長野北高卒業50周年記念誌原稿 2007年10月
 

通らなかった道

グリーンウッド

中学同期の土屋さんに誘われて仙台にゆき、そこで応用化学を学び、石油精製工場、石油化学工場を設計・建設するプラント・エンジニアリング会社に入社したのは36年前のことです。

応用化学を学んでプラント・エンジニアリング会社に入れば基本設計を担当することになります。配属先の希望を聞かれたとき、私は当時の会社の主流である石油精製プラントより会社として実績が少なくとも潰しの利く化学プラントの設計を希望しました。しかし石油精製プラントの設計で忙しく働き、経験を積んでベテランになってゆく同期入社の連中の背中をみながら、シマッタナと後悔することになります。自分で選んだ道なので文句もいえません。先輩も経験のない分野の、実現も怪しげなプロジェクトを追いながらむなしく5年間が過ぎてゆきました。いつも未経験な技術に立ち向かわねばならなく、それも実現しないで試設計で終わるという、賽の河原に石を積み上げるような日々でした。先輩に指導を受けるというわけでなく、全て自ら調べ、構想を練り、設計するという日々だったわけです。

同じような日々が続いていたある日、マイナス40oCに冷却した液化石油ガスをタンカーから受け入れ、タンクに貯蔵し、これを温めてローリーに出荷するという輸入基地の設計が持ち込まれました。先輩は誰も手がけたことはないので、いつも器用になにかしらの設計をでっち上げる人間に当座やつけてもらおうという魂胆でしょう。面白半分に引き受け、設計図書を積算担当者に渡しました。しばらくすると私の設計に基き見積もりをして応札したら冷凍設備費が他社の半値で一番札になったという報告がはいりました。上司が心配してチェックして冷凍容量が小さ過ぎるとつぶやくではありませんか。私は入荷時のピーク負荷をタンク蒸気圧上昇で平滑化するという方式を考案して顧客の同意をとりました。これが突破口となって液化石油ガス輸入基地を受注しまくり国内市場占拠率は60%に上りました。この経験が買われて日本初の液化天然ガス輸入基地の基本設計を担当させてもらいました。まだ電子計算機のない時代ですから、1号機のために作成した設計計算書の厚さが8センチとなり、後輩達のバイブルとなりました。その後、産ガス国に建設する天然ガス液化プラントの設計・建設にも進出して世界の液化プラントのほぼ半分を手がけました。石油を半分使い切った現時点からみれば、人類の今後のエネルギー源として、またグローバルヒーティングを緩和するエネルギーとして期待できる分野のメジャープレイヤーになるスターティング・ポイントを作ることができたわけです。こういうわけで引退後の会社の核となる人材は、社長も含め、この分野で育った後輩達という幸運に恵まれました。

米国の詩人ロバート・フロストの詩「通らなかった道」に

  森のなかで道が二つにわかれており、私・・・
  私は人が通ったあとが少ないほうを選んだ。
これで、その後のことすべてが変わった。

という句がありますが、入社時の一瞬の判断がその後の分岐点であったとつくづく思うものです。

55才のとき、引退後の準備にとハーレーダビッドソンを購入しました。役員の趣味として日経産業新聞のマイ・ウイークエンド欄に紹介されると大勢の人からコンタクトがありました。今でもロータリークラブのメンバーで構成されるハーレークラブに参加して、北海道、東北、四国、九州をツーリングしております。海外は米国のルート66、そしてニュージーランドまで自分のバイクを持って行き、南島を一周しました。

引退後は誰にも拘束されずに「通らなかった道」を新たに見つけようと一切の仕事を断って晴耕雨読の日々を過ごしています。雨が降れば読書、晴れれば、バイク・ツーリング、セーリング、登山、スキー、ウォーキング、巡礼などの屋外活動をし、その記録をウエブサイトに公開するということを楽しんでおります。七里ヶ浜在住のため、セブンマイルビーチ・ファイルというサイト名をつけました。グーグルやヤフーで検索してもらえればトップに表示されます。

引退直後にはベルギーのエタップ社からシングルハンドでも操船できる24フィートのセーリング・クルーザーを輸入し、横浜ベイサイドマリーナに係留して浮かぶ別荘として楽しんでおります。

