
歩き疲れて外に出る。朝ごはんもまだだったので、とりあえずカフェに入り、朝昼兼用の食事にすることにした。
*MENU*という取り合わせ。ホットケーキ・・・マーマレードといちごジャム付き オレンジジュース マンサネラ茶 「それだけでいいの?」
「Wこそ、もっと頼めば?」
「・・・実は・・・なんだか調子が悪いのよ」
「あ、あなたも。実は私もさっきからお腹が・・・」
「きのうのサラダじゃないかと思うんだけど・・・」
「それよりほら、オアハカからの飛行機の中で出たオレンジジュースに氷が入ってたじゃない」
「ホテルに置いてあった水、あれだって栓はしてあったけど、中身がミネラルウォーターかどうかはわからないわよね」
考え出すと原因はいくらでも考えられるが、とりあえず今のこの状態をなんとかしなくては。店を出るとすぐに薬屋に入り、『地球』に出ていた「メキシコの下痢にはこれっきゃない」という薬ロモティールとミネラルウォーターを買った。
しかし、この症状をなんと説明すればよいのだろうか。頭が痛いとかお腹が痛いというわけではなく、とにかく体じゅうの力が煙のように抜け出てしまったような感じなのだ。ほんとうは歩くのもやっとなのだが、時間がない。
今までみそこなっていた国立宮殿へと向かう。入口は軍隊が警備しており、入館者はパスポートの提示を求められる。銃を持った兵隊が何人も立っている中を歩いていくのは落ち着かない。ここでの見ものはディエゴ・リベラの壁画だ。
ほんとにすごい!
古都ティノティトランでの人々の暮らしぶりから、スペインに侵略され、強奪・殺戮されるシーン、そしてメキシコ革命へと歴史の流れを力強いタッチで克明に描いてある。
黒沼ユリ子さんの『メキシコの輝き』(岩波新書)によると、リベラは、この壁画を描くに当たって、1年半の研究と準備を重ね、スペイン軍の記録係や聖職者の書き残した文書や地図、アステカ帝国の残した古文書、それに膨大な数の土偶・土器といった考古学的資料を元にして、想像力を駆使して完成させたのだという。
私はメキシコの歴史にうといので、描かれている内容がいまひとつわからないのがもどかしい。もっとちゃんと勉強してくればよかった。
ティノティトランの市場を描いた場面は、多分これが、先日国立人類学博物館で見て感激したミニチュアの元になったのだろう。市場で魚や鳥を売り買いする人の足下に、ちゃんとイグアナもいた。
日本で見た映画「フリーダ・カーロ」の中に、壁画製作に没頭して、高い足場に登ったきり降りてこないリベラのところに、フリーダがおべんとうを届けるシーンがあった。それがとても美しい場面だったのだが、あれはまさにこの宮殿で、この絵を描いているシーンだったんだ、と気づいて、またまた感激。
とはいうものの、ほんとにしんどい。元気なときでも、これだけのエネルギーを放出するような作品を見るには、かなりの体力を必要とするのに、いま、こんな状態だと、まるで拷問のように思えてくる。しまいには、私もWもひんやりした石の階段に座りこんで、茫然と壁画を眺めていたのだった。