Journey to the Ring Road



3. The Bridge of Lothlorien

8月31日 チェックアウトをすませ、荷物を転がして Willis St.へ。あさってから2日間泊まる予定のアパートメント・ホテルの事務所にスーツケースを預け、ボストンバッグだけで1日旅行をするつもりなのだ。事前にメールで1日早めに荷物を預かってもらう了解を得ていた。

アパートメント・ホテルなので24時間応対のフロントはないが、建物の1階に事務所がある。ここが8:30〜10:00までは開いているはずだったのだが開いていない(^.^;)。きょうは土曜だものなあ。試しに2階に上がってみると、上がったすぐのところに Manager's apartment という表示があった。呼び鈴がないのでノックしてみる。何度か強めにノックしていると、やがて眠そうな顔をしたパジャマ代わりと思われるジャージ姿の男性が現れた。「おはようございます。私は・・・」と言いかけると、「ああ、荷物を預かる約束だったんだよね」とすぐにわかってくれた。明日は午後に戻る予定なので、荷物は部屋に入れておいてくれるように頼み、「朝っぱらからお邪魔してごめんなさい」と謝ってから出かける。土曜の朝9時前になんて起こされたくないもんなあ、私だって。

身軽になったので早足で駅に向かう。9:55の電車に乗るつもりで、日曜にはなんとこれ1本しかないのだ。乗り遅れたら悲劇。

ウェリントン駅は趣のある古い駅舎で、ホームは9つしかない。しかも電車は日本だったらローカルでしか走っていないような、4〜5両編成の古びたもの。もちろん切符の自動販売機なんてない。たった2つしかない窓口でも客が少ないから並ばずに買える。ホームに電車は止まっているが、ドアが開いていなかったのでしばらくホームで待つ。9番ホームの横は地続きで駐車場になっていて、空港行きのリムジンもここから出る。

このときはうっかり忘れていたのだが、モリアの洞窟前でフロドが蛸みたいな怪物に襲われる沼のシーンはここで撮ったんじゃないかな。確か「駅のすぐ横の駐車場で撮影した」と誰かが言っていた。う〜む、とても信じられない。どうやって水をためたんだろう。

映画って本当にマジックみたいだなあ。きのうのリーヴェンデールなんかは元々の場所が実際にミドルアースみたいだからわかりやすいけど、アンデュインになった川原とかこの駐車場なんかは、よっぽど想像力がたくましくないと「ここで撮影しよう」なんて考えられないような場所だ。

やがて数人の客が前のほうの車両にいって、勝手にドアを開けて乗り込みだした。そうか、ドアは手動だから別に待ってる必要はなかったんだ。うしろのほうの車両は乗客が少ないときは閉めてあるらしく前2両にだけ客が乗っている。車内は古びていて椅子の布貼りなどもアンティークみたいだ。いかにも汽車旅行!という雰囲気でわくわくしてくる。

電車が走り始めてすぐに女性車掌が検札に来た。次の駅で止まり、再び走り出したときにもまた。彼女があまり歩かなくてすむように不要な車両は閉めてあるのだろう。

線路は初めのうち海のすぐ横を走る。柵もなにもないので、まるで海の中を走っているような気がしてくる。次には黄色い花が無数に咲いた低木の茂る林の中を走り、そして最後は羊や牛がのんびり草を食む草原へと景色は変わっていった。少しうとうとしていたら長いトンネルを通り、若者が3人降りる用意を始める。そのうちひとりの男の子は長髪でアイアン・メイデンのTシャツを着ていた。ウェリントンに来てから初めて見たメタルTシャツだ。街で流れている音楽もいわゆるヒットチャートばかりだし、MTVもやっていない。この国でメタル好きは生きにくいだろうなあ。






駐車場から見た駅の外。この塀や向こうの建物はモリアの洞窟のセットで隠したのだろうか








ホームだけの小さな駅には改札もなく、そのまま外に出る。迎えにきてくれていたビルは40台後半か50台初めくらい。ジーンズにフリースのジャケットというラフな服装だが、真面目そうな表情のせいかとても謹厳実直に見える。握手して「Nice to meet you」と挨拶すると「Likewise」と落ち着いて返され、なんだか校長先生の前に出た生徒みたいな気になってしまった。

荷物を私の手から受け取り、彼が向かっていった先にはまるで映画にでも出てきそうなクラシックカーが止まっている。「これ?!」と驚いていると、「どちらに乗りますか? 後ろ? 助手席?」と聞かれたので、助手席に乗ることにした。ちゃんとドアを開けて待っていてくれる。

