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ワンポイント為替市場 (71-)
「二十一世紀に生き残る会」HPに寄稿の同名コラムを転載)


                      第80回 

                     休むも相場


                      
2006年4月2日
◆-----------------------------------------------------------

1.市場の動向:(3月31日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   117.76円(0.32円 ドル高円安)   

  ・ユーロ/円  142.61円(1.25円 ユーロ高円安)   

  ・ユーロ/ドル 1.2109ドル(0.0069ドル ユーロ高ドル安)    


2.今週のポイント

日本の決算期末である3月31日、為替市場は何の波乱もありませんでした。日本では金
融の量的緩和が解除され、米国では市場の予想通りの利上げが継続されたばかりで相場
に材料出尽くし感があったというのが大方の見方です。これで出尽くし感と言われてし
まうと、いかにも最近の為替市場は金利しか見ていないようです。日米欧の金利がすべ
て上昇に向かってはいるものの、市場のコンセンサスとしては今後年末までの上げ幅が
ユーロ(現在2.5%)及びドル(同4.75%)は0.5〜0.75%、ただしユーロは0.75%寄
りであるのに対しドルは0.5%寄り、一方日本は0.25〜0.5%かという状態です。

「円高要因3点セット」は十分か

市場が金利しか見ていない割りには、この環境で「円安」という声があまり聞こえて来
ません。1万7000円乗せした日経平均、1.7%台後半まで上昇した長期金利、今週短観
の発表を控えているとはいえそれすら強気予想が支配する景気への楽観視、といういわ
ば円高要因3点セットがそれを説明するのかもしれません。ただし、その説明の通りの
シナリオが今後実現するかは別の問題です。

現在日米の短期金利差はほぼ4.75%です。日本の金利が上昇すると言っても、最初に
触れた通りの日米金利の見通しであれば、年末になってもこの金利差は縮小しません。
それでもドルと円の魅力度が逆転し、ドルへの投資が円に大幅に振り替わるのでしょう
か。株価の見通しはたしかに強気かもしれません。しかし株価が上昇すれば、投資資金
はより大きめのリスクを取る余裕ができ、外貨を含む高リスク性資産への投資はむしろ
増やすことができます。

また、円の金利がまがりなりにも反転に向かい始めたため、これまでゼロ金利で円を
借り入れて外貨を買っていた、いわゆる「キャリー・トレード」のが終息に向かう、つ
まり円買いが起こるということを円先高の要因とする人もいます。しかし、ゼロ金利が
魅力的だったのは間違いないとしても、0.5%では魅力はないのでしょうか。投資対象
の外貨との金利差が縮まるわけではなく、海外株価もそれなりに堅調でも、円の金利が
ゼロでないというだけで円の借り入れによる投資が減退傾向に向かうとは思えません。

「高金利通貨」の暴落は特殊要因

うがった見方をすれば、解消が進んでいるのは日本の個人投資家の外為証拠金取引と
いう「疑似キャリートレード」でしょう。昨年の円安には、別名「マージンFX」と呼
ばれるこの取引がかなり影響したはずです。特に豪ドル、ニュージーランドドルとい
った「高金利通貨」でそれが顕著でした。外為取引業者も、「誰でもわかる為替投資」
(実際にそんな本があるか知りませんが)というような書物の著者も、昨年は揃って
「高金利通貨を買えば毎日金利差分の利益が発生します」と言っていました。それは
事実です。今ではかなり一般的になった日々の「スワップ」は、まさに円の借入れと
高金利通貨投資との金利差です。

日本の個人投資家は、GDPで日本の2%程度の規模しかないニュージーランドという
国の国債を買い、さらに証拠金の10倍が標準であるレバレッジを使ってその国の通貨
を買ってしまいました。これにはニュージーランドの首相が「我が国では日本の投資家
を満足させるだけの国債は発行していない」と表明するに至ったほどです。そしてそこ
からニュージーランドドルの暴落が始まりました。昨年の12月に87円だったのが、今
は70円そこそこです。

こういう通貨の例から円全体の「キャリートレード解消」を導くのは正しい議論では
ありません。残念ながらニュージーランドドルに投資したのは、運用難の下で突如ブー
ムになった為替取引に殺到したアマチュア投資家でした。彼らの多くは十分な情報も独
の判断根拠もなく、中にはリスクもよく理解せずにレバレッジを上げて「高金利通貨」を
買いました。その結果、小さな市場に自分で作ったバブルを、自分で壊してしまいまし
た。しかしドルやユーロの市場は、少なくとも日本の個人投資家がバブルを作れるほど
小さなマーケットではありません。そしてそこは、圧倒的にプロが支配するマーケット
です。今この動きにくいマーケットで、決して慌てる必要はありません。
「休むも相場」です。



                      第79回 

                  ドル下落の本当の背景


                      
2006年3月19日
◆-----------------------------------------------------------

1.市場の動向:(3月17日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   115.88円(3.13円 ドル安円高)   

  ・ユーロ/円  141.24円(0.51円 ユーロ高円安)   

  ・ユーロ/ドル 1.2186ドル(0.0276ドル ユーロ高ドル安)    


2.今週のポイント

1ヶ月ぶりの原稿を、久しぶりの115円台という水準を見ながら書いています。
レートでご覧の通り、先週は「ドル安」。ユーロと円の関係はほぼ横ばいでした。
特に週の後半になって、米国の利上げ観測の後退ということがドルの下落につながりま
した。金利という視点からこの動きを解くと、日本は量的金融緩和の解除を受けて長期
金利(10年もの国債利回り)が1.7%台まで上昇し、ユーロ圏でも最近の経済指標から
年内に政策金利(現在2.5%)が3.0〜3.25%まで上昇するとの強気な見方が出てきま
した。この中で「米国の金利先高観後退によるドル安」は、整合的な説明です。

イラク情勢の新展開

もっとも、金利先高観の後退といっても、足下の指標はそれほど悪くありません。17日
(金)に発表された2月の鉱工業生産指数、設備稼働率、3月のミシガン大学消費者マイ
ンド指数も、若干予想を下回るかほぼ予想通りで趨勢としての低下はみられません。こ
れから発表される日米欧の指標の出方1つで、どちらの方向の動きにもつながりますの
で、今は金利の読みによるドル安をあまり深追いすべきではないと思います。今週は20
日(月)にバーナンキFRB議長の講演もありますので、そちらも注目です。

