仏国寺までは車だとあっという間。寺は山の上にあるのだが、そこに向かう坂道が一種の門前町になっている。こりゃすごいわ。下の地図には大きなホテルしか書いていないが、碁盤の目状になっている道の両側すべてに旅館と土産物屋があると考えてもらえばいい。これだけあれば選ぶのも楽勝、と思ったら大間違い。シーズンオフが裏目に出て、開業してそうな所が少ないのだ。初めは大きめのホテルを当たったのだが、最初のは改築中、次のはホテルではなくてユースホステルで、最後に当たったところはコンドミニアムで料金が高かった。お寺しか見るものがない場所でコンドミニアムというのも不思議な気がする。

それはともかく、昼近くなってまだ宿も決まらないというのは困る。おまけに車でゆっくり走っていると、そこらじゅうの土産物屋からおばさんがワラワラと湧くように走り出てきて、両手でおいでおいでをして店にひきずりこもうとする。もちろんこちらは車なのだから、よけて通ればいいのだが、轢いてしまっては大変なので神経を使う。
そんなこんなで 「もう、ここでいいんじゃない」 と適当にそこらの旅館の駐車場に入っていった。庭にシーツやタオルが干してあるから営業しているだろう。小さなドアを開けると、カジュアルなかっこをしたお兄ちゃんが顔を出し、「あれ?」 という顔をして奥に何やら声をかけて私たちを中に入れてくれた。入ってみてわかったのだが、そこは裏口で、旅館の人が出入りする所だった。薄暗いフロントで待っていると、そのうちに旅館の人らしい男性が出てきた。こちらもさっきの人と同様、普段着のお兄ちゃんだ。
きのうまでに接したフライトアテンダントやホテルのフロントなど接客業に従事している人たちは、女性は厚化粧でしっかりもの、男性は端正で当たりがソフト、という印象だった。が、このお兄ちゃんたちはまた別のタイプ。素朴で人がよさそう。
さっきまでのホテルはどこも英語か日本語が通じたのだが、ここはもう韓国語しか通じない。例の会話集を出して、「シングルはありますか?」 と 「ツインはありますか?」 を指し、私と友人2人とに分かれて見せる。「1泊いくらですか?」 には先方が数字を書いてくれた。25000W。安い〜。私は2500円だが、友人たちは2人で1部屋だから、ひとり1250円!
ちょっと不安になって 「部屋を見せてください」 を探したがない。この会話集を作った人はそんな心配のある安宿には泊まらないのかも。仕方がないので、例によって身振り手振りで部屋を見せてもらう。4畳半くらいだけれどオンドルの部屋にベッドがひとつと寝具がおいてあり、ちゃんとバスルームも別についている。これなら上等じゃない。
宿帳に記入し、前金で代金を払う。まだ午前中なので部屋が用意できていないから*時頃に戻ってきてくれ、というのを向こうがすべて身振りで伝え、こちらは車から運んできた荷物をどこかに預かってくれと身振りで答える。あ〜あ、私の韓国語はどこに・・・。
それでも会話集を使っての会話はお兄ちゃんの気に入ったらしく、ひととおりの交渉が終わったあともまだパラパラとめくって探している。ようやくひとつを指さすので見ると 「モーニングコールはいりますか?」 笑いをこらえながら 「アニョ」 と断った。こんな小さな旅館でどうやってモーニングコールを? が、そこでこちらも何か聞かねば悪いと思ったのか、友人Aが 「レストラン?」 と言いながら旅館の中を指差した。あるわけないでしょ〜、この旅館の中にレストランなんて(笑)。 というわけで勝負は引き分けとなり、「じゃあまたねえ」 と車に戻った。
寺の麓の駐車場に車を入れると、おじさんやおばさんがたくさん寄ってくる。誰が客引きで誰が駐車場の係なのかわからない。山門のところで入場料(ひとり3000W)を払っていると、日本語の上手なおじさんが話しかけてきた。いかにももぐりのガイドくさい。入場口を入ってしまえばついてこられないと思っていたら、係の人とツーカーになっているらしく、平気で中までついてきた。でも、それほどあからさま・強引には迫ってこない。このあたりは割合日本人の感覚に近いのかな。あるいは日本人観光客の感性をよく知っているというのか。私たちがガイドはまったく必要としていないと見てとると去っていった。
さすが有名な観光地らしく、中に入るとかなりの観光客。日本人の団体もいて、ガイドが日本語で説明している。タダで聞けていいかなとも思ったが、せっかく静かできれいなお寺なのにぞろぞろと大人数で歩くのも興ざめだから、できるだけ団体を避けて歩いた。
ガイドブックなどに必ず出ている正面入口の橋は青雲橋と白雲橋と呼ばれる石の橋で、これは凄い。何が凄いかというと欄干に継ぎ目がない。つまり1枚石(なんて言葉があるのか?)を斜めに切り出して1本の石材として使っている。切り出すのも大変なら運ぶのも大変。「韓国にも奴隷がいたのかしら?」エジプトのピラミッドを思い出して口に出したら、「そこまでの労働量じゃないでしょ」と友人たちにあきれられた。
境内は広く、いくつもの建物(それぞれになんとか殿と名前がついている)が間隔をあけて建っている。それぞれ目的が違うのだろうが、仏教にはまるで無知なので何もわからない。ただ単に「きれいか」「面白いか」「珍しいか」の尺度で見るだけ。寺もクサるよなあ(^^;)。金色の如来像の背後の絵が元々は絢爛豪華だったのが色褪せてきて、それが日本人にはちょうどいい侘び寂び具合でみとれてしまったり、ボスの仏像の周囲に居並ぶ弟子たちの像がとてもユーモラスに作られていて「わ、ペットみたいに虎抱いてる!」とか言いながら堂の中を見て歩いたりというのがとても楽しい。写真撮影が禁止なのが残念だけど、そのかわりにこうして建物の中まで裸足で入っていけるのだから本当はこのほうがいいのかも。
ゆっくり見て歩き、外に出ると道端でおばさんが焼き栗を売っている。さっそく買い込んだ友人のを分けてもらう。おいしい! 皮が真っ黒になるまで焼いてあるおかげで、中はほっこり自然の甘みで、いくつでも食べられる。「おっと、昼ごはんはどうしよう?」「まだあまりお腹すかないなあ。次の所に行ってからにしない?」駐車場で客引きをする近所の食堂のおじさん、おばさんを断りながら車に戻り、次の出発地・良洞民俗村へと向かった。
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