WALKING IN MEXICO



Part 28

険物探知機がまた鳴った。

「もう驚かないもんね」、女性係官にボディチェックを受けながら、心の中でうそぶく私なのであった。

空港で搭乗の案内を待っている間、TVに移っているミュージック・ビデオを何の気なしに眺めていたのだが、これがすごく楽しい。曲調はアメリカン・ロックだが、歌っているのはメキシコ人の歌手(だと思う)。私がふだん見ているアメリカのMTVで流れるビデオを、その ままパクッてきたと思われる画面がてんこ盛りなのだ。広いフローリングの床の部屋の真ん中にグランドピアノが置いてある。テラスからの風で白いレースのカーテンがふわっと揺れる。と、いきなりシーンが変わり、わけもなく男がずぶぬれになって夜の街を歩いている。と、さらにいきなり稲妻が光り、音楽が盛り上がる・・・といった具合。ふつうは1曲にひとつ使われているドラマティックな仕掛けが惜しげもなく盛り込まれていて、まるで2時間ドラマを5分間に凝縮させたかのようだ。こんなにお金をかけたプロモーション・ビデオを作ってもらえ るくらいだから、かなり売れっ子の歌手なんだろう。

などと楽しんでいるとアナウンスがあった。さあ、搭乗だ。

「機内でサンドイッチが出るって、欠食児さんが書いてた」と、こういうことだけ記憶力のいい私が前ぶれしていたので、

「へえ、たった1時間しか乗らないのにねえ」とWも楽しみにしていた。

が、が、出ない! 出ないんですよ〜、サンドイッチ。飲み物だけ。

考えてみれば、14年前と今じゃ、飛行時間もサービスの内容も変わっていて当たり前ね。ううう、食べ物のことになると、ついその気になってしまう私がいけなかったんだわ。というわけで、「あっ」という間にオアハカ着。

空港内でTAXIと書いてある窓口に行ってチケットを買い、外に出ると、マイクロバスが1台止まっているだけ。ほんとにちっちゃくてローカルな空港。でも、こういうほうがのんびりしてていいなあ。バスの待合室みたいだもの。

TAXIとは言っても、オアハカのはコレクティーボという乗り合いタクシーで、さっきのマイクロバスに客が6人になると出発する。切符をちぎるときに行き先を聞かれるのだが、私たち以外はみんなオアハカの住人らしく、目的地に近づいてくると、角ごとに指示して自分の家の前まで行ってもらっていた。


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