むしろ気になるのは、ここにきて米国がイラクで大規模な軍事行動を開始したことです。
米軍650人とイラク軍800人の兵士が参加し、ヘリコプター50機を投入するという、イ
ク戦争後「最大規模の空挺作戦」は、米国政府の意図について様々な憶測を呼んでいま
すが、これが16日の市場でドル売り要因の1つとなったのは確かです。

ドルにとって最大のリスクは、米国への資金の流れが細ることです。しかし金利や景気
がその意味でのマイナス要因となる局面はしばらく来ないでしょう。2002年から2004
年まで丸3年続いたドルの下落局面は、2001年9月の同時多発テロによって米国に対す
る世界の目が大きく変わったことによるものだと思っています。かつて市場では「有事
のドル買い」と言われました。何か異変があっても、米国に資産を置いておけば安心だ
と皆が考えていたのです。それは米国に深刻な異変が起こらないということを前提とし
ていたために、911は世界の資金フローにとってそれ自体まさに大異変でした。今回の
イラク作戦に限らず、911以後はむしろ「有事のドル売り」が市場の暗黙の了解となっ
ているフシさえあります。

一方、14日に発表された昨年の米国経常赤字は、前年比で20.5%増の8049億ドルと
なり、4年連続で過去最大を更新すると共に、対GDPでの比率は6.4%に達しました。
この中で貿易赤字は前年比17.2%増の7236億ドルと、経常赤字全体の90%を占めて
います。米国内の低貯蓄率を背景とした旺盛な消費需要と、原油などエネルギー輸入
価格の上昇で貿易赤字が拡大を続ける中、十分な資金は流入するのでしょうか。

その中心となる米国への証券投資によるネットの流入額は、15日の発表では1月に660
億ドルでした。12月(538億ドル)に比べれば増加していますが、2ヶ月連続で同月の
貿易赤字を下回る流入額となっています。米国経常赤字のファイナンスがドルの生命線
である以上、この数字はドルにとってマイナスの材料です。昨年7月から11月までの月
間800〜1000億ドル台の流入超という貯金があるため、移動平均のような形で趨勢を
取ればまだかなり余裕はあると見ることもできますが、逃げ足の早い国際投資マネーは
テロや戦争に対し、特に米国が当事者となれば昔よりも遥かに敏感になっています。し
ばらくの間イランの核開発が注目された中東情勢ですが、やはり火種の残るイラク、そ
して今月28日に総選挙を行なうイスラエル情勢にも注意が必要です。

「為替相場と付き合う方法」へ

                      第78回 

                バーナンキのFRBがスタート


                      
2006年2月19日
◆-----------------------------------------------------------

1.市場の動向:(2月17日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   118.06円(0.18円 ドル高円安)   

  ・ユーロ/円  140.88円(0.55円 ユーロ高円安)   

  ・ユーロ/ドル 1.1933ドル(0.0030ドル ユーロ高ドル安)    


2.今週のポイント

やや落ち着いてきたのか、むしろ気迷い気味なのか、前週末と比べてほとんど変わらない
水準で先週が終わりました。上の週間比較だけ見ると若干の円安ですが、全体としては
円、ドル、ユーロの順に強いという流れの週でした。しかし金曜日に日本の昨年10-12
月期のGDPデフレーターのマイナス幅が拡大したと発表されたため、量的金融緩和の
早期開始への期待が後退し、円がやや売られたという展開でした。

2月15/16日のバーナンキ証言

先週の焦点は何と言ってもバーナンキ新FRB議長の初めての議会証言でした。結果的に
市場の反応は限定的でしたが、次のような点を明らかにしました。
 (1) 最近のFOMCの政策決定を支持し、グリーンスパン前議長の路線を継承する。
 (2) 景気は底堅さを維持している。
 (3) コア・インフレ率とインフレ期待は抑制されている。
 (4) しかし原油価格の高止まりや設備稼働率の上昇が物価上昇圧力を高める可能性がある

議長のインフレに対する警戒姿勢に、 次回3月28日のFOMCでの利上げは決定的との
予想が市場の大勢となり、さらに5月にも利上げとの意見も半数を超えるようになりまし
た。その割に為替がドル高に動かなかったのは、ちょうど原油価格が急落を続けていた時
の証言だったために、上の(4)がやや割り引いて解釈されたことも一因と思われます。

米国景気のサイクルはピークを超えたと見られていますが、それでも最近の指標を見る限
り依然として好調です。1月小売売上高は自動車を除くベースで前月比+2.2%と、1999
年以来の高水準でした。同月の鉱工業生産は前月比-0.2%でしたが設備稼働率が80.1%と
昨年中の78〜79%台から上昇し、製造業の活動は当面加速しそうです。また住宅関連も、
1月は住宅着工・建築許可ともに220万戸台と非常に高水準でした。

バーナンキ新議長がいわゆる「ハト派」か「タカ派」かという議論はまだあるようです。
ハト派論は、彼がデフレ研究の権威であり、FRB理事に就任した時(2002年)にも
金融緩和を提言した点を指摘します。一方タカ派論は、彼がインフレターゲットの導入
を主張し、先日の証言でもその必要性を認めた点に注目しています。FRBがインフレ
ファイターとなり、目標数値をしっかりとモニターするのは、まさに対インフレ強硬派
だというわけです。

いずれが正しいかは今後の政策運営や彼の発言で明らかになるでしょう。しかし今回の
証言内容は3月の利上げを確実にすることにより、当面の金利動向に不透明感を残さな
いという意味で、市場に一応の安心感を与えたようです。こうしてバーナンキ議長とド
ルが一つの関門をクリアし、市場は小康状態です。3月の期末に向けて日本の投資家が
動きにくくなり、ユーロは相変わらず影が薄い状況ながらユーロ/ドルで1.18ドル台の
チャートポイントでは必ず持ちこたえるというやや不気味な静寂です。全体として動き
難くなる中、短期的な波乱要因として、先頃『ニューヨーク・タイムズ』が暴露したブ
ッシュ政権の盗聴プロジェクト疑惑の動向あたりに注目した方がいいかもしれません。

