WALKING IN SICILY


PART 10(12/29)

レントに戻ったら、もうバスが出るまでにほとんど時間がなかった。食事をするのは無理なので、ゴーフルを買って立ち食いした。ゴーフルというのは、ワッフルのようなもので、好みのものをかけてくれるのだが、シンプルなズッケロ(砂糖)を頼んだ。ちょっとかたかったけど、焼き立てで温かいのがうれしい。

さて、バスが来た(駅前から出る)。客は私たちのほかに観光客が5〜6人と、地元の人が3〜4人。あと、運転手と車掌が乗っていた。

このバスはほとんど観光バスのようなものだから、あまり途中で乗り降りする人はいない。いたとしても、ほんとにしょっちゅう利用している地元の人たちだから、勝手知ったると言う感じで、まったく手間はかからない。

「なんで車掌が必要なのかしら?」と、最初は思ったのだが・・・

もう、のべつまくなしに話し続ける。私たちにではない。運転手に、だ。もちろん、話の内容はわからないが、見ている感じからすると、「うちのカミさんがさ」とか「ゆうべ、犬がやたら吠えちゃって」とかいうような、他愛もないことをだらだらとしゃべっているように見える。いや、絶対そうに違いない。第一、運転手のほうはほとんど相槌も打たないのだから。これって、運転手の居眠り防止策なんじゃないか?

実は車掌には、もっとたいせつな役割もあることが、後になってわかるのだが・・・。

さて、バスは街を抜け、いよいよアマルフィ海岸へとやってきた。

ここはすごい!

目もくらむような断崖絶壁の上のつづれ折りの道が約30km、ソレントからサレルノまでの間続いているのだが、見降ろす海は深く切れこんだ入江になっており、水の色は真っ青。岸壁にへばりつくように固まっている家々の白い壁がまぶしい。豊かに実るオリーブやレモンの木々。本当に一瞬たりとも目が離せない。

と言いながら、実は最初のうち私は、怖くて海寄りの窓際に座っていられず、崖側にひとりで座っていた。ふだんは高所恐怖症とかではまったくないのだが、このときは別。なにしろ、あんなに幅の狭いくねくね道を、ほとんどスピードを落とさずに走るんだから。カーブのところなんか、ほとんど車体の半分は海のほうに飛び出ていたと思う。

「Yったら、こんなに怖いなんて、ひとことも教えてくれなかった」と、思わず泣き言を言ったら、Wが冷たく「彼女は怖くなかったんじゃない」と言い放った。フン。


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