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ワンポイント為替市場 (21-30)
「二十一世紀に生き残る会」HPに寄稿の同名コラムを転載)


                      第30回 

              米国への資金フロー変調は本当か?


                          2003年11月23日
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1.市場の動向:(11月21日NY終値と前週末比)

  ・ドル/円   108.78円(0.46円 ドル高円安)    

  ・ユーロ/円  129.63円(2.05円 ユーロ高円安)    

  ・ユーロ/ドル 1.1915ドル(0.0139ドル ユーロ高ドル安)    


2.今週の注目点:


  ・イラク・中東情勢とテロ活動
  ・日本:鉱工業生産 10月分 (28日)
  ・米国:7-9月期GDP改定値 (25日)
  ・米国:シカゴPMI 11月分 (26日)
  ・欧州:独IFO景況感指数 11月分 (25日)
  ・英国:7-9月期GDP (26日)
  ・日本通貨当局の介入動向


先週は、相次ぐテロ事件を背景にドル買いが控えられました。特にユーロは発足後の最高値
である1.1977ドルまで上昇し、その後も高値圏で推移しました。

ドル下落のきっかけになったのは、米国の財務省が18日(火)に発表した9月の対米証券投資
統計でした。(
このページ の Grand Total のリンクに統計があります。)この統計は、株式を含
む長期(満期が1年超)の対内外証券投資の動きを月次で発表するものです。これによれば、
9月は米国への資金流入超過額が、前月の499億ドルから、1割未満の42億ドルまで急減し
たことが明らかになりました。

内訳をみると、まず海外投資家の米国債投資の買い越し幅縮小が最も大きく、196億ドル減少
しました。また、海外投資家の米国株式と米政府系機関債投資による資金流入幅は、それぞ
れ178億ドルと121億ドル減少し、どちらも月中では売り越しとなりました。特に政府系機関債
が売り越しとなったのは、1998年10月以来のことです。

流入幅が拡大したのは、海外投資家による米国社債投資(+29億ドル)と、米国投資家による
海外証券投資の売却(=米国への資金還流。株・債券合計で9億ドル)でした。しかし全体の
流入減少幅の大きさや、株及び機関債の売り越しのインパクトは大きく、海外からの投資資金
の米国離れに対する不安から、ドルは特に対ユーロで急落しました。

ところで9月と言えば、下旬のG7をきっかけにドル/円が115円割れとなりましたが、月初から
ドルは円以外の通貨に対しても下落を続けていました。今回の数字を見ると、G7に向けて海外
投資家がドル資産への投資を控え、それがドル安につながっていたことがうかがえます。以前
クレディ・スイス・ファースト・ボストン証券の田中泰輔さんの講演に出席した時、彼が「為替の
動きは事後的には非常に明快に説明できる」とおっしゃっていたことを思い出します。ただし
「予想できるかどうかは別の問題」と付け加えていましたが。

資金流入は先細りになるか?

ここまでは資金流出入のネット金額を見てきましたが、純粋に流入額だけを見ても、その傾向
は明らかです。海外からの対米証券投資金額は、5月に前月から倍増して1071億ドルに達し
た後、6月は842億ドル、7月は750億ドル、8月は624億ドルと減少傾向でした。とは言え、8月
の水準でも歴史的には非常に大きな数字でしたが、9月には一気に158億ドルに落ち込んでい
ます。これは同時多発テロのあった2001年9月(53億ドル)を除けば、実に99年2月に次ぐ小さ
な数字です。

ただし、今回の水準はあくまで1ヶ月だけの数字です。過去の推移を見ると、98年10月以降、
流入額が100億ドル台もしくはそれ未満になった翌月は、3倍増またはそれ以上の増加を記録し
ています。米国市場への信認の根強さの表れでしょう。来月の発表にはその意味で注目が
必要だと思います。なお、9月の統計では、世界的に米国への流入超過が縮小しましたが、例
外は日本でした。米国債の買い越しが118億ドル増加したのが主な理由で、日本からの流入
超過だけは拡大しました。

一方、ここにきて米国人投資家の対外投資が活発化していることも目立ちます。米国の投資
家は、海外証券を8月に125億ドル、9月に116億ドル買い越しています。こちらは、2000年7月
以来の大きな買い越しです。日本の株式市場での外人買いから見ても、翌月も持続した可能
性が強いでしょう。

どのような統計にも言えることですが、特にこのような資金フロー統計を見る場合に注意すべき
点は、実際の動きと発表時点との間のタイムラグです。さきに見たとおり、9月の為替市場は、
もちろんG7や他の要因もありますが、資金フローの大きな変動を反映してドル安に動きました。
今月になってその数字を確認してドルが売られたのは、いわば余波であり、為替市場が米国証
券市場への不安を先取りしたものと言えます。

しかし10月以降の米国市場を見る限り、株式・債券市場とも概ね堅調です。この中で海外投
資家の売りが続いたと推測することは難しいと思いますが、そこまで材料視していないという
のが正直なところでしょう。(株・債券なら目の前にその日の動きがありますから、まずそちら
に目が行ってしまいます。)今後も、イギリスやオーストラリアの利上げをよそに米国金利は長
短期ともに落ち着いた展開が予想され、株価はそれをある程度好感する状況が続きそうです。
その意味で、資金流出への不安は不安として市場の大切な要因であるにしろ、それは次の発
表によって大きく変わりうることに注意が必要でしょう。


「為替相場と付き合う方法」へ


                      第29回 

                   初心に戻って


                          2003年11月09日
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1.市場の動向:(11月07日NY終値と前週末比)

  ・ドル/円   109.32円(0.60円 ドル安円高)    

  ・ユーロ/円  125.94円(1.48円 ユーロ安円高)    

  ・ユーロ/ドル 1.1521ドル(0.0071ドル ユーロ安ドル高)    


2.今週の注目点:


  ・日本:総選挙の結果が判明 (9日)
  ・日本:国際収支 9月及び上期分 (12日)
  ・日本:国内総生産(GDP) 7-9月期第1次速報 (14日)
  ・米国:新規失業保険申請件数 11月8日終了週分 (13日)
  ・米国:貿易収支 9月分 (13日)
  ・米国:鉱工業生産 10月分 (14日)
  ・欧州:独11月ZEW景況感指数 11月分 (11日)

先月30日のスノー米財務長官の議会証言で、日本の為替介入に対する批判がなかったことに
より、円をターゲットとする相場はいったん終わったように見えます。証言に先立ち、ドル/円は
108円割れまで下落しましたが、先週は円買いの勢いが弱まりました。さらにGDP速報値を始
めとする米国の経済指標が好転したことを材料に、ドル/円は110円台を挟む動きになりました。

私自身すっかり忘れていましたが、このコラムも前回ですでに一年を過ぎていました。前回が
28回目でしたから、ほぼ一週おきの掲載だった計算です。私にしてはよく続いたものだと思い
ます。読者の皆さんが、現実の為替の動きを見たり読んだりなさる時に、「そう言えばあいつ
がこんなことを言っていたな」と思い出していただけるようなコラムになればと思います。
引き続きよろしくお願いいたします。

