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ワンポイント為替市場 (61-70)
「二十一世紀に生き残る会」HPに寄稿の同名コラムを転載)




                      第70回 

                 ハリケーン・選挙・選挙


                      
2005年09月04日
◆-----------------------------------------------------------

1.市場の動向:(9月2日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   109.68円(0.47円 ドル安円高)   

  ・ユーロ/円  137.51円(2.21円 ユーロ高円安)   

  ・ユーロ/ドル 1.2533ドル(0.0250ドル ユーロ高ドル安)    


2.先週の動き

ハリケーン「カトリーナ」が市場の様相を変えてしまいました。特に今回の被害によって
米国の利上げが一服するとの観測が高まったため、ドルが主にユーロに対して下落しまし
た。2日に発表された米国の8月雇用統計では、失業率が4.9%と5年ぶりの低水準でした。
しかし目の前のハリケーンが9月の雇用を大幅に減少させるのは確実、との見方が1ヶ月前
の数字を舞台裏に追いやってしまいました。

3.今週のポイント

連日報じられている通り、ハリケーンの被害は予想をはるかに上回って拡大し、ハバード
米国国家経済会議(NEC)委員長は「100万人の労働者が職場を離れており、米経済成長
は最大0.5ポイント押し下げられる」、またスノー財務長官も長期的には重大な影響はな
いとしながら「少なくとも1四半期は経済が減速」との見方を明らかにしました。米国の
株式市場は下落、また債券市場では短期金利の見通しに敏感な2年債の価格が上昇(金利
は低下)し、当面の景気に対する弱気を反映しています。

これは当然ドル売り要因ですが、ユーロが対ドルで大きく上昇したのに比べ、円の上昇
は限定的です。ハリケーンも大きく影響した原油価格の上昇により、輸入原油への依存
度の高い日本経済は相対的に不利になるとの「印象」(昔と違ってそれほどではない、
という調査結果や研究がたくさんあるのはご存知の通りです)はその一因でしょう。ま
た31日に発表された6月の鉱工業生産指数が、前月比1.1%低下と期待を裏切ったこと、
そして今週末の11日に迫った総選挙への不透明感も、円にはあまり手を出したくない
という姿勢につながったようです。

日本にとって、原油価格からも目は離せませんが、やはり今週は選挙です。どう転ぶか
結果を見てのお楽しみ、とは言え心の準備をしておきましょう。つまり、今のところ予
想の中で多数を占めるのは
 「自民+公明で過半数を維持し、小泉首相が続投する」
というシナリオだということが、結果が出た時の出発点になります。市場関係者は基本
的に小泉続投は日本経済と円にとってプラス材料と解釈しています。特に海外ではその
見方がさらに強くなっています。金融機関の体質強化に見られる成果や、ようやく回復
の兆しが見えてきた景気サイクルが継続するとの期待がその理由です。

しかし自公による過半数による続投だけでは、そこまで織り込んでいる相場をさらに円
高に動かすことはできません。円を押し上げるには
 「自民の単独過半数による小泉続投」
までの結果が必要でしょう。誰もが注目する大きなイベントであるほど、予想から乖離
した結果でないと、いざ判明した時に市場を動かす材料にはなりません。その他には、
自公で過半数に満たず小泉首相は公約通り退陣するが何らかの連合によって自民党が政
権に止まるシナリオ、もう一つは民主党政権誕生というシナリオがあります。これらは
いずれも、少なくとも短期的には円売りにつながるでしょう。

自分の国の選挙と、過去に例のないようなハリケーンに注目が低くなっていますが、ド
イツでも日本の1週間後に総選挙が行なわれます。当初は与党のSPD(社会民主党)が
敗北、代わってCDU/CSU(キリスト教民主・社会同盟)が政権を獲得してCDUのメル
ケル党首がドイツ史上初の女性首相となる、という予想が優勢でした。メルケル党首が
掲げる労使関係の改革と財政健全化は、勝利の見通しに伴いドイツ株式市場を押し上げ
る材料になりました。

しかしここにきて世論調査による支持率は接戦になってきました。大陸の西ヨーロッパ
諸国では連立政権があたりまえですが、市場でユーロにとって最悪のシナリオと見られ
ているCDUとSPDの「大連立」も否定できない情勢になっています。この連立ではCDU
の財政改革路線は大きく後退します。

とは言え、この選挙に関する市場のコンセンサスは今のところSPD政権の退陣です。し
たがって予想通りの新政権誕生では、このところのユーロ上昇、それもユーロ自身のプ
ラス材料ではなくハリケーンの悪影響というアメリカのマイナス材料による上昇を、さ
らに後押しする結果にはなりにくいでしょう。逆に大連立という結果が出た場合のユー
ロへの悪影響は、市場への織り込み度合いが小さいこともあって、かなり正直なものに
なると予想されます。

このため、先週のユーロ上昇は長い目で見ると決して確信できる動きではないと考えて
います。ただし、同じように選挙を控え、コンセンサスの予想が基本的にプラスである
円とユーロの両通貨が、このところのドルの悪材料に対してはっきり異なる動きをして
います。これはやはり「ドルがだめならとりあえずユーロ」という、ドルの代替通貨と
してのユーロの成長を反映しているのでしょう。

「為替相場と付き合う方法」へ


                      第69回 

                 日本国債にも注目しよう


                      
2005年08月21日
◆-----------------------------------------------------------

1.市場の動向:(8月19日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   110.41円(0.76円 ドル高円安)   

  ・ユーロ/円  134.26円(2.51円 ユーロ安円高)   

  ・ユーロ/ドル 1.2157ドル(0.0311ドル ユーロ安ドル高)    


2.先週の動き

上のレートの動きからおわかりのように、ユーロに大きな揺り戻しが入りました。7月に
ユーロが3月以来の下げ相場(特に対ドル)から反転したのは、低迷を続けていたユーロ
圏の経済指標に改善の兆しが見え、欧州中銀(ECB)による利下げ観測が後退したのがき
っかけでした。その時点で米欧の短期金利差は政策金利(米国はFF=フェデラルファンド
金利、欧州はECB短期買いオペ最低金利)で見ると1.25%でした。

米国は長く続いた金融引き締め局面がいつ終わるかが注目されているため、米欧金利差の
拡大もいよいよ終了、という期待の高まりがユーロ高の背景でした。しかし米国では8月
9日にFF金利の誘導目標が0.25%引き上げられ、それに前後するグリーンスパンFRB議長
の発言も、注意深い金融引き締めの継続を示唆しました。一方ユーロの金利は下げ止まっ
たとはいえ今年中に上昇に向かう可能性は低く、この結果金利差は依然として(少なくと
も年内は)拡大傾向が継続するという見通しがドルを下支えしました。最近発表された米
国ニューヨーク州及びフィラデルフィア州の景況感指数が原油高の中でいずれも予想を上
回る伸びを見せ、米国の緩和解除はまだ先との見方を裏付けたことにより、ユーロはドル
に対してさらに下落しました。

