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往生訓

◆◆◆東京新聞1998年9月8日より連載◆◆◆

小谷 みどりライフデザイン研究所・副主任研究員

◆ 1 ◆     「ワイン葬」                                        '98.09.08掲載

最近、個性的な葬儀が増えている。Aさん(52)は先月、心不全で急死した。葬儀は遺(のこ)った妻の意向で音楽葬となり、お経の代わりにカラオケ好きだったAさんの十八番が流れた。パッチワークが趣味のBさん(75)は、自分の最期を「私の作品を飾った部屋で、ワイン片手にお別れ会をしてほしい」と考えている。
 ライフデザイン研究所の調査では、個性的な葬儀を好ましいと考える人は67%もいる。型にはまった葬儀に違和感を感じる人が増えている。

 住宅や車を買う時には、パンフレットをいくつも見比べ、実際に見たり、触ったりして、予算内で満足のゆくものを、時間をかけて選ぶ。しかし、葬儀だと死亡して数時間以内に決めてしまう。事前に複数の葬儀社から見積もりを取ったり、予算や内容を決めておくことなどまずない。何百万円もの衝動買いなんて、ほかにあるだろうか。

 AさんやBさんのような葬儀は、自分らしさの演出にお金や手間をかけるが、無駄を排除する。「最期まで自分らしく、個性的に」という考え方が増えてくれば、葬儀も車や住宅と同じく、じっくり選択・購入するようになるだろう。
 結婚式と並んで人生の二大イベントである葬儀。この世と、どのように別れを告げたいか、最期の舞台の構想を自分で練っておくことは、なかなか楽しいことである。


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◆ 2 ◆     「心付け」              '98.09.22掲載

 「葬儀って予想外の出費があるね」と、先日喪主を経験したJさん。漠然と考えていた葬儀費は、葬儀の施行料、飲食接待費、お経や戒名料といったところだが、実際はそれ以外に数十万円もかかったというのだ。
 まず心付け。Jさんは葬儀社の指示で火葬場の職員や配ぜん係、霊きゅう車やハイヤーの運転手、通夜ぶるまいの接待係などに一人5,000円程度の心付けを渡した。これだけでも数万円。心付け禁止の公営火葬場もあるが、もし渡さなければ先方から講求されるほど、半ば強制的な慣習になっているのが現実である。
 出費はそれだけではなかった。会葬者の車を近所に置かせてもらったり、手伝いをしてもらったりしたので、葬儀が終わってからお礼に歩いた。遠方から来た親族の宿泊費も必要だったため、結局、合わせて50万円をはるかに超えてしまったという。

 「葬儀の料金システムは分かりにくい」との声は多い。最も大きな割合を占める葬儀施行料は通常、祭壇のランクによって決まる。祭壇一段なら締めて40万円、三段なら120万円といった具合。写真や、位まい、棺おけなどは、撞行料に含まれている。

 東京都の調査では、施行料は平均約120万円。喪主は緊急事態で混乱しているから、「祭壇は並で」「棺おけはキリの最高級」などと、中身を細かく考える余裕などない。葬儀社に「一切お任せ」で、支払いも言われるままという遺族が多い。日頃から情報を仕入れて整理しておきたい。


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◆ 3 ◆     「人生いろいろ」              '98.09.29掲載

 元SKDトツブスターの水の江滝子さんは五年前に生前葬をした。「生きている問にお世話になった人にお礼を言いたかったから」だそうだ。三周忌も済ませたからユーモアのセンスがうかがえる。
 一方、女優の沢村貞子さんの葬儀は、ごく親しい人だけでの密葬だった。故人の遺志で告別式は行われなかった。
 音楽葬や無宗教葬など内容の多様化はもちろんだが、沢村さんのような密葬が、今後ますます増えていくだろう。
 その理由の一つに長寿化がある。喪主が退職後の高齢者であることも珍しくない。故人が80、90歳なら同世代の友人は少ないし、喪主が社会の第一線から引退していれば、喪主に関係する義理の会葬者も少なくなり、必然的に葬儀はこぢんまりする。

 「葬儀」は一般的に、葬儀式と告別式の両方を指すことが多い。葬儀式とは僧りょなどによる「死者の弔いの儀式」で、告別式は「社会的に死を確認する儀式」のこと。つまり、読経をせず、音楽などで故人をしのぶ無宗教葬だと、葬儀式がなく、告別式だけを行うことになる。逆に密葬は葬儀式だけを行っているわけだ。結局、人生模様が人の数だけあるように、この世の最期の儀式も人の数だけパターンがあってよいのではないか。むしろ、そうあるべきなのだ。

 葬儀は人生最期のイベント。人生の集大成が「どうでもいい」とか「安けりゃいい」という言葉でくくれる種類のものであったなら、実に悲しいことではないか。


つづき





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