第38回
やさしい通貨オプション
2004年04月18日
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1.市場の動向:(4月16日NY終値と前週末からの変化)
・ドル/円 107.72円(1.30円 ドル高円安)
・ユーロ/円 129.20円(0.50円 ユーロ高円安)
・ユーロ/ドル 1.1993ドル(0.0099ドル ユーロ安ドル高)
2.今週のポイント
イラクの日本人人質事件、さらに国籍を問わない無差別な誘拐・殺害が相次ぎ、市場の動きも非常
に神経質になっています。イラク情勢が悪化・長期化すれば、最も悪影響を受けるのは米国とドルで
あることに変わりはありません。しかしスペインでのテロ事件以来、イラク→ドル売りという単純な図
式ばかりではなくなっていることも事実です。
そのため日米欧の景気に対する注目度が、少し高まりました。米国は16日(金)の鉱工業生産指数
とミシガン大消費者景況感指数が予想を下回ったものの、それまでの指標は概ね景気の先行きに
自信を与えるものでした。シカゴ商品取引所のフェデラルファンド金利先物は、米国で7〜8月には
0.25%の利上げがあることを見込んだ水準となっています。
日本の景気回復基調に変化はないと見られています。竹中経財相も4月の月例経済報告で、国内
景気の現状は「企業部門の改善に広がり」が見られるとしています。ただし新年度に入り、日本の
機関投資家の外貨資産への投資が再開するとの見方も強く、当面円買いの勢いを弱めています。
こうした日米景気への強気な見方に対し、ユーロ圏の景気は相対的に低迷しており、利下げの時期
が注目されています。1ユーロ=1.2ドルを割った後、1.18ドル台からは反発していますが、ファンダメ
ンタルズの改善を反映したものではなく、ユーロに対する先安感は払拭されてはいません。
「先高・先安」の尺度
ところで、ある通貨の先高感・先安感というのは、水準としての「円高・円安」等とは異なるものです。
1ドル=110円が100円になった場合、円の先高観が強かったからそうなったというのは正しいとしても、
110円の水準で市場がさらに円高を見込んでいるかどうかを表すものではありません。これが株式な
らば、1000円が900円に下がった段階で依然として100万株の売り越し、などということがわかります。
では為替にこれにあたる数量的な手がかりはないのでしょうか。
実は二つあります。一つは、通貨先物の売買の建て玉の枚数です(先物は契約数を1枚、2枚と数え
ます)。代表的な通貨先物市場は、シカゴ・マーカンタイル取引所(略称はCME。先ほど出たシカゴ
商品取引所はCBOTと略します)にあります。
もう一つが通貨オプションの「リスク・リバーサル」と呼ばれるものの取引水準です。これは例えばドル/
円の市場で、ドル上昇を予想する人と下落を予想する人のどちらが多いかという、力関係を反映しま
す。これがどういう意味かということをこれから書いていきますが、そのためにまず、「通貨オプション」
とは何かを確認しておかなければなりません。ですから、今回はリスク・リバーサルの話まで到達する
前に終わってしまいます。あらかじめお断りしておきます。
通貨オプションとは
例えばある企業が1億円を3ヶ月間ドル預金で運用するとします。今なら108円でドルを買うと約93万ド
ルです。ただし預金の満期にドルが100円になっていたら、1%に満たないドルと円の金利差など、為替
差損で吹き飛んでしまいます。このリスクを避けるために、その企業がまず考えるのがドルの売り予約
です。預金をした翌日、日本株が大暴落してドル/円が110円になり、その企業が預金の満期に合わせ
て元利合計分のドル売り予約をすれば、2円の為替差益が確定します。
普通ならこれで十分ですが、もしドルが上昇を続け、3ヵ月後にはさらに10円上がっていた場合、「どう
してあんな円高の時に...」ということになるかもしれません。そこで,「円高で損をするのはいやだ。
しかし円安になった時の利益を今から放棄せずに済む方法はないか」という、虫のいいニーズに応える
ための商品ができました。それがオプション取引です。(実は米国の個別株で最初に行われました。)
つまり、「110円でドルの売り予約をする。実勢レートがそれより安ければ予約を実行するが、高くなっ
てその時の実勢で売った方が有利な場合には、予約を放棄することができる」というもので、日本語で
は「選択権付き為替予約」と呼んでいます。
もちろんこれにはコストがかかります。つまりこの企業は将来ドルを110円で「売ることができる権利」
を購入するので、この権利の対価をオプション料という形で支払わなければなりません。例えばオプ
ション料が1ドルあたり1円というように、為替レートに換算した形で約定した上で、為替の決済金額
とは別に(決済するかしないかわかりませんから)支払います。
基本用語
オプション料を支払うことによって、この企業はドルが110円以下の場合はオプションを「行使」して
110円の売り予約として実行することができます。反対に110円を上回るレートで市場で売ることが
できる状況であれば、オプションを「放棄」し、新たに市場実勢で売り予約を締結します。「行使」
「放棄」はオプション取引で用いられる用語ですが、行使するの場合はあらかじめ決められた日時ま
でにオプションの買い手から売り手に通知しなければなりません。通知がなければ自動的に放棄扱
いになってしまいます。
すでにお気づきかと思いますが、オプションを放棄して市場で115円でドルが売れた場合、この売り
予約の実質的な価値は、オプション料1円相当を差し引いた114円になります。しかしこの1円分だけ
負担すれば、どんなにドルが下落しても110円のドル売り予約が保証されます。コストを限定する一方
で、収益機会を追求できるのがオプションの買い手にとってのメリットです。
こうなると、このドル売り予約のオプション(ドルの「プットオプション」といいます)を売る側にとって、何
もしないでいれば損失がオプション料でカバーできないどころか、無限にふくらむ可能性があります。
オプション料を決めるのは、為替の実勢レート、行使レート(上の例では市場実勢の水準でしたが、自
由に決めることができます)、行使までの期間、金利水準、そして為替の予想変動率です。オプション
の価値は行使までの間もこれらの要因によって変動します。従ってオプションの売り手はこれらの要素
に基づく確率モデルを利用して、損失を防ぎ、さらに収益をあげるために努力します。ただしこの話にこ
れ以上立ち入ることはしません。
なお、今回の例と反対にドル買い予約をする権利を、ドルの「コールオプション」と呼びます。また、為
替は二つの通貨が関わるため、ドル/円での「ドルプット」は(ドルを売って)円を買う権利ですから「円
コール」でもあります。反対にドル/円の「ドルコール」は同時に「円コール」です。これらの用語は次回も
頻繁に使う予定ですので、頭に入れておいてください。(この項続く)