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「野生のカモシカ―その謎の生活を追う」米田一彦(著)(無明舎出版局 1976年11月)

→目次など

■後のツキノワグマ研究所理事長、米田一彦氏によって7年間の野外観察を積んで描かれたニホンカモシカの生態■

本書は1976年発行の古い本です。秋田県の鳥獣保護センターに務めていた著者が、野外観察を繰り返し、鳥獣保護センターでも人工保育などを経験して触れた野生のカモシカの様子が綴られています。巻末には、「私の動物誌」としてキツネ等の話や、ガラパゴス諸島旅行記も治められています。 口絵の写真を始め、多くの写真が掲載されているうえに、山での実体験に基づく記述が多くなっているため、野生のカモシカの様子がよく伝わってきます。 2章「観察日記」の「闘争」を引用してみましょう。

カモシカの闘争は春に集中している。 他の動物の場合、秋の交尾期にオス同士がメスのとりあいで闘争する場合が多いが、カモシカは、交尾期に生死をかけた戦いをする例はない。ほとんどが、円満に解決している。その証拠に秋の闘争による死体収容例はほとんどない。 春になると、子別れ闘争、テリトリーの外縁でのにらみ合いのようなものがよくみられる。 しかし、子別れ闘争で死亡したという例は全く聞かない。どのテリトリーでも母親からつきはなされた子らが元気よく成長しているからである。子別れの時の母親はたいがい身ごもっているため、深追いしても途中で息切れしたりする。出産まぎわには、ほとんど深追いもしなくなってしまう。 ところが、他の成獣に対しては、出産期の母親はおしなべて好戦的である。テリトリーの外縁を通る他のファミリーのカモシカをみただけで立ち上がり、ファイティングポーズをとる。人間にも敏感になる。大きな沢を一つへだてた対岸のカモシカが立ちあがっただけで、サッと体勢をたてなおす。異様なほど神経質になる。 おもしろいことに、これは同じファミリー内の父親に対しても同じである。 カマキリは、交尾を終るとオスを食べてしまう、という学説は最近否定されたが、カモシカは、出産期のメスが、その夫をしばしば死に至らしめることがよくあると言える。 私はカモシカを追って七年余りになるが、異なるファミリーが闘争しているのはみたことがない。お互いに争いをさける術を心得ているのだ。 カモシカの闘争死にはかならずメスが関係しているというのは根拠あることである。 子持ちのメスは、あな恐ろしや、というところか。 テリトリーに関しての争いはほとんど観察例がない。 カモシカには死を賭けて自分のテリトリーを守るといった習性はないようである。 かろうじて「ため糞」や角こすりによって自分の領分を主張するぐらいで、他動物にもっとも顕著な「なわ張り争い」での斗争はないようだ。

調べてみると、ニホンカモシカが人を襲った例があるようです。そのカモシカもメスだったのかもしれません。

5.6メートルもの高さのある切り株の上に登るカモシカの姿や、深い雪に合わせて足が長いという秋田のカモシカたち、食べものが豊富であれば前年の子を追い出さないこともあるというカモシカたち。この本で知ったことは、何度も思い出しています。日本にはヤギュウはいませんが、ニホンカモシカの姿をよく見るとウシを小さくしたようにも見え、私は、日本版ヤギュウということもできそうだなと思って見たりしています。

内容の紹介

雨を嫌うか」の最後の部分より
  私は普通の日に調査地に観察にいくと、必ずすべての調査地を一回りしてくる。この一日の観察で平均五頭以上のちがう個体を発見するが、これが雨の日だからといって発見率が落ちるわけではない。
  カモシカはどんな雨の日でも生活のリズムはこわしていない。雨よりは生活のリズムの方が明らかに優先している、とだけはいえそうだ。 - 105ページ

『はだかの起原』の冒頭に出て来た嵐の日でも元気に遊び猿たちの姿を思い出しました。毛皮を持つということは、野外で過ごす上で極めて有利なのでしょう。


収容」の最後の部分より
  今までに収容した成獣九例のうち五例をここに紹介してみた。
  九例のうち、七例はオスで二例がメスであった。この七例のオスの死亡のうち、四例が闘争死である。以下、順に転落死、転落水死、老衰死、と続いている。
  秋田全県の死亡情報を総合すると、春先のオスの闘争死がもっとも多いという結論になる。 - 81ページ

この直前の部分には、メスの難産によると思われる死が記載されています。野生動物の死というと、食物連鎖の中の死を思いますが、転落死や難産死が普通にあるところを見ると、人と変わらない事情を感じます。



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「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

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