WALKING IN SEOUL

慶州 (2001年3月6日)

(写真の上にカーソルを置くと説明が読めます)

朝起きて、空港のインフォメーションでもらった地図を見る。

ホテルは街のはずれにあり、駅まではちょっと距離がありそう。でも、歩いて歩けない距離ではない。しかも、駅のすぐ隣りにレンタカーのマークが書いてある。駅までぶらぶら歩いていって、レンタカーを借りてホテルまで戻ってくることにした。

きのうタクシーで通った道を東に向かって歩いていく。話が後先になってしまったが、慶州は新羅王朝(BC 57 - AD 935)の古都であり、街のいたるところに古代遺跡がある。しかもその有り様がごく日常的で、街の中にいきなり円い古墳がころんころんと出現する。いま歩いてる道の右側には、そうした古墳が23個もある大きな公園。もう少し暖かくなったら散歩にぴったりだろう。が、今は寒いので横目で見るだけで通りすぎる。

この道をもっと行った左側には慶州市発行のガイドブックに載っていた皇南パンの店もある。地元の人たちで行列が出来る店だというのだが、パンといっても饅頭だそうで、朝から饅頭はちょっとなあ。途中で左に折れ、繁華街らしき道に入っていく。お洒落な衣料品店や電気屋、それにマクドナルドやロッテリアまであった。

コンビニももちろんある。すっと入っていった友人のあとから私もひと回りしてみたが、品揃えは日本とほとんど同じ。商品も表示がハングルだというだけで、変わりばえしない。まあ韓国でエキゾチックなものを探すのが間違っているのだが。

メインストリート(花郎路)にぶつかったので右に折れる。日本だと出勤する人でけっこう混んでる時間帯だと思うのだが、意外に人通りは少ない。もっと早く出かけてしまっているのか、まだこれからなのか。

駅の近くまで来ると、道の向こう側の路上に露天の店が出ている。果物や衣料品など商っているものはさまざま。どうやらその奥が常設の市場になっているらしい。「覗いてみる?」 とも言わないのに、3人とも足がそっちに向かっていた。

中は昔の上野アメ横みたいな雰囲気。縦横何本も走る薄暗い路地をはさんで両側に小さな店がギッシリ並び、衣料品、魚介類、野菜、加工食品、化粧品と商うものが同じ店が固まっている。いろんな種類のゴマや穀物を山盛りにして量り売りしている店もある。大きないちごが山盛りで売られているのがとてもおいしそう。ソウルの南大門と違ってここは地元の人対象の市場らしく、観光客と見て声をかけてくる人たちはそれほど多くない。

うろうろしているうちに駅前に出てしまった。「朝ごはん食べるなら市場の中のほうが安くておいしいんじゃない?」 ということでまた戻る。食べ物屋は出口付近に何軒か固まっていたが、食事時間は過ぎてしまっているからか、客の入っている様子はない。どの店も入口付近に大きな鍋が火にかけてあって、中が覗けるようになっていたりする。スープがメインなのかな。「ここどう?」 「う〜ん、このおばさん、顔が険しくて怖い。さっきのおばさんのほうが優しそう」 戻って最初に覗いた店に入る。料理の味って性格が出るじゃない?

店に入り、だるまストーブのそばのテーブルに坐る。壁のメニューを読んでみる。「えっと、コムタンでしょ。それになんとかチゲ、う〜ん、チゲって鍋でしょ? 朝向きじゃないよね」 「カルビタンないかな?」 友人がガイドブックを見て聞くが、おばさん首を振る。「じゃあ、サム(三) コムタン、ジュセヨ、ね」 私の韓国語が通じてるのか、指を3本出したので充分だったのか。