「為替相場と付き合う方法」へ

                      第77回 

               再開した「株高・円安」蜜月の行方


                      
2006年2月5日
◆-----------------------------------------------------------

1.市場の動向:(2月3日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   118.89円(1.64円 ドル高円安)   

  ・ユーロ/円  142.97円(1.05円 ユーロ高円安)   

  ・ユーロ/ドル 1.2021ドル(0.0075ドル ユーロ安ドル高)    


2.今週のポイント

前回(1月22日)「円高・株高」の大合唱は本当に大丈夫?という疑問を投げかけてみま
したが、先週はそうした見直しが入ったような動きでした。1月31日のFOMCでフェデラ
ルファンド金利が0.25%引き上げられて4.5%になったのは100%予想通りでしたが、2
日に発表された昨年第4四半期米国の労働生産性が、2001年第1四半期以来初めて低下
する一方、単位当たり労働コストが大幅に上昇したため、FRBはインフレ懸念から引締め
の手を緩められないとの認識が広がりました。このため次回3月のFOMCでFRBが利上げ
をするとの予想は、先々週の50%割れの状態から一気に80%超まで上昇しています。こ
れを反映して市場はドル買いが優勢となり、3日(金)の海外市場では、ドル/円が一時
119円台まで上昇しました。

こうした中でも先週の東京株式市場は上昇し、金曜日には若干反落したものの、木曜日に
は約5年5ヶ月ぶりに1万6700円台に乗せました。昨年後半に見られた「株高・円安」が
復活した形です。

為替と株価に対する視点

為替レート(ここではドル/円を考えますが)と株価の関係は、株式市場を見ている方な
らば「円安・株高」に違和感がないでしょう。新聞の株式市況欄の日々の解説でも「円安
好感」という文字が一つの決まり文句になっています。国際的にもプレゼンスの高いトヨ
タやキヤノンといった代表的企業にとって円安は増益要因になり、仕入れ企業などを通じ
て日本経済の隅々に与えるプラスの影響も大きいという発想です。

このように株式市場では為替が株価に与える影響という観点から考えますが、為替市場で
は方向が逆になります。日本の株価が上昇し、特に海外からの対日株式投資が活発化して
いる場合、株の購入に伴う円買い需要から、ドル/円は円高方向に向かうと一般には考え
ます。また実際過去の動きを見ても、特に日本の景気回復期に株価が上昇している局面
では、ほとんどといっていいほど円高が進行していました。

昨年後半の日本の株高の一因が海外からの旺盛な買いであったことは、統計によっても裏
付けられています。東証の統計によれば、昨年1年間の外国人投資家による日本株への
投資額は10兆3000億円に上り、過去最高だった1999年の9兆1000億円を大きく上回
りました。こうした事実にも関わらず、過去の経験則どおりに円高とならない理由とし
て、外国人投資家が株を買うための円を買わず、ゼロ金利政策下の低コストで借り入れ
ていというためだということが指摘されています。

もちろんこれは、株高が円買いを伴わないために円高要因にならなかったというだけで、
円安(またはドル高)要因が他にあったということです。例えば個人投資家の動向はマ
ージンFXや投信を通じて無視できない規模になりました。また機関投資家の外債投資も
基本的にはヘッジ付きが多いとは言え、日米長期金利差が3%近くなると為替オープン
(ヘッジなし)の部分を増やす傾向があるため、財務省の対内対外証券投資統計に見ら
る外債の大幅買越し傾向(ただし最近2週間は連続して売越しですが)も、ドル買いに
つながっていたと思います。

株価はいつまでも円相場のカヤの外か

では、これからも為替と株の関係は「為替→株価」の一方通行で、株価動向は為替の参
考にならないのでしょうか。日本の景気回復と低金利の継続を考えると、株価は今後も
堅調でしょう。現在4.5%である短期金利差が縮小するのは来年以降でしょうから、そ
の意味ではドル/円の基調も安定すると予想しますが、まずバーナンキ新FRB議長に対
して市場が見極めたいという雰囲気に加え、年後半には中間選挙がらみの政治的な動き
も予想され、ドルに昨年のような勢いはなくなってきます。

こうして円のドルに対する相対的な魅力度が高まる条件が出てくると、株式投資も円買
いを伴う動きが増加することになるでしょう。そのあたりの綱引きによって、今年は昨
年に比べ、全体的な値幅が小さい中で短期的な値動きが速いという、神経質な展開が続
くのではないかと思います。言葉は悪いですが、イケイケ風の「株高・円高」の大合唱
には当然与しないとしても、外人の日本株への関心が高い中での「株高・円安」もやは
り不自然だと思います。

「為替相場と付き合う方法」へ

                      第76回 

                  1月の円高は「新局面」か?


                      
2006年1月22日
◆-----------------------------------------------------------

1.市場の動向:(1月20日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   115.28円(0.99円 ドル高円安)   

  ・ユーロ/円  139.91円(1.21円 ユーロ高円安)   

  ・ユーロ/ドル 1.2134ドル(0.0003ドル ユーロ安ドル高)    


2.今週のポイント

最近の話題といえば何と言ってもライブドアで、株式市場には激震が走りましたが、為替
市場はすでに年明けからずいぶん動いていました。主に円高方向です。年末は118円がら
みで終了しましたが、12日には113.40までドル安円高が進み、先週は115円台まで若干
戻したというところでした。

最大の原因は、米国の利上げサイクルが昨年の第4四半期に考えられていたよりも早めに
終了するのではないかという見方が出てきたことです。3日に公表された12月13日の米
連邦公開市場委員会(FOMC)議事録に、「今後必要となる追加的な引き締めの回数は
多くないだろう」という表現がありました。市場は次回1月31日のFOMCでの0.25%
利上げが最後となる可能性が高いと解釈しました。

12月11日のこの欄で、「誰も円を買いたがらず、円を買わなければ儲かるという相場は
いつまで持続できるのか」という疑問を提示していたように、これ自体はそれほど驚くこ
とではありません。また、円高が進み始めると同時に、各方面のコメントに「経常赤字」
の文字が目立ち始めました。これも同じ回で指摘した通りです。ではもう相場は変わった
のかというと、そうではないと思います。

