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 何処からか、声がする。男の声のようであり、また、   
女の声のようでもある。話し声ではないbbb明確な
『言葉』(ロゴス)は聞き取れない。
『Ah------------------------……』
 違う。あれは祈りの声だ。何故か、そんな気がする。
『MA---------RI---------A--------……』
MA・RI・A----------まりあ。聖母マリア?
『Ah---------------Ah-------------……』
 声の調子が少し変わる。彼の『耳』はそれを捕え、
彼はその声に耳を澄ませた。
『キ-------リ-------エ--------……エ--レ---
--イ----ソ----ン--------Ah---------……』
 聞き覚えがある。でも何処で?……とても広くて、
暗いところ。足音が響くのが聞こえる。人の気配はない
----『そこ』にいたのは彼だけだ。そして声は、何処か
らともなく彼の上に降り注いでいる。
『?』
 記憶の中で彼は、何かを感じて視線を上げた。その先
には----
『----?』
七色の光、そして屹立する圧倒的な存在---------
その象徴は『十字架』(クルス)----神と呼ばれるもの。
『Ah----------……Ah-------------……』
 祈りの声は、その存在へ向けて放たれている。記憶の
中の声と、今彼が『聞いて』いる声が同調し、やがてぴ
たりと重なる----何かが彼の中でその声に応える。
『わぁぁぁぁぁぁぁ----------------っ……』
 ついに彼は自らの意識を手放し、昏い(くらい)闇の底
へと沈んで いったbb祈りの声は、まだ続いている。
『Ah----……MA----RI------A--------…』

 

 

 

 

 

「ねぇ、アスカ……『使徒』って何なんだろう?僕ら     
は彼等と戦ってるけど、使徒って、天使のことなんだろ
?だったら、僕らは『神の使い』ってやつに戦いを挑ん
でるんだよね……それって、」
「スト-----ップ!シンジ、あんたってバカ!?あたし
たちは生きていたい、使徒は私たちを滅ぼすために
やってくる、だったら戦うのは当然じゃない!?」
 もう何度目になるだろうか。シンジは問いかけを飲み
込んで、沈む太陽を眺めやった。
 第三新東京市、人類最後の砦----A.D.2015。
 かつて薔薇色の未来の象徴とされたこともあった年だ
が、現実はこうだ。セカンド・インパクトを手始めに様
々な破壊の嵐が荒れ狂い、人工はそれまでの半分にまで
激減----人類の愚かしさが招いた最悪の結果だった。
黙示録(バイブル)に曰く----人類は繁栄し、やがて自
らの限界を超えて『神』の領域に迫ろうとする。やがて
その結果は七つの大罪となって現れ、それを罰するため
に『神』は自らの使徒=天使を人の世に遣わす。使徒た
ちは『神』より命じられた通り、慢心する人々の上に鉄
槌を下すのだ。
「そう、自らの『傲慢』によって、人間は滅びていくん
だ……僕らがエヴァに搭乗(の)ることだって、一種反
逆になるんじゃないかなあ」
 シンジはつぶやいた。
「くっら----い!! あんたって、本っ当---に救いよ
うのないバカね。人類が滅びるってことは、あたしたち
みーんな死んじゃう、ってことなのよ!死ぬんならあん
た一人で死になさい。あたしたちまで巻き込まないで欲
しいわ!!」
 アスカはけたたましく捲し立てた。その勢いに飲まれ
たように、シンジはおずおずとした笑みを浮かべる。
「……エヴァ----EVANGELION…福音、人間に
より造られた存在……」
 それまで沈黙を守っていたレイが、おもむろにつぶや
いた。彼女には色々と判らないことがある----いつも遠
くを見つめている瞳、上質の磁器のように白い肌、生き
て動いていることが不思議になるような硬質の美貌の、
しかし同い年の少女。彼女を見ていると、シンジはいつ
も何故か不安になってくる。実の息子の自分よりも自分
の父に近い存在であり、エヴァのパイロットであり、彼
やアスカも知らない理由で学校を欠席したりする。
「綾波……?」
 NERV本部にほど近い丘の上----今日はシュミレー
ションによるシンクロ・テストの帰りだ。このところシ
ンジのシンクロ率が下がり気味なのを、アスカにつつか
れた。その理由を聞かれてシンジが返した応えというの
が、先刻の疑問だったのだ。
「…碇くん----迷ってる、ね」
それは問いかけではなく断言、だった。
「何を迷うの!?迷ってる暇なんて----」
「bbアスカ…ゴメン、先に戻っててくれないかな?
僕、忘れ物してきたみたいだ」
 アスカの言葉をシンジは遮った。
「…んもぉ、しょーがないんだからぁ!だいたいあん
たはbb」
アスカが怒鳴り散らすのを背中に、シンジはすたすた
と本部の方へ戻って行った。
「あたし、帰る」
レイは立ち上がり、アスカにくるりと背を向けて歩き
出した。
「もぉbb、どいつもこいつもbbbっっ!!」
アスカのやり場のない怒りが、風の中に谺した。

 

 

 

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