横縞の道

縦縞の道

法蔵寺

道端にある携帯電話の充電機。鍵をかけておけるようになっている

学生服の店。人気のアイドルをモデルに使っているのだが、それがみんなパツキンだの赤毛だので、まるでヤンキー御用達の店みたい

路地の空き地。別に意味はなく、色感が好みだったので

注文を聞くと、おばさんは忙しく動き出す。そちらに背中を向けて坐っていたにもかかわらず、まな板でトントンとリズミカルに刻む音、鍋をかき混ぜたときの匂い、フライパンで何か焼いている音・・・子供の頃、母親が朝ご飯の支度をしていた情景が目の前に浮かんできた。

コムタンの朝食 10分もすると支度ができ、またもや目の前のテーブルが一杯になった。コムタンは直径25センチはある大きな丼に入ってきた。他に卵焼き、きゅうりのキムチ、だいこんのキムチ、青菜とキャベツの漬物(ごま油風味)、生の玉葱とししとうがらしが付いてきた。

コムタンは牛の骨を長時間煮込んだスープに牛タンとたぷりのねぎが入っている。粗塩の入った小鉢とコチュジャンが添えられていて、これで自分で好きな味つけにして食べるらしい。しっかりエキスの出ている、それでいてあっさりしたスープは朝の胃にやさしく、ねぎと牛タンのバランスも最高。いくらでも食べられちゃう。

生野菜にはもろみ味噌のようなものがついてきて、これをつけて食べるらしい。おっかなびっくり玉葱を食べてみてびっくり。「おいしい!」 日本の玉ねぎよりずっと水分が多く、辛くないのだ。ひょっとして新玉葱? 日本でも新玉葱をこうやって食べてみるといいのかも。

ごはんは例によってステンレスの小鉢で出てきた。これが不思議でならないのだが、熱々のごはんが入っているから当然熱い。どこの店でもテーブルに並べるとき、とても熱そうに持っているので、こちらも急いで受けとってあげなくてはとあせる。こればかりはどう考えても日本のような陶器の茶碗のほうがリーズナブルだと思うのだけれど、どうして変えないのかなあ? 割れるのがイヤならプラスチックにするとか。

食べてる途中でおじさんが入ってきた。おばさんのご亭主らしい。近所の人と一緒で、みんなで隣りのテーブルに座った。おばさんも私たちの世話がすんだので、一緒に坐ってお茶を飲みながら談笑している。

お茶は洋式のマグカップに入っていて、味からしてコーン茶らしい。上野の韓国食品を商う店が集まっている界隈でもよくコーン茶を大きな袋で売っていて、不思議に思っていたのだが、こうしてごく日常的に飲むものだったのね。カフェインやタンニンがなくて体にはよさそうな気がする。ただ、最後にサービスでコーヒーを出してくれたのだが、これがインスタントコーヒーで、しかも最初から砂糖とミルクが入っている。私はミルクが苦手で飲めないので、おばさんが向こうを向いている隙に友人Bのカップに自分の分を足してしまった。「残したら悪いから代わりに飲んで」

体の内側からすっかり温まって満腹し、「アンニョンヒゲセヨ」 と挨拶して店を出た。

レンタカー会社の事務所は、駅の駐車場の横にあり、人間が2人入ったら一杯になりそうな小屋だった。3人いても仕方がないので 「ねえ、私、駅のインフォメーションで餅菓子のこと聞いてくる」

ガイドブックによると、慶州では3月末に 「韓国伝統酒と餅祭り」 というのがあるらしい。この祭りにはちょっと早いが、トゥクという餅菓子を食べてみたい。駅構内にある観光案内のおばさんは日本語は駄目で英語が少しだけ。ガイドブックに出ている祭りのページを見せると、どこやらに電話していたが、受話器を渡して直接聞けと言う。相手は市役所の観光課の人で日本語を少しだけ話す。「トゥクを作るところを見たいのですか? それとも食べたいのですか?」 とダイレクトに聞いてくるので、こちらも 「食べたいんです」 とはっきり答える。「駅の近くに市場があるの、わかりますか?」 「はい」 「その市場の中にトゥクを売っている店がたくさんあります」 「あ、そうなんですか? じゃあ探してみます。ありがとうございました」