第1回目のテーマは「為替はなぜわかりにくいか」でした。その時書いたように、為替レートが
何によって決まるのか、依然決め手はありません。今回は、これとは別に常々相場は難しいと
実感させられる一面をお話しします。あたりまえに見えて実は難しいことですが、それは、為替
が「二つの通貨」の「いくつも」の関係で決まるということです。

円高・円安という言葉は円の価値に関することです。そして一般に円の価値は他の通貨に対す
るレートで表されます。相手の通貨はドルかもしれませんし、ユーロかもしれません。通常はど
の通貨を取引する為替ディーラーも、基軸通貨であるドルを中心に為替レートを見ています。例
えば、ユーロ圏のGDPが予想外に低調だった場合、まずユーロがドルに対して売られます。こ
れはユーロ安「ドル高」ですが、この時ユーロが円に対しても売られて、ユーロ安「円高」にも
なるでしょうか。

こうした場合、円に特別な材料がなければ、円もドルに対して売られて「円安」になることが多
いのです。よく新聞記事などで「円もユーロにつられて上昇し」と表現します。これはどの通貨
の相手にもドルがいる、つまりドルが為替市場で胴元のような役割を果たしているという現実
を、言外に含んでいます。

上の例の場合、ユーロと円の関係はどうでしょう。ユーロ/円=ユーロ/ドル×ドル/円 という
式で、ユーロ/ドルがユーロ安(↓)、ドル/円が円安(↑)の場合ですから、どちらのスピ
ードが速いかによって、ユーロ/円が円高(↓)か円安(↑)かが決まります。そんなことはない、
ユーロと円の相対関係から円高であるべきだ、という正論を信じて円を買っても、うまくいく
保証はありません。

さきほどドルは胴元だと言いました。実際どの通貨も、銀行間の市場では対ドルで取引する
のが基本です。ただしユーロと円くらい大きな経済圏を背景にして貿易や資本の取引が自由に
行なわれていると、頻繁に顧客取引が、それも大きな金額で舞い込んできます。このため銀行間
でもドルを介さないユーロ/円の市場が形成されています。しかしその規模は両通貨の対ドル市
場に比べれば小さなものです。

さらに、ユーロ/円のような市場で取引するディーラーたちにとっても、最後のよりどころは
ドルを介する市場です。というよりむしろ、彼らはユーロ/円を直接に取引するだけでなく、ド
ル/円とユーロ/ドルの取引を別々に行ない(「ユーロ売りドル買い」と「ドル売り円買い」で
ドル金額を相殺するようにして)、結果的にユーロ/円の取引にするという自由度を持ち、日常
的にこれを行なっています。

このため、「米国の休日は、ドルを介さない取引でも原則として決済日にならない」というの
が市場のルールになっています。ユーロ/円というマーケットが市民権を得たと言っても、対ドル
の市場がない状態では、十分な流動性を供給することはまだできません。

この状態のもとでは、ある通貨にとって、それと関係のないところで起きているドル以外の他
通貨の上昇・下落が、常に影響することになります。そしてこれは必ずしも短期的な影響だけに
はとどまりません。ユーロと円について、ファンダメンタルズから政治的要因までいくら研究し
ても、ユーロ/円のレートを正確に予想することはできません。同じくらい精密な分析に基づく
ユーロ/ドルとドル/円のレート予測を加味して、初めて少しは確率の良い予測ができあがります。

為替ディーラーは、景気、金利、貿易、政治、株価、債券、石油、金、資本移動...など数
え切れないほど多くのことに目を光らせています。そして一つの通貨(正確には「通貨ペア」)の
担当であっても、10を越える通貨の動きから一日中目を離すことはできません。

毎回冒頭にご紹介する材料は、そんな中からほんの一握りでしかありません。今週は日本と米国
に偏っていますが、実際のところどこのどんな指標や出来事が、「風が吹けば桶屋が儲かる」式な
影響を及ぼさないとも限りません。決して逃げるわけではありませんが、今回は為替市場のそんな
実態をわかっていただけたでしょうか。


「為替相場と付き合う方法」へ


                      第28回 

                大統領選挙の重み


                          2003年10月26日
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1.市場の動向:(10月24日NY終値と前週末比)

  ・ドル/円   109.27円(0.12円 ドル安円高)    

  ・ユーロ/円  128.76円(1.03円 ユーロ高円安)    

  ・ユーロ/ドル  1.1783ドル(0.0107ドル ユーロ高ドル安)    


2.今週の注目点:


  ・日本:日銀金融政策決定会合 (31日)
  ・米国:FOMC (28日)
  ・米国:GDP速報値 7-9月分(30日)
  ・米国:スノー財務長官,為替に関する議会証言(30日)
  ・ドイツ:IFO景況感指数 10月分 (28日)
  ・海外からの日本株投資動向

先週はドル/円が108-110円台で小動きの一方、ユーロ/ドルがやや強含む展開になりました。
依然としてどの通貨に対してもドルの頭が重い状況ですが、円高圧力がやや緩み、主に高金利
通貨(オーストラリアドル、カナダドルなど)が強含んだのが目立ちました。

この中で目についたのは、
 1)日本の輸出企業の社内レート修正が円相場にほとんど影響しなかった
 2)米国政府筋の円高要求トーンが弱まった
 3)外人の日本株買いの勢いが弱まった
といったことです。

これから先1年間の為替相場を考えた場合、ドル安基調が大きく変化する可能性は小さいでし
ょう。先月のG7に見られたように、GDPの5%を上回る経常赤字は欧州、さらにOECDが共有
する問題になっています。ただし、それを是正するために為替レートの調整が必要だ、という教
科書的な理由でドル安が避けられないと言うつもりはありません。

最も大きな要因は、来年に迫った米国の大統領選挙です。これまでも、大統領選挙や中間選挙
が近づくと、国内の製造業関連の票集めのために、ドル安を誘導するような発言が目立ちました。
その際、利益誘導的な印象を弱める働きをしたのが経常赤字というマクロ要因です。今回も同じ
状況になっています。つまり、選挙が近づいた時に経常赤字が拡大していると、米国政府はドル
安を容認するだろうと市場が予想するために、本当にそうした政策をとらなくてもドルが売られや
すくなっています。

円は短期的に反落も

そうした意味で、G7前後までのドル安局面では、米国の日本と中国に対する貿易赤字が注目
され、変動相場制の円が主にドル安の標的になってきました。しかしその点で、少なくとも短期
的には市場に変化があり、ドル/円でのドル売りが弱まっています。

それが表れたのが、上の1)の現象です。通常ならば、輸出企業の社内レートが円高方向に
修正されれば、彼らはドルを売りやすくなります。このためドル売りが増えると見た市場参加者
は、さらにドルを売り始めます。ところが今回そうした動きはまだ見られません。

