第41回
やさしい通貨オプション(4)
2004年05月30日
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1.市場の動向:(5月28日NY終値と前週末からの変化)
・ドル/円 110.22円(2.11円 ドル安円高)
・ユーロ/円 134.70円(0.08円 ユーロ高円安)
・ユーロ/ドル 1.2224ドル(0.0241ドル ユーロ高ドル安)
2.今週のポイント
市場は気迷い状態です。市場で最も目立った動きをして注目されたのは、原油価格でした。
NYMEX先物7月限りで40ドルを上回る上昇は、FRBによる利上げを早め、その幅も拡大するという
観測からのドル買いと、そのこと自体が米国経済に悪影響を及ぼすとの見方との、両方の反応
につながり、ドルが上下を繰り返しました。
原油価格の上昇は日米欧の中で日本に最も悪影響を与えるとの見方(実際のところはともかく)
と、株価の軟調さから、週前半は円安での推移となりました。しかし26日発表の4月貿易収支が
予想を上回る黒字額を示し、企業の景況感の先行きに対する強気の見方も出てきたために、週末
にかけて110円台前半まで値を戻しました。
日本の対内対外証券投資の最新データでは、外国人投資家による日本の株式売り越し額が大幅
に減少し、日本株売りもいったん収束した感があります。短期的には引き続き円高含みの展開
の可能性がやや強いと思われます。
アット・ザ・マネーの考え方(通貨オプション最終回)
為替の方向感を反映する指標として、リスク・リバーサルをご紹介するために通貨オプションの
話を始めました。リスク・リバーサルの水準とは、行使される可能性の等しいコールオプションと
プットオプションの、どちらの価格が高いかを表します。つまり、買いと売りのどちらに賭けるか
という度合いの強さが、リスク・リバーサルに反映されているというわけです。とりあえず前回ここ
までで、当初意図したところまではお話ししたことになります。今はいわば延長戦に入っています。
行使される可能性に対応して、イン・ザ・マネー(ITM)、アウト・オブ・ザ・マネー(OTM)、アット・
ザ・マネー(ATM)という区別がありました。そしてATMについて、アット・ザ・マネー・スポット
(ATMS)とアット・ザ・マネー・フォワード(ATMF)に触れたところまでが前回でした。
ヨーロピアンオプションの場合
この二つが、ヨーロピアンとアメリカンというオプションの二つのタイプと関係がある、と前回
予告しました。オプションの行使価格をATMに設定したい場合、どの水準にすればいいのでしょう
か。今回はこの点から始めます。まずヨーロピアンタイプです。例として、約定日5月31日、ドル/円
のスポットレート(前回出てきました)が110.00円の状況で、3か月のドルコール(円プット)オプ
ションを購入する例で考えます。この場合の期日は8月31日(受渡しは2営業日後=9月2日)に
なります。この時のATM、つまり「オプション行使と同時に市場で為替の反対取引をした場合に、
損益がプラスマイナスゼロとなるような行使価格」はいくらでしょうか。
ヨーロピアンですので、オプションを行使できるのは満期日ただ1日です。ですから、約定時点
で考えられる理論的な3か月のレートがATM水準です。(オプション料は除外して考えています。)
つまり3か月のフォワードレートがATMということになります。
ヨーロピアンのATM水準は、ATMF というわけです。(コール、プットとも同様です)
ところで「フォワードレート」という言葉は前回も出てきましたが、これは例えば日経新聞なら
14ページあたりの「マーケット総合」面の右端の欄(東京外為市場)に毎日出ています。上から
4分の1くらいのところに、「銀行間ドル直先スプレッド」が出ています。29日の新聞では
3か月 (実勢)d0.375 (年率%)1.32
となっています。これは「3か月先に受け渡すレートを今決めると、その水準は今のレートより
0.375円低い(dはディスカウントのこと)。そしてこれはドルと円の3か月物の金利差を1.32%
として計算した」ということを表しています。ですからスポットレートが110.00円ならば、3か月
先の受渡レートは109.625円となります。
説明は省略しますが、ここでは「外貨1単位=〜円」というレート表示(1ドル=110円のよう
に)の場合には、円よりも金利の高い通貨のフォワードレートはスポットレートよりも低くなる、