レンタカーの事務所に戻ると、友人Bがひとり、奥の狭い椅子に居心地悪そうに坐り、手にした紙コップから何か飲んでいる。「あれ? Aさんは? なに飲んでるの?」 「免許証忘れてホテルまでタクシーで取りに帰った。なんかジュース出してくれたんだけど、さっきSHOHさんから無理矢理飲まされたコーヒーでお腹ガポガポなのにつらい」

さっきは茶髪のお姉さんだけだったのだが、いまは若い男性がいる。あの女性は単なる留守番で、こちらが営業マンなのだろう? なにやら聞きたそうにしている。「なんか聞いてくるんだけど全然わからないんで、SHOHさんが戻ってきたら聞いてもらおうと思ってたんだ」 と言われても私だってわからないぞ。とりあえず会話集の 「レンタカーを借りる」 というところを見て、それを見せながら 「乗り捨てできますか?」 とか 「もっと小さい車はありませんか?」 とか聞いてみるが、いまひとつよくわからない。いずれにしても免許を持ってる人間が戻ってこなければ話にならない。

「悪いけど、ちょっとさっきの市場に行ってお餅買ってくるね」 心細い顔をしてジュースを持てあましている友人Bに言って、市場へと急いだ。

さっき歩いた時には菓子の店は目に入らなかったのだけれど、違うブロックなのだろう。そう思ってさっきとは違う路地に入ってみたが、なかなかみつからない。最後にようやく出口近くの店でみつけた。小さなガラスケースに3種類くらいの餅菓子が並んでいるだけで、店の半分くらいは作業場になっており、数人のエプロンをしたおばさん達がせっせと餅をこねたり丸めたり切ったりしている。まさに作りたて。

ケースに並んでいるのはどれも大家族で食べるほどの量が入っているので、店番のお姉さんに 「もっと小さいのはないですか?」 と聞いたが、ないと言われてしまった。しかたないので、中でもいちばん小さいのを買った。それでも直径2センチくらいの団子(黄色い粉と黄緑色の粉がまぶしてある)が20個くらい入っている。3000W。

レンタカー事務所に戻ると、友人Aも戻っていて、車の種類を交渉していた。といっても結局はその駐車場にある中型車1台しかないらしいから、それを借りることに。すぐに乗っていけるのかと思ったら、営業のお兄さんが運転席に座り、私たちに一緒に乗れと言う。わけがわからないままに乗ると、そのまま走り出し、5分ほど走って本社まで連れていかれた。ここで正式の契約書を書いて初めて車を渡してくれるらしい。

30代後半くらいの女性所長と男性営業マン二人とでいろいろ説明したり聞いたりしてくるのだが、とにかくお互いに言葉がわからないので、もう信じられないくらい時間がかかる。それでもお互いの目的がはっきりしているので、どうにかこうにか契約書が出来あがった。1日24時間使用で、明日の朝、慶州駅で返すことにする。89000W。最後のほうには女性所長の子供(4歳くらい)が出てきて、私たちにガムをくれたりするまでになっていた。

最後に車のところまで戻り、傷がないかどうかお互いにチェック。燃料メーターを見せて、「この車はガソリンではなくてLPGだからね。このラインまで入れて返してね」(多分)と言われる。 やっと出発! 思いがけず時間がかかってしまったが、今日は仏国寺に行くこと以外は何も決めていなかったので、気持ち的には余裕。「じゃあ、とりあえず仏国寺まで行って、まずは今夜の宿を決めよう」 「右側通行だから気をつけてね」

これが伝統餅菓子トゥク。団子はキョンダンというらしい


駅からメインストリートを眺める。交通量は多い


慶州駅。駅前に迷彩服を来た兵士がいた


ホーム側から見た慶州駅


レンタカー会社の駐車場。この写真を撮っていたら営業マンが見ていて、「これ、マンホールの蓋だよ。こんなの撮ってどうするの?」 とすべてジェスチャーで笑われた

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