WALKING IN TUNISIA


PART 17(12/28)
ベイトラに着いたときは、すでに薄暗くなっていた。ここは、ローマ時代の廃墟が残っているのだが、特に保護されているようすもなく、管理人らしき人間がひとり、観覧料をとるためにだけいるような感じ。

入口を入っていくと、こそこそした態度の男が近づいてきて、コートの下からなにやらそっと見せる。

どうやら、「だんな、だんな、ご禁制の発掘品の出物があるんだけどね」というジェスチャーらしいのだが、どう見ても品物は真っ赤な偽物。その分、演技がくさい。

いくら売りこんでも無駄とわかると、今度は私がコートの襟に付けていたTHUNDERのバッジを指して「それ、いいな。売ってくれ」と言う。なに考えてるんだ。

気温がどんどん下がっていく。コートを着ていても、体が冷えきっていく。ラサドなどはジーンズにセーター、皮ジャンだけの軽装だから見るからに寒そうで、ぴょんぴょん足踏みしながらガイドしている。

風もぴゅーぴゅー吹いていて、みんな説明なんかじっと聞いているどころじゃない。フード付きのコートを着ている人は全員フードをかぶり、まるでネズミ男(ほら、ゲゲゲの鬼太郎に出てくるでしょ)の集団のよう。

天気のいい昼間なら、遺跡の中をのんびり歩くのもさぞかし気持ちいいのだろうが、今はもう一刻も早く観光をすませてホテルに行きたい。 みんな思いは同じと見えて、だれも質問もせず、ただ黙々とラサドとモグラ氏のうしろをついていく。

ようやくバスにたどりつき、ホテルに運ばれた。やれ、うれしや、とバスを降りようとすると、前のほうでなにやら話していたモグラ氏がマイクをとり、

「え〜、大変申し訳ございませんが、ただいま、お客様のおひとりからクレームがございました。スベイトラの遺跡に、「洗礼の泉」というところがございまして、これはどのガイドブックにも出ております有名なものだそうですが、これを見逃してまいりました。ラサドに確認いたしましたところ、忘れたということでございます。これからもう1度戻って見にまいりますが、ホテルに残りたいというお客様はここで降りられて、ロビーでお待ちいただいてもかまいません」

みんなの顔が曇った、と思ったのは私だけだろうか。

結局4〜5人がホテルに残り、残りは再びバスに乗りこんで遺跡へと戻るのであった。ライトアップもないから、もうほとんど見分けもつかない遺跡を黙って歩く一行。やがて、小さな石で囲んだお墓のようなものの前に出た。

「あ、これよこれよ。ガイドブックに出ていたのと同じだわ!」

はしゃいだ声を出したのは例の母娘の娘のほう。

「ほら、このモザイク、見事でしょう」

だれも何も言わない。だって、はっきり言ってそれほどのものとも思えなかったんだもの。

「見られてよかったわね」と相槌を打ったのは母親のほう。

ふたりでひとしきり写真を撮ったのを見はからい、モグラ氏が「では、まいりましょう」と促し、みんな黙ったままバスへと戻ったのだった。

この日はあまりの寒さのためか、夕食の記録がなかった。

スベイトラ










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