その理由は、米国政府のスタンスの微修正を市場が感じ取っているからだと思います。G7声
明にもあった「柔軟な為替制度」を主張し「為替は市場にまかせる」一方で、「強いドルを支持」
するという姿勢は変わりませんが、上記の通り基本はドル安容認だというのが一般的な見方で
した。しかし先週スノー財務長官が「数ヶ月以内に米金利上昇」「ドル安誘導しない」と発言した
あたりから、ドル安期待一辺倒に対する警戒感が出てきています。

先週の日本株の下落には、外人からの売りもかなり影響があったようです。いくつかのコメント
には、日本の政府・自民党が道路公団総裁解任問題と議員定年制のごたごたが原因で、選挙
で苦戦を免れず、これを外人が嫌気したためだという見方がありました。これが本当かどうかは
わかりませんが、外国人にとって、竹中金融・経済財政 担当大臣の「必要ならば銀行整理も辞
さず」という過去の政権にない姿勢が日本株投資の一つのよりどころであることは事実です。
したがって、選挙が近づき自民党劣勢ムードが出てくるようだと、日本株への悪材料ととらえら
れるでしょう。

しかしこれから選挙の年

このように、短期的には円高が一服し、今後3ヶ月程度の間には110-112円台が中心となるよ
うな展開の可能性が出てきています。しかしその場合にも、選挙までの今後1年間を考えると、
ブッシュ大統領の国内寄りの姿勢がドルの上昇を妨げることになるでしょう。

この意味で象徴的な事件がつい最近ありました。脳障害で13年間意識の戻らない女性への
「死への措置」を、大統領の弟であるブッシュ・フロリダ州知事が停止させた事件です。この
背景には、キリスト教原理主義団体が大統領と共和党に対して選挙での不支持をちらつかせて
停止の働きかけをしたことがあると言われています。ブッシュ大統領の頭の中にはまず選挙、
ということが今後1年間の為替市場の前提になります。





                    第27回 
                G7の意味するもの
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1.市場の動向:

           9/26(NY終値)    10/3(NY終値)
     ドル/円     \111.76    →  \110.84
    ユーロ/ドル  $1.1469    →  $1.1579
    ユーロ/円   \128.20    →  \128.38

2.今週の注目点:


  ・日本:国際収支 8月分 (9日)
  ・日本:日銀金融政策決定会合 (9日)
  ・ドイツ:経常収支 9月分 (9-10日)
  ・米国:生産者物価指数 9月分(10日)
  ・米国:貿易収支 8月分(10日)
  ・日米の株価動向
  ・財務省・日銀の介入動向

G7はドル/円の水準を5円ほど円高に修正するという点で, 見事に即効的な結果をもたらしました。私が前回の最後に示したメインシナリオは見事 に外れ、可能性が低いと考えた「最も影響力のあるシナリオ」が実現した形になってい ます。つまりドル/円相場の調整のみならず、広範なドル下落がG7をきっかけに始まり ました。

G7共同声明文には「為替レートのさらなる柔軟性が望まれる」 という表現が盛り込まれました。これはスノー米財務長官の主張に基づくものと言われ、 固定相場制の中国元と、執拗な介入で上昇が妨げられている日本円を狙い撃ちしたもの、 というのがG7を報じる記事に共通した解釈でした。

G7のテーマ

福井日銀総裁によれば、今回のG7では「米国の双子の赤字は 持続性がない」というのが共通認識だったとのことです。これは85年プラザ合意当時と同 じ状況ですが、当時の声明では「為替レートが対外インバランスを調整する上で役割を果 たすべきである」との合意を明らかにしました。今回も米国は同じ立場をとり、もうしば らく時間をくれと言ったのが日本です。

G7後の報道に最も近いことを考えていたのが欧州諸国だったと 思います。プラザ合意では、先の一節の後に「主要非ドル通貨の対ドル・レートのある程度 の秩序ある上昇が望ましい」と続いていました。今回の「為替レートのさらなる柔軟性」と いう表現は、通貨調整がもっぱら対アジア通貨で行なわれればユーロ/ドルには大きな影響は なく、ドル/円が円高になる分だけユーロ/円も円高,その結果欧州での日本企業の競争力が 低下する,という欧州の思惑に合致していました。

ところがユーロ/円はG7直後こそ127円台に下落したものの、その 後はユーロ/ドルの急上昇により、ドル/円が111円台でもユーロ/円は130円前後となるなど, ドル全面安です。2日(木)に中東の中銀が大量のドイツ国債売却に伴ってユーロを売り、 翌日も東京時間からユーロは弱含みで推移しました。しかしG7は、日欧にとって決して嬉し くない結果をもたらしたことになります。

今回は米国の思惑どおり?

一方米国は、双子の赤字解消策として以上に、大統領選挙をにらん だ国内産業界に対する得点稼ぎとしてのドル安誘導に成功しました。この週末にかけて株式市 場が三日連騰したように、今のところ米国の金融市場には大きな混乱がありません。9月の雇 用統計で8ヶ月ぶりに雇用者数が増加したことも、ブッシュ大統領にとっては朗報です。

ただし雇用の増加はサービス業に偏っており、製造業の雇用減少に歯 止めはかかっていません。イラク戦争に対する国民の批判も日増しに高まり、再選への道が険 しくなっているブッシュ大統領が、今後も「為替」を再選の道具にする可能性は高まっていま す。G7声明は、日本がすでに為替相場の保護を必要とする段階を過ぎたという米欧の判断を 反映しているからです。この点で前回の私の見通しは日本に対して甘いものであり、諸外国は はるかに冷徹でした。

日本の対応と今後の展開

日本にとってG7の明確なメッセージは、特定の為替水準を意識し た介入を否定されたことです。しかし1日の日銀短観では、大企業・製造業の2003 年度下期 のドル/円想定レート平均が117.53 円と、前回とほとんど変化していないことが明らかになり ました。このことは、現在の為替レート、さらにはこれ以上円高が進んだ状況では、政府の景 気見通しの前提となる企業収益を大幅に下方修正する必要が出てくることを意味します。この ため、今後円高がさらに進みそうな局面では、随時介入を行なうことは避けられません。しか しドル買い介入が特定の水準を防衛しないのであれば、市場は介入による戻り局面をドルの売 り場と判断するため、ドル売り圧力はなかなか収まりません。また、米国の大統領選挙という 政治的要因が市場におけるドル下落予想の重要な要因である場合、米国景気や企業業績が明ら かに改善してこない限り、基調は変化しにくくなります。難しい局面が続く中で、日銀はスム ージング・オペレーションによる円高のスピード調整を強いられるでしょう。

