
WALKING IN TUNISIA
PART 30(12/31)
例のランドローバー・ツアーあたりから、日程がまったくスケジュールと違ってきてしまい、アリッサ・ボヤージュが提示するプランを、モグラ氏がその都度チェックしながら実行している感がある。
チェックと言っても、余分な費用がかからないか、次の目的地に行くことに不具合が出ないか、程度のことで、モグラ氏自身がチュニジアは初めてだから、連れて行かれるところが本当にいいのかどうか、判断がつかないらしい。
で、バスが次に止まったのは、なにやら閑散とした港町。ハルベスという。
「え〜、ここはですねえ、いかにもひなびた漁村をご案内しようということで連れてきてくれたようです。まあ、確かにふつうのツアーではこうした小さなスポットは訪れることはできません。個人旅行の楽しみを味わっていただけるかと思いますが」
いささか苦しい。そりゃあ、確かにひなびてはいるが、見事に何もない。個人旅行で通りがかったとしても、まず立ち止まって見物しようなどとは思わないだろう。小さな船が何隻か停泊している。細い突堤が海に向かって伸びていて、両側に蛸壷が山積みになっていた。なるほど、蛸が主な獲物なのね。ゆうべ食べた蛸もこういう港から運ばれてきたんだわ。と、少し感慨にふけったが、あとはもう何もない。
「まあ、きのうがあわただしすぎたから、たまにはこういうふうにのんびりするのもいいよね」
お互いを納得させながらバスに戻り、さあ出発、と走り出した途端、
「あ、ちょっと待って!」と母娘の娘の声。
何事かとモグラ氏あわててタヒルに合図してバスを止めさせると、
「そこの倉庫にすてきな絵が描いてあるの。あれを写真に撮りたいわ」
ドアが開き、母娘が降りて行く。このふたりの写真の撮り方にはパターンがあって、まず被写体をパチ。次にその前に娘が立ってパチ。最後に母が立ってパチ。いつでも、どこでもこのパターンで、しかも撮る枚数が半端じゃない。ホテルの玄関、ロビーのサンタクロース、レストランの入口など、あらゆるものが被写体に選ばれるから、そのたびに3枚ずつフィルムが消費されていく。ガイドの説明をみんなが聞いているとき、すでに母娘は撮影に入っているのだ。聞くところによると、もう20年くらい旅をしているらしいが、彼らの家にあるアルバムを想像すると、けっこう怖いものがある。