2003年11月23日

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サッカー

J2第44節
川崎フロンターレ×サンフレッチェ広島
(等々力陸上競技場)
天候:曇り、気温:15.3度
観衆:22,087人、13時04分キックオフ

川崎 広島
2 前半 1 前半 1 1
後半 1 後半 0
23分:アウグスト
81分:我那覇和樹
マルセロ:35分
 

「盛り塩なんて全くいらない」

試合データ
川崎  
広島
14 シュート 10
7 GK 15
5 CK 2
18 FK 22
0 PK 0
 等々力競技場の関係者入り口右側には、どんぶりほどもある大量の塩が、必勝祈願のために盛られていた。新潟が敗れることを条件にして昇格が決まるだけに、最後はもちろん、縁起をかついで神頼みということだろう。
 しかし、昇格できなかった川崎には、何かを祈ったり、縁起をかつぐといった非科学的なことをやる必要が全くなかった。それほど、堂々と素晴らしいサッカーをして、少なくても2万2000人のサポーターの前でシーズンを終えたことが確かだからだ。

「一緒に上がりたかったですがこういう形になって残念です。でも、本当に最後の最後になって、初めてサッカーができたというか、やらせてもらったというか……。ありがとうございました」

 広島の小野監督が、会見後、広島のロッカー前で石崎監督にそう声をかけた。石崎監督は広島出身である。

「本当におめでとうございます。でも楽しかったですよ、本当に。昇格できなかったけれど、今日の90分は選手も僕もずっと楽しかった」

 石崎監督はそう答えた。両監督が長かったシーズンを終え、ロッカー前でふと交わした、飾らぬコメントは、この日の試合をピッチでの90分と同じように表現していた。理由は、J2の枠を超えて、J1でも戦えることを見据えたゲームのクオリティにある。年間44試合、しかも真夏をはさんでのホーム&アウェー。人材確保が困難な中、勝ち点を競わなくてはならないため、J1から落ちたクラブでも多くはなりふりかまわずゴール前を固め、引いてしまう。引いてカウンター、シンプルな戦いに徹すると、上位チーム同士、上位と下位では極端なリアクションサッカーが応酬されてしまう。

 小野監督は「初めて1年を通して44試合を戦ってみて、これはまったく異質な戦いなんだと理解しました。試合よりも、勝ち点がゲームを優先してしまうことがありました。ですから上を見ていないと、昇格したものの戦えずにすぐに戻ってしまうのではないか、とずっと厳しく考えてきました」と、初監督を務めあげた1年を振り返る。

 石崎監督は、川崎は、だからこそ、上で戦えるチームを目指して引かなかったのだろう。今季得点は88点、失点は47。J2最多得点の意味するものは、とてつもなく大きい。広島戦もシュート14本、2点目は、パス5本を丁寧につないで奪う、「らしさ」が存分に出たゴールだった。
 チームを預かって、今季からこうしたアクションサッカーがようやく芽を出した、と石崎監督は話す。問題は、こういうサッカーを最終戦だけではなく、年間通していかなければならないことだろう。プレスの高さや、後半も落差なく走り切るフィジカルは、決してJ1のチームにひけをとらない。

「取りこぼしがあったことが痛恨といえば痛恨です。山形に引き分け、甲府に負け、(前節の)湘南にも先制しながら勝ちきれなかった(2−2)。ただ、J2では引いて守ってカウンターで、というリアクションサッカーがセオリーの中で、こういう見ても楽しいサッカーをやり続けたことは選手に感謝しているし、満足です。J1でやっていけるサッカーだったと胸を張れる」

 監督自身、これで勝ち点差(勝ち点1)で昇格を逃がすのは3回目となる。
「今日も考えていたんですよ、その勝ち点がどうなるのかを。勝ち点1が取れない、馬鹿な監督でしてね」と笑う。こういう監督は「勝ち運がない」と見るのか、絶えず優勝、昇格戦線で戦い続けていることを、「勝ち運の賜物」と見るのか、難しいところだが、北風の吹きすさぶスタンドで、サポーターが最後に大きな三三七拍子をしていたのは間違いではない。
 監督が最後に口にしたように、「来年は昇格すると信じている」という意味で。

 川崎は2日間の休養をとり、天皇杯に向かう。監督の去就、選手の補強ほかは未定と監督は話した。クラブ関係者は試合後、控え室で号泣していたそうだが、連続で昇格できなかったファイナンスの工面以外、泣くようなことも、盛り塩をしなくてはならないようなことも、ひとつもない。

 等々力競技場から小杉までのバスの中で、初めて競技場で川崎のサッカーを見たという中年の女性と一緒だった。
「この歳になってこんなことをするとは思わなかったけれど、息子にひきずり込まれてしまって」
 本当にひきずりそうなグランドコートを着た彼女は苦笑いした。そうして言った。
「でも面白かった。サッカーは全然わからないけれど、2点目は本当に興奮した。来年は、きっとここに通うと思うわ」
 プロとして何を見せなくてはならないのか、少なくてもその長くて辛い戦いには、「勝ち切った」はずだ。

■2003 J2 順位表 (全44節終了時点)
 
総得点:678 試合平均得点:2.57

チーム 勝点 試合 引分 得点 失点 得失
点差
1 アルビレックス新潟 88 44 27 7 10 80 40 +40
2 サンフレッチェ広島 86 44 25 11 8 65 35 +30

3 川崎フロンターレ 85 44 24 13 7 88 47 +41
4 アビスパ福岡 71 44 21 8 15 67 62 +5
5 ヴァンフォーレ甲府 69 44 19 12 13 58 46 +12
6 大宮アルディージャ 61 44 18 7 19 52 61 -9
7 水戸ホーリーホック 56 44 15 11 18 37 41 -4
8 モンテディオ山形 55 44 15 10 19 52 60 -8
9 コンサドーレ札幌 52 44 13 13 18 57 56 +1
10 湘南ベルマーレ 44 44 11 11 22 33 53 -20
11 横浜 FC 42 44 10 12 22 49 88 -39
12 サガン鳥栖 20 44 3 11 30 40 89 -49



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