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ワンポイント為替市場 (51-60)
「二十一世紀に生き残る会」HPに寄稿の同名コラムを転載)

2005年04月03日

                      第60回 

                  静かなドル高の陰のリスク


                      
2005年04月03日
◆-----------------------------------------------------------

1.市場の動向:(4月1日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   107.57円(1.21円 ドル高円安)   

  ・ユーロ/円  138.82円(1.00円 ユーロ高円安)   

  ・ユーロ/ドル 1.2904ドル(0.0052ドル ユーロ安ドル高)    


2.今週のポイント

3月31日は例年円相場に波乱の起こりやすい日です。昨年も東京市場終了後の欧米市場で一気に
103円台まで、3円も円高に動きました。しかし今年は東京時間から107円台で目立った動きもな
く、結局NYの終値は107.13でした。ということは昨年12月12日のこのコラムでご紹介した値動
きのジンクスは、この1-3月には実現しなかったことになります。これは、9-11月の方向性が翌
12月と年明けの1-3月にも繰り返されるというものですが、下の表のとおり、昨年12月はかろう
じて同じ方向となったものの、今年最初の3ヵ月は反対に4円以上の円安となりました。

期間 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004
9-11月 -1.08 +4.58 +4.95 +6.90 -16.37 -7.57 +3.71 +4.69 +4.08 -7.29 -6.10
12月 +0.61 +1.47 +1.85 +2.73 -9.33 +0.36 +4.03 +8.18 -3.75 -2.41 -0.23
翌1-3月 -13.03 +3.75 +8.09 +2.49 +5.30 +0.27 +11.92 +0.71 -0.70 -3.00 +4.43

特に3月中旬以降は104円前後からはほぼ一本調子で円安が進み、目立った調整局面も見られま
せんでした。先週の動きを見ても、ドルの悪材料には目をつぶり、円やユーロの弱い兆候には
敏感に反応するという傾向がありました。30日(水)に発表された日本の2月鉱工業生産指数、
さらに1日(金)の日銀短観と、日本の景気指標はこのところ相次いで市場を失望させ、円は
弱含みの展開が続いています。またユーロは先々週の21日(月)に欧州財政規律の基本であ
る安定成長協定の緩和が決まったのを境に勢いが止まりました。これに対し米国では1日(金)
に発表された3月雇用統計で非農業部門雇用者数が予想を大きく下回り、前日の新規失業保険
申請者数(これは週次統計のためより新しいデータ)と合わせ雇用減退が懸念されました。し
かしドル売りは雇用統計直後の短時間に止まり、結局ドル/円は107円台、ユーロ/ドルは1.29ド
ル前後までドルが買い戻されました。

熱狂なきドル高

最近のドル高の特徴は、過熱感がないということのような気がします。それは一つにはまだ警
戒感が拭えないためでもありますが、昨年から今年初めにかけて市場を支配していた大きなテ
ーマの影が薄くなってきたことも事実です。それは「ドル一極からドル・ユーロ二極へ」とい
う国際的な資産配分の変化や「人民元の『改革』(実質上の切上げ)」といったテーマです。
これらが短期間には進まないという現実的な考えが強まっていることが、静かなドル高の背景
となっています。

ドルが買われてきた局面で注目すべき変化は、原油価格の動きに対する金融市場の反応です。
昨年秋からの原油急騰局面では、債券市場も株式市場も「原油価格の上昇は景気の腰を折る
ために金利低下要因」という反応が目立っていました。以前恐らくここで触れたと思いますが、
これは決して通常の市場の反応ではありません。景気に対してよほど悲観的な見方が支配して
いない限り、多くの場合は「原油価格上昇→インフレ懸念」というのが市場の解釈であり、このところ
そうした従来のパターンに戻ってきています。

つまり、原油高→金利上昇 という反応になりますが、実際にこうした動きが見られるのは主に
米国金利であり、日欧はそれほどでもないために、長短金利差がともに米国への投資を魅力的
にしています。先月のFOMCでFRBは7回連続となる0.25%の利上げを決定しました。同時に短
期的なインフレ傾向に従来よりも警戒的な見解を示したため、FF(フェデラルファンド)金利
は4%程度まで上昇するとの見方がさらに強まっています。そうなれば現在4.5%付近の水準に
ある米国の長期金利(10年物国債利回り)が少なくとも5%を上回る水準になるのは、これも
「普通」あるいは「現実的」な考え方ということになります。

要するに今は米国の動向が「読みやすい」のです。読みやすいということはリスクがそれだけ
小さいということです。低リスクで金利の優位性があるならば、経常赤字は気がかりだがドル
を買っておこうというのが、現在のドル高だと思います。

キーパーソンリスク

米国経済のこのわかりやすさを支えているのがグリーンスパン議長のFRBであることは間違い
ありません。民主党、共和党いずれの政権下でも金融政策の独立性は堅持しつつ政府から絶大
な信頼を得てきました。これに対しユーロ圏では先ほど触れた財政規律の問題をめぐって政府
と中央銀行の軋轢が表面化してきました。日本の政府と金融当局との関係はかつてないほど良
好に見えますが、良好な関係と超低金利政策「出口論」の掛け声の先に実際の展望が開けない
のが問題です。

しかしドルと米国経済にとってグリーンスパン議長の重要性が高ければ高いほど、その存在が
なくなった時のリスクも大きくなります。そして実際に議長の任期は来年の1月末で満了する
ことが決まっています。今後も「グリーンスパン路線」としての金融引き締めが市場の予想通
り実施されることは、市場の安心感を呼ぶでしょう。しかしその間にも「グリーンスパン後」
に対する憶測が水面下でドルのマイナス要因として次第に大きくなり、時には(取り上げられ
方次第では)市場の波乱要因になる場合があるでしょう。

一部には、市場に与えるインパクトを緩和するためにグリーンスパン議長を財務長官に横滑り
させるのではとの観測もあるようです。もちろん来年には80歳になる議長にいつまでも頼るの
はなく、一時的なショックを和らげている間に後任議長による運営が市場の信認を得ればとい
うシナリオでしょう。(実はこの「グリーンスパン財務長官」説は第2期ブッシュ政権発足を
前にした昨年12月にFTが内幕記事として伝えたものですが、未だにくすぶっている可能性が
あります。)

今年の第1四半期は円安で始まり、月足のジンクスは破れましたが、昨年の引けが102円台とい
うこともあり、12月にもう1つ紹介した年足ジンクス(3年間同じ方向が続いた翌年は反転、つ
まり今年の年末は年初よりも円安)には追い風です。しかし今年後半にはグリーンスパン・リ
スクがかなり高まるという皮肉な巡り合わせ。相場はやはり簡単ではありません。


「為替相場と付き合う方法」へ

                      第59回 

                   ヘッジファンド


                      
2005年03月20日
◆-----------------------------------------------------------

1.市場の動向:(3月18日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   104.73円(0.77円 ドル高円安)   

  ・ユーロ/円  139.49円(0.38円 ユーロ安円高)   

  ・ユーロ/ドル 1.3319ドル(0.0132ドル ユーロ安ドル高)    


2.今週のポイント

先週はドル/円が103.72〜105.03という、比較的狭い値幅での動きとなりました。一方ユー
ロは対円で138.85〜140.67、対ドルでは1.3264〜1.3475というレンジでしたが、対円、対
ドルともに日替わりで上下し、過去1ヵ月ほど見られた連騰か続落かという値動きパターンと
は異なっていました。ユーロ圏には取り立てて大きなイベントはなかったこの週の動きは、ド
ルの方向性に対する確信度が低かったことを反映しています。

