made

in

HEAVEN    

 

 

 ガチャン。古びたマンション特有の鉄のドア----今時
珍しい代物だ----を開けて、レイは振り向いた。そこに
シンジの顔を認めると、仕草で『入って』と促す。彼を
先に、自分を後に、真っ暗な玄関につまづきかけて、シ
ンジはつんのめりそうになった。
「……暗いの、いや?」
 暗がりに慣れた眼に、レイの白い顔がぼうっと浮かん
で見える。白いブラウス、臙脂のリボン、ブルーグレイ
のジャンパースカート----レイの白い指が、ジャンパー
スカートの肩にかかった。
 シンジは息を飲んだ。パサ…と、スカートがレイの足
許にわだかまった。しゅっという絹擦れの音と共にリボ
ンが解け、床に落ちる。白い指先が胸許のボタンにかか
り、あっと言う間に肩からブラウスが滑り落ちた。
「……あ、綾波…?」
 飾り気のない木綿の白いブラとショーツ姿のレイが、
シンジの前に立っている。以前にも見てしまったことが
あるが、それは少しもいやらしくはなかった。だが、窓
から入ってくる街の明かりに浮かぶレイは、まるで妖精
のようだった。
「碇くん----あたしを、見て」
 シンジは金縛りになったように立ちすくんだまま、レ
イを見つめている。シンジの瞳の中に、レイの姿が映っ
ている。なめらかに丸い肩、年相応にはふくらみつつあ
る胸、くびれたウエストから腰へと流れる線----大人に
なりきっていない少女の『今』だけの美しさがたたえら
れていた。
 レイは一歩前へ踏み出した。シンジとの距離が一歩分
縮む。そうして一歩、また一歩----その距離がほぼゼロ
になった。
 とす。立ちすくんだままのシンジの肩に、レイは身体
を預けた。 びくっ、と彼の体が緊張するのが判る----
かすかな震えがシャツの布越しに伝わってくる。
『あ』
 ブラの中で、ぴくんと立ち上がったもの。ブラの布と
シャツの布を通しても、きっと彼も感じたに違いない。
 レイは顔を上げた。瞳と瞳がまともにぶつかった。
「……ずるい」
「え?」
「ここまで、ついて来たくせに」
「…」
 静かにシンジの両手が上がった。こわれものをあつか
うに恐る恐るレイの肩に触れ、ぎこちなく抱き寄せる。
「綾波……どうして?」
「……判らない」
「……あやなみ……、僕、僕は----」
「外して」
 レイの言葉には、有無を言わせないものがあった。シ
ンジはとまどいながらレイの背中に手を回し、ブラの留
金を探った----ちき。軽い音と共に留金は外れた。
「綾波----…」
 彼の理性は、最後の一線の上で危なく揺れていた。動
悸が激しくなり、眼が眩みそうになる。身体が震えて呼
吸が浅くなる。
『…落ち着け、落ち着け、落ち着くんだ----…』
 レイが微笑(わら)っている、いつか見た、あの笑顔だ……。
「あ…」
 シンジの理性が、切れた。震える手で留め金の外れたブ
ラを剥ぎ取り、力一杯抱きしめる。柔らかなレイの身体
の感触----二つのふくらみと、その頂点の存在がありあ
りと感じられる。
「綾波、綾波、綾波、……」
「いかり、くん……やさしく、して」
 その言葉に、シンジはハッと我に返った。慌てて腕を
緩める。その腕の中から、レイはするりと抜け出した。
「…こっち」
 いつの間にか出た月が、殺風景な部屋の内部を照らし
ている。ぽつんと置かれたベットにレイは腰掛け、シン
ジを見つめた。
 吸い寄せられるようにシンジはベットに近付き、レイ
の横に腰掛ける。月明かりの中で、再び二人は接吻けた
----そのまま、ゆっくりベットへ倒れ込んでゆく。
「…ん……」
 レイの指が、シンジのシャツのボタンに触れた。一つ
一つボタンが外されていき、唇が離れた時には全てのボ
タンが外されていた。
「……」
 無言のまま、シンジはシャツを脱ぎ捨てた。ベルトを
外し、ズボンを下ろす。Tシャツを脱いで、トランクス
だけの姿になった。
「本当に…いいの?」 
「……『だめ』って、言ったら?」
「…」
「----いいわ」
 シンジはレイの傍らに横たわり、半身を起こしてレイ
の上に覆い被さった。見つめあう。
「……」
 気がつくと、彼はキスの雨を降らせていた。唇、頬、
まぶた、耳たぶ、首筋、肩、鎖骨----。
「…ぁ…」
 ぴくん、とレイがのけぞった。シンジが胸の頂点に唇
を触れさせた時だ。そこだけピンク色の蕾を、彼は舌で
そっと転がした。何もかもが、壊れてしまいそうなほど
華奢にできている。シンジはドキドキする胸を押さえな
がら、精一杯そっと触れるようにした。
『?』
 白い肌に、薄く浮き上がる筋。それがあの時彼女が負
った傷の痕だと気付くのに、時間はかからなかった。
