
外に出てみるとかなり暗くなっていた。広場に面した店は、ど んどんシャッターを閉じている。食事ができる店なんてあるのかしら。
初めての街で、しかも夜となるとすごく不安だ。ふたり連れとはいえ、一応女性だし、どのへんに気をつけていいかわからないから、必要以上にびくびくしてしまう。あとから考えると、ソカロの広場付近は宮殿がある関係上警備が厳重で、治安はかなりいいはずだと思えるのだけれど、このときは右も左もわからない状態だったから、やたらと早足で人がいるほう、灯りがついているほうへと歩いていった。
結局、カテドラルに向かっていって、2本目くらいの道を左に曲がったところにある軽食屋に入った。テーブル席もある店だったけど、長いカウンターの真ん中あたりのスツールに並んで腰掛けた。中にいるおじさんが、愛想はないけど、なんとなく信用できそうな感じがあったからかもしれない。
メニューを見てもすぐには何が何やらわからない。とりあえず知ってる単語であるトルティージャとセルベッサを注文した。無事の到着を祝って乾杯!
キュ〜〜ンッ! 冷たくておいしいっ!
疲れているせいか、あんまりお腹はすいていない。ふたりでひとつのトルティージャを頼んだのだけど、山盛りのパンがついてきたから、これで充分満腹になってしまった。私たちって経済的ね。
でも、このトルティージャ、「5 DE MAYO (店の名前)スペシャル」というのを頼んだのはハズレだったかも。現われたのを見ると、ふつうのトルティージャじゃなくて、いわゆるスパニッシュオムレツみたいなものだった。グリーンピースとハムとトマトが入って、丸く大きく焼いた卵焼きね。テーブルに乗ってるサルサを試しにかけてみる
辛いっ! でも、おいしい!
隣りの人が食べてた、唐がらしをいためたようなものもおいしそうだったけど、あれはやはりかなり修行を積まないと食べられそうもないなぁ。
食事しながらまわりの様子を見ていると、実にもうさまざまな人たちがいる。なぜか「ペロン、ペロン」と言いながら物乞いしてまわるお婆さん。ペロンって、あのペロンのこと?
カウンターで一心不乱にスープを飲んでいるお婆さんは、今どき日本では見られないくらいみごとにシワシワ。太陽光線が強いせいかしら?。スカーフでしっかり頭を包んでいる。
なにか気にさわることでもあったのか、いきなり隣りに座っていた女性にスプーンで殴りかかった。殴りかかるといっても、なにしろお年寄りだから弱々しいんだけど、気迫だけは充分。どうやら母娘喧嘩らしい。笑いながら止めに入った店のおじさんにも、スプーンを振りかざして襲いかかる。陰湿な感じはなくて、どことなくユーモラス(本人は真剣に怒ってるんだけど)なのが、さすがラテンだなあ。
入ってくるなり、他人が残したコーラのびんをとり、ぐびぐびと飲み出すお爺さんもいた。食べ残しのパンも持参の袋にさっさとしまいこむ。 店のおじさんはそれをとがめるでもなく、小銭を出して渡したりしていた。カトリックの国だから、浮浪者とかに寛大なのかしら? それともおじさんの知り合い? いずれにしろ、施しを受けたなどという態度はみじんも見せず、大威張りで帰っていったお爺さんの後ろ姿が印象的だった。
ところで、5 DE MAYO というのは、5月5日の対仏勝利記念日のことだ。この店の名前の由来は、その日に特別な思い入れがあるからなのだろうか。それとも単に5 DE MAYO 通りにあるからってだけなのかもしれない。いずれにせよ5月5日は国民の祝日で、あっちこっち閉まっち ゃいそうだから観光客にとってはちょっと困った日ではある。