3.今週のポイント

ところで金利と言えばこの短期金利とともに長期金利にも注目しなければなりませんが、
一般の方は特に日本の株式市場の動きには敏感でも、長期金利つまり債券市場への注目
度が低い傾向があります。これは市場全体の重要な部分を反映していますので、比較的
地味でなじみのない分野かも知れませんが、チェックを忘れることはできません。

債券市場が景気やインフレなどマクロ経済の動向を敏感に反映することはいうまでもあ
りません。しかし一般に為替市場で株式の方が注目されやすいのは、国際投資の方法と
して対外株式投資は為替のヘッジなし、債券投資はヘッジ付きであることが多いためで
す。債券投資が収益を上げるためには価格の上昇=金利低下が必要であり、これは同時
に通貨下落要因になるため、ヘッジ付き外債投資は合理的な意味を持ちます。一方株価
はマクロ要因だけでなく企業ごとの個別要因で変動するため、むしろ為替リスクも取る
ことによってリスクの分散を行なうという考え方が成り立ちます。

しかし実は、日本の債券市場、特に国債の動きは、非常にわかりやすい為替の判断材料
を与えてくれるのです。純粋なマクロ指標として絶好の対象であるという意味です。

まず、少なくとも今の金利水準での日本国債の相場は、かなり純粋に経済動向だけを反
映しています。混ざり物が少ないのです。これが米国債の場合、保有者は日銀その他ア
ジアの中銀を代表とする海外の投資家の比重が高く、そうした海外マネーが米国の経常
赤字をファイナンスするという構造になっています。したがって、毎月中旬に前後して
発表される米国の貿易収支と対外対内証券投資の数字を比べて、海外マネーの流入額が
不足(十分)だと判断されるとドルが売られる(買われる)、という動きが毎月繰り返
されています。

つまり、米国債市場の日々の動きを追っていても、そうした過去の(貿易も投資も発表
は2ヵ月後)数字の発表によって為替が少なくとも一時的に違う方向に動いてしまいま
す。また、このような理由でドルが下落すると、「米国からのマネー流出加速」という
発想から債券(株式もですが)の売り要因となります。つまり為替の動きが債券を動か
しまうという影響が大きいのでは、債券を為替の指標にしにくくなってしまいます。こ
れはヘッジの有無とは無関係な動きです。

日本国債にはいくつかこれと違う要素があります。まず海外投資家の比率が発行額のわ
ずか4%と、非常に低いことです。また日本の経常収支は大幅な黒字であるため、海外
投資家の債券投資動向は、米国ほど為替対して深刻な意味を持ちません。このため、景
気やインフレの見通しを背景とした国内投資家の動向が、素直に市場に表れています。
特に10年ものが1.5%にやっと達してきたという今の状況は、海外投資家にとって魅力
が乏しいため、純粋なローカル市場としての性格が強くなっています。

マクロ指標として非常に優れているもう一つの点は、日々動く水準を追えるという点で
す。一般の経済指標は通常月次ベースでしか発表されず、その値が予想と大きくぶれる
ことは珍しくありません。さらに前月値の修正もあります。例えば鉱工業生産で前回の
マイナス値をプラスに修正するということは何度もありましたが、昨日1.5%だった債券
金利が何もないのに今日は1%などということは起こり得ません。非常に安定性の高いマ
クロ指標ということになります。

どうですか? もちろん債券だけ見ていれば為替の方向がわかるわけではありませんが、
あくまでマクロ経済を判断する指標として、とても優れたものであることはおわかりいた
だけたと思います。ぜひ明日から日経のマーケット面を読む時は、債券にも注目してみて
ください。

「為替相場と付き合う方法」へ


                      第68回 

                 人民元の「改革」とは何か


                      
2005年08月07日
◆-----------------------------------------------------------

1.市場の動向:(8月5日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   111.98円(0.56円 ドル安円高)   

  ・ユーロ/円  138.28円(1.85円 ユーロ高円安)   

  ・ユーロ/ドル 1.2353ドル(0.0229ドル ユーロ高ドル安)    


2.先週の動き

このところの市場の特徴を一言で表すとしたら、あなたなら何と言いますか?
私は「カネ余り」と答えます。
世界中の資金が買えるものは何でも買っていると言っても過言ではありません。世界の株
式市場は堅調です。連続テロ事件のあったロンドン市場も、あっという間にそれまでの上
昇相場に戻りました。原油価格は1バレル=62ドル台に上昇、穀物や非鉄金属なども強い
相場が続いています。為替市場でもドルは好調な景気指標と金融引き締め継続を背景に、
最近の対ユーロ以外では堅調。ユーロは景気回復の兆しから利下げ予想が後退し、俄然勢
いを強めてきました。円は111円台と水準的にはそれほど買われていませんが、日経平均
が一時1万2000円に乗せたように、国内外から投資対象として注目されてきています。

債券市場だけは、米国を中心に長期金利が上昇し、価格はこのところ低下気味です。しか
しここでも、インフレは当面抑制された状態が続くという見方が支配的であるため、金利
がある程度上昇した局面では、債券にも買いが入りやすくなっています。先日米国が発表
した、30年もの国債の発行再開も、債券市場を活気づけました。

3.今週のポイント

各市場がこのように活況な中で先月行われた人民元の切上げは、市場の混乱が最小限だっ
たという意味で、非常にいいタイミングをとらえていました。為替市場では直後に円(と
アジア通貨)だけが買われ、心配されたドルの他の通貨に対する急落もありませんでした。
当日のニューヨーク市場では、ドル/円が2円急落したのに対し、ユーロ/ドルの引値は前
日とほとんど変わらない水準でした。

ここで、元「切上げ」と言われる内容を、中国人民銀行の公告で確認してみます。

 1.人民元の対米ドルでの固定相場制を止め、より柔軟な為替相場制度に改善する。
 2.為替市場の引け後、銀行間外国為替市場における米ドルなどの対人民元レートの終
   値を発表し、これを翌営業日の売買の中間レート(「仲値」)とする。
 3.7月21日午後7時(日本時間8時)に1米ドル=8.11元にレートを調整する。
 4.現段階では毎日の米ドル対元のレートは仲値の上下0.3%の幅の中で変動させ、米
   ドル以外の通貨の対元レートは、その通貨の仲値の上下一定幅の中で変動させる。

これに対し「理論的には毎日0.3%元が上昇することがあり得るので、その場合何ヵ月か
後には...」といった(まさか本気ではないでしょうが、可能性だけ言っておくならタダと
いうことだと思います)というようなコメントも出てはいます。しかしそれよりも、上の
4つの項目のあとの、最後のパラグラフに注目する必要があります。そこには、
「中国人民銀行は...通貨バスケット制の為替レートの変動を参考にして、人民元の為替レ
ートを管理、調整し
、人民元の為替レートの正常な変動を維持し...」