「…綾波……『絆』が、欲しい」
 シンジは傷痕を唇で辿った。レイの呼吸が速く、浅く
なってくる。出会った時、包帯だらけでストレッチャー
に乗せられていたレイ。あの時の傷を、辿っていく。
「あっ…」
 レイが、声を上げた。睫毛を震わせる。それを見て、
シンジは初めて自分の『下半身』(からだ)を意識した。
熱く脈打つそれは、自分が男であることを無言で主張し
ていた。
「…綾波……僕らの、『絆』----いいよね ……?」
 最後の一枚。シンジはレイのショーツを下ろした。す
ると、淡いかげりに覆われた部分が現れた。
「見せて」
「…恥ずかしい」
「それじゃ、僕も見せる、から……」
 赤面しながら、シンジは自分でトランクスを下ろした
----こうして自分の全てをさらけ出していることが、と
ても不思議だった。彼の股間では、欲望を示す存在が爆
発寸前になっている。
 そっとレイの足を開き、顔を埋める。甘酸っぱい香り
がたちこめ、シンジは頭がクラクラした。指で割れめを
押し広げると、薔薇色の花弁が顔を覗かせ----彼女の身
体の奥からあふれてくるものがある。
「・・・・・・」
 ためらわずに唇を寄せ、舌で舐め取った。途端に、レ
イの腰が跳ね上がる。シンジは夢中で、それにむしゃぶ
りついた。
「----ぁ、あ、あっ、あぁんっ」
 レイは眉を寄せ、苦悶と快楽の入り混じった表情であ
えいだ。身体の中心から大きな波がひっきりなしに押し
寄せ、彼女を押し流そうとする。激しすぎる快感がレイ
を捕らえ、揺さぶっている。
「いか、り、くぅん・・・・・・あー・・・・・・、くぅっ」
 そのレイの叫びが引き金になった。
「もうっ・・・だめだっ・・・・・・綾波、いくよっ!!」
 ぐしょぐしょにとろけたレイの花弁に、熱く硬いもの
が押し当てられた。ぐいと力がこもる。
「あっ、痛っ!!」
 レイは悲鳴を上げた。
「ごっ、ごめん! ちょっと待って・・・」
 ----ズンッ。二人が『ひとつ』になった瞬間、すさま
じい痛みがレイの脳天目がけて突き抜けた。
「きゃああああ」
「わぁああああっ」
 熱い。あそこが、とける・・・・・・!! シンジはレイの胎内
に侵入した自分を感じた。ギュウッと粘膜が拒むのが判
る。しかしそれが快感を生み、彼は脳天から足の爪先ま
で痺れるような感覚を味わった。
 ギシ、ギシ、ギシ・・・・・・スチール製のベッドの枠が抗議
の悲鳴を上げている。絡み合う二つの身体が、床に奇妙
な影を描く。シンジに貫かれながら、レイは自分の身体
に起こった不思議な変化にとまどっていた。
 あの瞬間、気絶しそうなほどの激痛が走った。シンジ
の熱く硬いものがレイの狭い入口をこじ開け、一気に貫
いたのだ。ところが彼女の腰はひとりでに動き出し、シ
ンジを迎え入れようとする。より深く、より激しく貫か
れようとするかのように----やがて二人のリズムは一つ
になり、レイは身体の奥に今まで味わったことのない強
烈な快感を覚えた。腰がうねり、シンジを深く迎え入れ
る度にそれは強くなり、彼女はいつしか切ないあえぎを
漏らしていた。
「・・・・・・あ、あ、あっ、あああ・・・いかり、くん・・・気持ち、
いいの・・・・・・。すっごく、気持ち、イイっ・・・・・・!!」
「あーっ、ううっ・・・綾波・・・、スゴいっ・・・・・・! あああ、
もう・・・・・・イキそ・・・ぅ・・・・・・」
「あ・・・あうっ、なんか、来るっ・・・・・・!? いかり、くん、
来て、来て、来てぇ----っ! あ--------っ!!」
「ううっ、ダメだぁっ・・・! あ・・・・・・綾波、あっ、イクう
----------っ!!」
 レイが高い波のてっぺんにさらわれた瞬間、彼女の中
でシンジが爆発した。びくん、びくんと大きく震えなが
ら、レイの胎内にシンジが『生命』をぶちまける。
「・・・あ・・・・・・うううっ・・・・・・」
「・・・・・・はあっ、はあっ、はあっ・・・・・・」
 がくんと二人はベッドの上にもつれて転がった。
「綾波・・・・・・?」
「碇、くん・・・」
「・・・こんなことでも、僕らの『絆』になるかな・・・・・・君が
いつか言ってた・・・・・・」
 レイは答えなかった。その代わり、精一杯の微笑を浮
かべてシンジを見つめる。瞳が震えていた----彼の瞳の
中に『永遠』を見いだしたことを、レイは何故かとても
誇らしく感じた。
 やがて二人はしっかりと抱き合ったまま眠りに落ちて
いった。月が白い光を、いつまでも投げかけていた。

 

 

 

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