
この年、ニューヨークは異常なくらいの暖冬だった。 陽のあたる日中など、半袖のTシャツ1枚で歩く人もいたくらいだ。そんな中、悲惨で滑稽だったのは、エスキモーのようなかっこうで行った私。
靴はまだなんとかなった。室内履きにしようと持っていった布製の靴があったので、それで外出できたから。なんともならなかったのはムートンのコート。着れば暑くて汗ダラダラだし、脱げば重くて荷物になるし、観光の間じゅう、このコートと格闘してたような気がする。
それでもさすがニューヨーク。あなどれないものがある。 最後のほうになって、ウォール街からブルックリン橋を徒歩で途中まで歩いた日は、刺すような風が吹く極寒の日で、毛糸の帽子をかぶっていても頭がツーンとしびれてきた。帽子の上からマフラーをほっかむりして、顔をぐるぐる巻きにしないと、5分と外にはいられない感じだった。で、こうなると、ムートン着てたって寒い。ニューヨークには、中庸ってことがないんだなあ、と実感した。
でも、そんな寒さの中、フェリーでスタテン島まで行き、寒風に吹きさらされながらも「海側からのマンハッタン」を眺めた私たちは、やはりスケジュールに追われる観光客であった。