為替相場は現在テーマをつかみかねているように見えます。年初からドルが回復基調となり
ましたが、その背景はFRBの金融引き締めによるドルと他通貨の金利格差の縮小(あるいは
逆転)、また米国景気の他国に対する優位性でした。しかしBIS(国際決済銀行)が3月7日に
公表した四半期報告の中に、中央銀行を含むアジアの銀行がドル預金比率を引き下げたと
いう内容があることが報じられると、米国の構造問題である「双子の赤字」が再び注目され、
ドル売りが強まりました。さらに10日に小泉首相が国会で「外貨準備の投資先を分散すること
は必要だと思う」と答弁しました。2月にも韓国の中銀から同様な発言があったことに加え、韓
国以上にブッシュ大統領の忠実な支援者と見られている小泉首相の発言という意外感もあ
り、市場はドル下落に対する警戒感を強めました。

これまで何度かここで書いてきましたが、政府の外貨準備や民間の資産保有に占めるドルの
比率が長期的に低下していくことは恐らく避けられず、長期的にはドルに対する需要の減少
要因と考えることもできます。しかしBIS報告によればドル建て預金の絶対額は増加しており、
アジアからの米国債の購入も続いています。また、もちろん対米投資は預金だけでなく、株
式や債券、それに直接投資もあります。BIS報告はその一面を明らかにしたものとして考える
べきでしょう。事実、15日には1月の対米証券投資が915億ドルの買い越しと発表されました。
これは史上2番目の買い越し額です。翌16日に米国の経常赤字が過去最大となったことを受
けてドル/円が一時103円台まで下落しましたが、17日に外国中銀による財務省証券(米国
債)保有残高の増加額が2週連続で過去最大となったことがFRBから公表され、週末にかけて
ドルは堅調地合いとなりました。

ヘッジファンドは「悪者」か

ところで前述した米国をめぐる証券投資(1月)の数値を報じる新聞記事などでは、外国の中央
銀行の米国債保有高をとり上げる一方で、バミューダなどカリブ海諸島からの対米証券投資の
増加も報じられていました。そしてこの動きは「ヘッジファンドの占める比率が高く,従って彼ら
による資金流入は逃げ足も速い」といった扱いも見られました。逃げ足が速いとは一概に言い
切れませんが、確かにヘッジファンドは税制面の理由から会社型投信をケイマンやバミューダ
とこいったタックスヘイブンに設立することが多いため、こうした統計が彼らの動きを示している
とは事実です。

ヘッジファンドの動きがさらに注目されているのが原油先物市場です。ニューヨーク・マーカン
タイル取引所(NYMEX)に上場しているWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物は、
昨年秋からの価格上昇で一般にも知名度が高まりましたが、先週一時1バレル57ドル台と、昨
年記録した史上最高値を更新しました。そしてWTIは、原油全体に占める割合が非常に小さい
にもかかわらず、中東の原油市場がこの先物価格を基準に値を付けるという仕組みのために、
世界の原油需給を反映しない形で原油価格全体が急騰する原因となっています。その主役が
ヘッジファンド、つまり「ヘッジファンド悪者論」再び、というところです。

ところがヘッジファンドとは、「ヘッジ」というくらいですから本来はリスクを抑制する手法を特色
とし、その起こりは1949年にジョーンズという社会学者が始めた、割高株の売り(空売り)と割安
株の買いを組み合わせる戦略です。これは割高割安の判断を誤れば当然損をしますが、日経
平均が暴落するといった、市場全体が同じ方向に動く場合のリスクに対しては、買っている株
で損が出ても売っている株で収益が上がるという形で「ヘッジ」が利いています。1998年のロシ
ア危機がきっかけで破綻したLTCM(ロング・ターム・キャピタル・マネジメント)も、その手法は
ドイツ国債の空売りとイタリア国債の買いの組み合わせなど、本来は低リスクのはずの裁定取
引でした。しかし低リスク取引は当然利ざやが小さいため、利益を上げるためには取引量を増
やさなければならず、借り入れによって預かり資産額を上回る投資を行いました。しかしロシア
危機という大事件によってファンドの成績が一気に悪化すると、融資の返済を一斉に迫られて
ついに破綻した、というのがLTCM事件です。

こうしたことがあるため、ヘッジファンドというと「巨額の投機的取引」というイメージが一般には
なかなか消えず、「悪者論」も何かにつけて取りざたされがちです。しかしいくつか認識すべき
点があります。まず、ヘッジファンドは高度な手法や分析を利用して市場の収益機会を発見
するものが多いため、それに追随しようとする投資家が数多く現れ、その結果市場が大きく動く
ことがあるという面です。次に、市場の撹乱要因と見られがちなヘッジファンドですが、実は
彼らが自己判断でリスクを取って取引を行うことにより、先物市場の流動性を供給するという、
市場安定機能を担っていることです。原油に限らず穀物などの取引でも、実需に基づく参加者
のみであれば需給が偏って値動きが乱高下することは十分あり得ます。収益追求のためには
取引機会の数も重要なため、ヘッジファンドは積極的に市場に売り買いを提供し、それが実需
の相手方として取引を成立させることになります。

為替の世界で最も有名なヘッジファンドと言えば、おそらくジョージ・ソロスでしょう。彼は1992
年に英ポンドのERM(欧州為替相場メカニズム)からの離脱は経済ファンダメンタルズから見て
必至と予測し、巨額のポンド売りを浴びせて勝利を収めたことで一躍名を知られるようになりまし
た。彼の手法は、各国のファンダメンタルズと市場価格との乖離に着目し、将来市場価格が
修正されることに賭けるいわゆる「グローバル・マクロ」戦略の典型です。為替のファンドは現在
でも多かれ少なかれグローバル・マクロの要素を持っていますが、ソロスのように大きなリスクを
取って自ら仕掛け、相場を動かそうとするヘッジファンドは現在ではむしろまれな存在です。

このコラムの第16回でもとり上げたように、シカゴマーカンタイル取引所にある国際金融先物市場
(IMM)の通貨先物、その中の「非商業部門」はヘッジファンドの動向を反映していると言われ
ます。現在円は若干の売り越しですがその額は微小です。またユーロは昨年秋からの巨大な
買いポジションが今年に入って完全に消滅した後、先々週に再び買いが大きく膨らみましたが、
早くも先週かなり縮小しました。目立つのは豪ドルと英ポンドの買い持ちです。これらはすべて
対ドルの取引なので、ドルはかなり売り持ちということになります。総合すると、基本的にドル下落
懸念は根強いものの、資金の行き先は「ドルの代替」としてのユーロよりもとりあえず高金利通貨、
また原油や商品の価格上昇を反映して豪ドルや英ポンドに向かっているというところでしょう。



                      第58回 

                人民元「改革」について

                      
2005年03月06日
◆-----------------------------------------------------------

 1.市場の動向:(3月4日NY終値と前週末からの変化)

   ・ドル/円   104.73円(0.46円 ドル安円高)   

   ・ユーロ/円  138.70円(0.61円 ユーロ安円高)   

   ・ユーロ/ドル 1.3241ドル(0.0002ドル ユーロ安ドル高)    


 2.今週のポイント

 為替市場はどの通貨にとっても一進一退が続いています。円については前回注目点とした1
 月の鉱工業生産指数が前月比2.1%の増加と予想を上回り、2000年12月以来の水準に達した
 ことが円高材料となりました。日経平均も4日まで(小幅ながら)7連騰しています。
 一方4日には米国の2月雇用統計が発表され、こちらも非農業部門雇用者数が前月比26万
 2千人増加と市場予想を上回り、その直後はドルが買われましたが、その後主要通貨に対し
 て下落に転じました。 これは週を通じてドルが欧州通貨や豪ドルなどに対して堅調に推移し
 ており、その背景には雇用統計の強気予想もかなり織り込まれていたため、発表後は週末
 のポジション手じまいが優勢になったためでしょう。ユーロもドイツの雇用情勢の悪化や低金
 利の長期据置き観測から週の前半は対ドル、対円とも下落しましたが、結局後半には回復し
 ています。