ということを覚えてください。このような場合を外貨が円に対して「ディスカウント」であると
言います。逆に金利の低い通貨の場合はフォワードレートの方がスポットレートよりも高くなり、
円に対して「プレミアム」であると言います。(オプション料を表す「プレミアム」とは全くの
別物です。ややこしくて申し訳ありません。ところで今はそんな通貨はほとんどありませんね。
イスラムの法律では「利息」を取ってはいけないことになっていますが、ゼロ金利ではありま
せん。銀行貸し出しにも「投資へのリターン」という形で実質的な金利が存在します。余談)
アメリカンオプションの場合
アメリカンでは少しややこしくなるので、結論を先に言うと、ATM水準は
ディスカウントの通貨:コールでは ATMS、プットでは ATMF
プレミアムの通貨 :コールでは ATMF、プットでは ATMS
になります。ここではドル/円を例に、ディスカウントである通貨の場合を説明します。
先ほどと同じ状況(スポット110円のドルコール、期間3か月)で、今度はアメリカンオプションを
考えます。アメリカンでは行使期間は「行使できる期間」ですから、満期の8月31日に行使す
れば勿論、購入当日に行使してもレートは同じです。(この場合の受渡は9月2日ではなく、行使
の2営業日後である6月2日になります。)
購入したオプションの行使価格を、スポットよりもドル高(例えば112円)に設定した場合は、OTM
になります。ドルコールの行使と同時に反対取引(ドル売り)を行うレートを、満期までのいずれ
かの日のフォワードレートと想定するため、そのレートはスポットレートの110円よりも低くなります。
反対に、行使価格をドル安に設定する場合、満期日のフォワードレート(109.625円)よりも低く
すれば、オプションはITMになります。満期日までのフォワードレート(110円から109.625円までの
どこか)のどのレートで反対取引をしたと考えても利益が出るためです。
行使価格をスポットレートと等しく設定した場合、反対取引の損益はゼロまたはマイナスになり
ます。しかしマイナスの時はオプションを放棄できることを考えると、このオプションはATMとして
の価値だけを持ちます。この結果、ドルコールのATM水準となる行使レートは、ATMSということに
なります。なお行使価格をフォワードレートの範囲内に設定すると、以上の考え方からはATM、ITM、
OTMのどれにもなり得ますが、これはITMオプションと考えます。
反対にドルプットの場合は、行使価格を満期日のフォワードレートにすると、反対取引の損益がゼロ
またはマイナスとなるため、これがATM水準です。つまり、ドルプットのATM水準は、ATMFである
ということです。プレミアム通貨の場合のコール、プットについては練習として確認してみてください。
なお、今回の説明はあくまで、行使価格としてATMをどこに設定するかということです。約定の時点
ではATMだったドルコールオプションも、翌日に円安になればその時点ではITMとなり、円高になれ
ば、OTMのオプションとなります。
身の回りにある通貨オプション
通貨オプションについて、順不同ですがいろいろ書いて来ました。ご興味を持っていただいた方も、
何のために長々と書いているのか疑問に思われた方もいらっしゃると思います。後者の方のために、
最後に少し補足をしておきます。外貨預金の広告で、「円安になれば利回りが上昇します。円高に
なっても最低金利〜%(通常の円運用よりもやや低い)を保証します」といったものがありますが、
これは通貨オプションを利用した最も単純な商品です。
仕組みは、まず外貨を買って預金として運用すると同時に、満期日の外貨売り予約を行うことにより
円ベースでの運用利回りを確定します。(ここで確定する金利は、理論的には円運用と等しくなり
ます。)そしてこれとは別にドルコールオプションを購入します。これにより、満期日に円安になって
いればドルコールオプションを行使し、市場で反対取引としてドルを売って為替の売買益を預金金利
に上乗せします。円高の場合はオプションを放棄します。購入したオプション料がコストとなるため、
最低保証金利はその分低くなるわけです。このように、何かの条件付きで魅力的となる商品には、
裏にオプションが組み込まれていることが多いのです。
最後に少し罪滅ぼしをしましたが、わかりにくい話に4回にわたっておつきあい頂いたかたは、本当に
ありがとうございました。次回からはまた、市場の話が中心になる予定です。