走る車の中で車のことをまずいちばんに聞いてしまった。「クラシックカーですよね、これ?」「1927年製です」すごい! 私より年とってる(^.^;)。最高時速はせいぜい60キロで、しかもそこまで出してしまうとガタガタ揺れて大変らしいが、このあたりの道を走るならスピードはいらない。このくらい(約40キロ?)がちょうどいい。すれ違う車もいない。「これが典型的なニュージーランドの風景ですよ」とビルが指し示す指の先には一面の草原、羊、牛、そして広い空。

やがて両側を大きな木にはさまれた並木道にさしかかり、「ここから Fernside の敷地に入ります」と言われた。「この木に葉が茂っていたらすてきでしょうね。なんの木ですか?」「樫(Oak)です。ニュージーランド原産の木は冬になっても葉が落ちたり紅葉したりしないのですが、樫は英国から持ってきたものなので落葉するんです」ニュージーランド原産の木が常緑樹ばかりだということは初めて聞いた。だから冬だから枯れ木ばかりだろうと覚悟していたのに、思いがけず緑いっぱいの風景を見ることができていたんだ。

「ということは今この冬に目にする光景が最もニュージーランド的だということなんですね」と言うと、ビルが「まさにその通り!」と満足そうに答えた。

今夜の宿泊客は私ひとりだという。オフシーズンなので予想はしていたが、日本人の客としても3人目だという。確かに日本では聞いたことがないし、来る前に何度もチェックした観光局のサイトにもここの紹介はなかった。あまり大々的に宣伝する気はないのかもしれない。客のほとんどは英国か米国からだと言っていた。


車はさらに別の並木道(こちらには常緑樹が植えてある)に入り、さらに小さな門を入って、真っ白な建物の前の噴水のある前庭に止まった。ぐるっと回ってドアをあけてくれたビルは、車を降りた私に建物を指し示し、「All of this is yours」と言った。うわあ!!!

ここ Fernside には「旅の仲間」のロスロリエンを撮影した庭がある。今回の旅のバイブルとなった「The Lord of the Rings Location Guidebook」(Ian Brodie 著)に紹介されていたが、それによると庭は一般には開放されておらず、泊まり客だけが立ち入ることができる、とあった。

1階から順に家の中を案内してくれる。玄関ホールの右側すぐが客間(Drawing Room)。本物の暖炉がある。その隣は緑色を基調にした書斎(Study)。本やTVはここにある。玄関の左側にはダイニングルーム。前庭に向かって丸く張り出した部分にあたる。さらにこの隣がキッチンらしい。階段の奥にはトイレがあり、2階の寝室まで行かなくてもすむようになっている。

2階に上がるとまずは「こちらをあなたの今夜の寝室にと考えているのですが、もちろん他の部屋のほうがお好みでしたらそちらでもかまいません」と言って私の東京の住まい全部が入ってしまいそうに広いテラス付きの部屋に案内された。ブルーを基調にしたインテリアはちょっと男性的な印象もあるが、この広さは魅力的だ。バスルームも広々としており、外の光がたっぷりさしこむようになっていて、とても気持ちがいい。とどめは「ピーター・ジャクソン氏もこの部屋を使っていましたよ」の一言。「ここにしますっ!」

この主寝室には4畳半くらいの広さのウォーク・イン・クローゼットがついていて、さらにその先に別の寝室がある。こちらは淡いクリーム色を使った女性的な部屋だ。廊下の反対側にも別の寝室があり、ひとつは下のダイニングの上の部分にあたるらしく、丸く張り出した部分がついている。ここは重厚な雰囲気のインテリア。私の好みには少し重すぎる。最後の部屋はこの家の中ではいちばん小さな部屋で、飾りつけも女の子っぽい。家族旅行だったら子供部屋になるのかな。どの部屋にも壁の目立たない部分に小さな真鍮のボタンがあり、それを押せばいつでも家の人が用を聞きにきてくれるという。

車の中で私が「ロード・オブ・ザ・リング」のファンで、そのためにニュージーランドにもこの Fernside にも来たと言っていたのだが、そのせいか「あなたには興味深いかもしれません」と言って写真の束(非常に重く、なおかつ写真の画質が悪いのでご注意ください)を渡してくれた。下の客間にガラドリエルやセオデンの衣装が飾ってある写真だ。「2週間ほど前に映画会社が世界中からジャーナリストを20人くらい招いて、ここで第三部のためのプロモーションをしたんです。映画で使った衣装や小道具をたくさんもちこんでね。そのときの写真です」