中学時代のクラスメート、2名の青木、近藤、栗林の4名をメンバーとする登山グループwakwak山歩会に所属して8年、毎月どこかの山に登っています。この文集が刊行されるころには80座を征服しているでしょう。

北ラス会の皆様ともスキー、ウォーキング、巡礼で楽しい時間を持つことができた幸せ者です。

スキーは村田(修)さんの紹介で北沢(栄)さんが幹事を勤める野沢スキー会に参加し、西川さんの紹介で山また山の山の会の戸隠高原ウォーキングに参加し、和田(光)さんの指導で山菜・岩茸の採集も勉強させてもらっています。ついで五街道を征服し、西国三十三ヶ所を満願した西川さんをリーダーに仰いで秩父三十四ヶ所をまわりました。西川、北澤(章)、北沢(栄)夫妻、池田(司)各位の6名でガビチョウのさえずりを聞きながら四日間歩きました。寺毎に般若心経を読経し、朱印を集めて廻るという伝統様式に従いました。読経中首尾よくハモルと陶然とした気分になりました。そのうちにサンスクリット語の原典まで勉強するほど熱中しました。

秩父に味をしめ、引き続き坂東三十三ヶ所巡礼をすることになり、発願式を浅草寺と隅田川の屋形船で行いました。大久保(博)、飯田(邦)、和田(忠)、松本(英)、藤島の各位が新たにメンバーに加わりました。相模国の巡礼峠、物見峠、貉坂峠、白山を経由して飯山観音に向かう古巡礼路では山蛭の大群の出迎えを受け、泉鏡花の「高野聖」にでてくる天生峠のような魑魅魍魎の世界を味わいました。病膏肓に入った飯田さんは写経し、納経するという凝りようです。坂東最大の難所、八溝山に登り、筑波山から清滝寺までの20キロを走破し、今年の新緑の季節に加畑、小澤(宣)さんも参加して千葉寺で満願しました。西国、坂東、秩父併せて日本百観音を結願した 西川さんは信州の善光寺と別所の北向観音に御礼参りできますが、残るメンバーは全行程330キロの信濃三十三ヶ所の巡礼を継続して百観音結願をめざそうとしています。飯田さんが言うようにバラモン教の経典リグ・ヴェーダが教える林住期(ヴァーナプラスタ)を満喫しているわけです。

さて引退したとはいえ、永年、めしの種にした化石燃料がグローバル・ヒーティングを引き起こしていることは気がかりです。それに石油も半分程使ってしまいました。政界、官界、学会、産業界、マスコミがそれなりに対応しておりますが、長年エネルギー業界に居た人間からみると見えるとことに関しては対策をたてていますが見えないところはほおかぶりして間違った策をとっているように見えてしかたがありません。文集がページ無制限といううたい文句に飛びついて気がかりなことを書き連ねましたところ大論文のようなものになってしまい、川上編集長から半分に削ってくれと頼まれてしまいました。むべなるかな、因果関係の部分は全面カットし、私からみて政策的に気になる重大な項目について、対策も含め、提案させていただくことにしました。因果関係やその他の項目に興味がある方はわがウェブサイトに掲載してあるオリジナル原稿をご一読ください。グーグルまたはヤフーに「グローバル・ヒーティングの黙示録」と入力して検索してもらえば出てまいります。

石油は今後もなくならないという錯覚

1970年代のいわゆるオイルショックのとき、すわ石油が枯渇するのではと慌てふためいたのにその後、埋蔵量は増え続け、価格は下がり続けた経験を持つ人々は石油などどうせ今後もなくならないと思い込んでいるようです。しかしこれは錯覚です。見掛け上埋蔵量が増えたように見えたのは新規発見がないにも関わらず産油国が発言力を増そうと毎年、確認埋蔵量の水ぶくれ申告を行ったためです。しかし今回の石油価格上昇はいくら井戸を掘っても産出量は増えないというほんものの枯渇現象です。キャンベル氏の究極可採埋蔵量が1.8兆バーレルという説をとれば2005年に産油量はピークを過ぎたことになります。米国の地質調査所の3兆バーレル説に従えばピークは2020年に来ます。たしかに油田の埋蔵量と数がスケールフリーのフラクタル分布(べき乗分布)となるとすれば究極確認埋蔵量が4兆バーレルはあるのではないかという説もありますが、世界のあちこちに散在するマイナーな油田の開発となり、採油費の高騰は避けられないでしょう。ここから出る結論は石油の獲得戦争に出向くことなく、石油以外の資源に着目せよということです。