と書かれています。

つまり中国は今後も為替レートを管理する、と正式に宣言しています。これは今後も市場
介入を続けるということです。介入の基準となる水準が、当面2%程度元高になっただけ
です。また0.3%という変動幅は、今回の切上げ以前にも認められていながら、実際には
介入によって有名無実だったものと同じです。「毎日0.3%上昇したら」というのがいか
に理論的な過程とはいえ現実性のない話だということがわかります。

もう一つは、その前の「通貨バスケット制」です。これは一般に「複数の主要な貿易相手
国の通貨を一定の割合で加重平均したものに対して、自国通貨を連動させる」というよう
にに説明されますが、具体的なイメージを持てる方は少ないと思います。そこで数字を使
って例を示してみます。

今回の人民元の基準レートは1ドル=8.11元です。話を単純にするために、元が参考にす
る通貨バスケットの構成が、ドルと円それぞれ50%と仮定します。8.11と決めた時点で
のドル/円を110円だったとします。
まず1ドル=8.11元を逆数表示すると、1元=0.1233ドルです。ドルと円の比重が等し
いので、1元の価値は
 「0.06165(=0.1233÷2)ドル」+「0.06165(=0.1233÷2)ドル相当の円」
となります。ドル/円が110円ですから、円部分は 0.06165×110で、6.7815円です。
つまり、「1元=0.06165ドル+6.7815円」を当初の基準値として定めたわけです。

仮に初日の取引で、元がドルに対して変動幅ぎりぎりの0.3%上昇したとすると、元の対
ドルレートは 0.06165×1.003=0.06183 です。一方同じ日にドル/円が112円(円が
約1.8%対ドルで下落)になったとすると、元レートの構成要素としての)6.7815円は
0.60549ドル(=6.7815÷112)です。新しい実勢に基づくバスケットの価値は
 0.06183ドル(ドル部分)+0.60549ドル(円部分)= 0.12242ドル
(逆数表示すると、1ドル= 8.1686元)
つまり対ドルで 元が 0.3%上昇しても、同時に円が対ドルでそれ以上下落すれば、通貨
バスケットに連動する元の価値は下落することになります。

ところでこの場合、元はバスケットに対して約0.7%下落しています。この事態を当局は
どうするのでしょうか。日中に(この場合は元の買い、またはドル/円で円の買い)介入
してレートを「管理」するのでしょうか。それとも日中の動きはある程度放置して、翌日
の仲値を前日比+0.3%に設定するのかもしれません。それは公表されていません。

少し数字が並んでわかりにくいかも知れませんが、たし算・かけ算・わり算だけですの
で、ぜひもう一度追ってみてください。そしてこの仕組みが頭に入ったら、通貨バスケ
ットが参考にする通貨の種類も比率も公表されていないことを思い出してください。

要するに、元が上昇したか、下落したかという中国当局の日々の判断は、とてもわかり
にくいのです。このわかりにくさでがっちりと自分を守り、さらに介入の余地まで残し
た上で、形の上は一歩前進したこと、それが今回の元の改革です。それを理解するだけ
でも、今後の時間軸の理解の大きな助けになると思います。

「為替相場と付き合う方法」へ

                      第67回 

                 グリーンスパン最後の証言


                      
2005年07月017日
◆-----------------------------------------------------------

1.市場の動向:(7月15日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   112.18円(0.03円 ドル安円高)   

  ・ユーロ/円  135.10円(0.89円 ユーロ高円安)   

  ・ユーロ/ドル 1.2040ドル(0.0075ドル ユーロ高ドル安)    


2.先週の動き

先週はドルに強気の基調は変わらなかったものの、ユーロが1.19ドル台への下落からいっ
たん戻しを見せた週でした。英国での同時テロという大事件はありましたが、その後世界
の主要市場の株価は軒並み上昇し、少なくとも表向き市場は落ち着きを取り戻しています。
もっとも、こうしたテロ事件が起こると、当日の株価は下落しても早ければ翌日、遅くと
も1週間以内に株価は事件前の水準を上回るのが過去の傾向でした。今回も同じパターンが
繰り返されたことになります。

先週発表された経済指標は、米国がほぼそれまでの市場の認識を確認する堅調さを見せ、
日本はこれも認識通りのまだら模様、これに対しユーロ圏は若干強く早期利下げ期待が後
退する結果となりました。具体的には米国の小売売上げと鉱工業生産(いずれも6月)は
市場の予想を上回る上昇を見せました。日本は鉱工業生産(5月)は弱かったものの、日
銀は7月の金融経済月報で景気判断を上方修正しました。ユーロ圏ではドイツ、フランス
の5月の輸出額が増加し、ユーロ下落の影響がようやく出てきたとの期待を抱かせました。

3.今週のポイント

さて今週は何と言っても、20日と22日に予定されているグリーンスパンFRB議長の議会
証言に注目が集まっています。退任が決定している議長にとって、最後の議会証言です。
しかし実際のところ、何か変わったことを言うのかな、というのが正直なところです。6
月30日のFOMC後の声明では、景気拡大と雇用情勢の落ち着きに自信を示し、その後の
景気指標も上の通り好調。CPI(消費者物価)も原油価格高騰をよそに低位安定となれば、
景気判断に変化はないでしょう。

1つ挙げるとすれば、以前議長自身が「不可解」と表現した長期金利の低水準に関する点、
そしてそれを背景とした住宅市場の活況を「バブル」と認識するかどうかだと思います。
ただし住宅事情はニューヨークやロスアンゼルスのような大都市部と、内陸の農村地帯と
では雲泥の差があります。このため米国全体を視野に入れた明確な判断が示される可能性
は低いと思われます。

そうなると、何かサプライズを探すとすれば為替、という可能性はあります。むしろこれ
に言及すること自体が本当のサプライズかもしれません。おそらく証言の本文ではほとん
ど為替に言及せず、議員の質問に答える形での発言になると思います。その場合、議員が
今尋ねそうな切り口といえば、人民元ということになります。これに対して議長が以前の
発言のように「元切上げ自体は米国の貿易赤字の解消につながらない」と答えた場合、市
場の反応はどうでしょうか。

最も新しい数字では、13日に発表された米国の5月貿易収支で、今年前半のドル堅調にも
関わらず貿易赤字が2ヵ月ぶりに減少したことが伝えられています。ドルが堅調な今の市
場の動きの中では、「貿易赤字拡大が止まりつつある」+「元切り上げに新材料なし」と
いうことで、ドル堅調の継続というのが無難な反応と見られます。