介入以外に当面ドルが上昇する要因を考えると、これはという決定的 なものはなかなかありません。ただ、シカゴIMMの投機的な円の買い持ちポジションは依然 史上最高水準にあり、こちらはG7の後も大きな変化が見られません。また、少し前の新聞に 「ヘッジファンドが111円台半ばでドルを執拗に売り、輸出企業のドル売り機会を奪って彼らが 一斉に見切り売りをするのを待っている」という記事がありました。この理由自体はかなり疑 わしいものですが、彼らが本当にドルを売っているのなら、逆に円安の潜在的要因が形成され ていることになります。シカゴ先物にしても為替予約にしても、ヘッジファンドのポジション はいずれは解消されるものであり、積み上がった円買いポジションが大規模に巻き戻される時 は、円の下落材料になるためです。

最後に、2日に発表された日本の対内対外証券投資(9月22日〜26日) で目についたのは、外国人の日本株投資が実に24週間ぶりに売り越しに転じたことでした。G 7後の円高は、彼らにとって大きな為替益を生むと同時に、輸出関連株を中心に株価の下落要 因となるため、非常に合理的な行動でした。この上半期に、半期ベースで過去最高となる6兆 円以上の買い越しを記録した外国人の日本株投資が、G7以前から円高要因として働いていた ことは疑いがありません。利益確定の絶好の機会ををとりあえず確保してポジションが多少軽 くなった彼らが、今後の日本をどう見るかが、円相場の次の方向を左右する重要な材料になる でしょう。




                    第26回 
           G7前に円急騰.その後のシナリオ
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1.市場の動向:

           9/12(NY終値)    9/19(NY終値)
     ドル/円     \117.28    →  \113.94
    ユーロ/ドル  $1.1286    →  $1.1368
    ユーロ/円   \132.40    →  \129.56

2.今週の注目点:


  ・日本:貿易統計 8月分 (22日)
  ・IMF・世銀年次総会 (23日)
  ・ドイツ:IFO景況感指数 9月分 (25日)
  ・米国:ミシガン大学消費者信頼感指数 9月分(26日)
  ・G7後の財務省・日銀の介入動向
  ・イラク、パレスチナ情勢

週末のドバイG7を前に、円は113円台に入り、2000年12月 以来の円高水準となりました。これまで115円台が財務省・日銀の防衛ラインと見られて いましたが、金曜日の東京市場では介入らしき動きが見られませんでした。このため 欧州市場が始まると、G7で日本の円売り介入が話題となるために介入を手控えたの だろうとの見方から、ドル売り円買いが優勢となりました。

このページをお読みになる頃にはG7の声明も出ていると 思いますが、これを書いている段階では、日米欧の景気見通し、為替介入に対する考え 方、それに米国の経常赤字のどこに重点がおかれるかが、為替市場にとって重要な点 だと思います。加えて、声明の中で為替にどの程度のスペースが割かれるかという点に も注目すべきです。

景気の認識

25日の年次総会を前に、IMFが18日付で「世界経済見通し」 を発表しました。この中で、日本の2003年の経済成長見通しを、4月時点の予想より 1.2%上方修正し、2.0%としています。また、米国についても戦争に伴う政府支出や自 動車販売など堅調な個人消費を反映し、2003年は2.6%(4月予想2.2%)、2004年3.9% (同3.6%)と、これも上方修正しました。一方、ユーロ圏は2003年、2004年について それぞれ0.6%、0.4%の下方修正となりました。

G7がこの見解を確認するならば、依然として円高圧力がか かることになるでしょう。しかし最近急反発を見せているユーロが調整される可能性も 大きくなります。ユーロのこのところの上昇は、経済指標のポジティブサプライズ(予 想外の良い結果)と、イラク及びパレスチナ情勢の混迷によるところが大きく、その 片方の勢いがそがれることになるためです。

介入への言及

このところG7を介入と結びつけた相場コメントが前面に出てい ます。特に、「先日のAPEC会合では中国元の切り上げ(または変動相場制移行)が 焦点になったが、中国のいないG7では日本の介入に話題が集中する」という見方です。 しかし現実に声明の中で日本の介入に批判的な表現がされる可能性は少ないでしょう。

政府・日銀の景気判断が若干の上方修正をしている通り、日本 の景気は回復局面入りしたと見られ、年初来の株価上昇率も欧米を上回っています。しか し今の時点で「介入を控えるべき」「介入は好ましくない」といった表現を盛り込んだ 結果円相場が急騰し、再び日本の景気が腰折れするという懸念は、日本のみならず欧米の 政府も拭い切れません。

最も影響力のあるシナリオ

G7が最も為替相場に影響を与えるとすれば、それは米国の 経常赤字が重要なテーマとなった場合でしょう。1985年のプラザ合意はまさにそうした 会合でした。仮に当時の声明のように、為替レートが「基本的経済条件をよりよく反映 する」ことを目指す場合、今のファンダメンタルズに照らすとドルの下落は急激ではなく、 持続的かつ比較的小幅なものになるでしょう。

実は、金曜日の相場はこちらのリスクを多少織り込んだ動きだ ったのではないかと思っています。一番上に示した前週末との比較では、円が対ドル・ 対ユーロで共に上昇していますが、金曜日はそうではありません。ドル/円が1円30銭、 ユーロ/ドルが0.011ドル、それぞれドル安になる中、ユーロ/円は前日比10銭程度しか 円高にはなりませんでした。円買いではなくドル売りが主体のマーケットだったのです。

G7後は再び膠着?

ただし、今回は為替、特に「円」に関するあまり踏み込んだ 表現はないと思います。過去のG7で、特定の通貨の為替の方向性や為替政策に関する 具体的な声明があったのは、ほとんどその前に大きな変動が続いた局面でした。これに 対し今の円相場は1年以上10円の変動幅にとどまり、ある意味では問題視する方が不自然 な印象さえあります。

この場合は、短期間に対円でドルを売り込んでいた参加者が いったん買い戻しに動き、そのタイミングで介入が入れば117円程度まで戻す展開が考え られます。そうした「仕切り直し」の後、やや天井が低くなった115円〜118円程度のコア レンジの中で再び膠着状態に戻る、というのがG7直前の私のシナリオです。




                    第25回 
    日本は介入再開へ 日欧をめぐるグローバル投資に注目
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1.市場の動向:

           8/22(NY終値)    8/29(NY終値)
     ドル/円     \117.56    →  \116.97
    ユーロ/ドル  $1.0879    →  $1.0983
    ユーロ/円   \127.90    →  \128.49

2.今週の注目点:


  ・米ISM景況指数 8月分 (2日)
  ・米雇用統計 8月分 (5日)
  ・海外投資家の日本株投資 
  ・財務省・日銀の介入動向
  ・スノー米財務長官来日(1日)
  ・イラク、パレスチナを始めとするテロ行動
  ・欧州中銀(ECB)理事会 (4日)