金利差は当面さらに拡大する

米国の経常赤字くらい、規模の点でも対GDP比率で見ても大きくなると、市場の話題に
なろうがなるまいが、間違いなくドル売り要因です。このことは恐らく何度もここで言っ
てきたと思います。ドルが売られない、あるいは買われる時というのは、経常赤字のドル
売り要因を上回るドル買いをもたらすような材料があるということです。昨年はそれが米
国と日欧の金利差、そしてその拡大傾向でした。では1月3日のFOMC後のFRBのコメ
ントによってそれが変わるでしょうか。米国は少なくともあと1回の利上げが確実です。
経済指標が減速しているわけではなく、仮に今後予想以上の強い数字が出ればさらなる利
上げの可能性も同様にあると考えなければなりません。

追加的な引き締めの回数が多くないだろうという見方の背景には、長期金利の頭の重さに
反映されているインフレの落ち着きがあります。しかし可能性は少なくとも五分五分程度
と見るべきでしょう。それに対して先日0.25%の利上げをした欧州中銀(ECB)が、早
期の再利上げ、さらに追加利上げに向かう可能性が50%あるでしょうか。ECBは独立と
は言え、欧州各国の政府筋の利上げ時期尚早論はかなり強いものがあります。12月のドイ
ツIfo景況感指数は2ヵ月ぶりに上昇すると同時に予想を上回るものでしたが、このような
景気の裏付けがあるか、ECBの(ドイツ中銀以来の)伝統的な政策指標であるインフレ懸
念がより顕在化しないと利上げは難しそうです。一方日本の利上げへの転換がさらに遠
い話であることは言うまでもありません。日欧・日米の金利差は当面さらに拡大します。

対米資本フローは依然として続いている

このコラムで何度も書いてきましたが、膨大な経常赤字からアメリカを救っているのが
海外からの資本流入です。昨年は長期金利の安定をもたらした一因である海外からの米国
債投資を中心に、資本流入は経常赤字がドル売り要因化するのを抑えてきました。米国財
務省の発表する対内対外証券投資のデータは、10月に過去最大となる1042億ドルの流入
超で、1000億ドル超が2ヵ月連続という好調さでした。1月始めに俄然息を吹き返した
いわゆる「円高論者」の中には、この数字が今後悪化すれば円高に弾みがつくと期待した
向きがありました。しかし1月18日に発表された11月の数字は、10月を下回ったものの
市場予想を上回る891億ドルの流入超となりました。引き続き好調な債券投資を中心とし
たこの数字を見て、ドルはその後115円台で落ち着きを取り戻したようです。

毎日新聞社『エコノミスト』誌1月17日号は「為替 新局面」と題して「株高・円高」
の大合唱を掲載しました。今回はこれに対する若干の疑問もこめて書いていますが、だか
らと言って今後も「金利に引かれたドル高」が続くと考えているわけではありません。そ
れは2回前にお話しした通り、昨年の相場の主役だった「金利」が、その地位から下りる
可能性を想定しているからです。次の主役が何になるかを探るためには、差し当たり日本
の株式市場とそこにおける海外資金の動向、そして目立たないながらも徐々に変革を開始
した人民元の動向という2つの要因の検証が必要となりそうです。次回以降はそのあたり
に注目したいと思います。

「為替相場と付き合う方法」へ

                      第75回 

                2006年の展望(ゆく年来る年:下)


                      
2006年1月1日
◆-----------------------------------------------------------

1.市場の動向:(12月30日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   117.80円(1.62円 ドル高円安)   

  ・ユーロ/円  139.55円(1.60円 ユーロ高円安)   

  ・ユーロ/ドル 1.1845ドル(0.0027ドル ユーロ安ドル高)    


2.今年のポイント

あけましておめでとうございます。

平成14年10月13日にスタートしたこのコラムも、4回目の新年を迎えました。
本年もよろしくお願い致します。
前回、昨年の為替市場を次のように振り返りました。

 1.相場のテーマが米国の「双子の赤字」から「金利」に転換
 2.人民元切上げ
 3.原油・金価格の上昇
 4.再びドルの陰に隠れたユーロ
 5.「景気回復・株高下の円安」というねじれの構造

こうしたことを持ち越して始まる新しい1年を展望してみると、次のような注目イベン トがあります。

 (1)バーナンキ新FRB議長の就任(2月)
 (2)日銀のゼロ金利解除(年央以降?)
 (3)小泉首相退陣(9月)
 (4)米国中間選挙(11月)

日米金利と新FRB議長の就任

まず金利です。為替市場が金利だけに注目し続けるなら、少なくとも今年前半の勝負は
ついています。ドル高円安です。バーナンキ新議長の下でもFF(フェデラルファンド)
金利はあと2回、幅にして0.5%は上昇する見込みです。これに対してようやく量的緩
和解除が新年度入り頃というスケジュールが具体化しつつある段階なのが日本です。ゼ
ロ金利解除はその後慎重に状況を見守ってから、今年後半のいずれかの時期になると見
られています。従ってこれから半年の間に日米金利差はあと0.5%は拡大します。

2月に就任するバーナンキ新議長を待っているのは、まだ顕在化していないインフレの
影です。WTI先物で1バレル=60ドル台という原油価格は、上昇し始めた頃の大方
の見通しに反して、新たな落ち着きどころとして意識されてきました。特に、急成長を
続けながら驚くほどエネルギー効率の悪い中国の存在によって、原油の需要が引き続き
高水準を保つことになるためです。グリーンスパン現FRB議長が「不可解」と言った
米国長期金利の安定をもたらした一つの原因は、インフレに対する市場の楽観でした。
原油価格の高止まりがインフレ圧力となり、長期金利が上昇を始めた場合、今は日本よ
りも米国にとって、不動産バブルの崩壊も含め深刻な状況をもたらす恐れがあります。

新議長がこうした状況にどう対応するかは未知数です。デフレ研究の権威であり、当面
は現行政策を継承するという新議長の就任前に、米国の経済指標はハリケーンの影響を
見事に克服し、このところ非常に好調です。これから2ヵ月の経済指標、特に物価関連
関連指標の動向次第では、就任直後から新議長の発言は大きな注目を集め、金融市場は
優れた学者である彼の実務的な対応能力をテストすることになるでしょう。

