
GOING TO BELGIUM
8月2日の(6)
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やがて次のバンドのセッティングが始まり、そろそろ前のほうに行ってみようかと思う。その前に変身しなくちゃ。救護所の椅子が空いているのをいいことに、ちょっと腰かけさせてもらって準備をした。きのう、ぬかるみで靴が悲惨な状態になってしまったので、きょうはそうなる前にスーパーのポリ袋を靴の上からかぶせて輪ゴムで止めた。さらにきのうはポンチョに雨がしみて、途中から肩が湿って寒かったので、ゴミ用のビニール袋の3か所に穴をあけ、頭と両腕を通してすっぽりかぶる。その上からポンチョを着た。隣りに座って一部始終をみていた救護班のおじさんは目を丸くしている。にっこり笑ってVサインを出してみせた。 ポリ袋ですべらないように、そろそろとテントの外に出てステージに向かって歩き始めた。周囲の目が痛い。私が通りかかると、みんな振り返って見る。指さして笑ってる人たちもいる。中にはわざわざ後ろからきて前に回り、顔を見て笑う奴も。ふんだ、最後に笑うのは私よ。きのう雨宿りしたセキュリティのパラソルの所にちょっと寄って、「みんなが私を見て笑うの」と訴えた。「すごいかっこだね」「だって私は明日、飛行機に乗って日本に帰らなくてはならないのよ。靴を泥だらけにするわけにはいかないのだ」「そりゃ大変だ」口ではそう言いながらも顔は大笑いしている。 誰もいない最前列で中央より少し左側のルーク寄りに場所をとり、次のバンドを待つ。ほんとはベン寄りに行きたかったのだが、あっちは柵が高いからステージが見えない。
次のバンドは、きのうの VENGEANCE と違って無名なので(とこのときは思った)、客のほうも期待していないのか、ほとんどテントから出てこない。これだったら場所とる必要もなかったかなあ、と後悔しかけたところで8時半頃にメンバー登場。うっわあ、見事におじさんばかりだ。中央に立つのはオーソン・ウェルズみたいな髭面でギターを胸の上のほうに抱え込んだ太ったおじさん。その左側にはイギリスのパブでくだ巻いてそうな小太りで頭の薄くなったおじさん。手にはハーモニカを持っている。あとはベーシストとドラマー。 しかし、最初の曲が始まったとたんにぶっとんだ。かっこいい〜。もろブルーズロック。胸の上のほうでギターを弾くおじさんの姿に B.B.KING がだぶって見える。歌もメインは彼なのだが声に味があって、実にハマってる。ハーモニカのおじさんも、さすがハーモニカ一丁で出てくるだけあって、並みじゃあない。たまに彼もヴォーカルをとる。ベースもドラムもめちゃんこ上手い! う〜む、一体どこからこんなバンドをみつけてきたんだろう。曲は聴いたことがあるのもないのもひっくるめて、どれもみんな自然に体が動いてしまうような気持ちのいいグ ルーヴ感をもっている。 最初のうちまばらだったステージ前も、だんだん人が集まってきた。子供を肩車したお父さんやお母さんが多いのは、やはりこういうのを好む年齢層ということなんだろうなあ。中にはすっかりいい気分になって、柵をよじ登り、ステージ前の板の上を踊って横切ってくおばさんまで登場。これはさすがにセキュリティにひきずりおろされた。足を踏みはずしたら怪我しちゃうからね。 雨もポツポツ程度になり、最終的にはかなりの人数を集めて OMAR & THE HOWLERS のステージが終わった。すご〜く得した気分。帰国してから彼らのホームページをみつけたのだが、昔から活動していて、アルバムもたくさん出しているベテランのブルースバンドだった。アメリカってこういう実力派のミュージシャンがごろごろしてるんだろうなあ。知る人ぞ知るという感じで、そこそこには売れてて。
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