、低体温症(疲労凍死)の事故は秋から冬にかけて多く発生します。
 疲労凍死は体温が奪われ、身体機能の障害が起こり死に至る事を言います。初期症状として疲労が溜まり、悪寒がはしり震え出す。次第に意識が朦朧となり歩行が遅れがちになる。
 コア部の体温が35℃で震えが始まり、33℃で運動障害が起こり、32℃で意識が朦朧とし錯乱状態に陥り、27℃で昏睡状態に陥ると言われております。
 9月でも北海道大雪山系では気温が零下まで下がってきています。これに風が吹けば体感温度(風速1mで体感温度1度低下)が下がり、マイナス数度から数十度の状態になります。紅葉シーズンに入ってくる北アルプス涸沢でも体感温度が氷点下になり、もし雨に濡れていたら体温が奪われば疲労凍死になりかねません。「私は雨の日は登らないし、凄い所には行かないから雨具はいらない・・・・」と言う言葉を耳にするたびにゾッとします。丹沢でも疲労凍死の事故は発生してますし、南の屋久島でも疲労凍死の事故報告もあり、夏場でも雨具なしで風雨に晒されれば事故に繋がります。
 
 雨の日に登らないけど、天候が悪化して雨が降ってきたらどうするのでしょうか?
 登山道では避難し体温を回復できる場所、例えば山小屋や避難小屋まで数時間を要する場合、濡れた衣服で行動するのは大変なことです。低体温症にならない為には「濡れない」「風を避ける」「保温する」が必要条件で、「濡れない」「風を避ける」は登山の基本装備である雨具を持って行くこと。忘れても、ここまで来たから行こう!では、危険です。「保温」の為には、セーターやフリースはもちろんですが、下着も速乾性の高い素材(化学繊維やウールなど)を使用しましょう。綿素材は保水性が高く、汗や雨で濡れた場合乾きにくく、体温を奪っていきます。
 手袋も必要不可欠ですので、9月を過ぎる頃からはレイングローブや、ウール・フリースのグローブなど保温性・防風性の高い物を用意してください。(冬期は更に防寒性の高い物を用意)
 行動中の食料もカロリーの高い糖質の物や、エネルギーになりやすい炭水化物や脂質の物を摂取しながら行動も低体温症を予防する方法です。
 
 お酒は一時的なものはありますが、血管を拡張し体温の低下を促進する為に逆効果。
 装備にツェルトやシュラフカバーが一時的な避難につかえますので、日帰りでも準備を。
 では、低体温症になった場合にはどうするかと言うと、状況により対処方法がことなりますが、初期症状の悪寒が走り震えだしたら、風等をよけることが出来る山小屋やテント、ツェルトに避難し、衣服が濡れている場合には着替えをします。手足や頭部も暖め熱が逃げるのを防ぎ、携帯カイロなどがあれば低温火傷に注意し太ももの内側や脇の下などの太い血管が通っている所を暖めてあげます。
 これは熱中症とは全く逆の手当てとなりますので、覚えておいてください。
 また、暖かい飲み物が用意できれば、摂取するようにしてください。
 特に事故等で外傷など無ければ全身マッサージをし血流を促し体温を上げていきます。
 万が一、同行者が重症(意識不明等)の場合に陥った場合には、直ちに救助を要請し、処置方法の指示を仰ぎ対処してください。
 例え心停止していても、いわゆる仮死状態ですので、停止していても心肺脳蘇生の可能性が高く、蘇生を諦めてはなりません。
 雪崩で遭難し、低体温症に陥った場合も同様に諦めてはいけません。
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 <お勧め書籍>山と渓谷社 凍る体 船木上総 (フナキ カズサ) 著  ¥1470
 著者自身大学生の時にモン・ブランへスキー登頂にみ雪で登頂を断念、スキーで下山中、ヒドン・クレバスに落下してしまった。16時間後に救出されるが、体温は29度の低体温。苦しいリハビリの後に回復した。この経験から現在は医師なり低体温症の研究の第一人者として広く知られております。
 四六判 208 ISBN:4-635-14001-6 発行年月日:2002年01月31日
 
 
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