中間選挙に向けて米経常赤字に再び焦点

先日ブッシュ米大統領が「対イラク開戦の根拠とした情報に誤りがあった」と認める発
言を行ないました。これは、いよいよ米国が今年11月に向けて選挙モード入りしたこ
とを表しています。再選を果たしたブッシュ大統領自身にはもう次の選挙はありません。
重要なのは今年の中間選挙での共和党の勝利と、2年後の大統領選挙で共和党候補者を
勝たせる環境を用意することです。そのためにまず、国民の間にも疑問の声が高まって
いたイラク戦争を選挙の悪材料にしないことが重要だという判断でしょう。

それからしばらくして、米国の経常赤字が史上最高を更新したことが発表されたのを受
け、チェイニー副大統領が「米国はブッシュ大統領の任期切れまでに経常赤字を半減さ
せる」と発言しました。市場はこの発言にすぐに反応していませんが、副大統領、つま
り現政権の公約とも言えるこの発言が今後2度の選挙を縛ることは当然です。米国の経
常赤字肥大化の本当の原因が米国の過剰消費体質にあることはわかっていても、選挙に
向けた有効な赤字解消策は「為替」です。つまり、まず米国にとって最大の貿易赤字国
相手国である中国、そして今はトップから降りたとは言え、日本に対しても「内需拡大、
適正な為替レート」という要求が高まって行くことでしょう。それとともに、定期的に
発表される経常収支、貿易収支の動向に再び注目が集まっていくと思われます。

株高円安の落とし穴

こうした中で、私が繰り返し「ねじれ」と呼んでいる日本の景気回復化、株高、円安と
いう傾向はどうなるのでしょうか。日銀の慎重なスタンスからは、前回金融緩和時期を
急いだような失敗はなさそうです。景気は回復基調を続けるという見方は、恐らく正し
いと思います。株価もそれに応じて当面は強気が支配する相場展開になりそうです。そ
して株価上昇によってリスク許容度の上がった資金が為替リスクを取って海外資産に向
かうというサイクルは、今年第1四半期くらいは継続するでしょう。

しかしこの動きにも落とし穴があります。それは、海外への投資の背景に、日本政府が
円安を容認するだろうという暗黙の前提があることです。もちろん「円安が悪い」とい
う発言は今のところ聞かれません。しかしドル/円が120円を超えた時の動きに対し、
「急激な変動」に言及する発言が久々にありました。これは対外的配慮としてだけでな
く、今回の景気回復局面で日本のGDPに占める外需貢献度が低下していることを考え
ると、この発言は重みをましてきます。つまり、内需主導の景気回復、それは米国始め
海外諸国の利益にもなることですが、その場合は行き過ぎた円安は有害であるためです。
介入は円売りだけではありません。

「円安」過信は禁物

こうしたことに注目すると、日米金利差、米国景気の好調さ、そして前回触れたオイル
マネーを始めとする国際投資資金の米国に対する安心感から、ドル高円安傾向は今年第
1四半期の間は続き、ドル/円が再び120円超え、さらに125円を目指す展開が予
想されます。一方米国の住宅市況のリスクが強く意識される時期は読み難いところがあ
りますが、市場関係者の心中にはすでに爆弾として頭をもたげています。また、中国の
対米黒字が高水準を保つ中で、昨年「自由化」したはずの元が年末までに僅か0.5%し
か上昇していないことが政治的に利用され、ドル安につながりやすく、それは同時に円。
が買われる局面ももたらすことになります。

したがって、今のドル高円安が今年を通じたトレンドになることはないと思います。米
国景気が急に息切れする可能性は低く、ドルの堅調感は失われないものの、中間選挙に
向けて、「為替」は共和党・民主党ともに責任を外国に転嫁できる恰好の武器になりや
すいということが、今年は重要なポイントになりそうです。さらに、日本サイドでも円
安を無条件に歓迎しない可能性があるため、円安に歯止めがかかるリスクを、今年はよ
り多めに見積もる必要があります。なお、外国から受けのいい小泉首相が退陣すること
は、後任についての観測が相場の材料となる場面があるかもしれません。

「為替相場と付き合う方法」へ


                      第74回 

                   ゆく年来る年(上)


                      
2005年12月11日
◆-----------------------------------------------------------

1.市場の動向:(12月9日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   120.66円(0.09円 ドル高円安)   

  ・ユーロ/円  142.49円(1.20円 ユーロ高円安)   

  ・ユーロ/ドル 1.1807ドル(0.0092ドル ユーロ高ドル安)    


2.先週の動き

先週1週間を見ると、主要3通貨の強さはユーロ、ドル、円の順番でした。ユーロ/ドルが
発足時の水準である1.17ドル付近の攻防を今回は何とかしのぎ、1.18ドルまで押し戻し
たというところです。しかしこの1年間、ユーロは対ドルでは下落を続けました。そして
ドル/円も同様に年初の101円台からドルがほとんど一本調子に上昇し、120円台を達成。
ユーロ/円は136円を挟んで行ったり来たりを続けましたが、ここにきて140円を上抜け
し、142円台で週末に入りました。

12月はまだ前半ですが、為替市場はそろそろクリスマスモードに入っています。そこで
今回はこの1年を振り返ることにします。次回は恐らく年初第1回になると思いますが、
そこで2006年を展望します。少し間が空きますが、2回シリーズとしてお読み下さい。

3.2005年のポイントを振り返る

2005年は米国の「双子の赤字」にあけくれた前年から「金利」にはっきりテーマが転
換した年でした。特に年後半は、FOMCのたびの米国の金融引き締めが市場の前提とな
り、日欧との金利差拡大傾向が鮮明になるとともにドルの上昇が加速しました。現実に
はその間も米国の経常赤字は増え続けましたが、市場の関心は(少なくとも表面上は)
昨年とは全く違い、すっかり薄れてしまいました。米国の経常赤字や双子の赤字は、市
場のプロがそれを話題にして動いている間だけ、我々は注目すればいいのです。そうで
ない時は、間違っても「べき」論で相場を先取りしようとは考えないことです。欧州中
銀(ECB)が利上げを行い、日銀の量的緩和解除への論議もにぎやかになってきました。
しかし今のところ、欧州が利上げサイクルに入るのかはまだ不透明です。また日銀もゼ
ロ金利の解除は別だという立場を表明しており、日欧よりも米国の追加利上げの方がは
るかに確率が高い、というシナリオのまま年を終えようとしています。