 元が上がれば米国の貿易赤字は減るのか

 ある読者の方から「人民元切上げの円ー米ドルの為替への影響について」というご質問を頂
 きました。この問題は実態レベルと(市場の)認識レベルにずれがあり、後者の議論が先行
 しているというのが特徴だと思います。

 実態レベルというのは、人民元の切上げ、または変動相場制への移行などの「改革」が本当
 に今必要なのかという視点です。 最初に、人民元の為替レートについて最も積極的に発言
 (表現は「より柔軟な為替レート」で「切上げ」ではありませんが)しているのが米国であること
 に注目してください。中国の貿易収支は黒字基調ですが、内訳を見ると輸出トップ5(2003年。
 以下同じ)は米国、香港、日本、韓国、ドイツ、一方輸入では日本、台湾、韓国、米国、ドイツ
 の順になります。他国への輸出の中継基地となっている香港に対する黒字(652億ドル)を除
 けば、対米貿易が最大の黒字(586億ドル)を記録しています。日本、韓国、ドイツとの貿易収
 支はいずれも赤字(各147億ドル、230億ドル、68億ドル)です。また圧倒的に輸入の多い台湾
 に対する赤字が404億ドルと突出しています。

 米国の対中赤字は急速に拡大し、ついに最大の赤字相手国になりました。このため「輸入品
 で米国内の雇用を奪う中国に対して、通貨の切上げによって公正な貿易をさせろ」という極め
 て政治的な議論が米国の主張の根底にあるのは明らかです。しかし元の為替レートを調整
 すれば本当に米国の貿易赤字は十分削減できるのでしょうか。上と同じ2003年の中国の貿
 易収支は255億ドルの黒字、つまり対米以外は230億ドル程度の赤字です。輸出入に占める
 米国の比率はそれぞれ21.1%と8.2%ですので、貿易の大部分を占める残りの国との間に赤字
 がある状態を見ると、「元は過小評価だ」と簡単には言えなくなります。

 中国の貿易構造に注目すべきである、という見解を示しているのが『人民元と中国経済』(白
 井早由里:日本経済新聞社)です。それによれば、中国の貿易の主力は加工貿易であり、輸
 出品目ではオフィス機器、コンピューター、通信機器、音響機器等を含む電気機器と一般機
 械が著しい伸びを示しています。これらの主要な輸出先は米国、EU、日本です。
 一方これらに関する原材料、素材、部品等の輸入先は日本、ASEAN、韓国、台湾であり、
 この結果この分野では日本や韓国、台湾に対する輸入超過と米国への輸出超過が生じて
 います。また近年中国の貿易に占める比率が低下しているとはいえ、依然として重要性の高
 い衣類、玩具などの最終消費財の貿易にも同様な構造が存在します。

 さらにこうした動きの中で、日韓台及びASEAN諸国の製造業企業が中国の安価な労働力
 と外資優遇政策に注目して生産拠点を中国に移したり、中国に進出した外資系企業に対し
 てASEAN諸国から原材料や部品・素材を輸出したりということが目立って来ました。
 つまり以前はこれらの国からだった製品や原材料等の対米輸出が中国経由になり、これが
 中国の対米輸出を増加させているということです。前掲書ではこれを「東アジア域内の生産・
 貿易ネットワーク」による中国の対米輸出の拡大と呼んでいます。

 このような加工貿易の構造の下で元が上昇しても、中国が日本やアジア諸国から輸入して
 いる部品等の価格が元高の恩恵を受けるため生産コストが下がります。さらに中国の労働
 コストは極めて低い上に、国内では失業問題が存在するほどです。このため無限ともいえ
 る余剰労働力が存在することによっても、ある程度の通貨上昇を十分吸収して輸出製品の
 価格競争力を維持できる可能性があり、米国の狙いである赤字解消効果は疑問です。

 市場の解釈

 こうして見ると、米国の「元の改革」という要求にはあまり意味がないことになりますが、市場
 は必ずしもそう考えていないというのが認識レベルの問題です。 米国の過剰消費体質が変
 わらない限り貿易赤字の改善にはドル下落しかないと考えれば、今後も「柔軟な為替レート」
 を求める米国政府の発言はドル売り要因となるでしょう。ドルの材料という意味では円に対し
 てもドル安を意味しますが、よく言われる「アジア通貨が全般的に上昇する」
 というシナリオが実現するかどうかは、その時点での他の状況によると思います。その一つは
 日本の景気であり、また「元切上げ」が円高要因としてどこまで織り込まれているかということ
 も、円相場に与える影響を左右するでしょう。金曜日の米雇用統計後の反応と同様に「噂で買
 って事実で売る」可能性もあるということです。

 ただし、元の切上げによって周辺のアジア通貨が上昇すれば、中国にとって加工貿易の輸入
 コストが十分下がらないため、対米輸出の条件が不利になる可能性があります。これを米国
 が意識して、中国に限らず「アジア」の文脈で通貨調整を主張し始めた場合は、アジア通貨と
 しての円に対しても上昇圧力がかかります。その場合次の問題は日本の円売り介入がある
 かということですが、これは今の段階では予想がつきません。第一にその時点での円相場の
 水準と景気判断に左右されます。 また、元の切上げの可能性が高まった場合には、日本が
 大規模な介入をしにくい立場におかれるということもあります。

 元の行方

 前掲書では中国の貿易に関する議論以外にも、国内のインフレ圧力の原因や経済構造の特
 徴、未成熟な証券市場の実態等を論じており、さらに元が本当に過小評価なのかをいくつか
 の為替レート決定理論から検証しています。 これらは豊富なデータに基づくもので非常に参
 考になります。私は第56回のこのコーナーで「中国経済は元切上げを許容するほどに安定し
 た段階ではないため、 中国は早期の改革に踏み切らないのではないか」という趣旨のことを
 書きました。その時は多分に直感的にそう思っていたことが、この本で具体的に示された気が
 します。

 もう一つ付け加えると、本来中国にとって元が(実質的)固定相場制度から脱却することには
 メリットもあるはずです。それは名実ともに「先進国リーグ」の一員となることです。
 GDPで表される経済規模がいかに大きくなり、米国の脅威となるほどの軍事大国として国連
 安保理の常任理事国の一角を占めていても、先進国と呼ばれることのない中国にとって、
 「柔軟な為替レート」は先進国の象徴の一つでしょう(日本のプレゼンスが高まらない一つの
 理由も、すぐに為替介入をするというイメージによるところがあると思います)。
 為替レートについて実際には動きを見せない中国が時折前向きな発言をするのは、時期が
 来れば実現したいという意向の表れであり、その反面動かないという現実は,残念ながら当
 分不可能だということを裏付けていると思います。日本は1976年に欧米先進国とともに変動
 相場制に移行しましたが、外為法が「原則自由」になる1980年までは数々の規制がありまし
 た。東京オリンピックから16年です。 韓国で為替レートの1日の変動幅制限が廃止されたの
 は1997年、ソウルオリンピックから9年経過していました。ただし韓国では現在でも外貨の持
 ち出し、持ち込みには制限があります。北京オリンピックは2008年、と言えば比較の目安と
 してまんざら外れていないと思いますがどうでしょうか。

 なお、今回ご紹介した書籍について、Amazon.co.jpにレビューを投稿しました。今回の
 内容とやや重複しますが興味のある方はごらんください。星5つ付けました。

2005年02月20日

                      第57回 

               円は当面循環要因に注意


                      
2005年02月20日
◆-----------------------------------------------------------

1.市場の動向:(2月18日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   105.61円(0.05円 ドル安円高)   

  ・ユーロ/円  138.01円(2.09円 ユーロ高円安)   

  ・ユーロ/ドル 1.3068ドル(0.0205ドル ユーロ高ドル安)    


2.今週のポイント

グリーンスパンFRB議長の2日間の(と言ってもほとんど同じことしか話しませんが)議会証言
も終わり、市場は若干ドル安、ただし円だけはドルに対しても軟調となりました。これは16日
に発表された昨年10-12月期のGDP成長率が前期比年率で0.1%のマイナスとなり、3期
連続のマイナス成長が市場の失望感を生んだためです。

