WALKING IN MEXICO



Part 23

あ、ようやく出発。結局、私たちのツアーの参加者は、なにも買わなかったみたいだ。土産物屋から、目的地まではもう数分の距離だった。

なにもない土漠の端っこ(位置的には『地球』に書いてあるの駐車場にあたるんだけど、とても駐車場などとは呼べない)で車を降り、全員でガイドのあとについてぞろぞろと歩き出す。

私とWの東洋人ふたりが、帽子をかぶり、首に日焼け止めのスカーフを巻き、サングラスという重装備をしているのに対して、肌の弱そうな欧米人たちは、みんな袖なしの肌むきだしに、帽子なし、サングラスなしという無防備な状態。あれじゃあ、皮膚ガンになると思うなあ。 せっかくメキシコに来たのだから、小麦色になって帰りたいと思っているのだろうか?

ガイドは、この暑いのにウールのスーツを着た小太りのおじさんで、なかなか説明がうまい。急に立ち止まると、地面からなにやら拾い上げ、「ほら、これが遺跡の破片だよ」などと言う。思わず我々も一緒になってしゃがみこみ、遺跡の破片を探してしまったではないか。

当時の人々は、52年ごとに家の中も外も衣類も全部こわしてしまい、新しく作り直していたのだと言う。

「ほら、ここにあるこの石の積み跡、これが前の家の建ててあった位置ね」などと、それらしきところを指し示しては、臨場感たっぷりに説明する。

「この遺跡にはいまだ解き明かされていない謎がいっぱいあります。そのひとつはこの砂。近くに砂を作れるような川がまったくないのに、あるはずもないこの川砂が一体どこから運ばれてきたのか・・・」

う〜ん、なるほどぉ。

そうこうしているうちに、死者の道に着いた。各ピラミッドのかんたんな説明を聞いたあと、1時間のフリータイム。まずは手近な寺院や宮殿を軽く見たが、どうもあそこに見えてるピラミッドが気になって集中できない。そんならいっそ、さっさと登ってしまおうと、まずは月のピラミッドにとりついた。Wは「そんな元気はない」と言う。相変わらず具合が悪いのだ。

ティオティワカンのピラミッドは、遠くから見てる限りでは、なだらかな傾斜で、別にどうということはない。ゆっくり登ればなんということはないだろうと思っていた。実際、途中の踊り場みたいなところまでは、段を見ながらゆっくりゆっくり登ることだけ考えていたから、全然なんともなかった。ところが、踊り場について「ちょっとひと休み」とばかりに下を振り返ったら、もうダメ。高所恐怖症の気はないはずなのに、無性にこわくなってきちゃって冷や汗がタラ〜リ。

「こんなとこを降りなくちゃならないなんて、やだやだぁ」と心の中で叫ぶばかり。とてもじゃないけど、もうこれ以上は登れない。

しかたがないので、降りる勇気が出るまで、しばらくの間、前方に広がる死者の道と両側の遺跡、そして遥か彼方の山並を呆然と眺める私なのであった。気がついてみたら、Wが私のすぐ下まで来て、石段に腰を降ろしている。高いとこ、好きだからなあ。


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