次に大きなテーマとなったのは中国の人民元の動向でした。スノー財務長官をはじめ、
米国からの度重なる要求(口先介入?)を経て、この夏ついに人民元の対米ドルペッグ
制が形の上では廃止されました。しかし実態は、中国当局が依然として介入を続けてい
るため、元はお世辞にも自由に変動しているとは言えません。従って、米国にとって最
大の貿易赤字を生み出している中国との収支バランスの改善は進む兆しがありません。
つまり「経常赤字」は、来年どこかの時期に大きなテーマになる可能性があります。

《原油と金》

今年大きな動きを見せたのは商品市場でした。特に注目されたのが原油価格と金価格の
上昇です。原油価格はWTI(ウェスト・テキサス・インターミディエイト)先物が史上
初めて70ドル台に乗せました。一方金価格も第4四半期に入っての急騰で、500ドルの
大台を実に18年ぶりに回復。来年は550ドルという強気の見方が出ているほどです。W
TIは実需を正確に反映しないヘッジファンドのマネーゲーム、と訝しがられているうち
に、相次ぐハリケーン被害によって、実は米国の精製設備が老朽化して心もとないこと
が明らかになりました。高値からは下落しているものの、景気の回復ペースに対して供
給が追いつかないとの懸念と、冬になってヒーティングオイルの需要期に入っているこ
とにより、1バレル=60ドル付近からは下げ渋るという相場観が形成されています。

金価格の上昇にはいくつかの要因がありますが、原油価格高騰の副産物という側面を見
逃すことはできません。長い間、金と米ドルの価格には逆相関の関係があると言われて
来ましたが、このところのドル上昇下の金価格上昇で、その関係が崩れています。この
一因が、原油価格上昇で大量の余裕資金を手に入れた中東産油国の投資マネーです。オ
イルマネーの代表格であるサウジ通貨庁(中央銀行)の外国証券投資額は昨年の2倍以
上に増加していますが、その中心が米国債であることが知られています。同時に、ペー
パーマネーへの集中を避けるために、金市場にも大量の資金を振り向けています。この
ように、今の金相場の動向は特異なものであるため、この傾向が続くかどうかは、金の
需給以外に原油やドルといった、他市場の動向に注意して判断する必要があります。

《ユーロと円》

ペーパーマネーと言えば、昨年は弱いドルに代替する通貨としての地位確立が期待され
たユーロですが、今年は大きく後退しました。基本的には「ドル復権」の裏返しだと考
えられます。以前も述べた通り、ユーロは通貨としてまだドルの影に隠れている段階で、
ドルの悪材料が少ない時に進んで買われるほど、ドルと肩を並べる地位にはないという
ことです。象徴的だったのが、5月にフランスが欧州憲法の批准に失敗したことでした。
ユーロ圏の経済規模が米国をしのいだとしても、それは欧州が一枚岩であればこそ米国
やドルの真の対抗勢力になるはずでした。ところが、中心国フランスが政治統合にブレ
ーキをかけてしまったために、その影響は尾を引きました。1999年の導入時とほぼ同じ
という今の水準は、こうした経緯のあとだけにユーロには正念場です。次の動きが非常
に注目され、来年前半の大きなテーマになるかもしれません。

そして最後に円です。景気回復、株高、なのに円安という流れが続いています。先のオ
イルマネーを始めとして、海外からの投資資金も活発に流入しながらの円安です。私
自身、年初には金利相場下のドル高を予想しましたが、政権安定まで含めこれだけ円
にポジティブな条件がそろっての円安は予想外でした。しかしこの現状を説明するキ
ーワードはやはり「金利相場」です。10年もの国債利回りは上昇したといっても1.5
%台。ゼロ金利解除もまだ先のこととあって、対日株式投資も円買いではなく円の借
り入れが原資だとたびたび報道されています。反対に日本の投資家は、個人も含め活
な円売り外貨買いによる外国証券投資、さらに急拡大するマージンFXでの円売りで、
今の円安の大きな原動力となりました。

結局、ユーロが対ドルで約14%下落しても、円はそのユーロに対しても約7%下落と、
ドルの独歩高と同時に円の独歩安という一年でした。円に対する投資環境が改善して
いる中で、誰も円を買いたがらず、円を買わなければ儲かるという相場は、いつまで
持続できるのでしょうか。このいびつさをもたらしている金利環境が変わるのか、ま
たは米国の経常収支のように忘れられるのか、その時何がテーマになるのか、そのあ
たりが来年を見通す上でのポイントではないかと思います。(次回に続く)

「為替相場と付き合う方法」へ



                      第73回 

                 みんなで渡るとこわくなる


                      
2005年11月13日
◆-----------------------------------------------------------

1.市場の動向:(11月11日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   118.01円(0.28円 ドル安円高)   

  ・ユーロ/円  138.29円(1.09円 ユーロ安円高)   

  ・ユーロ/ドル 1.1716ドル(0.0099ドル ユーロ安ドル高)    


2.先週の動き

前回(10月2日)から1ヵ月以上空いてしまいました。まだ当分の間、従来のような隔週
ペースで書くのは難しそうですが、忘れられない程度には何かお伝えするつもりです。し
かし前回「もうしばらくの間、日本の株価は忘れて為替を見る方がよさそうです」と書い
た状況が続いているところを見ると、案外このくらいの間隔の方が冷静に相場を見られる
ということかもしれません。

市場が依然として米国の金融引き締め継続とそれによる日米・米欧の金利差に注目してい
る状況に変わりはありません。それどころかFRBのフェデラルファンド(FF)金利誘導目
標に関する市場のコンセンサスは上ぶれしており、最新の調査では来年6月までに4.75%
が大勢となってきました。現状の水準から0.75%の上昇です。日本の量的緩和解消がいよ
いよ現実味を帯びてきたといっても、ゼロ金利からの脱却、金利上昇ペースの加速までの
シナリオは描けていません。また欧州ではECBが「利上げはいつでも可能」との姿勢を見
せているのに対し、先日の財務相会合では、性急な利上げを牽制する発言が相次ぎました。
金利差シナリオは、まだ魅力があるように見えます。