興奮してさっそく写真を見始めた私に、「ここに滞在している間はどの部屋でも自由にお使いください」と言い残してビルは姿を消した。

写真はプロモーションのときのものだけでなく、映画の撮影をしたときの風景を撮ったものも混ざっていた。ロスロリエンの橋を作っているところ、旅の仲間が旅立つシーンの巨木を作っているところ(あれは中が空洞のハリボてだったのだ!)など、俳優は写っていないがこれまた興味深い。じっくり見ていたいところだが、まだ日は高いし、せっかくここまで来て部屋の中でぐずぐずしていたらもったいない。


























荷物をほどき、カメラを持って外に出た。ウェリントンに来てからずっと天気がよくて、いろんな人から「ラッキーだね」と言われていたが、きょうも本当にいい天気だ。冬のウェリントンは雨が多く暗いと聞いていたので拍子抜けをするくらいだが、ありがたいことには間違いない。

庭は「感動!」のひとこと。実際には細心の注意を払って作り上げたのだろうが見た目はとても自然に野生のままに見えるように作られた英国式庭園で、あちこちに小さな門があり、そこを抜けると雰囲気の違う庭作りがされていて、そこかしこで立ち止まってはうっとりしてしまう。テニスコートはしたたるような緑のローンコートだ。長めの白いプリーツスカートでテニスをする当時のレディの様子が目に浮かぶ。





冬とはいえ、草の合間には小さな花がたくさん咲いている。角を曲がると地面に濃いピンクの花びらが敷き詰められている。思わず「わあっ!」と歓声を上げて近づくと、両側に植えられた木からちょうどその場所に花びらが散るようになっているらしい。散った花びらのデザインまで考えられているのだ。

さらにその先の低い生垣の向こうには一面の水仙畑。そういえば家の中にはそこかしこに黄色い水仙がいけられていたっけ。日本だと水仙なら水仙だけをぎっしりと植えてしまうので、単なる色の塊に見えてしまうことが多いが、ここは草の合い間にポツポツと顔を見せた水仙が風に揺れるように咲いていて、とても可憐だ。敷地が広いからできることではあるけれどね。

さらに歩いていくと、あった! 何度繰り返してみたかわからない映画の中に出てきた、あのロスロリエンの白い橋のある湖。実際に目の前にあるのは湖というよりは池だが、白い橋といい、全体のたたずまいはまったく同じだ。近づいてみると橋は映画のものよりずっとシンプルで素朴な木の橋で、さっき見た写真にあったように、このオリジナルの橋にアールヌーボー風のアーチをつけ加えて変身させたのだ。ケイト・ブランシェットが裾をまくりあげていたのは地面がぬかっていて汚れるからだった池の周りは草が生い茂り、地面は湿ってすべりやすい。撮影のときはけっこう大変だったかもしれない。それにしても、こんな小さなところに大勢のスタッフやキャストが入ったら庭が荒れてあとが大変だったんじゃないだろうか?

ヴィゴのことだから撮影の合間には自分のカメラでこの庭の写真を撮ったに違いない!オフショット映像に出てきたヴィゴとショーンが撮影の合間にオーランドをからかってるシーンを撮ったと思しき位置から橋を撮ってみる。ふむふむ、ヴィゴはここに立っていたのね(^.^)。

少し冷えてきたのでいったん家のほうへ戻ろうと歩いていると犬が寄ってきた。そういえばさっきビルが「犬がいますけれど気にされますか?」と聞いてたっけ。猟犬みたいに大きな犬だとちょっと怖いな、と思っていたのだけれど、これだったらまったく大丈夫。自然の中でみんなに可愛がられて育ったせいか、まったく人見知りをしない。私の足のまわりにまとわりついてじゃれてくる。

さらにテラスのほうまで戻ると、今度は猫が現れた。毛並みが絹のようにきれいな美猫で、これまた人見知りしない。犬はともかく猫がこんなに人なつこいのって珍しいのでは? これまた私の足にまとわりついてクンクン匂いを嗅いだりしている。

ふと芝生を見ると、びっくりするくらい大きな黒い鶏がいた。あまりに太りすぎていてゆっくりしか歩けないのか、芝生のまん真ん中でふんぞり返っている。雌鳥たちが出てきて大きな雄鶏の羽を嘴で整えたり世話をやきまくっている。ハーレムだわね。犬が近づいていっても雌鳥たちは怖がりもしない。きっと子犬のころから一緒に暮らしていて、親戚の子供かなにかだと思っているんだろう。








旅立ちのシーン。上の写真とほぼ同じ位置。木に葉があるのは秋だから?







