NEW YORK SKETCHBOOK



APARTMENT

氏は画家、N子は建築家のカップルだった。当然住まいはロフト、そう、憧れのロフトだ。 古い倉庫を改造したもので、建物自体は外観だけ見るともうぼろぼろ。1階には新聞や牛乳などの日用品を商う店があって、その横の小汚い扉を鍵で開けると、すぐに階段が始まる。

入ったらすぐに扉の鍵を内側からかけるのがルール。まずこれを教わった。私たちも鍵をひとつ貸してもらって、自由に出入りができるようにしてくれたので、これはとても重要なことだ。

階段を登って4階がR氏たちの住まい。これは、慎重な性格を形成するのに役立つ。だって、1階まで降りてから忘れ物に気づいた時のショックといったら・・私たちは2回ほど失敗して、思いっきり疲れた。

5階にはR氏の弟のJ君がアメリカ人の恋人と住んでいて、きのうからオランダ人の居候が2人来ている。こういう便利な場所に住んでいると、私たちのような居候が後を立たないみたい。たいへんだなあ←ひとごとモード(^_^;)

この居候はR氏の友人とその恋人なんだけど、実は両方とも男性。最初に会った時は、片方の男性がデビッド・ボウイばりの美青年なものだから、つい目がハートになりかけたが、すぐにR氏がさとしてくれた。

入口のドアを入ったところが玄関ホール。突き当たりが大きめの納戸のようになっていて、たんすの横にハシゴがついている。このハシゴを登っていくと、天井近くにベッドがついていて、ここが私とWの寝床。頭がぶつかっちゃうから立つことはできないけれど、横幅はたっぷりあるので、2人で寝ても充分だ。

玄関ホールを右に曲がると、キッチン、居間と寝室。左に行くとアトリエで、これがもう絵に描いたようなすてきさ。高い天井、昔の学校のような木の床、道路に面した建物一面の鉄枠つきの窓、缶に無雑作に投げ入れた筆や絵の具、立てかけてあるキャンバス・・・。よいわ、よいわぁ。完全にミーハー化する私たちだった。

ニューヨークは暖房が無料だそうで(注2)、スチームをつけているとすごく暖かいのだが、去年は厳冬にもかかわらずスチームがこわれてしまい、あやうく凍死しかけたためにストーブも装備していた。 でも、これって冗談事じゃなくて、寒さで死ぬ人がけっこう多いみたい。

キッチンのテーブルはまな板兼用になっている。料理をするときは、テーブルの上をかたづけてきれいにし、野菜や肉をそのままのせて包丁でトントンしちゃう。終わるとふきんでふいて、またテーブルになる。うんと汚れたら水とタワシでごしごし洗う。床が木だから濡れても平気だしね。最初のうちはとまどったが、すぐに平気になっ。あんまりこった料理はしないみたいだし、魚をさばいたりもしないからね。

(注2)『タクシー・ドライバー』で、道路から湯気が出ているシーンがあったでしょ? 私はあれを劇的効果を高めるためにスモークでもたいてるのかと勘違いしていたが、実は暖房の蒸気なのだ。地下を蒸気を流すパイプが通っていて、そこから各戸に引き込んでいるらしい。


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