先週はドルが下落し、円は29日に一時116円15銭と、5月19日 以来約3カ月ぶりの円高水準を記録しました。ドル/円は、117円台では介入警戒感からドル 売りが控えられていましたが、29日の夕方に財務省が公表した8月分の「外国為替平衡 操作の実施状況」で、この1ヵ月の介入額がゼロだったことがきっかけでこの水準を割 りこみました。またユーロも26日に1.0790ドルまで下落した後は上昇し、1.10ドル目前 まで回復しました。

今週の注目点の第一は、これまでの想定レンジの下限を抜け たドル/円の水準に、財務省・日銀がどのように反応するかでしょう。そして第二に、 ユーロが高値からの調整を終えたのかということです。

正念場を迎えた日本の介入

第一点については、政府・日銀の景気判断は上方修正されつ つあるものの、円高の進行を容認する考えはないと思います。ドル/円が115円に近づく 局面では、再び大規模な介入で対抗するでしょう。財務省と日銀は、「円高になる状況 ではない」という見解の下に円売り介入を行なってきており、その見方は先週も変わっ てはいませんでした。

現時点での最大の円高要因は、19週間連続で日本株を買い越して いる海外投資家の動向です。これだけ買い続けていても、海外投資家の日本株投資比率 は、代表的なベンチマークの水準に達していません。ゴールドマン・サックス社によれ ば、組み入れ不足は約5%で、額にすると13兆円に達するそうです。日銀が当座 預金残高を増やす量的緩和政策を続けているため、通貨当局が円売りを無制限に行なっ ても政策的には矛盾しない状況ですが、資本流入の加速度合いによっては水準の防衛が困 難な状況もあり得ます。

ユーロの調整売りは終わったか

第二点のユーロについては、むしろ先週後半の回復が、短期的 な踊り場と考えた方がよさそうです.6月上旬以来のユーロ/ドル相場の動きは、米国景 気の回復を先取りしたドル高と、1999年発足時の水準を回復まで突っ走ったユーロ高の 調整、という二つの面からとらえることができました。しかし、先々週に中東で発生し た2度のテロ事件は、後者の要素がより大きいことを浮き彫りにしました。

ドルの好材料に着目した相場であれば、テロ事件に対する反応 はドル安のはずです。しかしバグダッドの国連本部施設が襲撃された事件では、その日 こそユーロ/ドルが反発した(ドルが売られた)ものの、翌日からはユーロが売られ、22 日(金)には1.08ドル台まで下落しました。

この局面での主役はユーロ/円でした。それまでは日本株が 急騰する中でも、介入警戒感から円がらみの為替は敬遠され、ユーロ売りは対ドルが 中心でした。しかしテロ事件のあとはさすがにドル買いのリスクを避け、代わりに円を 買ってユーロを売るという動きでユーロ/円が130円を割り込み、その結果ユーロ/ドル、 ドル/円ともに下落という展開になりました。

ユーロにとって、当面明るい材料があまりありません。中核と なる独仏伊が全て景気の停滞にあえいでいる上、29日には、2003年のドイツの財政赤字が GDPの3.8%に達することがわかりました。EU加盟国の財政安定・成長協定に定める3%に、 2年連続で違反することになります。これにより当然財政の緊縮を迫られることは、今後 の景気刺激の足枷となります。

先日発表された6月のユーロ圏国際収支も、ユーロの頭打ち傾向 がすでに始まっていたことを示しています。ユーロ圏外からの対ユーロ圏債券投資は、 過去最大の474億ユーロを記録しました。これはユーロ買い要因ですが、その一方で圏内 からの外国債券の買い越し額も増勢を強めています。同時に米国財務省の発表では5月、 6月とユーロ圏からの米社債投資が増加しており、ユーロからドルへという資本の流れを 裏付けています。

前回(8月4日)、米欧長期金利の逆転について書きました。10年 もの国債の利回り格差は、その時の0.2%から現在は0.5%とさらに広がっています。こう したことを背景に、ユーロ圏の投資家は内から外へ、さらに債券の中でも社債へと、リス ク志向を強めています。6月に債券相場がピークを打ち、世界的に株式市場が上昇していま すが、外資系証券会社の話では、ここ1ヶ月以上、欧州から日本株の問い合わせが相次いで いるそうです。こうした動向から、ユーロ圏への資本流入を圏外への資本流出が上回る可 能性が強まっており、ユーロは依然ピークからの下値を探る過程にあると考えられます。

日本の金利水準について

最後にもう一度日本に戻ります。日本の金利は長期・短期ともに上 昇圧力がおさまりません。この背景には、日銀の量的緩和が早期に解消されるという観測 があります。事実、2年物国債の利回りは量的緩和以前の水準に達しており、市場は 量的緩和が1年以内に解消されることを織り込んでいるようです。これが株高に見られる景気回 復期待とワンセットで円高要因として働いています。

しかし、日本の量的緩和早期解除は非現実的な見通しです。その 一つの理由は米国の情勢です。最近の経済指標が概ね好調と言っても、その持続性に慎重な グリーンスパンFRB議長の発言からは、米国が金融緩和政策を転換するという気配は感じられ ません。その中で日本が先に量的緩和を解除するというのは、頼みの綱の為替への影響を考 えても、あり得ないと言っていいでしょう。

なお、日本の債券市場に大きな影響を与え、長期金利高止まりの原因 となっているものに、「VaR(バリュー・アット・リスク)要因」があります。私は債券に はほとんど素人ですが、これについてはまた次の機会に簡単に触れることにします。




                    第24回 
              米国債券市場下落の意味
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1.市場の動向:

          7/25(NY終値)    7/25(NY終値)
     ドル/円     \118.78    →  \120.11
    ユーロ/ドル  $1.1508    →  $1.1269
    ユーロ/円   \136.7148    →  \135.37

2.今週の注目点:


  ・米国債券市場の動向
  ・米失業保険継続受給者数 7月26日終了週 (7日)
  ・対内対外証券投資 前週分 (7日)
  ・ユーロ圏、第1四半期GDP確報値 (6日)
  ・北朝鮮核問題6カ国協議への動き

金曜日(1日)のニューヨーク債券市場では、10年債利回りが ほぼ1年ぶりに4.59%まで上昇しました。600億ドル規模の四半期定例入札を来週に控え、 需給悪化の懸念もありますが、最近の長期金利上昇は、やはり米国景気の回復を織り込 んでいるからでしょう。

為替市場の関心も、地政学的リスクによるドル売りが一段落し た今のところは、景気が中心になっているようです。先週はドルが円とユーロに対し 共に反発する展開となりました。

それにしても、米国長期金利は、6月に一時3.1%台まで低下した 時から見ると、1ヵ月あまりで1.5%近く上昇したことになります。このため新聞などでも、 「グリーンスパン(FRB議長)は市場との対話に失敗した」「議長の神通力に翳り」などと いう評価が出ていました。

「市場との対話」とは、常に金融市場の参加者の動向を読んで 先手を打つ議長の金融政策手法を譬えたものです。失敗と言われるのは、長期金利反発の きっかけが、6月FOMC(連邦公開市場委員会)で利下げ幅を0.25%にとどめたためだった からです。6月3日の「デフレ懸念の問題は次回のFOMCでも詳細に議論されるだろう」と いう発言から市場が受けた印象は、より積極的な利下げの可能性でした。