客間に戻ると暖炉に火が入っていた。太い薪が勢いよく燃え、パチパチと爆ぜる音が心地よい。火を眺めてぼーっと座っていると、赤いフリースにカジュアルなパンツ姿の女性が現れた。「こんにちは。午後のお世話をさせていただくシボーンです」と挨拶された。「なにか御入用のものはございますか? お昼はどうしましょう? それともアフタヌーンティー?」アフタヌーンティーという言葉には惹かれたが、いまいましいことに私の軟弱な胃はホテルで食べたトーストとデニッシュペストリーの朝食をまだ消化できていない。シクシク(;_;)。

「お腹はすいていないので昼食はけっこうです。お茶をいただけますか?」「お好みは?」「どういったものがありますか?」「ふつうの紅茶各種にハーブティー、アップルティー・・・」「じゃあカモミール・ティーをお願いします」

少しして運ばれてきたお茶は当然ながらポットで淹れてあり、銀のトレーにはチョコレートとクッキーも添えられている。お腹がいっぱいと言いながら、思わずチョコに手が出てしまった。うわあ、これ、おいしい。もう1個食べちゃおう。ついでにクッキーも1枚。ああ、もうやめないと夕食が入らなくなる。

シボーンが再び現れ、「もしお望みでしたら私が車を運転してこの近くのお好きなところにお連れしますが」と尋ねてくれた。「どういうところがあるのかわからないのですけれど」「いまガイドブックをお持ちしますね」

ガイドブックと地図を持って戻ってきたシボーンが野生動物センターと貝細工のクラフトショップ、それに車で1時間半ほどかかるという溶岩で出来た Cape Piller という面妖な海岸等の候補を見せてくれた。野性動物センターとクラフトショップには興味ないけど、海岸はちょっと見たい気がする。でも、往復3時間かけていって、戻ってきたらもう夜になってしまう。

「やっぱりいいです。出かけるよりもこの家や庭を楽しみながらのんびりすることにしますから。ここの庭は本当に素敵なんですもの」「煉瓦でできたドームはご覧になりました。あのドームの下に入ると水の音がとても素敵に聞こえるんですよ」「まあ、そうなんですか!? ドームは見かけたけれど入ってはみなかったわ。もう一度行って試してみます」「雄鶏にはお会いになりました?」「ええ、ええ! ものすご〜く太ってるのね(^.^)」「私たち、彼を King of chickens と呼んでるんですよ。彼の名前は Archbow です」「へえ。犬は?」「Truedieです」「人なつこくて可愛いですよねえ」少しお喋りをすると、「御用があったらいつでもお呼びくださいね」と言ってシボーンは去った。

しばらく客間で写真を見たり、書斎からもってきた写真集で庭でみかけた花の名前を調べたりしていた。部屋の隅に目立たないように置いてあるCDプレイヤーは、居間はラジオになっていて、地元局の番組が小さな音でかかっている。CDをチェックしたがごくごくポピュラーなクラシックだけなのでラジオのままにしておくことにした。

暗くなる前にもう一度、と庭に出て、さっきシボーンに教えてもらったドームに行ってみる。湖から引いた運河がこのドームの手前で地面に隠れているのだが、このドームの中に入って目を閉じると、せせらぎの音がまるですぐ横を川が流れているかのように聞こえてくる。不思議だ〜。さっき車できた並木道まで行ってみようと門から出ていくと、向こうからバイクが走ってきた。派手なストライプのライダースーツを着てゴーグルをかけた若者が乗っている。男か女かわからない。門の横にある農家の子供が大喜びで声をかけているところを見ると近所の人なのだろう。私が通りかかるのを見て「ハロー」と声をかけてくれた。女性だった。私も「こんにちは」と手を振って返す。

また客間に戻って、今度はアールグレイを淹れてもらい暖炉の前で暖まっていると、シボーンが夕食のメニューを書いたメモを持って、これで大丈夫かどうか確認にきた。「夕食はおひとりでされますか? それとも***(聞き取れなかった)が御一緒しましょうか?」タウディって誰だろうと思いながらも、こんな広いところでひとりで食事をするのは寂しすぎるので、喜んで「ぜひ一緒に食事をしていただきたいわ」とお願いした。夕食の時間は7時にしてもらう。