3.今週のポイント

市場のドル高志向は、10日に発表された米国貿易収支への反応で一層明確になりました。
同月の貿易赤字額は661億ドル余り。単月ベースでは史上最大の上、市場のコンセンサ
ス(約610億ドル)に比べてもかなり悪い数字でした。しかし結果的にこの日もドルは
下がらず、貿易赤字の拡大は無視された形となりました。むしろセントルイス連銀のプ
ール総裁が米国の経常赤字について、「主に、米経済そのものの構造的不均衡ではなく
海外勢による米資産への需要」によるもので、それは世界経済において米国金融市場が
「中心的役割」を果たしていることを反映している、と述べたことに安堵した感があり
ます。

しかしドルに死角はないのでしょうか。どうもこのマーケットは、やや危険なところ
に来ているのではないかと思います。プール総裁の発言と同じ日に、クリーブランド連
銀のビアナルト総裁は、金利上昇への消費者の対応について、これまでは負債が増え続
けるのに対し「より低い金利の融資に借り換えるなど非常に熱心に取り組んできた」と
認める一方で、今後については「環境が変化する今、我々は引き続きこの状況を注視し
ていくべきだ」と、資産バブルに対する警戒感を示しました。

決して知らないわけではない、米経済のこうしたリスクから目をそらし、あえて金利
だけを見ているかのような為替マーケットの様子を反映することがもう一つあります。
先日、グリーンスパンFRB議長の後任にバーナンキCEA(大統領経済諮問委員会)委員
長が決定しました。驚いたのはその後、「バーナンキは少なくとも当面タカ派的な金融
政策をとるだろう」という見方が出てきたことです。

FRBがインフレ懸念を隠していない以上、政策の継続性という点ではそういう考えも
決して矛盾はありません。しかしバーナンキ氏が数名の候補の一人だった時は、その中
の比較で彼はハト派と位置づけられていました。事実、彼はデフレの研究で有名な学者
で、現在のFOMCを構成する19名の中でも、グラムリッチ理事に次ぐハト派と言われて
います。それが就任したとたんに逆の評価がでてくるというのは、「最初に金利高シナ
リオありき」の議論に見えてきます。

「1ドル=120円も視野」という声を聞きながら、ドルがちょっと伸び切った状態に
近づいているのが気になります。フランスの暴動もあってついに1.2ドルを大きく下回
ってきたユーロは、今ちょうど1999年導入時の水準(1.167ドル)に近づいています。
この水準の攻防のさなかにフランス情勢が沈静化してきたら、また今週に迫ったブッシ
ュ米大統領訪中の際に人民元政策に何か動きが出たら...伸び切ったゴムの片端から手が
離されるきっかけに、少し注意が必要な時がきているように思います。あまりに誰もが
一つのことしか見ていない時は、それに気づくのは難しいものですが。

「為替相場と付き合う方法」へ


                      第72回 

                 為替市場の参加者と時間軸(2)


                      
2005年10月02日
◆-----------------------------------------------------------

1.市場の動向:(9月30日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   113.45円(1.00円 ドル高円安)   

  ・ユーロ/円  136.46円(1.03円 ユーロ高円安)   

  ・ユーロ/ドル 1.2026ドル(0.0017ドル ユーロ安ドル高)    


2.先週の動き

前の週とレートを比較すると、非常にわかりやすいと思います。ドル/円が若干上昇した分
だけユーロ/円が上がっている(ユーロはほとんど変わらず)という姿です。このドル/円
の上昇、つまり円安が日経平均の上昇基調と同時に起こっているので、日経新聞が連日苦
心のコメントを書いています。

1日(土曜日)のマーケット総合面では「実は日本株を買っていた外国人が円を買うと同
時に、将来の日本株売却に備えて先物で円売り・ドル買いの反対売買をしているのだ...」
と、普通なら「円のヘッジ付きで株式を買っている」ですむところをかなり延々と紙面を
埋めにかかっています。その段の最後は、「日本株を買ってもそれが円安に結びつかず、
逆に円安が進んでいる」と、まるで外人の日本株買いが円安につながっているような書き
方です。もちろん買いと売りが同額ならば円安に結びつくはずはありません。

3.今週のポイント

円売りの方が多いことについてこの記事は、以前為替ヘッジなしで日本株を買った外国
人投資家がこの局面でヘッジをかけているという点を指摘しています。日米金利差から
そもそもドル買いが強まっている、そしてそのために株高に円高がついてこないのに外
国人が「驚き」(これは笑いました)、さらに円を売るためだというわけです。

考えてみればこれは「買ったものはいつか売る」という結末が今来ているというだけで、
要するに現在の株高を円高と結びつける人は多くないということです。むしろ、米国の
FRBがハリケーンによる経済へのマイナス効果は一時的との見解を示し、市場では今
後も米国は利上げを継続するとの見方がドル買い材料として注目されています。日本の
金融量的緩和も解除論が具体性を帯びてきましたが、金利だけに着目すれば、米国の今
後の利上げペース(来年央までにあと0.75%との見方もあります)との競争になります。
日本はそれ以上の急ピッチな利上げサイクルに入るのでしょうか。そうした見方が出て
来た時、株価の居所や方向は今と比べてどうでしょうか。もうしばらくの間、日本の株
高は忘れて為替を見る方がよさそうです。

前回の最後は、市場のコンセンサスという話で終わりました。これを具体的に表すのが、
為替ディーラーや機関投資家、貿易関係者などが見ている情報端末上のページです。中
でも現在はBloomberg(ブルームバーグ)社が伝える、経済指標の「市場予想の平均」
の影響力が強くなっています。これは同社が欧米中心に、有力な証券会社や経済研究所
30〜40社にヒアリングした結果ですが、実際に発表された数字がそれより強いか弱い
かが、市場の最初の反応に反映されることが多いのです。

以前は、為替というとロイター通信社が圧倒的な影響力を持っていました。今でも銀行
の為替ディーラーは秒単位の勝負なので、ロイターの強みであるニュースの速報性は重
要です。一方ブルームバーグは証券に関する価格情報と分析ツールの使い勝手が他を圧
しています。今や銀行にとって最も重要な為替顧客である機関投資家で、ブルームバー
グのない先など存在しないでしょう。それくらいのステータスを持っています。