環境を汚染する硫黄酸化物の除去はグローバル・ヒーティングを加速するというジレンマ

ジェームズ・ラブロック氏が「ガイアの復讐」で指摘している説ですが、化石燃料に含まれている硫黄が硫酸エアロゾルとなり、大気中の水分凝縮の核となって雲を発生させ、太陽光を反射してグローバル・ヒーティングを抑制していました。しかるに二酸化硫黄は酸性雨となって針葉樹林を痛め、呼吸器障害も発生しました。このような公害を防ぐために二酸化硫黄排出規制が行われ、結果として硫黄による冷却効果は減じ、グローバル・ヒーティングは加速されているという説です。我々が排煙脱硫や燃料油脱硫装置を開発して二酸化硫黄の放出を減らしたのはグローバル・ヒーティングを加速したという皮肉なことになります。

だからといって脱硫装置を廃棄するわけにもゆきません。将来グローバル・ヒーティング対策として成層圏を飛ぶジェット機の燃料に硫黄含有量の多いジェット燃料をつかうという対策が考えられる程度でしょう。

燃料電池がグローバル・ヒーティング対策の切り札になりうるか?

現在のライフスタイルを維持しながら化石燃料の消費を減ずるにはまずエネルギー消費端の効率を向上させることです。発電サイクルの高温側の温度を上げてカルノー効率の改善を図るガスタービン複合発電やデーゼルエンジンの利用、発電装置の排熱の有効利用をするコジェネレーション、そして燃料電池車あるいは電気自動車等の新規な自動車の開発があります。

過去10年間、燃料電池車が盛んに研究されてきました。しかし燃料は水素ガスという制約があります。化石燃料から水素に転換する過程でエネルギーが失われ、二酸化炭素が排出されます。東大工学部の石谷久教授がまとめた油井から車輪に至る10・15モード方式の1キロメートル走行当たりの二酸化炭素排出量は電池電気自動車が49グラムで燃料電池ハイブリッド車の86.8グラムより断然優れています。これを皮肉ってフュエル・セルをフール・セルと呼ぶ人もいます。日本政府は2002年から水素燃料電池実証プロジェクトをスタートしました。数百億円の研究費を補助し、民間企業も自腹をきって研究に参加しました。燃料電池自動車に供給する水素燃料供給システムを米国と張り合って開発するという構想です。化石燃料から水素を製造しては転換過程で二酸化炭素を排出しますので車載転換はありえません。まとめて水素転換プラントで水素にして供給するという構想ですが、水素流通網をあらたに構築しなければならず、燃料電池自動車の普及は当面困難と思われます。

電気自動車はまだバッテリーコストに難があります。当面は燃料電池車と同じ程度の効率を持つディーゼル・ハイブリッド車を使えば良いのです。その二酸化炭素排出量は89.4グラムです。すでに普及しているガソリン・ハイブリッド車だって充分有効で123グラムです。ディーゼル車ですら146グラムです。東京都がディーゼル車を問答無用で締め出したのは視野の狭い行為といわざるをえません。深度脱硫した燃料油を燃焼するデーゼルエンジンは触媒による排ガス浄化が可能ですのでもっと使うべきでしょう。天然ガス車は148グラムでガソリン車193グラムより優れています。

長期的な視野で見れば化石燃料油の流通網で給油する車に加え、既存の送電網から充電する電気自動車、既存の都市ガス網を通じて分配される天然ガスを小型コンプレッサーでボンベにつめた天然ガス・ハイブリッド車、既存の石油ガス流通網を通して分配されるジメチルエーテルなどの合成燃料とするディーゼル・ハイブリッド車も使われるようになるのではないかと思っています。


二酸化炭素の隔離を廃油田や帯水層に貯留するだけで充分か?