グリーンスパン証言にほとんどサプライズはありませんでした。目に付いたのは「金利は低水
準にある」という見解を繰り返した点と、FOMC後の発表で必ず入っていた「慎重なペース」
で緩和を解除するという表現がなかった点でした。このためFRBは今後も毎回のFOMCで利
上げするという見方が強まっています。一方この証言で議長は日中を始めとする海外中央
銀行の米国債の大量保有について「米国の長期金利の上昇をわずかに抑える効果があっ
た」という認識を示し、そのため「外国が米国債の購入停止や売却に踏み切っても長期金利
わずかに押し上げるにすぎない」と述べたことも注目されます。むしろ米国債が「信用の
低下」のために売られることを懸念し、ブッシュ政権に対して財政赤字削減を求めるとともに、
そのために必要であれば増税も容認する立場を明らかにしました。

構造要因と循環要因

米ドルが下落したのは昨年末からのドルの大幅な上昇に対する調整が主で、他に目立った
理由は見当たりません。ユーロ/ドルの1.30という現在の水準を見ても、1月中旬から2月上
旬の中心レートといったところで,ここからグリーンスパン議長の「経常赤字縮小」発言でドル
高に向かったのでした。もちろん経常赤字の縮小はまだ実現したわけではありませんから、
先週の戻しは短期的に相場がいったん一巡したというところでしょう。

むしろこの局面で注目すべきなのは最初にもふれた円の動きです。GDPの発表前の予想は
若干のプラス成長でした。また国内のカネ余りが極限に達し、量的緩和不要論が高まってき
たこともあり、日本経済に変化の兆しを期待するムードができつつあったため、今回のマイナ
スが市場に与えた影響は大きかったようです。このように、今の円相場では日本の景気が注
目されています。14日に昨年12月の経常収支が発表され、経常黒字が前年比35.1%増加、
年間としても2年連続で最高値を更新しましたが、市場の目が違う方を向いていれば材料に
ならないということです。

昨年後半、誰もが米国の経常収支しか見ていなかった頃、「市場は循環要因よりも構造要
因に注目して動いている」というコメントを何度も目にしました。余談ですが「誰もが」というの
は「市場に影響力を持つどのプレーヤーも」という方が正確でしょう。そして「見ていなかった」
というのも、「見ようとしなかった」のだと思います。為替トレーダーにとって、材料がいくつもあ
ってはっきりしない相場ほど始末の悪いものはありません。できるだけ単純で、人が聞いたら
なるほどと思うような大きなテーマに安心して乗りたい、というのが正直なところです。構造要
因が大相場につながりやすいのは、そんな理由もあります。

話を戻して、循環論と構造論です。おさらいしておくと、循環論は基本的に景気に着目する
視点です。波の大小はありますが景気にはサイクルがあり、ある国の景気がそのサイクルの
どの局面にあり、その勢いはどうかということを判断して通貨の方向性を予測します。一方、構
造論は景気循環以外のもの(もちろん全てではありません)に着目します。ところで為替市場
で構造要因とされる代表的なものが米国の経常赤字です.これは国内の過剰消費体質によ
るもので、その傾向に特にサイクルがあるわけではありません。一方日本の経常黒字は高い
国内貯蓄率を背景としています.貯蓄率の高さはは多分に国民性によるものですが、最近
低下が目立ち、将来の成長に与える影響が懸念されるようになってきました。このように構造
要因も変化していくものですが、それには貯蓄率を下げている日本の高齢化のようにかなり
重大かつ長期間逆行性のない動きが必要なことが多いのです

ユーロが長期的に強くなるという見方も、構造論の一つと見ることができます。長期にわたっ
て続いたドル(米国)一極状態も、ニューヨークでのテロ事件が象徴するように絶対でなくなっ
てきました。一方統合欧州はGDPで米国に匹敵する経済圏を形成しつつあります。世界の
商取引における決済通貨として、さらに投資家や中央銀行の投資対象として、初めてドル
に匹敵する通貨が登場したことは、通貨統合が逆行する可能性が非常に低いことを考えて
もまさに構造的な変化と言えるものです。

当面の注目指標

そうした中で循環的要因が注目されている円相場では、次に注目しなければならないのは
28日に発表される1月の鉱工業生産指数です。この指標は比較的振れが大きいものの一つ
ですが、12月は前月比マイナス1.9%でした。昨年は3月から5月に連続して上昇した以外は
1年を通じてはっきりせず、10月から12月も下落と上昇を交互に記録しました。今週は23日に
1月の貿易収支が発表になりますが、表面の収支もさることながら、内需を反映する輸入の
動向が注目されます。

一方米国では21日に2月のコンファレンスボード消費者信頼感指数、23日に1月の消費者
物価指数の発表があります。FRBの今後の引き締めスタンスを予測する上で、物価動向は重
要ですが、食品、エネルギーを除くコア指数は前年同月比の伸びが若干加速すると見られ
ます。25日には昨年10-12月期のGDP改定値が発表され、速報値(3.1%上昇)よりも0.5〜
1ポイントの上方修正の予想です。こう見ると今週はドル/円が堅調地合い、ただし指標発表
後の反応は、ここまで織り込まれていることを割り引く必要があります。

「為替相場と付き合う方法」へ



                      第56回 

                  G7後を見通す上で

                      
2005年02月06日
◆-----------------------------------------------------------

1.市場の動向:(2月4日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   104.06円(0.78円 ドル高円安)   

  ・ユーロ/円  133.94円(0.77円 ユーロ安円高)   

  ・ユーロ/ドル 1.2864ドル(0.0178ドル ユーロ安ドル高)    


2.今週のポイント

2月第一週はイベント満載の週でした。米国で1、2両日にFOMC(連邦公開市場委員会)、2日
にはブッシュ大統領の一般教書、4日には1月の雇用統計、週末はG7と続き、市場は様子見
ムードが強まりました。FOMCにおける0.25%の利上げは市場の予想通りで、会議後の会見で
は「慎重なペースで利上げを進める」との方針が確認されました。

雇用統計は注目された非農業部門の雇用者数が14万6000人増加しました。20万人増との予
想を下回り、昨年12月の雇用者数の伸びも速報値よりも2万4000人下方修正されました。
しかし5ヵ月連続減少した製造業を除けば広範囲にわたって雇用が改善しており、失業率も
前月比0.2ポイント改善して5.2%となったことは、製造業の合理化によって景気が改善している
ことをうかがわせます。強弱どちらにもとれるこの数字に対して、市場は若干のドル売りで反
応しましたが、その後グリーンスパンFRB議長の予想外の発言で一転ドルが上昇しました。

グリーンスパン議長の発言は、米国の経常赤字と財政赤字が縮小する可能性があるという
ものでした。「ドル安という市場の圧力により赤字幅削減の時期が近づいている」、すなわち
ドル安により米国の輸出業者の利益が拡大する兆候があり、米国の輸出増加を通じて経常
赤字が長期的に削減されだろうということです。さらに注目すべき点は、「財政節度の復活な
ど市場の力とは別の要素が米国の経常赤字とそれに付随する資金需要を抑える方向に動
き出すように見える」という箇所です。一般教書でブッシュ米大統領が2009年までに財政赤
字を半減するとの方針を確認したことに呼応するもので、無秩序な赤字拡大への不安に対
し議長が側面から歯止めをかける結果になりました。

G7と人民元論議

注目のG7は現在進行中ですが、今回の会合に向けて当初は人民元の切上げあるいは変動
制への移行が重要な協議点の1つになるのではないかとの見方がありました。しかし1月後
半になると次第にその見方が後退し、やはり時間がかかるとの観測が優勢になりました。
為替レート全般に関しても、日米の当局関係者から「為替はボカラトンにおける認識と変わら
ない」との発言が先週も相次いだことから、大きな変更はないものと見られます。

