
WALKING IN RUSSIA
PART 16
6時45分起床。
旧市街へは観光で行くはずなので、新市街にあるクリティ・バザールに行ってみることにした。ホテルの玄関で、開高健のような日本人のおじさまに遭遇。「日本の方ですか?」「ええ、そうです」のお決まり挨拶があって、お互いに情報収集。あちらは昨日着いて、すでに旧市街の観光はすませ、今日は午前中バザールを見て出発するそう。私たちより少しゆったりした日程のようだ。日数と旅行社を聞いておけばよ かった。
バザールは、買物する地元の人たちでごった返していた。でも、きのうのサマルカンドのように商売気ムンムンという感じはしない。日本で言えば、地方都市の小さな朝市といったところだろうか。
枯れた枝のようなものを束ねて売っていて、それがどうも昨日のお昼に食べたスープに入っていたハーブのよう。で、また例のロシア語会話集を取り出して
「シトー エータ タコーエ(これは何ですか)?」
ほんとはこの辺はウズベク語なんでしょうが、そんなの見当もつかないから、しかたがない。でも、大体人間の考えることなんか同じだから、物を指差して語尾を上げて聞けば、日本語だって通じたかもしれない。で、聞かれた子どもが「シバ」と教えてくれた。シュルパと同じ言葉かしら。
次にその子のお父さんが登場。まず、そばにあったトマトとたまねぎを刻む身振りをする。
「うん、これを切るのね?」
「で、鍋に入れて・・・」
「このハーブを入れる、っと」
私たちもうなずきながらスープをスプーンで飲むかっこうをすると、その場にいた全員がニコニコうなずいてくれた。まるでジェスチャーゲームのようだ。私の隣りに立ってたおじいさんが1枝折って、香りを嗅がせてくれた。
記念にと、子ども、お父さん、お母さん、おじいさんの写真を撮ると、みんなが大笑いする。なにがおかしいのかなあと思いながらも「スパシーボ!」と立ち去る私たち。なにかというとすぐに写真を撮りたがる日本人を笑ったのかも?
次には、地面にしゃがみこんでイチジクを売っているおばさんに同じ手で迫る。おばさんは、イチジクを半分に割って切り口をこすり合わせ、半分ずつ私たちにくれた。ねっとり甘くて、すご〜くおいしい。「ハラショー!」と言うと、うなずきながら皮ごと食べるんだよ、と示します。「げっ、どうしよう」と思いながらも食べちゃった。
偶然に(?)さっちゃんも私と同様、調子づくタイプなので、もうこうなると勢いがついて止まらない。はちみつを売ってるおばさんは、紙を丸めてはちみつに浸け、なめさせてくれた。レモンが入っていて濃厚で、すごくおいしい。買って帰りたかったけど、とても大きなびんしかないし、例の税関チェックのことが気になってあきらめた。ひまわりの種を売ってるおばさんは、私たちが言ってるロシア語がわからな くて(当たり前だ)、近くにいた青年を呼んで通訳するように言ったんだけど、ウズベク語からロシア語に通訳して言われても。でもまあ、種を割って、こうして食べるんだよ、って言ってることは充分に理解できた。
まるでデパートの食品売場を徘徊するオヒマ主婦のように試食し回った私たち。朝食前だというのに。ゆうべの食事に出たにんじんのサラダやなすのマリネも並んでいた。やっぱりあれは、民族料理だったのね。
それと、きのうあたりから、「こっちの女の人って毛深いなあ、眉毛と眉毛がくっついちゃってる」と思っていた。でも、きょう間近で見てわかったのだが、そういうお化粧法なのね。
お腹いっぱいの帰り道、ほんの少し雨が降った。でも、顔にポツッとあたるだけで、全然濡れない。本で読んだことだが、砂漠でも雨は降るんだけれど、気温が高すぎるから地表につく前に蒸発してしまうんだって。あとでガイドさんが言っていたが、この日はブハラには珍しく涼しい日だったんだそう。ふつうは40度Cくらいになるのに、34度Cまで(!)しか上がらなかった。
朝食は
という面妖なとり合せのもの。ヨーグルトとおかゆが苦手な私は、バザールでつまみ食いしておいてよかった。サラミ ナン おかゆ(?) ヨーグルト 紅茶 ホテルの中のポストオフィスで切手を買った。きのうサマルカンドで絵ハガキを買って、ゆうべ必死に書いたのだ。ガイドブックにはハガキ1枚について30カペイカと書いてあった、50カペイカになっていた。それなのに、係のおばさんは5カペイカ切手を100枚(ハガキは10枚だった)よこす。「えっ?どういうこと」と戸惑っていると、私のハガキを1枚とって、その余白に切手を重ねて貼っていく。要は金額部分さえ見えていればいいらしいのだが、なにしろ切手が大きい。もう文面は書いてしまっているので、余白を探して貼りまくらなければならない。
「どうして50カペイカ切手をくれないのかしら」と思ったけれど、話せない悲しさ。そのまま引き下がってきた。あとでよくよく見れば、切手の図柄がレーニンだった。早く処分しちゃいたい気持ちはわかる。外国人相手にさばくのが一番だもんなあ。
ほかの人たちはあまりハガキを出さないみたいで、私とさっちゃんと犬野さんだけが、バスの中で口もきかずに切手を舐め続けた。
「表に貼っちゃだめですかね?」と犬野さん。
「でも、それじゃせっかくの写真が見えなくなっちゃいません?」と私。
もうどうしようもないのだけは、文字の上から切手を貼ってしまった。どうせたいしたことは書いていないし、前後の文脈から意味は想像できるだろう。どうしても知りたければ、切手を剥がすという手もあるし(そこまで誰がするか?)。それにしても、100枚の切手舐めると、舌が変になっちゃう。