今回はグリーンスパン「議長」としての最後の証言ですが、本来の姿である「エコノミス
ト」グリーンスパンとしての世界経済の今後の見通しこそ、市場の方向性を占う上で本当
に注目すべき点だと思います。市場が動き出すのは、現在のグリーンスパン議長の見解を
指標によって確認する8月、特に生産や消費の指標が出る中旬以降ではないかと思います。
その意味で、8月のFOMCの持つ意味は、非常に重くなるでしょう。



                      第66回 
              「為替市場の主役」は代わっていない


                      
2005年07月03日
◆-----------------------------------------------------------

1.市場の動向:(7月1日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   111.76円(2.75円 ドル高円安)   

  ・ユーロ/円  133.64円(2.34円 ユーロ高円安)   

  ・ユーロ/ドル 1.1955ドル(0.0028ドル ユーロ安ドル高)    


2.先週の動き

市場は「ドル高」です。先週のビジネスウィークの目次に
 It's a Bird, It's a Plane..., It's the Dollar!
とまで出ていました。「スーパーダラー」に市場は踊っています。ドルは対円でも対ユーロ
でも、月曜日が安値(109.18/1.2181)、金曜日が高値(111.76/1.1939)ですので先
週はドルの相場だったと考えています。しかし円から見ると対ドル、対ユーロとも2円以上
下落しており、円の弱さが目立った週でもありました。

そのためか、昨日(2日)の日経新聞に
 円下落111円台に 為替市場の主役交代映す
という記事が載っていました。ポイントは、
 1)輸出企業が四半期決算開示義務により、円安になっても以前ほど長い予約を取らない
 2)生保はドル金利上昇で調達コストが上がり、ドル中心の外債投資を凍結
 3)この結果東京のビッグプレーヤーの売買量が共に低下し、為替変動のぶれが低下
 4)そこにペイオフ解禁等を背景に個人投資家の外貨投資が増え、円安になりやすい
というものです。

3.今週のポイント

ちょっと待って、本当? という疑問が2つあります。
簡単な方を先に書きますが、生保の調達コストと円相場の関係です。ドルを調達して同じド
ルに投資するならば、為替の入る余地がありません。もっとも生保はドルの借入れをするわ
けではないので、ドルの調達コストを考えるのは先の日付でドルを売る、つまりヘッジする
場合のコストです。これにはドルの金利水準、正確には日米金利差が直接影響します。ただ
し、買いと売りを同時に行なう(スワップ)取引であれば、いわゆる円(スポット)相場へ
の影響はなく、外債投資をしていたとしても生保は円相場の動きに参加していません。

もちろん、まずドルの買い切りで外債に投資し、その後為替相場の動向を見てヘッジすると
いう方法はあります。実際に生保の中でも、始めからスワップでヘッジして為替リスクを全
く取らない方針の企業と、いったん買い切りにして為替でも収益を出そうと考える企業の2
通りあります。しかし後者は、もともと円相場の動き自体を重視し、ヘッジコストは為替益
でまかなえると考えるからそうするのです。従って生保が外債投資を凍結する理由は、ヘッ
ジコストに見合うほど今後円安にはならないと考えているか、米国の長期金利低下がそろそ
ろ終わり、債券のキャピタルロスが発生することを懸念しているかということです。私は後
者の可能性が高いと思います。

もう一つは輸出企業の動向です。先ほどの記事をもう少し詳しく紹介すると、輸出企業は
従来、決算の前提レートより大幅に円安が進むと、1年程度も先まで及ぶ大量の輸出予約
を入れて利益の確定を図ったため、円安の歯止めになってきた。しかし東証が昨年3月期
から上場企業に四半期決算の開示を義務づけたため、「為替予約を入れた後に円安が進め
ば3ヵ月ごとに評価損を計上しなければならない」として、長い予約を見送るようになっ
た、というものです。

円安圧力を吸収するほどのドル売りが「一度には」出ないから円安になりやすい、という
論法ですが、それは反対に今後いずれかの時点でドル売りが出る余力が残っているという
ことです。日本の輸出全体、さらに広い意味では経常黒字の動向が変調をきたさなければ、
本質的な状況が変わるわけではありません。先月9日に発表された昨年度の経常収支は、
18兆3000億円の黒字。今世紀に入ってから1.5倍程度に黒字が拡大しています。中でも
対アジアは8兆9000億円近くで過去最高を更新しました。「毎月増え続ける貿易・経常黒
字を吸収するだけのドルの買い手がいない限り、円高圧力は止められない」といった、マ
クロ的な視点に立った記事を、同じ新聞で何度も見たような気がします。

主役はおそらく代わっていないのだと思います。本当に代わるのは、輸出が本当に減少す
るか、それとも輸出企業が外貨を円以外の通貨で使うようになった時です。例えば獲得し
たドルを米国への投資に充てる。これなら全く為替に影響が出なくなります。米国以外に
投資する場合も、円相場に直接の影響はありません。ただし、例えばドル売りユーロ買い
につられてドル売り円買いが起こる、といった相場の連鎖反応は十分起こり得ます。

結局、今までマクロ論で押してきたのに急に四半期決算の開示などというミクロ視点を持
ち出したために、「主役交代」という近視眼的な議論になってしまうのです。その原因は
今の状況を円からとらえたために生じた無理であり、最初に指摘した通りドルの相場だと
考えればもっとすっきりします。私なら「ドルが一番わかりやすいから買われている」と
説明します。前にも触れましたが、米国で起きていることは「予定通り」です。もっと具
体的には、グリーンスパンが機会あるごとに証言やコメントで言っている通りに利上げを
し、原油価格の上昇にも関わらずGDPは3.8%成長を実現しています。欧州や日本のように
次は利上げ?利下げ?という憶測の生じる余地が非常に小さい見事な金融のかじ取りです。
本当に代わらない「為替市場の主役」はドルなのです。

ここから先、気になるのはドイツの政局です。内閣不信任が可決し、総選挙の9月前倒しが
決まりました。それまではドイツ政府はまともに機能しない、選挙のための内閣です。こ
れは明らかにユーロにとってマイナスでしょう。欧州憲法批准の混乱もあり、ユーロを上
昇させた「第二の機軸通貨」としてのプレミアムはさらにはげ落ちてもおかしくありませ
ん。しかし選挙が終わる頃には、今度はグリーンスパンの後任論議が佳境に入ります。ド
ルの「安心プレミアム」はその時どれくらい低下するのでしょうか。

「為替相場と付き合う方法」へ

                      第65回 

                 発足時の水準に近づいたユーロ


                      
2005年06月19日
◆-----------------------------------------------------------

1.市場の動向:(6月17日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   108.58円(0.04円 ドル安円高)   

  ・ユーロ/円  133.39円(1.76円 ユーロ高円安)   