人民元については非常に判断が難しいところです。というのは「元の切り上げまたは変動制
への移行」は本当に必要なのかを考え直す必要があるのではないかと思い始めたからです。
少なくとも「早期の変更(改革?)」に対して中国はもっと現実的な考え方をしており、それが
肯定と否定を繰り返すような発言につながっている可能性があります。もう少し考えがまとま
ってから次回以降に触れたいと思いますが、元の「通貨制度改革」は対米黒字の削減につ
ながらないという見方も実際にあります。もし中国がそのように考えているのであれば、今通
貨制度の改革を行うことは国内経済の混乱を招くという副作用が懸念されるだけで、メリット
はないと判断しても不思議ではありません。今回ロンドンに招待された中国人民銀行(中央
銀行)の周小川総裁は、ドルペッグ制の変更について「今はその時期ではない」と語っていま
す。

市場では「元切上げ必至。そして円高要因となる」という見解が多数派を占め、たびたび市場
を動かす材料となっています。しかし忘れてはならないと思うのは、そう遠くない過去でさえ人
民元の「切り下げ」が何度も話題になっていたということです。日本では考えられないことです
が、中国経済が好況か不況かを判断するGDP成長率の水準は、おおまかには「7%」というの
が一般的です。アジア通貨危機直後の98年は別としても、その後2001年にもこの水準を下回
った時期には元切り下げ観測が高まりました。このように元に対する見方は何かのきっかけ
で景気が悪化した時に劇的に変わる可能性があります。円やユーロ、ドルといった先進国通
貨と元を並べるには、あまりに安定性を欠いており、だからこそ事実上の固定相場にせざるを
得ないというのが元の実態だと私は考えています。

市場の軸足の置き場

不透明感の強い為替市場でで,比較的わかりやすいものの一つが金利動向です。米国はこ
れから1年を通して小刻みな利上げを行い、今回2.5%となったFFレートは3.5%までは上昇する
というのが市場のコンセンサスとなっています。これに対しユーロは年内利上げを行わず短
期金利は現在の2%にとどまると見られ、先日発表されたドイツの失業者数もそうした見方を
後押しするものでした。いわゆる高金利通貨であるオーストラリア・ドルやカナダ・ドルは利上
げがストップし、英ポンドも同様のため、金利面での米ドルの優位性が強まっています。

もう一つはっきりした傾向が続いているのが外国人の日本株購入意欲の強さですが、このこ
ととシカゴIMM先物で円の買い持ちが減少していることとを結びつけ、「外国人の円買いニー
ズは強く、為替ポジションの上でもその余力が回復している」とする見方があります。しかしこ
れはやや一面的な印象があります。要するに「ものは言いよう」ということで、買い持ちが減少
しているのは、そのリスクを避ける必要があるのではないかという見通しを反映しているため
で、円の長期金利が1.3%を割り込んでいる状況を見ればそう考えてもおかしくはない、という
ことも言えるはずです。

ここしばらくはこの金利と米国の財政を見ながら市場は動くのではないでしょうか。そして毎
月の貿易収支と証券投資動向に一喜一憂するという展開になると思います。日本の決算期
末に向けた例年の動きは例年2月中に大方終わってしまいますが、株価が比較的安定して
いることもあり、ことしは穏やかな様子です。

最後に、今朝の新聞に、長い目で見れば重要なニュースが載っていました。ロシアの中央銀
行が、ドルとユーロで構成する通貨バスケットを指標にして相場を管理する制度を今月から
正式に導入したというものです。バスケットの構成比は現在ドル9割、ユーロ1割とのことです
が、今回の発表はそれに応じた外貨準備の比率が当面満たされているということを反映して
いると思います。今後ユーロの比率を次第に上げていく方針というこの発表に市場がすぐに
ユーロ買いで反応するのか、これも当面の注目点だと思います。

「為替相場と付き合う方法」へ





                      第55回 

                大きな流れを忘れずに

                      
2005年01月23日
◆-----------------------------------------------------------

1.市場の動向:(1月21日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   102.63円(0.54円 ドル高円安)   

  ・ユーロ/円  133.89円(0.04円 ユーロ安円高)   

  ・ユーロ/ドル 1.3045ドル(0.0060ドル ユーロ安ドル高)    


2.今週のポイント

このところのマーケットは一言で言うと短期トレードには面白い相場だったと思います。
ドル/円だけ見ても年初第一週は104円台後半で引けましたが、そこから欧州中銀(ECB)の
イッシング理事が「欧州は為替調整(ドル安)の負担を十分に負っている。アジア諸国も負担
すべきだ」と発言したことからドルが円が買われました。さらにその翌日、昨年11月の米国の
貿易赤字が予想外の拡大(603億ドル)と発表されてドルが急落。先々週の週末をは さんで
ドル/円は一時101円台に下落しました。しかし先週は、11月に米国への証券投資が810億ド
ルの流入超過だったとの発表や、2月上旬のG7を控えて福井日銀総裁の「為替安定がG7
のコンセンサス」という発言でドル売りが弱まり再び103円台まで戻し、その後米国の景況感
にやや懸念という指数が続いて週末は102円台半ばという動きでした。


「1ユーロ=1.35ドル」水準の再認識

この間ユーロ/円は138円台から133円台、ユーロ/ドルも1.32台から1.29台まで動きましたが、
ユーロ圏通貨当局からの度重なるユーロ高牽制のために上値が重く、昨年末までの強い上
昇力はなくなっています。
ところでドル/円が100円に近づくと「介入」が話題になります。一方ユーロの売り介入というの
はあまり聞きませんが、実は1.35ドルという水準を意識している向きはあります。遙か昔(と言
ってもいいでしょう)、2003年8月からユーロは1.08ドルを底に上昇局面に入りました。1.2ドル
で一度跳ね返されながら、二段ロケットのようにその水準を破った12月、「ユーロ圏高官がユ
ーロ売り介入示唆」という見出しに市場は一瞬驚きました。しかしその次を見ると「ユーロが
1.35ドル程度まで上昇すれば」。天井はまだ遙か先と解釈した為替ディーラーはその後もユ
ーロを買い進めました。

昨年末の参加者の少ない市場で、ユーロは12月30日に1.3660ドルの高値に達し、翌31日に
1.33台まで急落しました。前回、マーケットは「双子の赤字」というテーマから逃げ出すきっか
けを探していると書きましたが、「ユーロ売り介入発言」の記憶はその一つだったかも知れま
せん。一年も前の発言を、とお考えかもしれませんが、刹那主義の代表選手のように見える
為替ディーラーにとって記憶力は非常に大切な資質の一つです。そして今回1.35ドルを超え
たところでユーロが反落したことにより、この水準はより強く意識されたと思います。

米国をめぐる投資フローの意義

昔話が長くなったので、残りのスペースは最近気がついた二つのことについて簡単にふれて
おきます。まず米国の経常赤字と証券フローとの関係です。前述の通り最新(と言っても11
月ですが)の統計では米国への証券フローは大きく増加しました。これは「経常赤字を海外
からの資本でファイナンスできない」という不安を緩和するものです。
しかし一方で「為替への影響を考えるなら、ヘッジ付き投資になることの多い債券を含む全
体の数字よりも株式投資フローに注目すべきだ」という意見も一部に見られます。たしかに
取引自体の性格としてはそうかもしれませんが、問題の本質を考えると、全体の数字の増
減の方に大きな意味があると考えるべきでしょう。為替への「直接の影響」という意味ならば、
むしろ規模としてより大きな日米間の貿易収支、つまり米国の対日赤字の推移に注目する
方が先ではないかと思います。

人民元改革

もう一つは人民元の改革、つまり対ドルペッグ制の行方に関することです。
来るG7を前に数々の観測が出ています。早くは2月G7で切上げへの道筋が示されるとい
うもの、年央説、年内説、また反対に慎重論もないわけではありません。また切上げまた
は何らかの変動制が円高・円安のどちらにはたらくかという議論も盛んです。