銀行と投資家の両方の立場を経験した立場から言うと、ブルームバーグを為替ディーリ
ングのために使う銀行はないでしょう。しかしブルームバーグしか持っていない投資家
はたくさんいます。市場に影響力を持つ投資家がブルームバーグの「コンセンサス」に
注目している以上、銀行としても無視することはできないという流れで、ブルームバー
グは為替市場でも重要な存在になっています。

何かの発表が市場のコンセンサスと合っているか乖離しているかということが市場に与
える影響は、短期的なものであると以前は考えられていました。いわば当たった外れた
という一喜一憂の次元だという考え方です。しかし最近は統計学や使いやすい統計ツー
ルが普及したことにより、指標の予想と実際との乖離を、ある程度長い期間の為替のト
レンドと関連付ける分析もずいぶん行なわれるようになっています。本当に予測ツール
として有効であるかはまだ未知数ですが、「多くの人が注目するようになったら結果的
にグローバルスタンダードになる」という法則は、ブルームバーグの為替市場での地位
向上を見てもあり得ることですので、そんな見方があることを心に留めておくのは無駄
ではないと思います。


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                      第71回 

                 為替市場の参加者と時間軸(1)


                      
2005年09月18日
◆-----------------------------------------------------------

1.市場の動向:(9月16日NY終値と前週末からの変化)

  ・ドル/円   111.32円(1.63円 ドル高円安)   

  ・ユーロ/円  136.21円(0.07円 ユーロ高円安)   

  ・ユーロ/ドル 1.2232ドル(0.0180ドル ユーロ安ドル高)    


2.先週の動き

総選挙は自民党の単独過半数が実現し与党が圧勝という結果に終わりました。市場はその
翌日(月曜日)の朝こそドル/円が109.15まで下落しましたが、午前中には109円台後半
まで戻しました。その後日本のGDP成長率が予想をやや上回り、7月の鉱工業生産確報も
速報値より上ぶれするなど、経済面からの円のサポート要因はありましたが、結局選挙直
後を上回るの円高水準を見ることはありませんでした。

日本の他を見ると、次はドイツ総選挙ということでユーロは上値が重くなりがち、ドルに
関してはハリケーン「カトリーナ」の対応で政府の責任が追及されたものの、為替はあま
り影響を受けず、方向感がなくなりました。為替に徐々に影響を与えたのは、原油価格が
低下し、WTI先物が63ドル台まで下落したことと、FRBの利上げ一服観測が後退したこと
です。この結果先週後半にはドルが堅調な展開となりました。

3.今週のポイント

前回、選挙のようなイベントが為替相場に与える影響の見方として、事前の出発点、つま
り結果の織り込まれ方を問題にしました。そして前回の時点でそれは「自公合計で過半数
を確保」であり、「自民単独過半数は円高要因」としました。しかし次の一週間で市場の
の予想は与党有利に大きく傾き、直前には「自民単独過半数の勢い」という見出しが新聞
を飾っていました。そのため為替市場の反応は「予想をやや上回る」に止まったようです。

為替市場と一口で言っても、様々な参加者がいます。最大の違いは市場をどのような期間
で考えるかという点です。最も短いのはいわゆるデイトレーダー、つまり売り買いを一日
区切りで行なっている人たちです。朝一番でその日の市場の展開を予想し、日中の指標発
や事件に反応して予想を修正しつつ頻繁に取引を行ない、その日の終わりには売り買いを
均衡させ(業界では「ポジションを手じまう」と言います)、また翌日ゼロから取引を始
めるという人たちです。以前は銀行の為替ディーラーが典型的でしたが、最近は為替証拠
金取引が普及し、個人のデイトレーダーが急増しています。

とは言え、普通はもう少し長い時間で相場を考えます。銀行のディーラーならば通常半年
(会計年度に合わせて)単位で収益目標を与えられ、その中で日をまたいで売り買いを残
す(「ポジションを維持する」)ことが許されます。個人の証拠金取引でも、大半はこの
パターンだと思います。収益目標や損切り限度を会社から与えられるか、自分で決めるか
というだけの違いです。イベントに対する市場の予想と現実の反応に最も大きな影響を与
えるのが、このタイプの参加者です。

このタイプの参加者の場合、為替は基本的にはマネーゲームです。特に輸出入や外貨預金
などのいわゆる実需を裏付けとせず、ある通貨が上昇するという材料があればその通貨を
買い、その後の状況の変化に応じて、買いの金額を上下させたり逆に売りに傾けたりと、
日々調整を行ないます。特に銀行間の取引では、ブローカーを使わずに直接取引すれば手
数料はかからず、またブローカーの手数料も非常に低いため、見通しを素直に反映して頻
繁に取引することが可能です。

こうした参加者にとって、取引の典型的なきっかけは毎月発表される各国の経済指標です。
これらは予定が決まっていますから、それらに関するエコノミストなどの予測を総合的に
判断することが基本です。これにサミットや選挙などの政治的イベント、そして米国債の
利払いのような実需の動き、さらに貿易関係の商慣習に基づく決済集中日、発表されてい
るM&A情報に基づく資金移動などを勘案して相場の動きのシナリオを立て、それに基づい
て実際に市場に参加します(「為替のポジションを作る」)。

しかし、いったん立てたシナリオは日々修正する必要があります。小売り、生産といった
異なる分野の経済指標も実は連動性があるため、ある一つの指標の発表によって、それ以
降に発表が予定されている指標の見通しを変えなければならないことは頻繁にあります。
市場の大勢であるこのタイプの参加者がこうして一つのイベントに反応して次のイベント
の見方を修正し、為替のポジションを調整していくわけです。これが、将来のイベントが
市場に「織り込まれていく」過程です。

しかし為替市場という、世界中に存在する(というより世界全体をカバーする)巨大な市
場で、参加者一人一人の予想とそれに基づくポジションの調整が与える影響など考えるこ
と自体非現実的です。そこには何らかの形で形成された市場のコンセンサスが存在し、そ
の動向が市場への織り込み度合いとなって個々のディーラー(個人も含む)に還元され、
次の行動の重要な判断材料になります。そのあたりから、次回の話を始めることにします。


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