1.市場の動向:
8/22(NY終値) 8/29(NY終値)
ドル/円 \117.56 → \116.97
ユーロ/ドル $1.0879 → $1.0983
ユーロ/円 \127.90 → \128.49
2.今週の注目点:
・米ISM景況指数 8月分 (2日)
・米雇用統計 8月分 (5日)
・海外投資家の日本株投資
・財務省・日銀の介入動向
・スノー米財務長官来日(1日)
・イラク、パレスチナを始めとするテロ行動
・欧州中銀(ECB)理事会 (4日)
先週はドルが下落し、円は29日に一時116円15銭と、5月19日
以来約3カ月ぶりの円高水準を記録しました。ドル/円は、117円台では介入警戒感からドル
売りが控えられていましたが、29日の夕方に財務省が公表した8月分の「外国為替平衡
操作の実施状況」で、この1ヵ月の介入額がゼロだったことがきっかけでこの水準を割
りこみました。またユーロも26日に1.0790ドルまで下落した後は上昇し、1.10ドル目前
まで回復しました。
今週の注目点の第一は、これまでの想定レンジの下限を抜け
たドル/円の水準に、財務省・日銀がどのように反応するかでしょう。そして第二に、
ユーロが高値からの調整を終えたのかということです。
正念場を迎えた日本の介入
第一点については、政府・日銀の景気判断は上方修正されつ
つあるものの、円高の進行を容認する考えはないと思います。ドル/円が115円に近づく
局面では、再び大規模な介入で対抗するでしょう。財務省と日銀は、「円高になる状況
ではない」という見解の下に円売り介入を行なってきており、その見方は先週も変わっ
てはいませんでした。
現時点での最大の円高要因は、19週間連続で日本株を買い越して
いる海外投資家の動向です。これだけ買い続けていても、海外投資家の日本株投資比率
は、代表的なベンチマークの水準に達していません。ゴールドマン・サックス社によれ
ば、組み入れ不足は約5%で、額にすると13兆円に達するそうです。日銀が当座
預金残高を増やす量的緩和政策を続けているため、通貨当局が円売りを無制限に行なっ
ても政策的には矛盾しない状況ですが、資本流入の加速度合いによっては水準の防衛が困
難な状況もあり得ます。
ユーロの調整売りは終わったか
第二点のユーロについては、むしろ先週後半の回復が、短期的
な踊り場と考えた方がよさそうです.6月上旬以来のユーロ/ドル相場の動きは、米国景
気の回復を先取りしたドル高と、1999年発足時の水準を回復まで突っ走ったユーロ高の
調整、という二つの面からとらえることができました。しかし、先々週に中東で発生し
た2度のテロ事件は、後者の要素がより大きいことを浮き彫りにしました。
ドルの好材料に着目した相場であれば、テロ事件に対する反応
はドル安のはずです。しかしバグダッドの国連本部施設が襲撃された事件では、その日
こそユーロ/ドルが反発した(ドルが売られた)ものの、翌日からはユーロが売られ、22
日(金)には1.08ドル台まで下落しました。
この局面での主役はユーロ/円でした。それまでは日本株が
急騰する中でも、介入警戒感から円がらみの為替は敬遠され、ユーロ売りは対ドルが
中心でした。しかしテロ事件のあとはさすがにドル買いのリスクを避け、代わりに円を
買ってユーロを売るという動きでユーロ/円が130円を割り込み、その結果ユーロ/ドル、
ドル/円ともに下落という展開になりました。
ユーロにとって、当面明るい材料があまりありません。中核と
なる独仏伊が全て景気の停滞にあえいでいる上、29日には、2003年のドイツの財政赤字が
GDPの3.8%に達することがわかりました。EU加盟国の財政安定・成長協定に定める3%に、
2年連続で違反することになります。これにより当然財政の緊縮を迫られることは、今後
の景気刺激の足枷となります。
先日発表された6月のユーロ圏国際収支も、ユーロの頭打ち傾向
がすでに始まっていたことを示しています。ユーロ圏外からの対ユーロ圏債券投資は、
過去最大の474億ユーロを記録しました。これはユーロ買い要因ですが、その一方で圏内
からの外国債券の買い越し額も増勢を強めています。同時に米国財務省の発表では5月、
6月とユーロ圏からの米社債投資が増加しており、ユーロからドルへという資本の流れを
裏付けています。
前回(8月4日)、米欧長期金利の逆転について書きました。10年
もの国債の利回り格差は、その時の0.2%から現在は0.5%とさらに広がっています。こう
したことを背景に、ユーロ圏の投資家は内から外へ、さらに債券の中でも社債へと、リス
ク志向を強めています。6月に債券相場がピークを打ち、世界的に株式市場が上昇していま
すが、外資系証券会社の話では、ここ1ヶ月以上、欧州から日本株の問い合わせが相次いで
いるそうです。こうした動向から、ユーロ圏への資本流入を圏外への資本流出が上回る可
能性が強まっており、ユーロは依然ピークからの下値を探る過程にあると考えられます。
日本の金利水準について
最後にもう一度日本に戻ります。日本の金利は長期・短期ともに上
昇圧力がおさまりません。この背景には、日銀の量的緩和が早期に解消されるという観測
があります。事実、2年物国債の利回りは量的緩和以前の水準に達しており、市場は
量的緩和が1年以内に解消されることを織り込んでいるようです。これが株高に見られる景気回
復期待とワンセットで円高要因として働いています。
しかし、日本の量的緩和早期解除は非現実的な見通しです。その
一つの理由は米国の情勢です。最近の経済指標が概ね好調と言っても、その持続性に慎重な
グリーンスパンFRB議長の発言からは、米国が金融緩和政策を転換するという気配は感じられ
ません。その中で日本が先に量的緩和を解除するというのは、頼みの綱の為替への影響を考
えても、あり得ないと言っていいでしょう。
なお、日本の債券市場に大きな影響を与え、長期金利高止まりの原因
となっているものに、「VaR(バリュー・アット・リスク)要因」があります。私は債券に
はほとんど素人ですが、これについてはまた次の機会に簡単に触れることにします。
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