はっきり言えることは、何らかの変更が年内にあるだろうというコンセンサスに近いものをマ
ーケットがすでに持っており、その結果が現在のレートだということです。また、中国が国内
経済への配慮から大きな変更は望まないということも、その中に含まれています。従って、
よほど大幅な切上げでない限り、中国が実際に行動した時の反応は限られたものになるこ
とが予想されます。最初のパラグラフで触れたとおり、マーケットは双子の赤字だけでなく
米国の景況感にもそれなりの反応を示すようになってきています。また、米国の利上げ継
続スタンスがいっそう明らかになるにつれて、そのテーマ性も次第に増してきています。し
ばらくは、あまり細かいことは忘れて米国の景気とユーロ圏当局の通貨に対する姿勢を重
点的に見て行きたいと思います。






                      第54回 

                 新しいテーマを求めて

                      
2005年01月09日
◆-----------------------------------------------------------

1.市場の動向:(1月7日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   104.76円(2.06円 ドル高円安)   

  ・ユーロ/円  136.76円(2.21円 ユーロ安円高)   

  ・ユーロ/ドル 1.3052ドル(0.0480ドル ユーロ安ドル高)    


2.本年のポイント

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

昨年末のニューヨーク市場ではドル/円が月中の引けとしては最安値の102.70となり、11月末
の102.93を下回りました。この結果、前回(12月12日)ご紹介したドル/円の値動きパターンの
うち、第一番目の
 ◎ 9月〜11月の値動きの方向性が12月に引き継がれる
は昨年も実現したことになります。

二番目のパターンである
 ◎ 9月〜11月の値動きの方向性は翌年1月〜3月にも繰り返される
が今年の第1四半期にもあてはまれば、3月末のドル/円は102.70よりも円高、つまり100円をう
かがう展開になりますが、年初第一週の為替相場はドルがほぼ全面高で始まりました。ドル/
円は一時105円台まで上昇しましたが、一昨日(7日)に発表された米国の12月雇用統計が市
場の予想を下回ったことから104円台後半で終わりました。年明けのドルの戻しは対ユーロで
はさらに顕著です。年末には1.36ドル台(31日引けは1.3532)でしたが、年初からのドル買いユ
ーロ売りは雇用統計の後も止まらず、こちらはほぼ1.30ドル台半ばで週を終えました。

年の変わり目と同時に始まったドルの反転は、この一年間の方向性を示唆するのでしょうか。
 ◎ 3年間同じ方向が続いた翌年は反転
という前回の第三のパターンからはその通り、つまり今年はドル高と言うことになりますが、本
当にそうなのか、もう少しきちんと検討してみましょう。

「双子の赤字」のテーマ性

第一の注目点は、昨年後半のドル安傾向を支配した米国の「双子の赤字」への懸念が今年も
き相場のテーマであり続けるか、ということです。このページでも何度も指摘したように、昨年
の安局面では「双子の赤字」特に経常赤字の改善はドル安なしには実現しないという信念に
近いものが原動力となっていました。米国の経済が日欧を上回るスピードで成長しているとい
う指標が続いても、「それは為替相場にとって重要ではない。問題は経常赤字だ」という市場
関係者のコメントが新聞紙面に踊りました。相場はたしかにそういうものです。しかし誰もがそ
こから逃げ出すタイミングやきっかけを探していることも、一方では真実です。

「金利差」の影響

そのきっかけになることがあるのか、というのが第二の注目点です。その意味で、「金利差」が
今のところキーワードになりつつあります。米国の金融当局(FRB)が景気の着実な足取りを
背景に「慎重に」(0.25%ずつの小刻みな上げ幅で)しかし休まず(年8回開かれるFOMCで
ある時期までは毎回)利上げを続けるというのは、昨年のうちにすでに市場のコンセンサスに
なっていました。しかし1月4日に発表された12月FOMC議事録は、インフレを警戒するいわゆ
るタカ派理事の意見をかなり反映した内容でした。近い将来、状況によっては0.5%の利上げ
もあり得るという見方も出て、ドルが一気に押し戻される原因となりました。

すでに米欧間の短期金利の水準は逆転し、米国が上回っています。さらに日欧ともに今のと
ころ利の気配がないため、当分の間米国と日欧との短期金利差は拡大する方向にあります。
これは、その背景にある景気格差を市場が次のテーマにする可能性が以前よりも高くなって
いるということです。経常(貿易)収支以外の指標にも、これまでより注意する必要があります。

「ユーロ」の上昇力

昨年はドルが売られた結果円高にもなりましたが、ユーロはドルに代わる「第二の通貨」として
の期待もあり、対円でも市場最高値となる141円台をつけるなど円を上回る上昇を続けました。
ユーロが本格的な上昇を始めてから約3年になります。3年という期間は、ほぼあの「911」以降
と考えていいでしょう。あの事件以来、それまでの「有事のドル買い」は「有事のドル売り」に変
わり、ドルは必ずしも安全な資産ではないという認識が広がりました。ユーロ高とは、一時的で
ないいわば恒久的なドルからの分散対象を求める動きでした。その意味で、景気敏感株が上
下するような円の動きとは異なるものです。

従って、長期的にユーロが安定した通貨となることはほぼ間違いがないでしょう。しかしドル下
落の裏返しという面が強かった分、少なくとも上昇スピードという点でユーロの実力が過大評価
されてきたことは否定できないと思います。ユーロは依然として、ユーロ圏自身の要因よりも米
国及びドルの要因に左右される可能性が大きい通貨と考えられます。

米国財政健全化の重要性

そこで、やはり問題は米国と考える時、「ドル安容認」「ドル安放置」と見なされている政策に
ついて考えなければなりません。私はブッシュ政権の通貨政策とは「為替レートは市場が決
める」という発言を、額面通りにとらえるべきだと思います。要するに「何もしない」政策であり、
市場自身が判断して動くのならばドル安もドル高も容認するという姿勢です。

これは言い換えれば、経済面では内政第一ということです。そして為替への影響を考えた場
合、イラク戦争などで拡大した財政赤字の改善に真剣に取り組むことができるかが重要なポ
イントとなります。一般に財政赤字削減は行政サービスの縮小につながるため、国民の受け
が悪いものです。しかし昨年念願の再選を果たしたばかりのブッシュ大統領にとって、こうした
人気のない政策を実行するには今年が最大のチャンスであり、かなり思い切った赤字削減策
が今月の一般教書と予算教書で示される可能性があります。それによって「双子の赤字」の
一方に改善の道筋が示されれば、ドルに対する不安が弱まることになります。しかし反対に、
あまり説得力のない提案にとどまった場合、再びドル売りが加速するというリスクも、十分見
込んでおく必要があります。

円高圧力は春以降緩和

最後に、円について若干付け加えて今回の結びとします。政府による景気判断の下方修正
に見られる通り、足下の景気にはまだ不安があります。しかし一方で年末から株式市場が堅
調に推移し、海外投資家の買い越しも続いています。昨年後半、米欧の株価が上昇する局
面で日本の株価はあまり追随しなかったことに加え、前年同月比で見た鉱工業生産伸び率
が米国を上回ってきたこともあり、海外からの日本株買いは当面続きそうです。年度初来のド
ル高の勢いも7日の雇用統計でいったんスローダウンするものと見られ、むしろ年度末に向け
て円高になりやすい例年の値動きが2月頃から始まると思われます。

しかし一年を通して見ると、中国の為替制度に何らかの変更が行われる可能性が高く、これ
は円高要因としてよりも、むしろ円高圧力を緩和する方向に働くと見られます。これに加え今
回指摘したように日米金利差が拡大方向にあること、ドルに対する不安が昨年より弱まること
を考えると、4月以降は円高に歯止めがかかるという展開になりそうです。
「為替相場と付き合う方法」へ





                      第53回 

               読者の質問にお答えします。

                      
2004年12月26日
◆-----------------------------------------------------------

今回は読者からの質問にお答えします。

【質 問】

はじめまして。私は○○大学の学生です。国際通貨であるドルについて、通貨の交換性の自由
度、通貨の内外価値(国内価値・対外価値:為替相場)の安定度から、ドルがなぜ主要な国際
通貨であるのか教えてください。

【回 答】

ご質問ありがとうございました。学問的な回答をお求めなのか、一般的な話で良いのか,やや
判断しかねています。為替のコラムを書いていますが、学生時代に通貨や金融が専門だった
わけではありませんので、物足りない内容かもしれません。

ご存知の通り通貨には「支払い手段」「計算単位」「価値保蔵手段」という3つの機能があり、国
際通貨はこれらの機能を国を越えて果たすものです。その場合上記の3つの機能は,民間取
引と公的取引において、それぞれ

 支払い手段=取引通貨(民間),介入通貨(公的)
 計算単位=表示通貨(民),計算単位通貨(公)
 価値保蔵手段=資産通貨(民),準備通貨(公)

という形で利用されることになります.