本当に「対話に失敗」したのか
しかし本当に、議長は市場との対話に失敗したと思っている のでしょうか.言い換えれば、長期金利の4%ないし4.5%という水準を、望ましくない と考えるのは本当に正しいのでしょうか。

7月15日の議会証言で、議長はFOMC 後の金利上昇を「予想していた」 と発言しました。注目すべきなのは、その証言で今年第4四半期の名目GDP成長率を、前年 比4.75%〜5.00%と高めに予想し、一方インフレ率の見通しを前年比1.25%〜1.50%と していることです。非常に健全な姿を見込んだ強気の予想です。

6月3日にデフレ懸念に言及した時、議長は「その可能性は低い ものの」と前置きしました。これを考えると、その後の長期金利の急低下は市場の過剰反 応だったと思います。同様に、第4四半期の高成長が予想されるといっても、現在の設備 投資や銀行貸出の動向を見れば、資金需要の逼迫による市場金利の上昇が、近日中に起こ る状況ではありません。そういった要因とは別に、自分の発言によって、行き過ぎていた 債券シフトの巻き戻しが起こり、一時的に急激な金利上昇が起こることは当然「予想して いた」と思われます。

その後、意図的かどうかわかりませんが、グリーンスパン議長の 発言が聞かれなくなりました。一方、他のFRBメンバーが、「必要ならば、FF金利がゼロに なるまで金利を引き下げる」(バーナンキ理事)、「米経済は大幅に加速すると予想」 (スターン・ミネアポリス連銀総裁)と、市場を右往左往させています。こうした中で 金利は、本来の要因である景気・資金需給とインフレ予測によって導かれる水準に収斂して いくと思います。議長証言の見通しを基にすれば、それは3%台ではないのでしょう。

米欧長期金利の逆転
当面の水準はともあれ、米国金利は底打ちという見方が広がった結果、 昨年4月以降ほぼ一貫して欧州の方が高かった米欧の長期金利の関係が逆転しました。 先日発表された5月のユーロ圏対外収支統計によれば、この月はユーロ圏外からの債券投資 による買い越し額が460億ユーロと、過去最高を記録しています。この時期はユーロが高値 更新に向かっていた頃で、債券投資がユーロ高をもたらしていました。

ユーロ/ドルの為替とユーロの債券相場は、ともに6月上旬をピ ークに下落に転じました。この当時の長期金利はまだユーロがドルを0.3%程度上回っていま した。しかし現在は逆にドルの方がユーロよりも約0.2%高くなっています。この状況では 今後は米国からユーロ圏への資本流入が増えることは考えにくく、その方向が逆になっても おかしくありません。(なお、5月に流入超だったのは債券だけで、株式投資収支・直接投資 収支は流出超でした。)

ユーロにとってもう一つの不安材料は経常収支です。昨年はほとんど 毎月黒字を続けていた経常収支は、ユーロ高の影響で今年に入り黒字・赤字を繰り返して います。ここに来てユーロが下落を始めたといっても、年初の水準よりも1割以上のユーロ 高です。通貨下落の輸出促進効果がラグを伴うことも考えると、経常収支はまだしばらく 悪化するでしょう。

景気、長期金利、資本動向がそれぞれユーロにとって逆風になって います。米国債券市場の下落は、米国の景気回復を妨げる要因として取りざたされています。 しかし為替に関する限り、この影響を最も大きく受けるのは実はユーロだということです。




                    第23回 
                最近のおさらい  
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1.市場の動向:

          7/18(NY終値)    7/25(NY終値)
     ドル/円     \118.45    →  \118.78
    ユーロ/ドル  $1.1269    →  $1.1508
    ユーロ/円   \133.48    →  \136.71

2.今週の注目点:


  ・独IFO景況感指数 7月分(28日)
  ・米消費者信頼感指数 7月分(29日)
  ・米GDP 第2四半期速報値(31日)
  ・欧州中銀理事会(31日
  ・米雇用統計 7月分(8月1日)

先週はドル/円が横這い、ユーロ/ドルが大きく戻し、その結果ユーロ/円 も上昇、という形で引けました。とりたてて大きな材料のない中のユーロの戻しは、1.1935ドル という高値からほぼ1ヶ月で1.1100ドルまで下落しただけに、その調整(反動)という面が 強かったと思われます.

前回の最後に、
 外国人投資家の日本株投資比率はかなり目標に近づき、買い余力がなくなってきた
 日本の長期金利はあくまで「水準が戻った」段階で、上昇に弾みがつく理由は乏しい
 日本は景気が上向くまでは引き続き強い姿勢で介入を続ける
 過去に外人の株買いが円高につながった時は、景気回復が鮮明な局面だった

ということを挙げました。これらについてその後の動きを振り返ってみます。

外国人投資家は、引き続き日本の株式を買い越し、東証の買いの 最大勢力となっています。しかし最も新しい7月18日までの1週間の数字では、買い越し額は 前の週より6割以上減少ました。日経平均は1万円でとりあえず頭打ちの気配ですが、今後本 格化する4-6月期の業績発表が、外国人投資家の動向を左右しそうです。

日本の長期金利は、1%前後での推移となっています。米国の長期 金利が4%を越え、日本の金利水準にも上昇圧力を与えそうですが、それを抑えているのが 日本の年金資金などの根強い債券投資です。依然として彼らのリスク許容度が低いことを 考えれば、最低水準から0.5%以上金利が上昇した局面で買いが入るのは、むしろ当然かも しれません。また、仮にここから金利がさらに上昇すれば、日銀の長期国債買い切りオペ 増額も予想され、長期金利は現在の水準で概ね安定するでしょう。

スノー長官「介入容認」の真意は?
日本の為替に対するスタンスは、財務省関係者の発言を聞く限り 全く変化がありません。むしろ最近注目されたのは、スノー米財務長官の介入容認発言でした。 これまで、彼の「強いドル支持」は財務長官として引き継いだお題目で、本音は米産業界 の利害を代弁したドル安信奉者、円売り介入には反対、という印象を隠しませんでした。 18日の「日本の介入に批判はない」という発言に、市場はすぐには反応しませんでしたが、 連休明けの東京市場で海外ヘッジファンドの円売りの原因となったと言われています。

発言の真意は明らかではありませんが、米国長期金利の上昇を 考慮した可能性があります。日本が外貨準備による保有米国債の保管を委託している米連銀 口座の残高は、4月から6月までの間に342億ドル増加しました。この間の日本の介入額が 約4.5兆円=約385億ドルということから、日本の介入が米国長期金利上昇圧力を緩和して いたことは明らかです。

