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「新・人体の矛盾」井尻正二 (著), 小寺春人 (著)(築地書館 1994年2月)

→目次など

■人体は起源を異にする、新旧さまざまな器官のよせあつめである■

本書は1968年に出版された井尻正二著『人体の矛盾』の改訂版です。本書自体、1994年発行の古い本です。井尻正二氏は『はだかの起原―不適者は生きのびる』の著者である島泰三氏から空海以来の日本人の持つ健全な論理的能力を示す人物であると評されています。井尻氏の専門は古生物学、地質学ですが、学問分野にとどまらない豊富な知識が生かされています。

本書では、人体のいくつかの器官の起源を探っていくことで、調和と統一を保つ人体が、古い歴史を持つ器官から今もなおつくられつつある器官までのさまざまな器官の寄せあつめであることを明らかにし、人体の調和と統一が恒久的でも完全でもなく、矛盾を含んだものであり、この矛盾にこそ生命現象の本質があり、進化の本質があると主張されています。

たとえば、内耳は魚類の側線器官をもとに発生してきたであろうと推測するとき、そこには、発生学の知識、生物学の知識が生かされています。 脳についていうと、外胚葉から作られる器官であるために血管系の侵入が乏しいという欠点があり、これが脳のこれ以上の発達を阻害していると指摘されています。 私は、人体はほぼ左右対称なのに右脳と左脳があるのはどうしてなのかと疑問に感じたことがありましたが、本書で理由がわかりました。


生物は長い歴史を負って生きる存在であり、いつもどこか不都合を抱えながら暮らしているようです。 その中で長い世代を重ねるうちに器官の発達やときに新生があっていつの間にか別の存在になることもあれば、どんなに不都合に見えようともそれが最適なあり方であったりするもののようです。 本書は、古い本ではありますが、人についてまた生物の変化という現象についての視点を与えてくれる良い本だと思います。

内容の紹介


  ヒトは、歯や咀嚼筋が退化する一方で、脳がだんだんと肥大化してきた。 その結果、口の突起がなくなり、これにともなって口腔の上に位置している鼻腔も退行せざるをえなくなった。 そして、鼻腔は大きくなってきた脳の下にひきこまれる結果となり、鼻腔が最大の犠牲者となって小さく縮小したのである。 したがって、ヒトでは鼻腔での冷却機能が衰え、汗腺の発達へと向かったと考えられるのである。
  皮膚に分泌させた汗を蒸発させて、その気化熱によって体を冷却する方法は、毛があると、汗の蒸発が邪魔されて不都合である。 よって、ヒトは体毛をなくしたものと考えられる。 - 142ページ


  ヒトの脳は、もっとも新しい構造である超新皮質の飛躍的な拡大があるいっぽうで、古い体制にとどまる血管系があり、両者のあいだに、ふかい矛盾が横たわっている。 脳の将来は、これをどのように解決するかにかかっている。 - 183ページ

生物は生きる欲望によって地上を多様な生物の世界に変えてきたわけですが、同じ欲望とヒトの能力とが組み合わさった時、何が起きるでしょうか。 本書は人間による環境の管理は避けられないと結論付けています。 すでに滅びた多くの文明に学ぶことなく、資源の消費を拡大し続けている今の人間社会の先に、果たして、そのような理想的な状況は成立しえるものでしょうか。

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「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

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