  ・ユーロ/ドル 1.2284ドル(0.0166ドル ユーロ高ドル安)    


2.先週の動き

先週は米国の景気に対する楽観的な見方とFRBの金融引き締め姿勢継続を背景に、前半
はドルが堅調となりました。14日(水)にドル/円は109.69、ユーロ/ドルは1.2016とそ
れぞれドルの高値を記録しました。しかしユーロが1.20を一気に下抜けしなかったために
ユーロの買い戻しが徐々に強まりました。金曜日に米国の1-3月経常赤字が1951億ドルと
5期連続で過去最大を更新し、また市場予測より悪かったたためドル売りとなりました。特
にこの日、ドルは対ユーロで大きく下落しました。

3.今週のポイント

5月末のEU憲法批准に関する国民投票で、フランスとオランダが相次いで否決という結果
となりました。この結果国民投票を予定していた英国が投票の手続き凍結を発表するという
事態となり、ユーロへの注目度がさらに高まりました。16日に始まったEU首脳会議では、
当初目標だった2006年11月の憲法発効を正式に断念することが決まり、情勢はいっそう不
透明さを増しています。

ユーロは金曜日には大きく回復しましたが、先週割り込みかけた1.20ドルという水準には
市場の注目が集まっていました。1999年1月に単一通貨として発足した時のユーロの水準
は、1ユーロ=1.167ドルでした。すぐに下落を始め、底値は2000年10月の0.8230ドル。
その後0.85〜0.95ドル台のレンジに入り、2002年2月から本格的な上昇に転じました。
昨年12月の1.3660ドルを高値に、そこからは約12%下落したことになります。1.20台割
れになれば、市場が発足時の1.167ドルを意識してユーロ売りが加速する可能性がありま
した。取りあえず最初のトライには失敗しましたが、今後も指標の発表などをきっかけに
第2、第3のユーロ売りの波が予想されます。

もちろん、仮にユーロが1.20ドルを割れたとしても、早晩1.167ドルまで下落するという
(合理的に説明可能な)根拠は何もありません。ユーロがここまで下落した結果、多くの
人の頭の中にその水準が刻み込まれた、というだけです。しかし為替の現場での予測とい
うのはいわばテレビの「どっちの料理ショー」のようなものです。あの番組の会場に参加
している人たちは、どちらが「本当においしいか」よりも、どちらを「おいしいと言う人
が多いか」を当てなければ、自分が何も食べられずにおわってしまいます。為替レートも
客観的に正しい分析をすることに加えて、群衆行動に加わることが欠かせないということ
を、現場のディーラーは経験的に知っています。従って、一度多くの人に意識されたター
ゲットは、はっきりと否定されるまではことあるごとにマーケットトークに登場します。

ましてこのところ、米欧の景気格差と金利の方向性の違いがドル買いユーロ売りの1つの
重要材料となっています。OECDはユーロ圏の成長見通しを下方修正しました。長らく据
え置かれて利上げはいつかと言われていた欧州金利は、いつの間にか次は利下げかという
観測まで出ています。またユーロはトレンドが出やすい通貨です。99年1月に発足してか
ら2000年10月までは22ヵ月、2002年2月から最初の大きな反転があった2003年6月ま
では17ヵ月、大した戻りのないトレンドが形成されていました。

米国の経常赤字の拡大が止まらないことや、アジア諸国を中心に外貨準備通貨をドルから
ユーロに分散化させる動きを指摘して、依然としてドル安を大きな流れととらえる見方は
根強く存在します。これはもちろん「1ユーロ=1.167ドル」以上に強く市場参加者の意
識にインプットされています。しかし今はそのシナリオによるドル売りの流れがいったん
止まり、内外の大手銀行・証券会社の多くが短期的なドルの見通しを上方修正しています。

こうしてみると、当面はユーロ売りトレンドの継続を中心に相場を見ていきたいと思いま
す。ただし過去の長いトレンドではほぼ5〜6ヵ月経つといったん踊り場を迎えています。
年初からの下落という意味では、ちょうど今その時期にさしかかった可能性が高いため、
今回の過熱感も一服という局面でしょう。むしろ今週から来週は、7月1日に発表される
日銀短観をめぐって、円の動きが活発になるのではないかと思います。




                第64回 
                 ISMは「米国の」景気先行指標?


                      
2005年05月29日
◆-----------------------------------------------------------

1.市場の動向:(5月27日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   107.90円(0.24円 ドル安円高)   

  ・ユーロ/円  135.72円(0.11円 ユーロ安円高)   

  ・ユーロ/ドル 1.2578ドル(0.0020ドル ユーロ高ドル安)    


2.今週のポイント

レートの週末比較をご覧の通り、先週は方向感のない相場でした。ただ週末レートこそドル
安となったものの、概ねドルが堅調に推移しました。欧州憲法批准に関するフランスの国民
投票を今日(29日)に控え、世論調査結果は一貫して「反対が優位」であったためユーロは
買いにくくなりました。日本も株価は堅調でしたが、10年物の国債利回りが 1.3%をはさん
で行ったり来たり、日銀の量的緩和の資金供給目標解除もそう近い話ではないということで
盛り上がりに欠けました。

このところ「読書ガイド」に人民元と、少しアングルが変わっていたので、今回は軌道修正
してオーソドックスな話題にします。

最近発表されたアメリカの経済指標から、景気スローダウンの兆しが話題になってきました。
たしかに、消費、投資ともに減速を示唆する指標が相次いでおり、特に製造業の景況感指数
にそれが最もよく表れています。当面、6月1日に発表されるISM(全米供給管理協会)製造
業景況感指数(5月分)が注目されますが、これについてクレディ・スイス・ファースト・
ボストン(CSFB)証券はおもしろいコメントをしています。

本来ISM指数は米国の経済指標の中で最も速報性の高いものの一つとされていますが、生産
のグローバル化を反映して、同指数と米国GDP成長率との関係がくずれてきている、という
のが同社の指摘です。「過去の統計的な関係に基づけば、ISM製造業景況感指数が昨年60を
上回ったことは、基本的に米国の実質GDP成長率が7%を超えることを示唆していた。とこ
ろが、米国の実質GDP成長率は昨年前半にわずか5%でピークをつけている。」

この指数は、製造業の購買担当者に対して生産、受注、在庫、雇用、価格などに関するアン
ケートを行ない、「好転」「横ばい」「悪化」による回答を集計したものです。日本の内閣
府の景気動向指数と同様、50が景気動向の善し悪しの分かれ目とされます。総合指数と同時
に、上記の各分野に関しても指数が発表されます。