エネルギー消費端の効率向上にも限界がありますから次の手段は発生する二酸化炭素を大気に排出せずに隔離してしまうことです。排煙などから二酸化炭素を回収し、廃油田や深さ千メートルの海底の帯水層に貯留するというのです。日本は島国ですので52億トン以上の貯留容量がありますが、年間総排出量は13.6億トンですから4年分の容量しかないことになります。それにジェームズ・ラブロック氏が指摘するように廃油田や帯水層に貯留の場合はカメルーンであった火口湖のロールオーバーのような漏出事故が発生しないようにしなければなりません。

さて廃棄物の海洋投棄を禁ずるロンドン条約でも2006年11月二酸化炭素の廃油田や帯水層への隔離を認めました。日本でも許可制で認めてゆくことになりそうです。気候変動に関する政府間パネルは回収した二酸化炭素の海 中隔離法をケン・カルデイラらに研究委託しました。これによると直接投棄では時間が経つと海水が酸性化してサンゴ礁が溶けてしまいます。石灰石を微粉砕しこれを水に懸濁した液と石炭焚きの火力発電の排煙を接触させて重炭酸カルシウム塩の水溶液にして海洋に投棄すれば海水が酸性化することもありません。二酸化炭素の完全除去は無理ですが、放出量を減らせます。この場合、隔離する二酸化炭素の3.5倍の石灰石が必要となりますが、石灰石資源は充分過ぎるほどあります。二酸化硫黄による大気汚染防止のため、石灰石と反応させて石膏にしたと同様の隔離技術です。化石燃料を燃焼させて発生する二酸化炭素をもともとそこにあった大気に循環してグローバル・ヒーティングが生じているわけですからその物質循環システムを止めるためにカルシウムにその隔離作業をしてもらおうというわけです。このような重要な技術なのに電力会社や日本政府はなぜかカルシウムによる二酸化炭素の隔離を研究対象にしていません。

二酸化炭素隔離の追加費用を加えてもソーラーセルの電力より安価でしょうから天然ガスや石油が枯渇しても埋蔵量の大きいタールサンド、オイルシェールを熱分解するとか、石炭を酸素で部分酸化させて製造する合成ガスからメタンガス、フィッシャー・トロピッシュ合成油、あるいはジメチルエーテルなどの合成燃料を製造するようになるでしょう。 タールサンド、オイルシェール、石炭などの重質化石燃料の転換過程で副産する二酸化炭素は隔離してしまうわけです。こうすれば既存の化石燃料の流通網がそのまま使えます。重質化石燃料とカルシウム資源のある国が新産油国として登場するでしょう。


グローバルヒーティングか原発か?

原発はローコストでなにもせずとも二酸化炭素を排出しないという利点がありますが、事故による放射能汚染のリスクがあります。またウランの確認埋蔵量はR/P比で85年で人類の未来を託すに充分な量ではありません。高速増殖炉に期待する向きもありますが、技術的リスクが大きすぎるし、核融合は1兆円という巨額の国家予算を投入しているトカマク方式はまだその可能性も確認されていません。米国のレーザー方式は基礎研究の段階です。それに核融合も放射能を生み出し、炉材となるベリリウム資源も実験炉1基分しかないといわれております。

さて放射能はジェームズ・ラブロック氏の指摘のとおり、一般大衆が原爆の悲惨さから導き出したイメージほど危険なものではありません。むしろ放射能汚染で人間が立ち入ることができなくなればかえって自然保護になるというパラドックスさえあります。しかし「ヨハネの黙示録」に出てくるニガヨモギという草を意味するロシア語のチェルノブイリ(『黒いディル』というニガヨモギの近縁種)という語が象徴するように、1986年のチェルノブイリ事故のような放射能汚染が発生すると第二次大戦より大きな経済的インパクトを日本にもたらすでしょう。カルシウムやカリウムになりすまして生物に摂取されるストロンチウム-90やセシウム-137の半減期は29-30年で、土壌汚染があると人が長期間居住できなくなります。ベラルーシュとウクライナでは避難勧告の限界汚染レベルはセシウムが1平方キロメートル当たり15キューリー以上または年間被爆線量1レム以上とされました。この汚染範囲は大雑把にチェルノブイリ原発を中心にして半径320kmの範囲に入ります。日本に置き換えれば首都圏がすっぽり入ってしまうのです。山地など人間がつかえないところを除いた有効面積当たりの人口密度は日本では英国やヨーロッパに比べ6倍も高いのです。放射能により土地を失う。それも首都圏というリスクは他国より6倍高いということになります。

