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往生訓

◆◆◆東京新聞1998年9月8日より連載◆◆◆

小谷 みどりライフデザイン研究所・副主任研究員

◆ 4 ◆     「市民葬」                                        '98.10.06掲載

 「葬儀は派手にせず、市民葬がいいなあ。」
千葉県松戸市のAさん(68)は死の一週間前、妻にそう伝えた。
Aさんが息を引き取ると、妻は夫の遺志通り、市民葬を依頼することにした。
しかし、指定葬儀社にあたると、「他の葬儀が入っていて、できない」と電話口で断られた、という。

 最近、葬儀費用を抑えたいと考える人が多くなり、廉価な市民葬はもってこいだ。
市町村が価格や内容を決め、指定葬儀社に施行を委託する制度で、市民であればだれでも利用できる。
市町村によって仕組みは若干異なったり、この制度がない自治体もあるが、葬儀施行粋は概ね3、40万円程度。
市民課などに聞けば詳しいことが分かる。

 しかし実際は、Aさんのように依頼を指定業者に断られるケースは少なくない。
自治体から補助があるわけでもなく、安い値段で葬儀を請け負わねばならないため、葬儀社にとって市民葬はボランティアに近い。
信用を得るため「市民葬指定店」の肩書がほしくて、指定業者になる葬儀社もあるほどだ。
 Aさんの妻は困ったあげく、知り合いの坊さんに相談した。
結局、紹介ざれた豊島区内の葬儀社が市民葬と同料金で葬儀をやってくれ、「夫の遺志を貫け、ほっとした」と妻は一安心。

 葬儀業には何の許認可もないため、だれもが新規参入できる。知名度や会社の規模で葬儀社を一概には評価はできない。
普段から相談に乗ってくれる葬儀社を見つけておくことが大切だろう。


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◆ 5 ◆     「ホテル火葬場」              '98.10.13掲載

「うわあー、きれい。」Fさん(48)はしゅうとの葬儀で火葬場に着くなり、思わず声をあげたくなった。
落ち着いた色の外壁に広い車寄せ。室内にはシャンデリアに美術品、日本庭園まである。
一瞬、ここが火葬場であることを忘れてしまうほどだった。

 高齢社会が進み、死者数は年々、うな上りに増加している。
厚生省の推計では、30年後の年間死亡者数は約175万人。現在の2倍近くになる。
 このままだと、火葬場は大幅に不足する。すでに都内では、火葬に数日間待つことは珍しくない。
火葬場の新設が急がれるのだが、火葬場はごみ処理場と同じで、迷惑施設とされ、住民の反対を受けることが多い。

 最近では技術が進み、火葬は無煙・無臭が当たり前。煙突さえ出ていない火葬場も増えた。
どこから見てもホテルのようで、「火葬場らしからぬ外見」が反対住民の説得策の一つなのだ。

 東京区部には民営火葬場が六カ所、公営火葬場は一カ所ある。民営の火葬料は「最上等」クラスで4万8500円。
「最上等」「特別室」「特別賓窒」と三ランクの火葬炉があり、特別賓室になると16万円以上する。

 片や、江戸川区にある都営の瑞江葬儀所はわずか1600円。
民営火葬場が台頭しているのは沖縄と東京ぐらいだが、官民の価格差にあらためて驚かされる。
Fさんは遺骨を拾うとき、火葬場の職員に「立派なご遺骨でざいます」とぽめられ、「火葬場もずいぷん変わったもんだ」としみじみ思った。


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◆ 6 ◆     「お香典と香典返し」              '98.10.20掲載

 お香典をいくら包もうか、悩んだことのある人は多いはず。
東京都の調査では、仕事関係のお香典は約8千円、近所の人だと7千円が平均という。

 最近では会葬者が200人もいる葬儀は減ったが、200人として、お香典の総額は約150万円。
葬儀費用の平均が250万円程度なので、遺族の持ち出しは100万円程度という計算になる。
会葬者が相当多くないと、お香典で葬儀費用を賄うことはできない。

 香典返しは通常、葬儀後に遺族が会葬者にする。
葬儀当日に香典返しをする習慣は主に地方に多いが、最近では、首都圏でも当日返しが行われるようになっている。

 香典の額に合わせて品物を発注する遺族の手間を省く利点もあるが、デパートなどに顧客を取られまいとする葬儀社の思惑もこの背景にある。

 シーツ、お茶、砂糖やせっけん、陶器や漆器などが香典返しの定番商品だったが、近ごろ変わってきた。
 頂いた側がカタログの中から好きな商品を発注する「カタログ・ギフト」が香典返しに利用されている。
結婚式の引き出物や中元・歳暮で定着した方式だが、シーツの処分を考えると、頂く方は、ありがたい香典返しだ。

「番典返しの習慣は改めるべき」と考える人も多い。
遺族が香典の一部を社会福祉団体などに寄付する場合、香典返しをしないと明記した会葬礼状を配ることもある。
そうは言っても会社関係など義理の会葬者には香典返しをせざるをえないのが現状だ。


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