WALKING IN MEXICO



Part 18

場からもどったら、Wはベッドに倒れこんで眠ってしまった。 相変わらず高山病が治らなくて、ゆうべも眠れなかったのだ。それでも、このまま寝かせておくわけにもいかず、9時に無理矢理起こす。きょうでグラン・ホテルはチェック・アウトする予定なんだから。

しかし、最後の最後まで相性の悪いホテルではあった。

フロントに行くと、朝の清掃時間だからか、掃除の人間はいっぱいいるのに、フロントの係はひとりしかいない。それが前の客との話をなかなかやめないうえに、途中で割りこんできた客のほうを優先して相手をし始めた。ロビーの椅子に座って、ようすを見ていた私にも、Wがいらいらしているのが手にとるようにわかる。

そんな中、いきなり玄関ドアから中国人の団体がぞろぞろと入ってくると、ガイドが説明を始めた。どうやらこのホテル、観光コースの一部になっているらしい。物珍しそうにあたりを見回す団体客に、じろじろ眺められてしまう私であった。

「先にマジェスティックに行って、チェック・インしておいてよ」というWの声に、ようやく我にかえった私は、そういえばそうだわ、と荷物をかついで歩きだした。移動といったって、ほんの1ブロック先だから気楽なものだ。

一昨日、あまりにあっけない予約の方法に不信感を抱いた私たちだったけど、行ってみたらちゃんとコンピュータに予約がインプットされていた。フロントの人も感じがいい。ところが! またまた番狂わせが生じてしまった!

「広場が見える部屋を」とリクエストしていたのに、明日のメーデーのために、広場に面した部屋はすべてクローズするようにと、政府からのお達しが来たというのだ。「予約を受けたときは、そんなことは聞いていなかったのでOKしたのですが、ほれこの通り、きのう突然来たんですよ」と、わざわざ書類の日付を見せてくれる。

よく考えてみれば当たり前の話で、今年の元旦にあんなことがあった国で、メーデーにセキュリティが神経質にならないわけがない。きのうまで通告がなかったということのほうが、あきれるほどのんきな話だ。

とはいうものの、Wの性格を知ってる私は、おいそれとは「じゃあ、それでいいです」とは言えず、「友人が来てから相談しますから、ちょっと待ってください」と頼んだ。やがて現われたWは、事情を聞くと不満そうな顔はしたものの、「でもまあ、しかたがないわよね」と納得した。やれやれ。

「食堂からは見られるんでしょ?」
「それはだいじょうぶです」

じゃあ、あしたの朝食はテラスで食事だ。

とりあえず、荷物だけ部屋に置かせてもらった。ホテルの内部は、オレンジと黒で統一されていて、廊下や室内の黒い鋳鉄を使った照明器具や壁の絵の選び方など、インテリアがなかなかすてき。人工の中庭が吹き抜けになっているのはグラン・ホテルと一緒だが、こちらのほうがかわいらしくて、女性好みかな。バスタブもあった。

さあ、大急ぎでメキシコ観光に行かなければ。


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