日本の景気は、16日の日銀金融経済月報で1年ぶりに景気判断が 小幅修正されましたが、お世辞にも回復傾向が鮮明だとはいえません。日銀月報に先立ち 11日に提出された竹中経済財政・金融担当相の月例経済報告も、景気の現状は「おおむね 横這い、一部に弱い動きが見られる」という表現に留めています。景気の牽引車となる 輸出動向は、24日発表の6月貿易統計速報では、アジア向けが半期ベースで過去最高と 好調な一方、対米は引き続き不振となっています。

当面ユーロ/ドルに注意
以上のように、外国人の日本株買いが依然続いていること以外は、 4つのポイントについてこれまでの見方を変えるような状況は生じていません。円相場は、 今のところ非常に動きづらくなっています。このため、主に動きのありそうなユーロ/ドル の観点から、

 グリーンスパンFRB議長は本当に「市場との対話」に失敗したのか
 米欧の長期金利が逆転した(短期は依然ユーロの方が高い)

といったあたりが注目されます。そのあたりは次回。




                    第22回 
             「債券から株へ」は要注意  
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1.市場の動向:
          6/27(NY終値)    7/4(LDN終値)
     ドル/円     \119.57    →  \118.10
    ユーロ/ドル  $1.1431    →  $1.1486
    ユーロ/円   \136.69    →  \135.68

2.先週の材料:

  ・日本の長期金利(10年)一時1.4%台
  ・日経平均、大商いを続けて一時9800円台
  ・日銀6月短観(1日) やや改善と見られる内容
  ・米6月ISM製造業業況指数(1日) 予想を上回る
  ・米6月雇用統計(3日) 表面の数字ほど弱くない

3.今週の注目点:
  ・日米の長期金利と株価動向
  ・米国企業の四半期決算発表
  ・5月民間機械受注(8日)
  ・対内対外証券投資(前週分:10日)
  ・米6月消費者物価指数・5月貿易収支(11日)

先々週(27日)に一時120円台を回復したドル/円も、長期金利と株 価上昇で118円台に反落しました。この間の動きの引き金を引いたのは、FOMCの0.25% 利下げ発表でした。一方でデフレ警戒のコメントもあり、強弱両方に解釈できるこの決定を、 金融市場は概ね「利下げ打ち止め」と判断し、日米で株式市場が上昇、債券は下落(長期金利 が上昇)という反応を示しました。

FOMCの後で為替市場がドル高に動いたのは、米国景気の立ち直りへ の期待を反映したものと解釈できます。この地合いを象徴したのが、25日のドイツIFO景況感 指数発表の後の反応でした。6月の指数は88.8と、事前の予想(88.0)を上回りました。欧州 で最も景気が懸念されるドイツのこの数字がユーロ買いにつながらず、その後1.15ドル台を 超えられないことは、ユーロが対ドルで勢いを失っていることを裏付けています。

米国への資金フロー
FOMCまでドルが弱含んでいた局面の特徴は、ドル売り要因が複合的 だったことです。テロやイラク戦争が米国に対する心理的な不安を生む→株式が下落する→ 「双子の赤字」のファイナンスへの懸念からドル売りが強まる。三題噺的な連想でした。

現在、心理面はやや好転したと見られます。テロに対する潜在的な 不安はあるものの、イラク情勢は一応の終結を見ました。株式市場はイラク戦後の上昇から いったん反落し、グリーンスパンFRB議長のデフレ警戒発言(5月6日)も手伝って頭の重い展 開になっていました。しかし利下げが小幅に止まったため、7月上旬からの景気指標と企業業 績に対する強気な見方が増え、株高とドル買い戻しにつながりました。

双子の赤字は簡単に消えそうもありません。しかしこれを埋 めるために、日本からの資金が多大な貢献をしています。前回テリーさんも指摘されていた 機関投資家の外債投資の他に、円高阻止のための財務省の執拗な介入を通じた米国債の購入が、 大きな役割を果たしました。

今後の円売り介入
円安誘導ということだけに限れば、120円を上回る水準で日本が介入を 続けるかという点には疑問符がつきます。日本にはドル高を加速させる意図はないでしょう。 しかし、財務省筋は銀行の為替担当者に対し、今の段階での円高はファンダメンタルズが許容 しないという点は明言しています。先日発表された6月の介入額は6289億円と、4兆円を超えた 5月に比べ大幅に減少しましたが、その間の値動きを見れば、介入水準自体は117円台まで上昇 していることがわかります。

ところで、日本の介入に影響を及ぼすかもしれない要因が、中国元を めぐる動向です。6月の半ば頃からスノー米財務長官は、これまであまり触れなかった元切り 上げの可能性について何度かコメントしています。中国は今や米国の第一の輸入国ですが、 元対ドルは固定相場であるため貿易不均衡が為替に反映しません。

中国は切り上げを否定しています。しかし対ドルの固定相場にも 若干の変動幅が存在するため、これを時間をかけて拡大し、実勢レートがその上限に向かう という形が現実的な対応と言われています。そうなった場合(先のことですが)、日中間の 貿易関係から、日本だけが「円安が望ましい」とは言いにくい状況になります。

長期金利の行方
当面の最大の注目点は、日本の長期金利の動向でしょう。 「債券から株へ」という動きが起こっていると言われます。市場全体で見る限り、短期間に そうした流れがあったのは事実です。しかしこれには注意が必要だと思います。

まず、債券売りと株買いの主体が同じではないことです。デフレ懸 念を最も極端に反映して日本の国債を買い込み、明らかに異常な低水準まで円の長期金利を 押し下げた日本の金融機関は、FOMC後の米金利の反発に、慌てて日本の国債を売りました。 これはいわゆるポジションの戻しであり、妥当な金利水準への修正と見ることができます。 一方株式の買いを主導したのは外国人投資家でした。日本のマクロ経済に明るい見通しは持 てなくても、企業収益を先取りした買いと言われます。一般投資家もこれに追随し、連日の 大商いになりました。

次に機関投資家の動向ですが、彼らはこの間カヤの外で、「債券 から株」という動きはありませんでした。これにはいくつか理由があります。まず、これま での株式ファンドの惨状に、運用機関はよほどの積極的な理由がなければ、株を買いたいと 委託者に言えないところまで追い込まれています。運用部門が株買い推奨を検討する時に、 「お客さんにそう言って本当に大丈夫か?」という営業担当者の声が聞こえるそうです。

そう考えると、短観がやや改善と言っても、景気にはっきりと回復 の兆しが見えているわけではありません。需給面では、今後も代行返上に伴う売りや、「限り なくゼロに近づくべきだ」と当局が言う持合いの解消という悪材料があります。

機関投資家の行動パターン
ここで、テリーさんが前回書かれたことを思い出してください。

 「円高ドル安局面では、円ベースのドル資産が目減りし、手元のポートフォリオが目標
  水準を割り込むことにつながります。この時、目標水準を回復するために、彼等はド
  ル資産への投資を拡大する傾向がある」

