特定保険指導物語②
カイ・シデンはいつもの10分間の講義を終了し、パソコンの端末の前に座った。
特定健診で動機付け支援の対象になった、東都電気の社員家族に生活習慣改善の必要性を10分間説明したのだった。
残り70分はパソコンの端末の前に座り、画面が確認ボタンを押すよう要求したときに、Yesボタンを押すのが彼の仕事だった。
特定保険指導の当初の予定では、対象者とともに行動目標及び行動計画を作成することになっていて、これは保健師もしくは管理栄養士が担当するはずであった。
しかし、保健師・管理栄養士を確保できないために特定保険指導を請け負う施設が少なかった。
このため、「対象者とともに行動目標及び行動計画を作成する」という部分は自動化してもよいことになり、受診者はパソコンが質問してくる生活習慣について答え、パソコンが示す改善案に同意すれば指導が終わる事に規約が緩和された。
カイ・シデンの残り70分の仕事は、パソコンが8人それぞれにあうように作成した生活習慣の改善案に医者の資格で同意を与えることだったのだ。
かっては東都電気病院の泌尿器科部長だったカイ・シデンは、東都電気の開発した3次元表示装置にも関係したことがあった。
東都電気病院で定年を迎えたとき、ランバ・ラルから特定保健指導施設への再就職を要請され、引き受けたのだった。
当時ランバ・ラルは特定保健指導をアウトソーシングしないで東都電気自身ができないかの検討をする仕事を任されていた。
ランバ・ラルの提案を快く引き受けたときは、保健師・管理栄養士たちとともに働く職場だと思っていたが、今の施設の職員は彼以外は事務員2人だけだった。
彼の余生は、8時30分、10時半、13時、15時から始まる、8人に対する80分の指導を行うことだったのだ。
その指導も、いつも同じ10分の講義と、あとは8人の受診者がコンピューターソフトとの対話で立てた計画に電子サインをすることだった。
定年退職した医者一人で、1日32人に指導を行えば、かなりの黒字になるはずだったが、行動目標・行動計画作成ソフトの使用料を支払うとほとんど黒字は出ない仕組みとなっていた。
ソフト使用料を受け取っているのは、東都電気から独立したランバ・ラルが代表を勤める(株)メタボ対策企画なのだった。
そして、(株)メタボ対策企画の影には、神奈川市医師会健診事業担当理事のシャーがいるとうわさされていた。
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