この指数が国内経済の動向から乖離を見せ始め、世界経済との連動を強めている理由として、
アンケート対象企業が海外拠点を持っている場合、回答者が国内拠点と海外拠点との活動を
区別せずに回答している可能性があることを、CSFBは指摘しています。つまり米国企業がコ
スト低下を目指して中国や東南アジア諸国に生産を移行し、国内の雇用が減少しても、市場
の注目度の高いこの指標には反映されないことになります。

景気に敏感な円

同時に、間もなく公表される最新のISM製造業指数が最近の他指標の傾向を確認するもので
ある場合、それは米国だけでなく世界経済全体の減速を示唆するものである可能性があると
いうことも意味しています。先日発表された日本の貿易統計(4月分)では黒字幅が前年比
で縮小しました。これは原油高を背景に輸入が大幅に伸びたことが原因で、輸出は鉄鋼や欧
米向け自動車を中心に増加しています。原油価格は昨年からの急騰で歴史的には非常に高水
準にありますが、50ドル台は高すぎるとしても落ち着きどころは40ドル台のどこかと見ら
れており、輸入に引き続き影響を与えるでしょう。したがって、今後輸出が鈍化すれば貿易
黒字は引き続き縮小する可能性が大きくなります。

このところの状況を見ると、ユーロ圏は明らかに成長が鈍化し、OECDからも利下げを奨め
られています。米国の利上げサイクルは続いていますが、1年近くそれを話題にしているう
ちにFF金利も3%に達し、そろそろ最終局面にかかってきました。任期切れでの辞任を発表
したグリーンスパンFRB議長の後任観測も大詰めになる今年後半には、ドルの動きも不安定
になるかもしれません。景気サイクルのずれも考えるとその時点では円が強含む展開、とい
う考えが実はありました。しかし景気減速が米国に止まらない場合、世界的な景気動向に敏
感な日本経済と円は、頭を抑えられるリスクが出てきます。そして景気が怪しくなってくる
前に動きがなければ、人民元の切上げ論議もトーンが弱まるかもしれません。

「為替相場と付き合う方法」へ

                第63回 

           「人民元の改革」の考え方


                 
2005年05月15日


1.市場の動向:(5月13日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   107.35円(2.32円 ドル高円安)   

  ・ユーロ/円  135.53円(0.74円 ユーロ高円安)   

  ・ユーロ/ドル 1.2622ドル(0.0193ドル ユーロ安ドル高)    


2.今週のポイント

ゴールデンウィーク中の円高はどこへやら、先週後半にはドル高円安が進行し、金曜日のNY
市場は107円台半ば近くまでドルが上昇して引けました。このところの為替相場は、人民元を
めぐる動向に振り回されています。ユーロはフランスで実施されるEU憲法批准国民投票を月
末に 控えて取引しにくく、最近の対ドルでの下落もドル/円に追随しているにすぎません。

米国ワシントンで4月中旬に開催されたG7財務相・中央銀行総裁会議の前後から、元の相
場制度改革を求める米国政府・議会の声が高まりました。ブッシュ大統領とスノー財務長官
が相次いで「変動幅拡大」「公正な貿易」という主張を展開し、G7は「為替レートの柔軟
性を欠く主要な国・経済地域にとってさらなる柔軟性が望ましい」と、参加国でもない中国
を念頭においたと見られる声明で閉幕しました。

これに対し中国は相変わらず慎重姿勢を崩していませんが、これまで以上に強硬な米国の姿
勢に、市場は「今度こそ狼少年ではないかもしれない」(そう何度思ったかわかりませんが)
と、NDF(ノン・デリバラブル・フォワード)市場で元買いを進めました。これにつられ
て円もドルに対して上昇し、ゴールデン・ウィーク中には104円台に達しました。この流れ
は先週前半まで続きましたが、これに対し中国人民銀行の総裁・副総裁が否定的な発言をし
たため木・金曜日の市場で円が反落することとなりました。

元と円

元と円については2つの点が重要だと思います。まず、中国がいかなる形で今のドルペッグ
制を変更する場合も、そのスピードは非常に緩やかなものであるということです。変更の決
定までに時間がかかるのに加え、決定する内容自体も元の急激な変動をもたらさないものに
なるでしょう。為替制度の大きな変更は国内経済、特に金融部門に大きな影響を与えますが、
中国の金融部門の総資産の5割を占める国有商業銀行4行の不良債権比率は15% と未だに高水
準で、中国はこの問題の処理を最優先で進めています。肥大化が批判されている外貨準備も
これら国有銀行への資本注入に利用されています。4行中2行の処理が先行していますが、
残りの2行、そしてもちろん借り手(これも国営)企業に関する施策も必要です。為替レー
トの「改革」は、こうした国内経済の課題解決の障害にならない範囲でしか行なうことはで
ず、そこは中国にとって譲れない部分です。

また、中国が「外圧に屈した」形での変更を受け入れる可能性は非常に低く、「外圧が強い
時には実施しない」という高官発言は単なる牽制以上の意味を持っています。ご存知の通り
中国人は「名」を重視する国民です。これに加え、中国=共産党の国内支配権力(という
よりも権威)を維持する上でも、通貨制度改革は中国自身の判断で秩序立って行なう必要が
あります。その意味で、今月から中国外国為替市場で元と交換可能な通貨を拡大し、従来の
ドル、円、ユーロ、香港ドルに加え、英ポンド、スイスフラン、豪ドル、カナダドルも認め
ることとしました。次はWTO加盟の条件の1つである、外資系銀行による元の取り扱いの
2006年中の自由化が予定されています。国際社会との協調によるこうした計画をきちんと実
行する中で、元の改革を進めるというのが中国の内外に対する立場です。元の改革の時間軸
は、そのあたりに見えてくると思います。

2つ目は円に関することです。元の変動幅拡大などといったニュースは、通常円高要因とし
てとらえられます。本当にそうかという議論はありますが、米国の執拗な元改革要求の背景
に円高をもたらそうとする意図があることは間違いないと思います。それは以前『人民元と
中国経済』のご紹介で触れましたが、米国の対中国貿易赤字は元だけが上昇しても解消しな
いためです。つまり、元が円や東南アジア通貨に対しても上昇すれば、対米輸出品の部品を
日本やアジアから輸入するコストが低下し、中国の価格競争力が維持されるためです。

米国は日本と中国に対する二正面作戦を取るよりも、経済の成長率が高く米国との貿易不均
衡が拡大している中国を早めに動かし、中国の示した「規範」を日本に突きつけようとして
いるのでしょう。米国から見れば日本も「為替レートの柔軟性を欠く主要な国」であること
は間違いないのです。

「為替相場と付き合う方法」へ


                      第62回 

               ゴールデンウィーク読書ガイド


                      
2005年05月01日
◆-----------------------------------------------------------

1.市場の動向:(4月29日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   104.84円(1.18円 ドル安円高)   

  ・ユーロ/円  134.94円(3.57円 ユーロ安円高)   

