made in
HEAVEN 

 ハ

 

 

『キ--------リ--------エ・・・エ----レ---------      
イ--ソ--------ン・・・・・・Ah-----------------』
 また、あの夢だ。夢なのは判っているんだけど、抜け
出せない。でも、何か違う・・・・・・何だろう?
『Ah---------・・・Ah--------・・・・・・』
『A------VE------・・・MA------RI-------A
---------・・・Ah-------・・・』
 アヴェ・マリア? 聖母マリア----間違いない。昔聞
いた、古い古い祈りの歌。今となっては誰ひとりとして
歌おうとはしない。けれど、僕の記憶のどこかにしまい
込まれていたんだ・・・!
 でも、何故? あっ、あれは----・・・。
『----!』
 いつもならここで、七色の光と『十字架』(クルス)
が見えるはず・・・・・・あれは、何?
『MA------RI-------A-------』
『・・・綾波!?』
 目も眩むような白い光の中、僕は見た。翼を広げて翔
び立とうとする『女神』(マリア)を----そしてその
『女神』の瞳は、綾波のそれだった。僕に向かってゆる
やかに両手を広げ、何かを語りかけている。
『待って、綾波!! 待って・・・・・・翼!僕に翼を----』
 身体が突然軽くなる。僕の背に、大きな白い翼があっ
た。何だかエヴァに搭乗(の)ってる感じに似ているよ
うな気がする。ミルク色の光の中を僕は駆ける・・・僕の
『女神』(マリア)を捕まえるために、僕は精一杯手を
伸ばした。
『Ah--------・・・MA----------RI---------A
---------・・・』
『あっ!?』
 翼が、折れた! 白い羽毛が舞い散る中を、僕は落ち
てゆく・・・・・・。ちぎれた翼に、血の色が見える。
『・・・綾波・・・』
 落ちながらふと気がつくと、綾波が僕を抱きしめてい
る。綾波の背にあったはずの翼もその半ばから折れ、血
を流していた。
『----碇君・・・』
 僕は綾波をきつく抱き寄せる。
『ずっと、いっしょだよ・・・・・・ずっと・・・!』
『Ah------・・・AVE・MARIA--------・・・』
 僕らは、どこまでも落ちていった・・・・・・。

 

 

 

 

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「・・・・・・ん・・・・・・。あ、あれ?」
 シンジが眼を覚ました時、部屋一杯に朝の光が差し込  
んでいた。隣では、レイが丸くなって眠っているーーあ
どけない寝顔はまるで別人のようだ。
「あ・・・・・・そっ、か・・・・・・。って、うわーっ!?」
 突然の大声に、レイも眼を覚ました。シンジを見上げ
て眼をこする。
「・・・ん・・・・・・おはよう、碇くん・・・・・・」
「あ、あ・・・・・・おはよう、綾波・・・・・・(汗)」
 こんな時、どんな顔をすればいいのだろう。彼の頭の
中をいろんな言葉が駆け巡り、最後には真っ白、になっ
てしまいーー何も、言えなかった。
「今日あたし、学校行かないの・・・・・本部に、行くから」
「・・・あ、そうなんだ・・・(汗)ところで、今、何時?」
 レイは冷蔵庫の上にかけられた時計を示した----午前
五時半。胸をなで下ろす。
「・・・綾波、僕は・・・・・・」
「何も、言わないで。あたしたち・・・『絆』を作ったんだ
から。それより、早く帰ったほうがいいわ」
「----うん(汗)」
「・・・シャワー、浴びていく?」
 レイとシンジはベッドから降り、シャワールームへと
歩いた。シャワーのコックをひねると、ざあっと熱い湯
が二人の上に降り注いだ。
「熱っ」
 白いタイルのシャワールームで、二人はまじまじと見
つめ合った。明るい光の中、隠すものもないままーー。
「綾波・・・」
「・・・碇くん」
 熱い湯にさらせれているというのに、レイの肌はひん
やりとしていた。抱き合って接吻けながら、昨夜のこと
を思い出してシンジは赤面してしまった。
「あ!」
「・・・・・・」
 レイの眼が、ふとシンジの下半身に走ったーー『青年
の主張』が存在を誇示している。
「・・・・・・(汗)」
 レイは何を思ったか、しゃがみ込んだ。そして、シン
ジの『それ』に手を添えて唇に含む。
「あっ・・・!? 綾波、だ、め・・・・・・!」
 とてつもない快感がシンジの背中を駆け昇った。足の
力が抜けてしまい、壁にもたれても立っているのがやっ
とーーぶるぶると身体中が震えだす。
「・・・だ、め、だって、ば・・・・・・あ、やな、み・・・・・・っ!」
「・・・・・・」
 レイは答える代わりに舌先で『彼』を激しく愛撫し始
めた。シンジのまぶたの裏に、赫い火花が弾ける。それ
が、限界だった。
「あああああ・・・・・・っ!!」
 身体を引きつらせてシンジは爆発したーー熱いものが
レイの唇の中にあふれ、外に流れ出す。けれど、そのほ
とんどはレイの喉の奥へと流れ込んでいった。
「あ!? ・・・ごめんっ、綾波!! 飲んじゃったの!?
吐いた方がいいんじゃーー」
 ごほっ、ごほっと身体を二つに折って激しく咳き込む
レイに、シンジはおろおろと声をかけた。しかしレイは
咳き込みながらも首を振る。
「大、丈夫・・・・・・だって・・・碇くんの、だもの・・・・・・」
 涙ぐみながらも、レイは飲んだものを吐き出そうとは
しなかった。シンジの中に、熱い思いがこみ上げた。
「・・・綾波・・・・・・」
 抱きしめる。レイの折れそうな華奢な身体が、その重
みを彼に預けてくる。柔らかなぬくもりが彼の腕の中で
息づいていた。生きている、生キテイルーー。
『・・・すきだよ・・・・・・君が、すきだ・・・・・・!!』
 シンジは、心で叫んだ。それは昨夜、丘の上で接吻け
た時につぶやいた言葉だった。そして今、確かな『EC
HO』がレイの心から返ってきたと、彼は感じた----。

