
バー・レオンの店内は暗かった。まだ時間が早いせいか、店内には3〜4組の客しかいない。私たちは、ふたり連れ用の小さなテーブルに案内された。隣りにはかなり年の離れた(女性が年上)カップル。
私はマルガリータ、Wはテキーラ&ソーダを注文した。まわりの客を見ると、なぜかみんなコーラを飲んでいる。他のアルコールを混ぜているようすもない。こっちの人はみんなコーラ中毒なんだろうか?
ステージでは、ソバージュ・ヘアでメイクの派手な美人がヴォーカルをとっていた。バックの演奏は、最初のうちは音が合わなくて下手っぽかったが、だんだんと曲を重ねるにつれて、ノリがよくなってくる。このことは、そのあと出てきたバンドにも共通で、どうもこっちの人たちは事前に音合わせなどはまったくしていないのではないか、などと思ってしまった。
2番目のバンドは、フルートを吹く女性と、ヒゲをはやしてウェスタン・ハットをかぶった気障なタイプの男性と、小柄でぴょんぴょん踊りながら歌うコミカルな男性との3人でヴォーカル&コーラスをとるバンド。ほかにキーボード、ドラム、ボンゴ、それにブラスが3本。
途中、ステージにいる人たちと同じ服を着た人が急ぎ足で店に入ってきたので、「あれれっ?」と思って見ていたら、なんとステージに上がっていくではないか! でもって、それまでボンゴを叩いていた人が、みんなと握手をして去っていき、それまでドラムを叩いていた人が、そのボンゴの位置についた。これがすべて、演奏しながらの話。
要するにドラマーが遅刻してきて、しかたがないのでパーカッショニストがドラムを叩き、たまたま客席にいた知り合いがボンゴを叩いていたという事情だったのね。まったくラテンなんだからぁ。
このバンドの中盤あたりから、客があとからあとから入ってきた。さすが金曜日の夜というのか、いつもこんなふうなのか、尋常な盛り上がり方ではない。席がなくて、外で待っている人たちもかなりいたようだ。
ステージ横のスペースで踊り出す人たちも増えてきて、これがもう、みんなすご〜くうまいっ! 特に男性。なんというか照れもせず(当たり前か)、見事に決めてくれるので、私たちはステージそっちのけで見とれてしまった。
隣りのカップルは、男のほうは踊りたくてうずうずしていて、しきりに女性を誘うのだけれど、年上の女のためらいか、どうしてもウンと言わない。だんだん男が不機嫌になっていくのが手にとるようにわかって、これまた目の離せないドラマでありました。
12時頃には、最後の出演者と思われるおじさんふたりが、流しのギター弾きのようにテーブルの間を歌いながら回り始めた。そろそろ帰らなくちゃ、明日がつらい。後ろ髪をひかれながら店を後にした私たちであった。
入口に貼ってあった紙には、
SON DE MERENGUE GPO CALIENTE SON COBATA DUETO SANLUIS | とあったけど、これがこの夜の出演者なんだろうか?