
WALKING IN TUNISIA
PART 41(1/2)
雨の降る中、バスは田舎の村々を走り抜けて行く。
パン屋らしき家の戸が開いて、篭いっぱいのパンをかついだ男が歩いて行く。窯で焼いてもらおうというのか、生のナンをぶら下げてきた男もいる。水汲み場には少女たちが集まって、朝のおしゃべりに夢中だ。小さな猫が、誰も見ていないと思ったのか、いきなり宙返りしている。 畑には番犬なのか、たくさんの犬がうろついている。
バスの中ではドゥッガが何語かについて、モグラ氏とラサドがもめている。
「ドゥッガは何語だ?」
「え〜とドゥッガはヌミディアの古い都市で、フェニキア人が・・・」
「ノー!ノー!俺が聞いているのはドゥッガがラテン語なのかベルベル語なのかカルタゴ語なのかってことだ」
「質問の意味がよくわからないんだけど、昔の呼び名であるドゥッガは・・・」
「簡単な質問なんだから簡単に答えればいいんだ」ううう、怖いよぉ。
日毎に風邪が悪化しているモグラ氏は、日毎にラサドに対する不信感を募らせていて、ことあるごとに彼を試そうとする。
確かにラサドはガイドとしては最低だ。聞いたら英語専攻の大学生だそうで、ガイドはほんのアルバイト。英語の勉強もできるし、日本人の女の子と仲よくなれるし、くらいの軽い気持ちでやってるんだから、何を聞いてもマニュアルに書いてあることしか答えられないのも当然。しかも英語が超へた。
それなのに、我々が「あれは?これは?」と質問するので、間にはさまったモグラ氏の苦悩と苛立ちがいや増すという悲惨な状況だった。
「途中からうすうす気づいてはいたんですが、この男はよく知らないんですよね。でも、責めません。私の息子と同い年くらいの若者ですし。まあ、しかたないかなあ、ということで、私ができるだけの努力はいたしますが、なにぶん私の英語も英検2級程度のお粗末なものですから、訳しているうちに中身が薄くなっちゃうんですよね」
「高い金を払って参加してるのに、ガイドはろくに英語も喋れないし、添乗員は早口で何を言ってるのかわからないし、ということで、今度の旅行では帰ってからクレームがどっとくるだろうなと内心びくびくしてるんです」
途中のガソリンスタンドでトイレストップがあった。店の中に入っていったがトイレがない。うろうろしていると、店のおやじさんが大きな鍵をじゃらじゃらさせて出てきた。案内してくれたのは小屋のようなトイレで、ひとつずつ鍵がかかっている。みんなが勝手に使えないようにしているんだろう。
チュニジア人の女性たちもいたが、彼女たちはひとつのトイレに3人くらい一緒に入っていく。どういう使い方をしてるんだ?
ここのトイレは、初めてのトルコ式。床に開いた穴に向かってするタイプだった。水が流れないので、いったん用をすませると外に出て、水道からバケツに水を汲んで、それで流さなくちゃならない。えらく時間がかかってしまった。
やっとのことで外に出ると、ゲンジがタバコを吸っているところに、後ろから近づいたラサドが目隠しをしてじゃれている。まったく。ちゃんと仕事してなさいって。
ほとんどの人がバスに戻ったが、長老は女性陣にトイレの順番を譲ってしまったため、最後に入っていくところだった。ラサドが乗ってきて、モグラ氏に「あと、あのお年寄りで最後です」と報告する。もちろん、その様子はバスの窓から見えている。それなのにモグラ氏はタヒルの肩をつつくと「プップ〜!」と言って、クラクションを鳴らさせた。「早くしろ!」という合図だ。不自由な足で一生懸命戻ってきた長老は、「どうもすみませんでした」と平謝りをしていた。
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