ドルクス・パラレリピペドゥスの材採集メモ

- Some features of Dorcus parallelipipedus -

[パラレリ]

えいもん




パラレリはコクワガタである

くわ馬鹿前々号拙稿「パリでパラレリ」に書いたとおり、 ドルクス・パラレリピペドゥス(通称パラレリ)は、ここフランスにおいて、本州における コクワガタのように、ごく普通の種のようである。実は、このことは、tsuu3@田中氏が フランス出張での経験を通じて既に喝破しておられる(くわ馬鹿2002年夏号「フランス・ ブルターニュのパラレリピペドゥスオオクワガタ」参照)ところであり、 冒頭のフレーズは明らかに二番煎じであった。上記拙稿においてtsuu3@田中氏の先行記事に言及し 忘れていたことを、まずはお詫びしたい。


材にうまく当たれば、「タコ採れ」となる


それでも、コクワガタとの違いはある

しかし、パラレリはコクワガタと全く同じかというと、当然まがら異なるところもありそうだ。 コクワガタは夜行性のクワガタであるが、昼間でも日陰の樹液に付いているところを 見かけることは、けっして稀ではないであろう。一方のパラレリは、野外での観察を重ねるほど、コクワガタよりも 夜行性が強いように思われる。ブローニュの森での自分の経験では、パラレリが樹上で見られるのは、例外なく 日没後の相当暗くなってきた頃からのみである。もっともこれは、都市部近辺のため、敵の多い環境であることも 一因かもしれない。自分は現在飼育を全く行っていないが、飼育下においては、どうなのであろうか。


樹上に姿を見せるのは、必ず日没後


材採集においては、違いは見られるだろうか

幼虫の成育条件については、パラレリとコクワガタの間に違いは見られるであろうか。 材割りにてパラレリ幼虫に出くわすと、幼虫の大きさや姿かたち、そして雰囲気は、 本当にコクワガタのそれと似ている。頭部が黄色っぽいところもそっくりと言える。 ところが、経験をいくらか重ねてみると、コクワとは違う面もいろいろと感じるように なってくる。そこで、これまでの自分の観察結果を、あくまでもコクワガタとの違いを 念頭に置きながら、以下に列記してみたい。


幼虫の雰囲気は…



コクワガタにそっくりである


(観察1)パラレリ幼虫は、湿気の多い材を好む。乾燥気味の材で見つかることは稀である。

パリの気候は、日本ほど湿度が高くない。したがって、森の中といえども、地上に放置されている材は、 多くの場合、乾燥気味である。それでも、キノコ菌により白腐れて、いわゆる「サクサク」と割ることができ、 コクワであればいかにも食い入っていそうな材もあるのだが、そのような材には、まずパラレリを見出すことは できない。パラレリ幼虫が入っている材(注)は、切り株や地中に半ば埋もれている材などで、ある程度の湿度を保っている材で ある。日本での感覚で言えば、ノコギリクワガタやヒラタクワガタの幼虫が食い入っているくらいの湿り気の材、 というところであろうか。したがって、乾燥した気候のブローニュの森で、パラレリ材を探すのは、実は案外 容易なことではないことが、経験を重ねるほどにわかってきた。

(注)パラレリが樹液に付くカシワの木(フランス語ではchene、英語では一般的にoakと呼ばれる)は、 フランス全土で最も普通に見られる広葉樹であり、パラレリ幼虫もこの木が朽ちた材を好むようである。


乾燥気味の材には、まずパラレリは見られない


(観察2)パラレリ幼虫は、太い材でよく見つかり、細い材で見つかることは稀である。

このことは、材の湿度と関係が深いのかもしれない。すなわち、材が太ければ、地上に放置された材でも、 その内部は湿度をある程度保つことが可能であるからだ。しかし、地中に埋もれていれば、細い材でも 湿度を保つことはできると思うのだが、これまでの観察によれば、パラレリが見つかるのは、ある程度 の太さを持った材であることが多く、そこが、細い材に入っていることも少なくないコクワとの違いを実感させる。 これは、もしかしたら下に掲げた点(観察3)とも関係しているのかもしれない。


太めのカシワ材で見られたパラレリの食痕


(観察3)パラレリ幼虫は、体のわりに食痕が長い。

パラレリ材に当たると、食痕を見つけてから、その食痕の主である幼虫(または成虫)に辿り着くまでに時間が かかることが多い。すなわち、パラレリ幼虫は、体の大きさ(中程度のコクワ幼虫ほどの大きさ)のわりに、 食痕が長いのである。これは、おそらく、パリが寒冷な気候であることから、幼虫が成虫に育つまでに相当の 時間がかかるからではないだろうか。材の条件にもよるであろうが、羽化までに少なくとも2年はかかっているように思える。


食痕がやたらと長い


パラレリ飼育のための参考

以上に記した観察結果は、パラレリの飼育の上で有用であろうか。実は、元来クワガタ飼育が下手な自分であるが、 特にパラレリについては、産卵数を多く得ることができなかった覚えがある。今は飼育用具もないため、クワガタ飼育を 一切行っていないが、もしもパラレリをブリードするとすれば、上記観察結果に基づいて、

1.産卵木は太目のものを選ぶ
2.産卵木の湿度をやや高めにし、半分以上をマットに埋め込む
3.幼虫が得られたら、体のサイズに比して大きめのビンまたは材で飼育する
4.高温をできるだけ避ける

という諸点に気を付けることとなろう。もちろん、所詮「パラレリはコクワ」であり、飼育上手な人の手にかかれば、 それほど気を遣わなくてもよく産んでよく育つ気がしないでもないが。

なお、個人的には、パラレリ♂は25mmを超えて30mmに近づくほど俄然格好よくなる気がする。ただし、当地では、30mmクラスの パラレリ♂は非常に稀のようで、自分は未だに採集できていない。まして、A.CHIBA氏が育て上げられた33mm (くわ馬鹿2004年上半期号 「ならべて みましたドルクス2種類」参照)は、とても採集できる気がしない。パラレリのブリードにいそしんでおられる方は、 ♂のサイズとしては是非とも30mmを目標とされると良いものと思われる。


蛹室にいた♀新成虫



材の中にペアで潜んでいることも多い



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