WALKING IN TUNISIA


PART 44(1/2)

ディナを出たら疲れ果てていた。

近くのカフェに入る。かなり大きい店だが、ちょうど夕刻ということで超満員。1階に席がみつけられなくて2階に上がった。やはり客は圧倒的に男性だ。で、かなりの人数がビールを飲んでいる。ほんとに戒律が緩やかなのね。

エスプレッソを飲みながら疲れを癒していると、ひとりの男が近づいてきて話しかけてきた。何を言っているのかわからないので、何回か聞き返していると、いきなり椅子を運んできて、私たちの間に座りこむ。

「えーっ、なに、この人?」
「おじさん、なに考えてんのぉ」
「わたくし、いやだわ。出ましょうよ」

私たちが気味悪がって騒いでいるのに、男はニヤニヤしながら私たちの顔を順番に眺めている。よく見ると服はぼろぼろ、目つきもおかしい。 まわりの客は興味深そうに見物している。笑ってないでなんとかしてくれぇ。

ほんとに出ようかと立ち上がりかけたら、ウェイターが出てきて男に何か言うと、腕をつかんで文字どおりつまみ出してくれた。ああ、よかった。

しばらくすると、ウェイターがアーモンドののった皿を運んできた。「注文してません」と言うと、隣りのテーブルを指差す。私たちが来る前から座っていた男性が「どうぞ」というように挨拶した。

「味見してくださいってことじゃない? あの人はまともそうだから、遠慮なくいただきましょうよ」

帰りがけに、残ったアーモンドの皿を男性のほうに差し出すと「いやいや」と言って受け取らない。「ショクラン」とお礼を言って、ありがたくいただいた。

それにしてもゲンジというのは、やたらと食べ物をもらう人だ。ホテルの前の通りを歩いていたときには、通り掛かりの人が持っていたバゲッ トを食べさせてもらっていた。反対側の手に持っていた紙包みを開けさせ、「あら、バターがあるんじゃないの」と言って、道の真ん中でバゲットにバターをつけたという、たいした根性の持ち主だ。人徳ってやつなんでしょうか。


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