寝室に戻ると、ベッドはターンダウンされ、カーテンは引かれ、テーブルには銀のトレイの上に水の入ったクリスタルのジャグとグラスが置かれていた。

大きなバスタブに湯をため、バスクリスタルを入れてゆっくりとつかる。シャンプーやコンディショナー、バスオイルなど、すべて Sea Breathe とかいうメーカーのナチュラル志向のもので、容器も陶器の小さな壷だったりして可愛い。すっかりリラックスしてあがり、クローゼットにあったバスローブを着た。これまた昨日までのホテルのものと違い、ふわふわした肌ざわりで気持ちがいい。スリッパを持ってくるのを忘れてしまったが、寝室にはやわらかい絨毯が敷いてあるので裸足でペタペタ歩いてしまう。きっとPJもそうしていたに違いない。あの短パン姿で(^.^;)。

着替えて化粧をしてもまだ夕食までは1時間近くあったのでソファでうたた寝してしまった。はっと気づいて目がさめると、なんと7時半になっている! あわてて下に降りていくと、客間に2人用のテーブルが用意はされていたが、人の気配がまったくない。が、客間のボタンを軽く一度押すと、すぐにシボンヌが現れた。「ごめんなさい。少し昼寝をしたら寝すぎてしまって・・・」「大丈夫ですよ。きっと、とてもリラックスなさったからでしょう。すぐに夕食の用意をしますね」

食卓につくのもためらわれて暖炉の前に立っていると、黒の短めTシャツにヒップハングのジーンズ姿の背の高い女性が現れた。「こんにちは。タウディ(?よく聞き取れなかった)です。どうぞよろしく」「あ、こんにちは。こちらこそよろしく。お食事、お待たせしてしまってごめんなさい」

こちらの人の年齢はよくわからないのだけれど、30台前半から半ばくらいだろうか。肩につくかつかないかくらいの濃いめの金髪、ジョディ・フォスターに似た知的な美人で、とてもプロポーションがいい。健康的に日焼けしていてスポーティなタイプだ。こんな素敵な人と食事ができるなんてラッキー!

シボンヌがワインの好みを聞きにきたのでフルボディの赤をお願いする。テイスティングはパスした。


食事はリーキとポテトのスープから始まり、Glaced Goat Cheese(薄いトーストの上に焼いたゴートチーズの塊がのっている)、クランベリーのソルベ、ローストチキンのクスクス添え、それにチョコレートムースという献立だった。今までウェリントンでお目にかかったものと違い、見た目が美しく、それでいて量は多すぎずで洗練されている。ただし味は1級とは言いかねるけれど。どうもこちらの食事は概して塩分が多めで日本人にはちょっとつらい。最後のチョコレートムースだけは「殺す気か?!」というくらい多かった。食後にはエスプレッソをお願いする。

タウディとの話は、この家を5年前にビルと一緒に買って、手入れしていった話や、庭を維持するため週に4日は庭師に来てもらってる等の日常的なものから始まって、ギリシャに行ったときの話やウェリントンでの買物はどこがいいか等、バラエティに富んで楽しかった。どんな話題をふってもごく自然に会話をつなげてくれる。まったく気取りがなく、ごく普通の働く女性、という印象だったので「仕事は何をしていらっしゃるの?」と聞くと、「水泳を教えているの」という答えで納得。このプロポーションはそれだからなのね。ギリシャに行ったのも水泳大会でメダルをとり、その副賞だったらしい。そういえば、昼間外で会ったバイクの女性は彼女だったのだ。

私がここに泊まりにきた理由を「ロード・オブ・ザ・リング」のファンだからと言うと、「ああ、それだったら明日来る庭師のマイクと話すといいわ。彼は撮影にもずっと立ち会ったもので映画にもすごく入れ込んでいて、おかしいったらないのよ」と笑う。おお、それは楽しみだ。








食事が終わったときにはすでに10時を過ぎていた。書斎に移って少しTVを見ながら話していたが、毎朝5時には起きてひよこに餌をやったりしているというタウディはもう眠そうだ。引き止めては悪いので「それじゃそろそろ・・・おやすみなさい。とても楽しい夕食でした。つきあってくれてありがとう」とお礼を言って失礼した。

部屋に戻り、顔だけ洗ってパジャマに着替え、さっさとベッドに入る。昼寝しちゃったから眠れるかな、という心配は杞憂に終わり、ワインのせいもあってあっという間に眠ってしまった。



Fernside RD1, Featherston, New Zealand
Phone 646 308 8265 fax 646 308 9172
E-mail fernside.lodge@xtra.co.nz
www.fernside.co.nz




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