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※無断転載を一切禁じます サッカー J2第44節
「盛り塩なんて全くいらない」
「一緒に上がりたかったですがこういう形になって残念です。でも、本当に最後の最後になって、初めてサッカーができたというか、やらせてもらったというか……。ありがとうございました」 広島の小野監督が、会見後、広島のロッカー前で石崎監督にそう声をかけた。石崎監督は広島出身である。 「本当におめでとうございます。でも楽しかったですよ、本当に。昇格できなかったけれど、今日の90分は選手も僕もずっと楽しかった」 石崎監督はそう答えた。両監督が長かったシーズンを終え、ロッカー前でふと交わした、飾らぬコメントは、この日の試合をピッチでの90分と同じように表現していた。理由は、J2の枠を超えて、J1でも戦えることを見据えたゲームのクオリティにある。年間44試合、しかも真夏をはさんでのホーム&アウェー。人材確保が困難な中、勝ち点を競わなくてはならないため、J1から落ちたクラブでも多くはなりふりかまわずゴール前を固め、引いてしまう。引いてカウンター、シンプルな戦いに徹すると、上位チーム同士、上位と下位では極端なリアクションサッカーが応酬されてしまう。 小野監督は「初めて1年を通して44試合を戦ってみて、これはまったく異質な戦いなんだと理解しました。試合よりも、勝ち点がゲームを優先してしまうことがありました。ですから上を見ていないと、昇格したものの戦えずにすぐに戻ってしまうのではないか、とずっと厳しく考えてきました」と、初監督を務めあげた1年を振り返る。 石崎監督は、川崎は、だからこそ、上で戦えるチームを目指して引かなかったのだろう。今季得点は88点、失点は47。J2最多得点の意味するものは、とてつもなく大きい。広島戦もシュート14本、2点目は、パス5本を丁寧につないで奪う、「らしさ」が存分に出たゴールだった。 「取りこぼしがあったことが痛恨といえば痛恨です。山形に引き分け、甲府に負け、(前節の)湘南にも先制しながら勝ちきれなかった(2−2)。ただ、J2では引いて守ってカウンターで、というリアクションサッカーがセオリーの中で、こういう見ても楽しいサッカーをやり続けたことは選手に感謝しているし、満足です。J1でやっていけるサッカーだったと胸を張れる」 監督自身、これで勝ち点差(勝ち点1)で昇格を逃がすのは3回目となる。 川崎は2日間の休養をとり、天皇杯に向かう。監督の去就、選手の補強ほかは未定と監督は話した。クラブ関係者は試合後、控え室で号泣していたそうだが、連続で昇格できなかったファイナンスの工面以外、泣くようなことも、盛り塩をしなくてはならないようなことも、ひとつもない。 等々力競技場から小杉までのバスの中で、初めて競技場で川崎のサッカーを見たという中年の女性と一緒だった。
川崎フロンターレ×サンフレッチェ広島
(等々力陸上競技場)
天候:曇り、気温:15.3度
観衆:22,087人、13時04分キックオフ
川崎
広島
2
前半 1
前半 1
1
後半 1
後半 0
23分:アウグスト
81分:我那覇和樹
マルセロ:35分
等々力競技場の関係者入り口右側には、どんぶりほどもある大量の塩が、必勝祈願のために盛られていた。新潟が敗れることを条件にして昇格が決まるだけに、最後はもちろん、縁起をかついで神頼みということだろう。
川崎
広島
14
シュート
10
7
GK
15
5
CK
2
18
FK
22
0
PK
0
しかし、昇格できなかった川崎には、何かを祈ったり、縁起をかつぐといった非科学的なことをやる必要が全くなかった。それほど、堂々と素晴らしいサッカーをして、少なくても2万2000人のサポーターの前でシーズンを終えたことが確かだからだ。
チームを預かって、今季からこうしたアクションサッカーがようやく芽を出した、と石崎監督は話す。問題は、こういうサッカーを最終戦だけではなく、年間通していかなければならないことだろう。プレスの高さや、後半も落差なく走り切るフィジカルは、決してJ1のチームにひけをとらない。
「今日も考えていたんですよ、その勝ち点がどうなるのかを。勝ち点1が取れない、馬鹿な監督でしてね」と笑う。こういう監督は「勝ち運がない」と見るのか、絶えず優勝、昇格戦線で戦い続けていることを、「勝ち運の賜物」と見るのか、難しいところだが、北風の吹きすさぶスタンドで、サポーターが最後に大きな三三七拍子をしていたのは間違いではない。
監督が最後に口にしたように、「来年は昇格すると信じている」という意味で。
「この歳になってこんなことをするとは思わなかったけれど、息子にひきずり込まれてしまって」
本当にひきずりそうなグランドコートを着た彼女は苦笑いした。そうして言った。
「でも面白かった。サッカーは全然わからないけれど、2点目は本当に興奮した。来年は、きっとここに通うと思うわ」
プロとして何を見せなくてはならないのか、少なくてもその長くて辛い戦いには、「勝ち切った」はずだ。
■2003 J2 順位表 (全44節終了時点)
総得点:678 試合平均得点:2.57
順
位チーム
勝点
試合
勝
引分
敗
得点
失点
得失
点差
1
アルビレックス新潟
88
44
27
7
10
80
40
+40
2
サンフレッチェ広島
86
44
25
11
8
65
35
+30
3
川崎フロンターレ
85
44
24
13
7
88
47
+41
4
アビスパ福岡
71
44
21
8
15
67
62
+5
5
ヴァンフォーレ甲府
69
44
19
12
13
58
46
+12
6
大宮アルディージャ
61
44
18
7
19
52
61
-9
7
水戸ホーリーホック
56
44
15
11
18
37
41
-4
8
モンテディオ山形
55
44
15
10
19
52
60
-8
9
コンサドーレ札幌
52
44
13
13
18
57
56
+1
10
湘南ベルマーレ
44
44
11
11
22
33
53
-20
11
横浜 FC
42
44
10
12
22
49
88
-39
12
サガン鳥栖
20
44
3
11
30
40
89
-49
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