第75回
2006年の展望(ゆく年来る年:下)
2006年1月1日
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1.市場の動向:(12月30日NY終値と前週末からの変化)
・ドル/円 117.80円(1.62円 ドル高円安)
・ユーロ/円 139.55円(1.60円 ユーロ高円安)
・ユーロ/ドル 1.1845ドル(0.0027ドル ユーロ安ドル高)
2.今年のポイント
あけましておめでとうございます。
平成14年10月13日にスタートしたこのコラムも、4回目の新年を迎えました。
本年もよろしくお願い致します。
前回、昨年の為替市場を次のように振り返りました。
1.相場のテーマが米国の「双子の赤字」から「金利」に転換
2.人民元切上げ
3.原油・金価格の上昇
4.再びドルの陰に隠れたユーロ
5.「景気回復・株高下の円安」というねじれの構造
こうしたことを持ち越して始まる新しい1年を展望してみると、次のような注目イベン
トがあります。
(1)バーナンキ新FRB議長の就任(2月)
(2)日銀のゼロ金利解除(年央以降?)
(3)小泉首相退陣(9月)
(4)米国中間選挙(11月)
日米金利と新FRB議長の就任
まず金利です。為替市場が金利だけに注目し続けるなら、少なくとも今年前半の勝負は
ついています。ドル高円安です。バーナンキ新議長の下でもFF(フェデラルファンド)
金利はあと2回、幅にして0.5%は上昇する見込みです。これに対してようやく量的緩
和解除が新年度入り頃というスケジュールが具体化しつつある段階なのが日本です。ゼ
ロ金利解除はその後慎重に状況を見守ってから、今年後半のいずれかの時期になると見
られています。従ってこれから半年の間に日米金利差はあと0.5%は拡大します。
2月に就任するバーナンキ新議長を待っているのは、まだ顕在化していないインフレの
影です。WTI先物で1バレル=60ドル台という原油価格は、上昇し始めた頃の大方
の見通しに反して、新たな落ち着きどころとして意識されてきました。特に、急成長を
続けながら驚くほどエネルギー効率の悪い中国の存在によって、原油の需要が引き続き
高水準を保つことになるためです。グリーンスパン現FRB議長が「不可解」と言った
米国長期金利の安定をもたらした一つの原因は、インフレに対する市場の楽観でした。
原油価格の高止まりがインフレ圧力となり、長期金利が上昇を始めた場合、今は日本よ
りも米国にとって、不動産バブルの崩壊も含め深刻な状況をもたらす恐れがあります。
新議長がこうした状況にどう対応するかは未知数です。デフレ研究の権威であり、当面
は現行政策を継承するという新議長の就任前に、米国の経済指標はハリケーンの影響を
見事に克服し、このところ非常に好調です。これから2ヵ月の経済指標、特に物価関連
関連指標の動向次第では、就任直後から新議長の発言は大きな注目を集め、金融市場は
優れた学者である彼の実務的な対応能力をテストすることになるでしょう。
中間選挙に向けて米経常赤字に再び焦点
先日ブッシュ米大統領が「対イラク開戦の根拠とした情報に誤りがあった」と認める発
言を行ないました。これは、いよいよ米国が今年11月に向けて選挙モード入りしたこ
とを表しています。再選を果たしたブッシュ大統領自身にはもう次の選挙はありません。
重要なのは今年の中間選挙での共和党の勝利と、2年後の大統領選挙で共和党候補者を
勝たせる環境を用意することです。そのためにまず、国民の間にも疑問の声が高まって
いたイラク戦争を選挙の悪材料にしないことが重要だという判断でしょう。
それからしばらくして、米国の経常赤字が史上最高を更新したことが発表されたのを受
け、チェイニー副大統領が「米国はブッシュ大統領の任期切れまでに経常赤字を半減さ
せる」と発言しました。市場はこの発言にすぐに反応していませんが、副大統領、つま
り現政権の公約とも言えるこの発言が今後2度の選挙を縛ることは当然です。米国の経
常赤字肥大化の本当の原因が米国の過剰消費体質にあることはわかっていても、選挙に
向けた有効な赤字解消策は「為替」です。つまり、まず米国にとって最大の貿易赤字国
相手国である中国、そして今はトップから降りたとは言え、日本に対しても「内需拡大、
適正な為替レート」という要求が高まって行くことでしょう。それとともに、定期的に
発表される経常収支、貿易収支の動向に再び注目が集まっていくと思われます。
株高円安の落とし穴
こうした中で、私が繰り返し「ねじれ」と呼んでいる日本の景気回復化、株高、円安と
いう傾向はどうなるのでしょうか。日銀の慎重なスタンスからは、前回金融緩和時期を
急いだような失敗はなさそうです。景気は回復基調を続けるという見方は、恐らく正し
いと思います。株価もそれに応じて当面は強気が支配する相場展開になりそうです。そ
して株価上昇によってリスク許容度の上がった資金が為替リスクを取って海外資産に向
かうというサイクルは、今年第1四半期くらいは継続するでしょう。
しかしこの動きにも落とし穴があります。それは、海外への投資の背景に、日本政府が
円安を容認するだろうという暗黙の前提があることです。もちろん「円安が悪い」とい
う発言は今のところ聞かれません。しかしドル/円が120円を超えた時の動きに対し、
「急激な変動」に言及する発言が久々にありました。これは対外的配慮としてだけでな
く、今回の景気回復局面で日本のGDPに占める外需貢献度が低下していることを考え
ると、この発言は重みをましてきます。つまり、内需主導の景気回復、それは米国始め
海外諸国の利益にもなることですが、その場合は行き過ぎた円安は有害であるためです。
介入は円売りだけではありません。
「円安」過信は禁物
こうしたことに注目すると、日米金利差、米国景気の好調さ、そして前回触れたオイル
マネーを始めとする国際投資資金の米国に対する安心感から、ドル高円安傾向は今年第
1四半期の間は続き、ドル/円が再び120円超え、さらに125円を目指す展開が予
想されます。一方米国の住宅市況のリスクが強く意識される時期は読み難いところがあ
りますが、市場関係者の心中にはすでに爆弾として頭をもたげています。また、中国の
対米黒字が高水準を保つ中で、昨年「自由化」したはずの元が年末までに僅か0.5%し
か上昇していないことが政治的に利用され、ドル安につながりやすく、それは同時に円。
が買われる局面ももたらすことになります。
したがって、今のドル高円安が今年を通じたトレンドになることはないと思います。米
国景気が急に息切れする可能性は低く、ドルの堅調感は失われないものの、中間選挙に
向けて、「為替」は共和党・民主党ともに責任を外国に転嫁できる恰好の武器になりや
すいということが、今年は重要なポイントになりそうです。さらに、日本サイドでも円
安を無条件に歓迎しない可能性があるため、円安に歯止めがかかるリスクを、今年はよ
り多めに見積もる必要があります。なお、外国から受けのいい小泉首相が退陣すること
は、後任についての観測が相場の材料となる場面があるかもしれません。