国際通貨となる条件に明確な定義はありませんが、

 国際的に一般受領性を備えている
 通貨価値が安定している
 通貨発行国に発達した金融市場があり、その通貨での調達運用が容易

といったことが挙げられています。通貨が広く受け入れられることは,その国の世界経済に占
めるシェアが大きいことが背景となると思いますが、支払い手段として不可欠です。
また,安定した通貨価値は取引の際の価格表示通貨としての計算単位や資産通貨・準備通
貨として保蔵する上で重要になります。金融市場が発達し、居住者だけでなく非居住者にとっ
てもそのアクセスが容易なことは、通貨の3つの機能全てをより有効に発揮させるものです。

通貨の交換性の自由度と内外価値の安定度から、というご質問はこうした点をしっかり押さえ
ていて、やはりアカデミックな話かな、と若干不安になりますが、続けます。

ドルの危機や不安といったことが最近しばしば聞かれますが、通貨の交換性とという点に関す
る限り、そういった不安とは全く無縁と言えます。手元に数字がありませんが、世界の貿易に
おける決済通貨としてドルは最も大きな割合を占めています。アメリカの貿易額の世界全体に
占める比率は約2割で、これはほとんどがドル決済です。さらに日本対ヨーロッパ,日本対アジ
アといった米国とは関係のない取引でドルが多く使われています。また原油や金,その他国際
商品市場でも多くの場合価格はドル建てで表示され、その場合の決済もドルで行われることが
多くなります。こうした中で利用されるドルは米国の巨大かつ自由な金融市場・資本市場、さら
に国外のユーロ市場で調達・運用することができます。また、外国為替市場でのドルの地位は
それにも増して圧倒的で、為替取引の8割以上がドルを対価として行われています。

通貨の国内価値というご質問は,インフレに関することと解釈してお答えします。
アメリカでは1970年代半ばから80年代半ばを除き,消費者物価指数が5%未満の水準であり、
特に83年にグリーンスパンがFRB議長に就任してからは、安定した金融政策のもとで,低イン
フレと着実な経済成長を実現しています。

唯一、問題があるとすれば通貨の対外価値でしょう.これを為替レートと考えれば,確かにドル
はブレトン・ウッズ体制の崩壊後が下落し、対円レートを見ても半分以下です。しかしその間も
ドルが上記の通り最も重要な国際通貨として利用され続けているということは、通貨の機能の
中で,価値保蔵手段としてよりも支払い(交換)手段とての機能の方が重視されているという意
味だと思います。また、アメリカの金融・資本市場は短期金融市場でも証券取引所の時価総
額(株式・債券とも)でも日本や欧州を引き離しています。これは為替レートとは別の意味でド
ルの対外価値が依然として高いことを示していると思います。また、商取引にせよ運用・調達
にせよ、ある通貨を保有する強い動機があり、その通貨の下落リスクを考えるならば、先物予
約や通貨オプションなどでヘッジすることができます。このためドルが長期的に下落傾向にあ
ることは、直ちに「対外価値」の低下を意味するわけではありません。

先ほど、通貨の機能の中で支払い手段としての機能がより重要だと書きましたが、この機能
を高めるのは、その通貨を利用する意図を持つ人(経済主体)を増やせるかどうかにかかって
います。それは結局その国の経済規模や魅力的な投資機会を与える金融・資本市場の存在
ということになります。そしていったん国際通貨としての地位を確立すると、それ以外の通貨と
の地位の差は加速する傾向があり、いわば「慣性」によって国際通貨,あるいは基軸通貨とし
ての地位が高まります。

ドル以前の基軸通貨はポンドでした。19世紀半ばごろからイギリスは世界各国から原材料を
輸入し、工業製品を輸出することによってポンド建て貿易を進め、ポンドは基軸通貨になりま
した。ドルがこれに取って代わったのは、第二次大戦後に米国が唯一の経済大国となり、疲
弊した欧州や日本、さらに第三世界に対してドルによる資金援助を行ったことが非常に大きな
要因でした。言い換えれば,世界大戦のような大きな事件がなければ、国際通貨としての地
位はそう簡単に動かないということです。

最後に、ユーロについて少しふれておきます。EU諸国のGDPはアメリカの約7割でしょうか、
また世界貿易に占める比率も15%程度とこれもアメリカの4分の3程度になります。
今後もEUは拡大を続け、アメリカに匹敵する経済圏が形成される見込みです。それに向け、
非EU欧州諸国によるユーロの利用も拡大する方向にあり、通貨の利用動機という意味で、
ユーロはドルに並ぶ国際通貨となる可能性が十分あります。しかし,ポンドがドルに取って代
わられたようにドルがユーロに押されて衰退するということは、単に経済的な理由だけでは起
こり得ないと思います。

これで回答になったでしょうか。

今後とも,ご意見・ご質問は歓迎です。よろしくお願いいたします。
「為替相場と付き合う方法」へ

                      第52回 

                閑話休題 年末調整?

                      
2004年12月12日
◆-----------------------------------------------------------

1.市場の動向:(12月9日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   105.96円(2.77円 ドル高円安)   

  ・ユーロ/円  139.51円(2.16円 ユーロ高円安)   

  ・ユーロ/ドル 1.3166ドル(0.0289ドル ユーロ安ドル高)    


2.今週のポイント

先週後半は、ドル安がようやく一服しました。とは言え市場のドル先安感は根強く、コメントは概
ね「年末を控えたポジション調整でドルを買い戻す動きが強まり」と言ったトーンとなっています。

先週の前半までは、市場は米国の「双子の赤字」、特に経常赤字に改善の見通しが立たない
ことだけを見ていたと言っても過言ではありませんでした。予想を上回った米国の第3四半期
GDPや、トリシエ欧州中銀(ECB)総裁の度重なるユーロ高懸念発言に、市場はほとんど反応
なし。米国の経常赤字の増加は海外におけるドル余剰を増やし、慢性的なドル売り要因となる
こと、さらにこの赤字を解消するにはもはやドル安以外の手段はないとの見方が強まっている
ことが、その主な理由でした。

冒頭の「市場の動向」にもあるとおり、先週はドルが対円でも対ユーロでも反転しましたが、円は
対ドル、対ユーロの両方で円安となっており、先週は円が3通貨の中では最も弱かったことがわ
かります。実際、円安の材料は出ています。ドル/円が8日に102円台前半から急反発し、10日
に106.20まで急上昇するきっかけとなったのは、8日に発表された第3四半期のGDPが予想を
下回る1.2%の上昇(年率)にとどまったことだと言われています。さらに同日内閣府が発表した
11月の景気ウォッチャー調査では景況判断が下方修正され、9日に発表されたの10月の機械
受注は3.1%の下落と、円が売られて当然の懸念材料が続出しています。