  ・ユーロ/ドル 1.2869ドル(0.0131ドル ユーロ安ドル高)    


2.今週のポイント

先週は後半になって円高が進行しました。特に週の後半は中国が早期に人民元切り上げに
踏み切るとの観測が強まり、アジア通貨が全般的に買われる中の動きだったと言われていま
す。私は何回か前にもこの場で書いたように早期切り上げはあまり現実的ではないと考えて
います。またユーロはフランスの国民投票の話題をよく聞くようになりました。

いずれにしても、日本はゴールデンウィークです。この先1週間は私を含む多くの日本人に
とって為替は海の向こうの話です。細かいことは休み明けの相場の居所を見てから考えること
にして、今回はいくつか本の紹介をします。ゴールデンウィークにたまには為替の本でも読ん
でみようという方のために、読みやすい良書を選んでみました。
なお9冊のリストの順番は優劣や重要性とは無関係の順不同です。

1.「ニュースと円相場から学ぶ、使える経済学入門」
  (吉本佳生 2000年 日本評論社)
日々変動する為替レートに右往左往させられながら、「為替はわからない」とばかり言っては
いられません。どんなメカニズムで為替レートが動くのか、マクロ経済の視点から理解する道
筋を示すのがこの本です。着目するのは「モノ、カネ、投機」という3つのポイントで、日ごろ
新聞やテレビで目にする経済ニュースから為替の動き(少なくとも選択肢としてのいくつかの
シナリオ)が直感的に頭に浮かぶように、順を追って解説しています。同じ説明が繰り返され
ている部分もありますが、この本の目指すところの一つは、ニュースの為替に対する意味を理
解するための頭の働かせ方の練習にもあります。その意味で、思考回路を何度か確認するた
めに同じ説明が出てくるのです。

2.「通貨を読む」
 (滝田洋一 2004年 日経文庫)
この本の著者の署名入り記事が日経新聞の金融面に出るようになってから何年も経ちますが、
それ以来金融面は「読める」ようになりました。吉本氏の書物がマクロ経済と為替の関係を教
科書的な立場から(しかしはるかにわかりやすく)説明したものであるのに対し、滝田氏は実
際の市場で起きた重要な局面を追いながら、為替は何によって動くのかをよりリアルに綴って
います。ドル、円、ユーロ、元という4つの通貨を軸とする解説は、為替レートの大きな流れ
に政治が大きな影響を与えるということを確認させるものです。しかしこの本はそれだけでな
く、為替レートの見方に関する包括的な解説書として非常に良くまとまっており、それが記者
ならではの取材に基づく豊富な事実とともに書かれているため、読者は読んだり見たりしたこ
とのある過去の事件を思い出しながら当時の為替変動の背景を確認することができます。

3.「外為市場血風録」
 (小口幸伸 2003年 集英社新書)
為替市場が最終的にはインターバンク市場と呼ばれる銀行間取引に集約されます。その意味
で株式における取引所と似た面もありますが、最大の違いは、株式では顧客の注文がその通り
取引所に出るのに対し、為替では顧客注文を受けた為替ディーラーはその通りの売り買いをす
る義務がないことです。つまり1億ドルの売り注文がディーラーにとって絶好の買いのチャンス
となることもあり、反対にそのディーラーが市場で2億ドル売る場合もあります。それは個々のディ
ーラーが自ら築いたスタイルによる相場観に大きく依存しています。
シティバンクはじめ在日外銀の為替ディーラーとして、また責任者として長年活躍した経験を
持つ著者によるこの本は、リアルという意味では「通貨を読む」のはるか上を行きます。プラザ
合意やソロスのポンド投機と欧州通貨統合など、歴史的な場面での自らのディーリングを再現
することにより、為替の最前線では何を重視し、どのような行動をとっているか、その一端をうか
がうことができます。

4.「秒変の世界に生きる」
 (大田滿穂 1992年 日本経済評論社)
この本を書店で見つけることができた方は幸運だと思ってぜひ読んで見てください。著者は実
は私が対顧客ディーラーとして為替を始めた時のチームのヘッドでした。小口氏とは違う意
味で為替を知り尽くした方で、私は彼のおかげで今こうして為替のコラムを書いています。
非常にユニークな本です。いわゆる為替の教科書的な記述や実務の解説ではなく、「為替に
は経験が重要だが経年は役に立たない」また「休むも相場」のような格言めいた話題など、現
場にいる者にはなるほどと思わされるコラムが集められています。オンライン為替取引が普及
し、誰でも手軽に為替取引ができるようになりました。実際に取引をされている方にとって、理
論やチャート分析の勉強もさることながら、取引の心構えや為替市場の本当の難しさ、怖さを
確認することが大切だと思います。

5.「通貨燃ゆ」
 (谷口智彦 2005年 日本経済新聞社)
15年前の本の次は最新刊です。テーマは「通貨と権力」。通貨は経済価値の基準であるに
しても、その価値つまり為替レートは経済的理由だけで決まるものではなく、権力の意思や多
国間におけるその衝突がそのダイナミクスを生み出すということを、豊富な取材と研究にもと
づいて説き起こしています。
実は私もまだ3分の1程度読み終えたところです。「ニクソン・ショックの深層」という第1章から
始まりますが、ドルの金との交換を停止した1971年のニクソン・ショックを、赤字国責任論から
黒字国責任論への一発逆転を実現し、その後今日までの世界秩序を決定づけたと総括しま
す。そこで生成されたドルを基軸通貨とする国際通貨体制の行く末が今試されている、という
最終章の結論(著者は序章で、ここを先に読んでも構わないと言っているので素直に読みまし
た)を導くために、人民元安をもたらす中国(「中共」)の特殊な構造、ユーロの政治的意義、
パワーゲームの本質に気付かないまま振り回される日本の姿などで肉付けしています。
大変示唆に富む本だと思いますが、一つ注意していただきたいのは、著者の明快な語り口と
説得力に引かれて「為替は政治で決まるのだ」という結論を簡単に導いてしまわないことです。
たしかに政治や権力を為替を切り離すことはできず、政治的要因が何度も大きな流れの原動
力になってきました。しかしそれだけで為替が動くわけではないことは言うまでもありません。

今回は「読みやすい」ことに主眼を置いてご紹介しましたが、少し固めの本もいくつか列挙して
結びにしたいと思います。ご興味に応じてぜひご覧になってください。

6.通貨政策の政治経済学 (ポール・クルーグマン 1998年 東洋経済新報社)
7.人民元と中国経済 (白井早由里 2004年 日本経済新聞社)
8.入門国際収支 (日本銀行国際収支統計研究会 2000年 東洋経済新報社)
9.為替オーバーレイ (森谷博之 2004年 パンローリング)

6 は為替レートの理論(あくまで一面ですが)を簡潔にまとめたもの。「為替は市場が決定
する」と常々主張する米国が実は確固たる通貨政策を持ち、「為替は日本経済の重要な要
因」としてたびたび介入する日本には政策というべき軸を持たないということを感じます。

7はこのコラムで以前ご紹介しました。

8 は米国の経常赤字とドルの価値の関係が常に話題になっている中、日本の統計が中心
ではあるものの、対外収支の意味を理解するために最適だと思います。またこの本は一般向
けに非常にわかりやすく記述されています。

9 は今回ご紹介した書物やこれまでの私のコラムなどとは違う為替の考え方をご紹介するた
めに取り上げました。特に年金基金などの運用機関では、為替を予測することよりも、為替が
変動することを所与として、そのリスクをどのように管理するかがテーマになっています。そう
した視点からの論文集です。為替オーバーレイについてはお話しする機会があると思います。

では、楽しいゴールデンウィークを!



