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「ユダヤに伝わる健康長寿のすごい知恵」石角 完爾(著)石原 結實(監修)(マキノ出版 2014年4月)

→目次など

■現代社会で必須の知識であるユダヤ人について知ることができる良書■

本書で上げられている有力なユダヤ人たちをリストしてみましょう。

アルバート・アインシュタイン、グーグルの創業者ラリー・ペイジとセイゲイ・ブリン、フェイスブックの創業者マーク・ザッカーバーグ、マルクス、フロイト、マイクロソフト前社長スティーブ・バルマー、スティーブン・スピルバーグ、デリバティブ(金融派生商品)の父レオ・メラメド、インテルの創業者アンディ・グローブ、FRBの議長を務めたベン・バーナンキと後任のジャネット・イエレン。

現代社会は、ユダヤ人たちの作る世界を中心に回っていることがよくわかります。ユダヤ人がこのような影響力を持ちえる理由の一部が本書を読むことで見えてきます。
同時に、本書で公開されている健康長寿の知恵と、背景として存在している価値観は、私たちにとっても同じように有用であると思われます。

その一方で、科学技術と経済成長に偏重し、人類滅亡につながりそうな状況が次々に登場してくる世界の現状に対して、決して無関係ではないどころか中心的な役割を果たしていると思われるユダヤ人の思想を批判的にとらえるためにも本書は重要な情報を多く含んでいると思われます。
重要書籍の1冊です。


病気を避けるユダヤ人の「10の誓い」


本書は、4000年前から伝わる次の10の誓いについて解説しています。

1. 穀物・フルーツ・ナッツ食主義を徹底せよ

2. 動物の血と脂肪を食べるな

3. 食材選びや調理法、食べ方のルールを守れ

4. 断食こそ健康の源!体を内部から浄化する

5. 手を徹底的に洗え!ウイルス・細菌の回避法

6. 週1日はなにもするな!心の平穏が健康を守る

7. 祈りと瞑想で最高の精神状態をつくれ!

8. 笑いで免疫力アップ!ユダヤジョークの効用

9. 「俺は俺」の自己主張でストレスなく生きる!

10. 家族をたいせつに!守れないものは死刑

穀物に関しては、最近否定的な本も出ており、人類の食べ物としても割りと新しいことから、疑問もありますが、フルーツとナッツは、『フィットフォーライフ』や『偏食のすすめ』と共通するところです。
動物の血と脂肪についても、肉食があまり健康によくないことは割と一般的な知識でしょうが、特に脂肪を落とす調理方法が採用されている点に独自性があります。
食材選びと調理法とは、食べることのできる食材が細かく規定されており、調理法も規定されていて、この規定が健康を守るために役立っているということが示されています。
特に、豚を食べないことと、魚もほとんど食べないことは、豚を食べることによる伝染病の回避と、魚を食べて有害物質を摂取することの回避という点で参考になります。
これに関しては、『自然療法』でも言われている、100年前から存在する食材だけを食べなさいという方針に通じています。

断食は健康法だけでなく、ネイティブアメリカンやアマゾンのピダハンも食べないことを意図的に生活に取り入れている点で注目に値します。
手洗いの励行も、今では衛生面で一般的な習慣になっています。
笑いの効用もよく言われていることです。

食材選びと調理法に対するルールを守ることは食品添加物を避けることや、栄養のある安全な野菜を食べることにもつながっているようです。
新しい状況を聖書のルールとの整合性からどのように判断するのかは、ラバイたちが集まって相談するため、ユダヤ人たちは新技術についての正しい知識を得ることにもなります。

そのほかの誓いのうち、特に参考になると思われるのは、週1日の安息日です。70年の人生のうち10年を安息日として過ごし、家族との語らい、聖書を読むこと、神について思索すること、シナゴーグで礼拝して人々と語らうことですごします。ちょうど、1日に1回眠ることによる記憶の整理と同じような意味があるのでしょう。
石角氏は安息日の経験から、大半のメディアやインターネットの情報は、2〜3カ月たってから知ってもたいしたことがないばかりであるとわかり、新聞の購読をやめたそうです。

しかし、本書の中で最も重要な点であると私が感じるのは、ユダヤ人の現実主義です。

日本には仏教の影響か、諸行無常という考えがあり、どちらかというと現世からの逃避を求める発想になることが多いようです。

一方、ユダヤ人は物事が移り変わるからこそ柔軟に対応して、今あるたいせつなもの(自分と家族)を維持しようと努めます。そして、あくまで現実社会に関心を向けます。 - 210-211ページ

日本人だけでなく、来世を想定して現世の生き方を規定するイスラム教とも、神への逃避ともとらえることができるキリスト教とも違って、ユダヤ人はあくまでも現実を大切にするということです。
狩猟採集民も、基本的に現実主義者です。現実主義が幸福感と実際の充実を合わせて手に入れるための鍵であるようです。

このようにして、リスクの回避、避病だけでなく、現実主義的に行動することや、コミュニティを大切にすること、教育に力を入れることなどによって、ユダヤ人は大きな影響力を持つ集団になりました。
その一方で、本書を読むことによって、ユダヤ人たちが大きな影響力を持つ現代社会が多くの問題に直面している原因もおぼろげながら浮かんできます。
リスク回避や現実主義で健康長寿を実現する生き方そのものが、自然の摂理から外れていて、大きなリスクを作り出しているのではないかという点です。
勝ち続けるつもりでゲームを進めていくと、最後には、全員が敗者になっていたという事実を突きつけられる。そんな結末が見えるように思います。
ニーチェは『ツァラトゥストラはこう語った』で、「高く明るい上方へ、伸びて行けば行くほど、その根はますます力強く、地の中へ、下方へ、暗黒の中へ、深みの中へ、-----悪の中へと伸びて行く」と記しているそうです。有名なユダヤ人たちの努力は悪の中へと伸びて行く根に力を与えていはしないでしょうか。

本書は、日本人がほとんど知ることのないユダヤ人の考え方を知るために大いに役にたちます。一読をお勧めします。

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「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

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