これと同様に、

 「株高局面では、株式資産の価値が上がり、手元のポートフォリオが目標水準を上回る
  ことにつながります」

この時、運用機関には二つの選択があります。一つはテリーさんの外債の例と同様、目標 水準を回復する、つまり株式を売ることです。もう一つは、株式の運用比率を上方修正して、 実際は売買を何もしないことです。すでに時価が上がっているため、それに目標を合わせる わけです。現実には、「株価は底入れ」「景気の転換点?」などという記事や資料が出て くる中を売り向かうよりは、後者が選択されることが多いようです。

最後に話を円相場に戻します。「債券から株へ」は一般には株高・ 金利高により円高要因と見ることができます。しかし今お話しした機関投資家の動向の他に

 外国人投資家の日本株投資比率はかなり目標に近づき、買い余力がなくなってきた
 日本の長期金利はあくまで「水準が戻った」段階で、上昇に弾みがつく理由は乏しい
 日本は景気が上向くまでは引き続き強い姿勢で介入を続ける
 過去に外人の株買いが円高につながった時は、景気回復が鮮明な局面だった

といったことに注目しています。このため株・長期金利ともこの二週間の延長よりは調整の 動きが強まり、円相場は120円付近が新たな落ち着きどころになりそうです。




                    第21回 
        三者三様のリフレ政策と為替レート  
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1.市場の動向:
   6/06(NY) ドル/円 \118.64  ユーロ/ドル $1.1696
   6/13(NY) ドル/円 \117.45  ユーロ/ドル $1.1859

2.先週の材料:

  ・英国のユーロ参加に関する蔵相発表(9日)
  ・堅調な米国株式市場
  ・フレディマック会計疑惑
  ・日本の円売り介入への警戒感
  ・イスラエルとパレスチナ過激派の対立激化

3.今週の注目点:
  ・米5月消費者物価・鉱工業生産指数(17日)
  ・米第1四半期経常収支(19日)
  ・イスラエル・パレスチナ情勢
  ・日本の株式市場反発の持続性

先週はドルがやや弱含み、ユーロは乱高下、円はほぼカヤの外という動きでした。 5月下旬に一時140円台に達したユーロ対円(以後「ユーロ/円」と呼びます)は、138円台を 中心とした小動きでした。なおユーロ/円のレートは、「ドル/円×ユーロ/円」で求めることが できます。上の例では
  6日   118.64×1.1696=138.76
  13日  117.45×1.1859=139.28
となります。

今「安心な」投資
ユーロ/円はこのところ、最も確実な収益機会と言われ、ユーロ買いに安心感があります。 その理由は通貨政策の明確な方向性です。日本の円高阻止の姿勢は明らかで、5月30日の日銀 発表から推定すると、5月の介入額は単月として過去最高に達した模様です。 (参照: 「日銀当座預金増減要因と金融調節」。この中で、「外為」がほぼ介入額に相当すると見ら れていましたが、11日に「実質的に同義だから」という理由で,今後は「介入額」を毎月公表 すると発表しました。)

一方ユーロ圏の中銀・政府筋からは、ユーロがドルに対して最高値を更新している間 でも、「問題ない」「インフレ抑制に望ましい」といったコメントが相次ぎました。このスタ ンスの違いを頼りに、ユーロ/円は堅調な推移を続けています。

「リフレ」が相場のテーマに
世界的にデフレ懸念が高まる中、それからの脱却を図るリフレ政策が注目されています。 インフレにしない程度に景気を刺激しようという政策です。代表的なものは公共投資など 財政支出の拡大、それに政策金利の引き下げです。

この観点から日米欧の動向を眺めてみましょう。まず米国では、イラク戦争の終結後、 ブッシュ政権は来年の大統領選を念頭に、明らかに国内景気の回復に軸足を移しました。 それにも増して、FRBはデフレへの警戒感を強め、5月6日の声明にはそれが鮮明に表れて います(参照: 外務省「米国の金融政策」)。財政赤字と貿易赤字が拡大する中でのこうした低金利政策は、 ドルの下落要因になるため、ドルには根強い売り圧力がかかっています。

一方、日本はかなり前から公共投資やゼロ金利政策を実行してきました。それでも 銀行貸出も設備投資も停滞しています。こうした中で小泉政権はこれ以上の財政悪化に消極的で、 日銀の追加量的緩和に頼っている状況です。しかし金融政策自体はインフレターゲットへの 消極性に見られるとおり、特に踏み込んだものはなく、実質的にはややデフレ的であるとさえ 言われています。このため、ドルに対しては円は買われやすい状況になっています。これを 政府・日銀が、かつてない規模の介入で食い止めているわけです。

ユーロが堅調な理由の一つは、海外からの旺盛な債券購入です。ユーロ圏 には安定成長協定に基づく財政規律が義務付けられているため、財政赤字の拡大には限界が あります。このため、ユーロ圏の国債を買う海外の投資家は、国債増発による需給悪化をあ あまり心配する必要がありません。ここでも、米国と対照的にリフレ政策が限られているこ とが、対ドルでの通貨高につながっています。

ユーロ高のリスク
しかしこのことは同時に、欧州景気の回復が思うようには進まないことを意味します。 欧州中銀(ECB)は、6月5日に0.5%の利下げを発表しました。市場ではこれでも不十分で 再利下げは遠くないとの見方から、債券が引き続き買われています。しかし各国の経済事情 の違いを考慮する結果、ECBの金融緩和にはFRBほどの機動性がありません。少し前の『ビジ ネスウィーク』でローラ・タイソン元米国CEA(経済諮問委員会)委員長は、 「英国はユーロと距離を置くべきだ」という題のコラムで、ユーロ圏の経済運営の難しさ を指摘しています。

これまで、米国はドル安を容認するだろうとの見方も、ドル安ユーロ高の大きな 要因となっていました。「強いドルを支持」という決まり文句の真意が、緩やかなドル下落 の容認であることに変化はないと思います。しかし日本の円売り介入を通じた資金流入だけ に頼ることのリスクを感じ始めたためか,最近のブッシュ大統領の発言には、ドルの急激な 下落を防ぐことへの配慮が見られるようになりました。

また、最近の米国株の堅調な動きも、これまでの「米国→欧州,株→債券」という 資金の流れに逆の影響を与えつつあります(ロイター5月機関投資家調査)。米国のリフレ 政策が効果を上げてくると、逆に欧州景気のもたつきが長引くようだと、ユーロに傾いていた 相場の流れが変化する局面が出てくるでしょう。

モグラ叩き
しかし今のところ、先日の雇用統計に見られる通り米国の経済指標はまちまちです。 また、イスラエルとハマスの抗争も、新たなドルの悪材料とされています。一方市場は ユーロの危うさも認識し始め、円買いには当局の執拗な抵抗があるとなれば、当面は ユーロ/円の下落局面での買い以外は、悪い材料が出た通貨を売るという「モグラ叩き」 状態の中で、次の展開を探ることになるでしょう。

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