日本に55基ある既存の原発は1981年に原子力安全委員会が決定した古い耐震設計審査指針で定義される基準地震動で、放射能もれがないように設計されています。 基準地震動とは敷地の地下にある第三紀層ないしそれ以前の堅牢な岩盤上での水平方向の地震動のことです。塑性変形を許すが、放射能を外部に漏らさないための限界地震の基準地震動を旧基準ではS2といいます。首都圏の風上に位置する浜岡原発のS2は600ガルでした。2006年に原子力安全委員会は耐震設計審査指針を改訂しましたが、通常のビルに適用する新建築基準法と同じく既存の原発には適用しないでよしとしました。適用すれば55基全ての原子炉を作りなおさなければならなくなり、廃炉費3兆円がかかり、なにより廃炉に伴う放射能廃棄物を処分する場所がないためではないかと推察します。ただできるだけ新基準で既存設備の安全性を見直すようにと指導されております。中部電力は新基準を参考に、マグニチュード8.5の東海地震を想定して新基準の基準地震動Ssを800ガルとして既存設備の改造を行っております。しかし想定震源距離という魔物が隠れており、想定震源距離が甘ければ800ガルで十分かどうかはわかりません。プレート型地震である浜岡はメカニズムが単純明快であるだけ魔物は良性であるかもしれません。断層・直下型地震のほうが怖い魔物が隠れているとも言えるのです。

浜岡原発は沸騰水型ですが、加圧水型にしても、制御棒駆動機構には二重の対策が採られているとはいえ、制御棒を使うという本質的脆弱性を抱えているのです。

原発のリスクを緩和する一案として原発プラントをセミサブマーシブル・バージに搭載して万一の事故による国土の汚染を回避する策が考えられます。水深千メートルのところにある4oCの海水をくみ上げて冷却水とすると、原発と温度差発電がハイブリッドされたような高い熱効率達成が可能となります。発電量は冷却水温30oC度の場合の10%増になります。制御棒やポンプのような動的機器に依存せず静的機器のみで安全性が確保される固有安全炉を採用すれば地震と放射能汚染で土地を失う恐怖から解放され、海底のミネラルリッチな海水を表面にくみ上げてくれますので漁獲高も回復し、二硫化ジメチルも大気中に放出されるでしょうから大気の冷却効果もでて一挙四得です。

セミサブマーシブル・バージはワイヤーとチェーンで海底に固定し、さらに放流水をスラスターとして使って係留をアシストします。GPSを使って常時海上の定位置にとどまり、海底に敷設する直流送電ケーブルに接続します。このコンセプトの応用として原発で得た電力を電気分解で水素に変換し、パイプラインで送ることも可能です。取水管引き上げ下げ用のデリックを常設し、必要があれば、取水管を引き上げて、メンテナンス基地に移動します。日本列島は広大な大陸棚に取り巻かれていますので広大な立地が期待できます。


バイオエネルギーかソーラー・セルか?

化石燃料から発生する二酸化炭素を隔離し続ければ今後1世紀くらいはグローバル・ヒーティングを押さえつつ文明を維持できるでしょう。しかし重質化石燃料がなくなれば、おしまいです。原発もウラン資源枯渇で終わり。核融合も望みないとすれば、残るは自然エネルギーということになります。自然エネルギーのうち最大のものが太陽光エネルギーです。

