NEW YORK SKETCHBOOK



FOOD 1

子は、お正月だということで、おせち作りに励んでいた。何でも手に入る大都会ニューヨークとはいえ、おせち料理となると話は別だ。黒豆だの数の子だのって、日本人だってお正月にしか食べないものねえ。だから、必然的にできあがるものはオセチモドキ。あなごを使ったう巻き卵とか、なかなか凝ったものを作ってたけれど。

なにも外国でそこまで苦労して作らなくても、と思うのだけれど、外国だからこそ作りたくなるものみたいね。

基本的には、私たちはベッドを提供してもらうだけ。自分たちの食事は自分たちで心配するつもりでいた。外で食べるか、テイクアウトするか、キッチンを借りて作らせてもらうか、その日の予定で決めていたのだけれど、R氏たちが気さくな人達なので、「今夜はリトルイタリーでおいしいものを買ってくるから、一緒に食べましょう」などと誘われると、大喜びでお相伴にあずかってしまった。

書き遅れたが、彼らのアパートは、リトルイタリーとチャイナタウンの中間にあるので、と〜っても便利。大晦日の夜は爆竹の音(と銃撃音!)で眠れなかったけどね。

ニューヨークに来るにあたって、私が食べたいと夢見ていたのは、本物のコンビーフハッシュとベーグル、それに牡蠣。

ベーグルなんてどこにだってあるじゃない、なんて言わないで。当時は翻訳小説で主人公の探偵が「ベーグルのサンドイッチを作った」なんて書いてあっても、訳注には「ユダヤパン」なんて簡単に書かれているだけ。多分、翻訳者もよく知らなかったんだと思うけど。ともかくそれがとってもおいしそうで、「一体どんなものなんだろう」と憧れていたのだ。

ところで、ニューヨークでおいしいコーヒーショップを探すなら、ギリシャ人がやってる店がいい、と教えられた。量も多くて、値段も良心的、それでいておいしいというのだ。見つける目印は店名が「アテネ」とか「パルテノン」とか「いかにも」の所を探せばいいんですって。

そういえば、『恋のためらい』で、ミッシェル・ファイファーとアル・パチーノが働いていた店も、ギリシャ人の店主じゃなかったっけ?

結局、本物のコンビーフハッシュに出会えたのは、レキシントン街70丁目の角にあるニールス・コーヒーショップだった。店内は朝食をとるビジネスマンでいっぱい。それでもあまり殺気だった感じはなくて、みんなゆったり食事をしている。駅の立ち食いそばに並ぶ、前かがみになったスーツの背中とは違うなあ。

小さなさいの目切りにしたじゃがいもとコンビーフをいためた(なんのことはない、これがコンビーフハッシュ)上に、やわらかめのスクランブルエッグが乗っていて、バタートーストとフライドポテトが添えてある。オレンジジュースも、本物をしぼったフレッシュ。ああ、おいしかった。満足、満足。

チャイナタウンでは2回食事をした。1回目は、R氏たちの食料品買い出しについていって、ごちゃごちゃした小さなお店を1軒1軒冷やかして歩いたあと、お昼を小さな点心屋さんで。もう1回は、J君たちがお別れにと御馳走してくれて、本格的なレストラン(といってもすごく汚い)で。どっちもすごくおいしかったんだけど、私、中国料理って覚えてられなくて・・・。

チャイナタウンにはR氏もJ君も知り合いがたくさんいて、歩いていると声をかけられるんだけど、会話は英語なのよね。そりゃ、中国語と日本語じゃ会話にならないわけだけど、同じような東洋人の顔をした同士が、英語で話してるのって奇妙な感じだった。

そういえば、ニューヨークでは私、韓国の人によく声をかけられたなあ。なにを言われているのかわからなくてオロオロしていると、「なんだ、日本人か」と気づいて去って行った。


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