                      第61回 

                  近づく「欧州の季節」


                      
2005年04月17日
◆-----------------------------------------------------------

1.市場の動向:(4月15日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   107.72円(0.50円 ドル安円高)   

  ・ユーロ/円  139.20円(0.70円 ユーロ安円高)   

  ・ユーロ/ドル 1.2921ドル(0.0007ドル ユーロ安ドル高)    


2.今週のポイント

新聞紙面などで「米金利高」「ドル高」を頻繁に見かけた割に、実際にはあまり動きのない市
場となっています。先週を通じてドル/円は107-108円台、ユーロ/ドルは1.28-1.29ドル台、ユー
ロ/円は138-139円台を行ったり来たりでした。ドルが伸び悩んだ1つの理由は株式市場が今一
つさえないことです。特に自動車大手GMの長期債格付けが引き下げられ、同じ自動車メーカ
ーのフォードやコンピューターのIBMの四半期業績が不振と発表されました。

また、週の後半に発表された米国の経済指標は概ね市場の期待を下回る結果となりました。水
曜の3月小売り売り上げでは、自動車を除く指数が昨年4月以来の低い伸び率でした。また金
曜日にも、まず3月鉱工業生産指数のうち製造業の伸びが昨年9月以来初めてのマイナス。ミ
シガン大学発表の4月消費者マインド指数は一昨年9月以来の低水準、そしてニューヨーク連
銀による4月の同州製造業業況指数も2年ぶりの低水準となり、米国株式とドルは週末に下落
して終了しています。

ドルが中心となった動きの中、ドル・円・ユーロの関係で気付くのはドル/円とユーロ/円が逆
の動きをすることが多かったということです。中国の頻繁な反日デモなど円に関わる事件があ
りましたが、それを材料に円を積極的に取引する人はあまり多くなく、ドル対ユーロでの取引
が主だったためでしょう。つまり、ドル高局面で対円・対ユーロともにドルが上昇すると、ド
ル/円は円安になります。しかしドルが対円より対ユーロで大幅に上昇すれば、円対ユーロでは
円高になります。ドルが売られる局面でも同じようなことが起こったのを見ると、何れの場合
もドル/円の相場に参加した人はユーロ/ドルの動きを見て追随した短期トレーダーが多く、投
資家などは静観していたのだと思います。水曜日の日経新聞に「円の予想変動率低迷」という
記事がありましたが、これも円に対する関心が当面薄れていることの表れでしょう。しばらく
前に、日本の鉱工業生産の改善で外人の対日投資を中心に円の取引が盛り上がると期待された
ばかりですが、このところは長期金利が1.3%を割る局面が出るなど、短期のサヤ取り以外には
手がけにくい通貨になりつつあります。

欧州のビッグイベント

むしろこの先1ヵ月ほどを考えると、欧州でのイベントが気になります。1つは5月5日に決
定した英国下院の総選挙、もう1つは欧州連合(EU)憲法批准の是非をめぐって5月29日
に実施されるフランスの国民投票です。

英国の総選挙で政権が変わる可能性はまずないでしょう。当初はかなりの差でリードしていた
ブレア首相の労働党を、最近の世論調査では保守党がわずか1%差まで追い上げたという報道
が今のところ最新ですが、小選挙区制の英国ではこの僅差が議席数にそのまま結びつくことが
なかなかありません。また、労働党と保守党の政策の違いも今ではかなりあいまいになってい
るため、どちらに転んでも、という面もあります(ただし3月下旬に保守党のベテラン議員が
「保守党は総選挙に勝った場合、積極的に公共支出削減を実施するつもりである」というサッ
チャー元首相以来の『小さな政府』論を明らかにしました。これがもとでこの議員は今回選挙
の公認から外されています)。

違いがあるとすれば英国のユーロ参加への姿勢です。ブレア首相はユーロ参加支持のため、保
守党は英国民の多数意見を反映する形で反対を鮮明にしています。ブレア首相は今回の選挙で
勝てば来年にも国民投票でユーロ参加の是非を問う、と言われていますが、これまでに何度も
あった同じような機会に、(結局勝ち目がないというのがおそらく本音の理由で)先延ばしに
してきました。そういう意味で為替市場への影響が測りにくい選挙ですが、現在の1ユーロ=
0.68ポンド台という水準は英国経済の好調さを考えてもポンド高という見方が多いため、労働
党有利という調査結果には通貨統合を考えてポンド売りユーロ買いの動きになるでしょう。ま
た、もっと単純に労働党政権不利=ポンド売りドル買い、有利ならその逆、という反応も当然
考えられます。

フランスの国民投票にはもう少し深刻な意味があると言われています。欧州統合の中でフラン
スが憲法を批准しないことになれば、欧州及びユーロにとって大きな打撃になります。もちろ
んその場合にフランスが欧州統合から脱退することはあり得ませんが、フランス政権の動揺、
将来の再投票をにらんだ欧州憲法草案の改定など、かなりの回り道となります。そして最近の
調査を報じた土曜日の日経新聞にある通り、フランスでは批准反対という意見が過半数を占め、
賛成意見を10%程度リードしています。

フランス政府にとって頭が痛いのは、こうした反対意見の多くが憲法自体よりも国内景気の停
滞への不満によるものであるため、国民への説得がなかなか進みにくいことです。また、イス
ラ厶圏の大国トルコが加盟する可能性への懐疑心も強く、最後まで結果は読みにくい状況が続
くことが予想されます。そして忘れてはならないのは、そもそも欧州連合の是非を問われた、
1992年のマーストリヒト条約批准投票の時に、フランス国民は賛成51%、反対49%というぎり
ぎりの結果で答えたということです。

5月末までは欧州から目が離せなくなりそうです。


 (注)
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 に過ぎず、いかなる投資行動をも推奨するものではありません。私の文章が何らかの契機と
 なって読者の方が投資を行ない、それにより損害を被ったとしても一切責任を負いません。

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