
WALKING IN RUSSIA
PART 3
さて、ホテルに到着。チェック・インは、添乗員とインツーリストの人とが、ふたりがかりでホテル側に闘いを挑む形になる。予約を入れてたって、どうなるかは着いてみなければわからないと、事前に何度も聞かされていたが、どうやらほんとうらしい。それにしても、さすがハバロフスク。ロビーにいるロシア人たちは、みんな日本語が上手だ。
なのに、それなのに、旧ソ連ツアーのほうの添乗員・豚島さんは、大きな声で私たちに「もうしばらくお待ちください。なにしろこんな国ですから」と叫ぶのだ。ばか、ばか、やめてよ。私たちまで知性を疑われるじゃないの。しかし、まったく気づかず、何度も「こんな所ですので」攻撃を繰り出す奴。うううう、こいつが私たちの添乗員じゃなくてよかった。
さて、ようやく部屋が決まった。私はさっちゃんと一緒。わ〜い。
各人にキーを渡すと、狐川さんは「では、皆様、メモのご用意をください」と言った。すると、みんなはいっせいに旅行社から出発前に渡された「旅のしおり」を取り出して、ペンを構える。お、お、遅れをとってはならじ、と慌てる私。
「私の部屋番号は**です。電話は****です。明日のモーニングコールは7時15分、朝食は8時30分です。明日は9時にホテルを出発し、市内観光にまいります。いったんホテルにもどって昼食をとり、バスで空港へ向かいます」
なるほど、「旅のしおり」にはこれを書き込む欄がちゃんと作ってあるのだった。で、翌日からはさらに、狐川さんのほうから「明日のご予定」と書いた紙が渡され、そこに同様の事項が記入されていて、さらに裏にはその日に見学した場所の名前がカーボンを使って書かれていた。これさえあれば、ただぼ〜っと歩いていても、帰ってから何を見てきたのかが思い出せるわけだ。そういえば昔(でもないか)、議員さんの視察旅行のレポートを旅行会社が用意していて問題になったっけ。さもありなん。
バスタブがないのは予想していた。今までの旅で、シャワーすらない所にも泊まっていたから、別にかまわないや、と思ってはいたのだが・・・
「あれま!」
洗面台とトイレとシャワーの床が地続きのタイル。もちろんシャワーカーテンはない。ってことは、シャワーを使うと全部びしょ濡れになるわけね。まあ、でも、タオルも石鹸もトイレットペーパー(薄茶色でごわごわだけど)もある。上等ではないか。
スーツケースが部屋に届いた。なんてらくなんでしょう。さらにノックがあって、開けると狐川さんが。
「お部屋のようすはいかがでしょうか?」
驚くのは私だけかな? ツアーって、ほんとうにいたれりつくせりなのねえ。
*夕食*
前菜・・・パテ5切れ+トマトの輪切り+巨大なきゅうりの輪切りがわさび台のように形作って添えてある りんごのフリッター山盛り・・・なぜか最初からテーブルに乗ってる。前菜かなあ。青りんごを輪切りにして、種も芯もついたまま衣をつけて揚げてあるところがワイルド 大きなロールキャベツ2個・・・お米が入っていて、ちょっとトマト味がついたクリームソースがかかっている 黒パン・・・少しすっぱくておいしい アイスクリーム・・・死ぬほど甘い!ブルーベリージャムがかかっている チャイ ミネラルウォーター・・・こちらのはすべてガス入り。味もついていておいしくな〜い ビールを飲みたい人は別に支払う。アメリカ産が63ルーブルだった。安いけど、あまり冷えてなくておいしくなかった。
夜になると涼しくて、クーラーなしでも充分。網戸がないので、レースのカーテンを引っ張って、開け放したベランダのドアにかぶせるようにした。
ベッドがすごく小さいのにびっくり。こちらの人ってとても大きいのに、こんなのに寝てるのかしら? 172cmのさっちゃんは、足がはみ出そう。ベッドカバーの下にはシーツしかない。
「これだけじゃ寒くないかなあ」
「戸棚に毛布があったわ」
よく見ると、シーツかと思ったものは毛布カバーで、真ん中に穴が開いてる。
「この中に毛布を押し込んでカバーにするのね」
「日本のふとんカバーと同じ作りだわね」「ベッドに枕銭はいりませんから」
と狐川さんが言ってたのも道理だ。家でやってるのと同じことをしなくちゃならないんだから。バスルームの入口に椅子を運んできて、脱いだものやら着替えやらを置き、歯磨きと歯ブラシだけを持った裸一貫でシャワーに挑戦する。 なるべく回りを濡らさないように、端っこのほうでしゃがみこむように浴びていると、「ロシアまで来て、なにしてるんだろう私は?」という気持ちになれる。
無事にふたりともシャワータイムが終わり、ベッドに入りった。部屋に時計がないので(モーニングコールってどうするんだろ?)、腕時計 のアラームをセット。いつもはちゃんとした(ガ〜ンと鳴る)目覚ましを持ってくるのだが、今回はツアーだからと甘えて、こんなんだけ。 アラームと電卓とデュアルタイム表示とストップウォッチ(?)のついた時計を、出発直前に買ったのだ。おかげで飛行機の中で時計を進めるとき、説明書をまず読まなくちゃならなかった。
窓の外からは、カーラジオかなあ、音楽が流れてくる。"ホテル・カリフォルニア"、"ブルー・スエード・シューズ"。ああ、ロシアは自由化したんだなあ。ロシアでの最初の夜がふけていった。