
帰りは当然のことながら、カミノ・レアルではなくてマジェス ティックまで送ってもらった。
部屋にもどるなりシャワーを浴びた。もう、鼻から耳から髪から、砂が落ちる落ちる。真っ黒になったTシャツや靴下も洗う。ほんとはジーンズも洗いたかったんだけど、あした朝からオアハカへ移動するのに、濡れたジーンズは荷物を重くするだけ、と思って我慢した。こっちは乾燥してるから、Tシャツでもひと晩で乾くけど、さすがにジーンズは無理でしょう。
食事に出る前に休んでいると、Wが言い出した。
「ねえ、イサベルもいいけど、場所的に不便そうじゃない。さっき帰りに通ったあたりは、レストランもお店も多くて、便利そうだったでしょ? あのへんに泊まるほうがいいんじゃないかなあ」
「いいけど、どこにするの?」
「ガイドブックに出てたホテル・コルテスというのがいいと思うんだけど」
「じゃあ、電話で予約すれば」
「電話番号がわかんないのよ」
「だって、ガイドブックに出てたんでしょ?」
「本屋で立ち読みしただけなんだもの」(^_^;)
が、問題は意外にかんたんに解決した。フロントでホテル・コルテスの電話番号を調べられないか、と聞いたら、なんとフロントマンが即座に何も見ずに電話番号を教えてくれたのだ。
「す、すごいっ!」
プロ中のプロではないのか、と感激した私たちだったが、なんのことはない、マジェスティックとコルテスは同じ系列のホテルだったのだ。 しかし、これもなにかのご縁。きっとこうなる運命だったのね、と勝手に思いこみ、納得してしまう私たちなのであった。
食事は帰りのバスから見えていた、ホテルから2ブロックほど行ったところの角にあるMADEROというレストランにした。まだ早いせいか、それともおいしくないのか、客はひとっ子ひとりいない。
*MENU*にんにくと卵のスープ かにのチリスープ たこの墨煮 えびのブロシェット を頼んだのに、たこの墨煮がなかった。一度「たこ」と思いこんでしまったのであきらめきれず、代わりに「たこのなんとか」というのを頼んだのが大間違い。たこ、セロリ、赤ピーマンを全部5ミリ角くらいに切って、オーロラソース(マヨネーズとケチャップを混ぜたようなもの)であえたものが、長径30センチくらいの皿に山盛り出てきた。これって、ふつうはオードブルとしてちょこっと食べるものなのでは?
5口くらい食べただけで、甘さとしつこさに辟易し、「食べない?」とWに薦めたものの、「私、もともとマヨネーズがきらいなのよ」と拒否されてしまった。
にんにくと卵のスープは、スペインでは定番の料理だそうで、にんにくの効いたスープの中に卵の黄身は半熟、白身はかきたま状になって入っている。揚げたパンも浮いていて、カロリーものすごく高そうだけど、おいしい。
かにのスープは、チリスープというので辛いだろうと期待してたら全然辛くない。でも、殻ごとの蟹がいっぱい入っていて、だしが効いてるからおいしいったらないっ!
えびのブロシェットは、金串にえび、たまねぎ、赤ピーマン、ピーマンを交互に刺したのを焼いて、白いごはんの上に乗せて出てきた。これは、値段がけっこうよかったのにしては、たいした味ではなかったなあ。メキシコって、えびが高いのかしら?
店のTVではサッカーのワールドシリーズが中継されていて、レストランの外を通る人たちがみんな中を覗き込んで見ていく。どうやら、この店の横の通りは地下鉄の駅に続いているらしく、勤め帰りの人たちがあとからあとから歩いていくので、結果として私たちは食事の間中、見知らぬ人々から覗きこまれていたことになる。
途中でひとりの男が入ってきて、ビールを注文した。しばらくTVを見ていたのだが、やがてこっちに向き直り、「日本人ですか? 私は10月に日本に行くので話をしたいんですが」と英語で話しかけてきた。う〜ん、見えすいた手口だなあ。私もWも、英語ワカリマセン、スペイン語ワカリマセン、という顔をしていたら、そのうちにあきらめて出ていってしまった。
こういうときって、ちょっと後味は悪い。話しかけてきた相手を黙殺するっていうのは、やっぱり失礼だものねえ。でも、たとえば東京で、食事中にいきなり隣りの男が同じように話しかけてきたら、これはやっぱり相手になにか魂胆があると思うのが常識だし・・・これで、スペイン語がうんと上手なら、それはそれでスマートなかわし方ってのがあるんだろうけどなあ。
支払いの段になって、試しにカードで払えるかどうか聞いてみた。期待してなかったのにOKだというので、そろそろペソが残り少なくなってきていた私たちは、たった104ペソの払いをカードでするのであった。
しかし、やはりカード利用客というのは少ないんだろうな。私が渡したカードを店の奥で何人もがためつすがめつ、電話で番号を問い合わせたり、裏を返してしげしげと読んだり。ようやく計算書とカードを持ってきたボーイが、私のカードの裏面にサインがないと指摘した。そういえば、更新したときにサインするのを忘れていたっけ。
あわててその場でサインした。するとボーイは、それがマニュアルなのか、さっき私がサインした計算書のサインとカードのサインを慎重に見比べるのであった。←あのねえ、どっちも今私が目の前でサインしたでしょう〜が\(・_\)
あすのメーデーに備えてか、通りには兵隊を満載したトラックが行き交っている。角角には警官が立っている。今夜はいつもより人出が多い。
ホテルに帰り、あしたに備えて早く寝ようとしたのだが、隣りの部屋のTVがうるさい。さっきのサッカーがまだ終わってなくて、それを大音量で見ているのだ。早く終わらないかなあ、と思っていたら、終わるなり今度はメロドラマを見始めてしまった。それでも、疲れていたのでいつの間にか眠ってしまっていた。