太陽光エネルギーの利用の一つとして農業によるバイオエネルギーが喧伝されておりますが、バイオエネルギー1キロカロリーを生産するに必要な化学合成肥料の原料となる天然ガスや燃料は10キロカロリー必要といわれ、かえって二酸化炭素は増えてしまいます。それに森林を永久的に伐採して農地を拡大させるようなバイオエタノール生産は本末転倒ということになります。食料生産のほうがエネルギー確保よりはるかに大切ですし、森の木の根は空気中の炭酸ガスを地中のカルシウムと反応させて重炭酸カルシウム塩として海に流しさるという重要な役割を果たしていることが最近分かってまいりました。

とはいえ森をそのままにしておいても風倒木となり、バクテリアが二酸化炭素にもどしてしまいます。植林を必要とする針葉樹ではなく、放置しておいても自然に実生からまたヒコバエから自律的に樹木が再生する広葉樹系の森を、森林の成長の範囲内で40年位のサイクルで伐採して利用をするなどの工夫が必要でしょう。私はこの広葉樹の放置林をサステナブルに利用するコンセプトを山林所有者に伝えるエバンジェリストとなっています。詳しくは私のウェブサイトに掲載してある「広葉樹発電」をご覧ください。

森林もふくめ、植物が太陽光のエネルギーを利用して二酸化炭素を固定する転換効率は1%以下です。太陽光を直接電子の流れに変換できるソラーセルの変換効率は10%と10倍の能力がありますので、ソーラーセル技術こそ人類の未来を決める技術だと確信しております。有機色素を利用するグレッツェル電池などソーラーセルの技術革新も芽生えています。自ら発電して売るというビジネスモデルを前提としている電力会社はソーラーセルによる分散発電を競争相手として熱心に取り組みません。国家が技術開発の支援と普及の仕組みを造って人類の先達になり、世界のマーケットにソーラーセルを供給するという国家戦略があってしかるべきではないでしょうか?


未来の都市ガス源はメタンか水素か?

先に紹介した日本政府が2002年から行った水素燃料電池実証プロジェクトでは水素のパイプライン輸送を研究対象外とし、水素転換プラントからの水素の輸送は高圧ガス容器に詰めてのトラック輸送、または液化水素ローリー車によるという条件で研究費を出しています。沸点が-161oCのメタンを液化するにはメタンが持っているエネルギーの約10%のエネルギーを自己消費します。沸点が-253oCの水素を液化するにはカルノー効率だけで比較しても約80%のエネルギーを自己消費することはすぐわかります。グローバルヒーティングを防止するどころかえって加速してしまいます。どうしてこのような無意味な研究をして国家予算の浪費をするのでしょうか?

現在、都市ガス源は天然ガスを液化して輸入したメタンガスです。天然ガスもいずれピークをすぎます。都市ガスシステムは使われなくなる可能性がありますが、どうしても必要な時は不足するメタンガスは重質化石燃料から転換し、転換時に発生する二酸化炭素は石灰石で隔離します。重質化石燃料が枯渇した時点ではウラン資源も使い果たしているでしょうからソーラーセルの電力を使って電気分解で製造する水素ガスを使うことになります。核分裂反応を使う高温ガス炉の熱で水を熱化学分解する方法などは高速増殖炉と同じく安全上の危惧があり、日本のような高密度社会に向いているとか考えられませんし、第一その時点でウラン資源も枯渇しております。

ソーラーセルの電力を使う場合、水素は昼しか製造できませんので加圧タンクまたは水素吸蔵合金などに貯蔵します。そして水素はメタンガスに混ぜて混合ガスとしてパイプラインで消費端に配給する都市ガスシステムになるのではないでしょうか。メタンガスと混ぜるのはパイプラインのエネルギー輸送効率低下を避け、水素分圧を下げてパイプ材質の脆化防止をし、デトネーションの危険を回避するためです。そしてメタンガスは水素と二酸化炭素から合成できます。この混合ガスを圧縮してボンベに詰めて燃料電池と内燃機関のハイブリッドエンジンに供給したらどうでしょうか?まず水素は燃料電池で消費され、残りのメタンが内燃機関の燃料となります。そして都市ガス網を自動車の給油網の代替とするのです。

ページ制約で短くする前の原稿は「グローバル・ヒーティングの黙示録」として掲載。

July 20, 2007

Rev. June 5, 2009


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