 

 

 

 

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シンジはぎこちない笑顔を浮かべてから、鉄のドアに
手をかけた。開きながらも、もう一度振り返る。
「綾波・・・・・・本当に、こう----」
「・・・碇くん・・・あたし、間違ったことはしてないわ・・・・・」
 彼の言葉を、レイは途中で遮った。そして思い出した
ように頬を染めた。
「そうだといいんだけど・・・じゃ、明日」
 慌ててシンジは言い、もう一度レイの顔を見つめてか
ら外へ出た。
 ----ガチャン。ドアが閉ざされる。シンジはしばらく
その場に立ち尽くしていたが、ハッと我に返った。

「・・・ミサトさんとアスカに、何て言い訳しよう・・・・・」
 考えながら、彼は通路を走り出す。やがて通路を走っ
てゆく彼の後ろ姿を、レイは窓からじっと見つめていた
ーー身体の中心に残る鈍い疼痛が、夢ではないと彼女に
告げる。視線を下げると、ベッドのシーツの上に鮮やか
な血の色が見えた。
「・・・・・・」
 レイはゆっくりと身体を屈め、床に脱ぎ捨てられたブ
ラウスを拾い上げた。

 

 あたしは死ねる----碇司令が命令するなら、それが今
すぐであったとしても・・・。でも、碇くんを守るためなら
あたしはきっと、笑って死んでいける----できれば、そ
うありたい。碇くんはきっと、あたしのことを忘れずに
いてくれる・・・結ばれた『絆』を、憶えていてくれる。そ
れだけで、いい。他には何も要らない。碇くんの記憶を
抱いていられるのなら、死ぬのなんかちっとも怖くない
・・・・・・。

 

 僕らは天使じゃない----『神』の怒りをかい、地上に
堕ちたものの末裔だ。だから・・・自らの手で、自らの『福
音』を生み出さねばならなかったんだ。僕や綾波、アスカ
が支えている危なっかしい『福音』(エヴァ)は、果たし
て悪魔なのか僕らの天使なのか----。
 一つだけ言えることがある。それは、僕らがいなくな
れば多分『神』も存在できなくなるだろう、ということ
だ。信じる者の誰もいない『神』ほど空しい存在もない
と僕は思う。そして僕が信じているのは、僕の『女神』
(マリア)だけだ。僕だけの・・・・・・。

 

 

 もうこの時、哀しみは静かに始まっていたーー抱きし
めた『いのちの形』をゆっくりと確め直す時間は、彼ら
に残されてはいなかった・・・・・・そのことを、まだ、彼ら
は知る由もなかった。

 

           <TO BE CONTINUED・・・>





 

 

「シンジーっ!!夕べは一体どこにいたのっっ!?夕飯
放ったらかしてどこ行ってたのよっっ!!おかげであた
しがミサトに怒られたでしょーが! あんたって、ほん
っとにバカなんだから----っっ!!」
「・・・シーンちゃーん・・・・・・。あたしはあんたの保護者な
んだからね。あんたに何かあったら、あたしの責任に
なっちゃうでしょ。・・・・・・せめて、電話ぐらいしなさい。
そのために電話(ケータイ)渡してあるんだから・・・。
ま、無事帰って来たからいいよ-なもんだけど、バレた
らえらいことになるとこだったわ、全くっ」
 シンジが一晩中行方不明だったので、アスカとミサト
はようやく帰ってきた彼の首根っこをひっ捕まえると代
わるがわる文句や叱言を浴びせかけた。
「・・・・・・で?一体、どこにいたの?」
 二人からジト眼で睨みつけられ、シンジはしどろもど
ろになりながら、咄嗟に嘘をついた。
「あ、あの、ケンスケのテントにいたんだよ。相田ケ
ンスケ----いつかもあの辺でテント張ってるときに会った
んだけど、昨日も会ったんだ。そんで、つい・・・そのまんま
泊まっちゃったんだ」
「・・・ふーん・・・・・・。ま、いいわ。アスカ、学校行ったらウ
ラ取っといてね。んで、報告ちょうだい、いいわね?」
「・・・うん、判った」
『げ・・・』
 どっ、どうしよう・・・。シンジは必死で考えながら、学
校へ行く支度をはじめた----。


          <いんたーみっしょん×END>



 

 

 

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