過去の値動きパターンを振り返る

しかし、この2日間のドル高円安は本当にそのためだったのか、という半信半疑、それも「疑」の
方に傾いた見方から出た答えが、「年末のポジション調整」だと思います。しかしそれが正しい
としても、これで今年の相場はとりあえず終わり、何とか100円割れの不安から解放されて年を
越せる、と思うのはまだ早いのです。過去の値動きパターンはやや違った動きを示しています。

1994年から2003年まで毎年、9月から11月までの3ヶ月間のドル/円の騰落(11月末-8月末)
と12月中の騰落、さらに年初3ヵ月の騰落との関係を見ると、面白いことがわかります。

期間 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004
9-11月 -1.08 +4.58 +4.95 +6.90 -16.37 -7.57 +3.71 +4.69 +4.08 -7.29 -6.10
12月 +0.61 +1.47 +1.85 +2.73 -9.33 +0.36 +4.03 +8.18 -3.75 -2.41
翌1-3月 -13.03 +3.75 +8.09 +2.49 +5.30 +0.27 +11.92 +0.71 -0.70 -3.00


ご覧の通り、12月に先立つ3ヶ月間と、12月の値動きの方向性は、10年のうち7年まで同じと
なっています。つまり「年末のポジション調整」はその前3ヶ月間のトレンドに照らすと、あまり
信憑性がありません。月中どこかの時点で実際に起こったとしても、年末には再び同じ方向に
戻っているということです。

さらに、それに続く3ヶ月間の動きも同様に、10回中7回が9月から11月の3ヶ月間と同じ方向
であることがわかります。また方向が逆になった94年(12月)と99年(12月及び年初)はいずれ
も1円未満の僅かな騰落であることを見ると、9月から11月までの方向性は、翌年3月まで継続
する確率が高く、そうでなくても横ばいにで、逆転する確率は非常に低いことになります。

いつまでトレンドに乗り続けられるか

もちろん、過去の値動きが未来を予測するわけでないことは、よくご承知だと思います。無責任
を承知で続けると、別の値動きも観測できます。今度はいわゆる「年足」というものに着目すると、
1971年から昨年まで、年間でドル安(年初より年末の方がドル安)の年が3年続いたことが3回
(71-73年、76-78年、85-87年)あります。そしていずれの場合もその翌年は年間を通じて見
るとドルが上昇しています。反対にドル高の年が3年続いたことも1度(95-97年)ありますが、
その翌年はドル安でした。ここまでの2種類の値動きをそのまま当てはめると、12月から来年
第1四半期にかけて再びドル安円高が進み、その後来年中に反転して年末は年初よりもドル
がが上昇する、というシナリオとなります。

ここまでを見ると、もっとももらしくなってきました。これまで市場を支配していた経常赤字
シナリオも、いつまでも続くわけではありません。最近の円安のきっかけとされたGDPのような
景気要因だけでなく、ここ数日のドル回復には、高金利通貨の一つとされるカナダドルの金利
上昇局面が終わりつつある一方で、米国は金融引き締めを続けるという、金利要因だという
見方もあります。値動きパターン以上に移ろいやすいのは、人間の思考パターンかもしれません。
年明けはドル安再燃予測が強く、日本の期末が円高になりやすいといったもう一つのパターン
を考えると、もうしばらく今のドル安基調は続くかもしれません。ただし転機が訪れる可能性も
かなり高まっているように思います。






                      第51回 

             比較対照「1ドル=100円目前」

                      
2004年11月28日
◆-----------------------------------------------------------

1.市場の動向:(11月26日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   102.58円(0.51円 ドル安円高)   

  ・ユーロ/円  136.33円(2.10円 ユーロ高円安)   

  ・ユーロ/ドル 1.3292ドル(0.0271ドル ユーロ高ドル安)    


2.今週のポイント

ドル安がさらに進んでいます。

テーマは変わりません。米国の「双子の赤字」が以前にも増してクローズアップされてきました。
そして米国がドル安を放置するだろうという確信に近いものが、為替市場を動かす原動力です。
それを後押ししたのがグリーンスパンFRB議長の「経常赤字を考慮すると、ある時点でドル資産
への投資意欲が減退する」「大規模介入は一定の効果はあるが、為替相場に長期的な変化は
もたらさない」という発言でした。

今回の局面が「円高」というより明らかに「ドル安」であることは、上記のレート比較に見られると
おり、円がユーロにたいしてはむしろ下落していることにも反映されています。ドルに対する円
高が始まった10月上旬に比べ、円が上昇しているのは主要通貨ではニュージーランド・ドルに
対してだけで、他の先進国通貨に対して円は下落か横ばいとなっています。

米国景気の優位性と市場の不透明感

今回は若干時間が足りないこともあり、コメントは最小限にして、今年前半にドル/円が100円を
うかがう動きになった3月末付近と現状との類似点、相違点を対比してみます。自ずから何か示
唆する点があるかもしれません。

1.ドル安の主要ポイント

  3月 11月
米国経常収支 拡大 拡大
米国当局 ドル安容認 ドル安放置
米国への資金流入 安定 安定


まず、このドル安局面で注目されている点です。資金流入では海外の公的部門による国債購
入が話題になりますが、利用可能な最新の統計(9月分)までのデータでは、国債への流入は
むしろ減少しています。代わって海外投資家による米国の社債購入が、資金流入を支える傾
向が出ています。

2.ドル安への米国以外の姿勢

  3月 11月
欧州当局 ユーロ高懸念 まちまち(懸念あり)
日本当局 徹底介入 介入の構え
中国当局 元切上げに抵抗 元レート柔軟姿勢


105円に近づいてからの局面では、日本の介入不在がドル/円の売りを加速する原因となりま
した。しかし102円台ではさすがに警戒感が強まり、ドルがユーロなどに対し売られる局面でも、
ドル/円の動きは鈍くなっています。一方ユーロ圏からは、前回を上回るユーロ高局面の割に
は、不満の声ばかりではないようです。また中国の姿勢が軟化していることも要注目です。

3.金利動向

  3月 11月
ドル長期金利 急上昇(10年 4.3%) 横ばい(同 4.2%)
円長期金利 上昇(10年 1.4%) 軟調(同 1.4%)
ドル短期金利 超低金利継続(FF 1.0%) 引き締め(同 2.0%)
円短期金利 ゼロ金利 ゼロ金利


金利の動きは、個別に見ると円のゼロ金利以外は前回とやや異なる傾向があります。
しかし長期、短期に分けて日米金利差の傾向を見ると、長期はほぼ前回と同じですが、短期金
利差が拡大する方向にあります。。

4.株式市場等の動向

  3月 11月
米国株式 強い上昇(S&P 1126) 強い上昇(同 1182)
日本株式 上昇(TOPIX 1179) 軟調(同 1081)
ユーロ 下落(1.23ドル) 上昇(1.33ドル)
原油価格 上昇(WTI 35ドル) 上昇(同 49ドル)
金価格 上昇のピーク(420ドル) 上昇継続(450ドル)


株価動向の比較は米国優位です。しかし米株の上昇局面で海外からの購入額は減少しており、
為替要因としての比較はこの点を考慮する必要があります。

5.基軸通貨ドルの地位

  3月 11月
決済通貨 イラク原油ユーロ決済計画 ロシア原油ユーロ決済へ


2月に講演をした時、「基軸通貨」としてのドルの地位が米国の国力の重要な源泉の1つである
点を指摘しました。フセイン政権に対する米国の性急な攻撃につながったのは、実はフセイン
による原油代金のユーロによる決済という決定ではないかと、私は今でも考えています。
1週間ほど前に報道されたロシアの同様な方向性も、米国及びドルの地位を脅かすものですが、
ロシアに武力行使するわけにはいきません。従ってロシアがこれを実現させると、ドルの本当の
地盤沈下に向けた一歩となり、長期的には非常に大きな意味を持つことです。



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