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「サルが木から落ちる 熱帯林の生態学」スーザン・E・クインラン (著) 藤田千枝 (訳)(さ・え・ら書房 2008年4月)

→目次など

■熱帯の動植物が見せる生きる姿■

アマゾンには多種多様な生物が住みながら、そこを訪れた人はあまりに動物たちの姿が少ないことに驚くそうです。一方、確かに数は少ないのですが、種類の多さはケタ違いです。つまり狭い地域に多様な鳥や昆虫、動物たちが住んでいることになります。それでも、動物のバイオマス(ある地域に生息する生物体の量)は、アフリカの草原に比べても小さいくらいだといいます。

本書では、このように多種多様な生物が住みながら、予想外に生物の量の少ない環境で、互いに関係しあって生きている動植物の姿が、多くの参考資料に基づいて描かれています。

表題の木から落ちるサルはホエザルです。植物の葉を中心に食べるこのサルは、熱帯林という食糧に困ることなどなさそうな環境に住みながら、実際には工夫をこらしてようやく安全な食べ物を得ているようです。熱帯の植物は毒を持つものが多く、同じ種類の木でも、条件によって毒の強さに違いがあるため、味見をしたり、毒の少ない部分だけを食べたりしなければならないのです。しかし、気候が不順で普段食べないような葉を食べたり、誤って毒のある葉を大量に食べると、木から落ちるというのです。自然界は、ある一種の生物にとって好都合な楽園になることはないと言っているようです。

サルが味見をしながら葉を食べることは、『動物たちの自然健康法』にある味見をするネズミの話と重なるものがあり、動物たちの知能と私たちの知能に本質的な違いがないことを思わせます。

ホエザルの例は、食べる側と食べられる側の関係ですが、ウマバエに寄生される鳥の防衛策では、ハチや別種の鳥が登場してきて、ここでも鳥たちはただ本能に従って行動しているとはいえない事例が示されています。他に、本来の花粉媒介昆虫がいまではいなくなったのではないかと思われる植物の話や、多くの実をならせる植物とサルやげっ歯類、そして昆虫の関係の話などが上げられています。

最後に、熱帯林が切り開かれて、わずかな部分だけが残された場合の影響を調査した研究が紹介されています。かなり大きな面積を残したとしても、小さな昆虫を含め多くの動植物に影響が出ることが示されています。ただ希望もあり、切り開かれた土地がすぐに荒廃して放棄された結果、元の熱帯林が復活し始めており、そのことで島のように残されていた熱帯林動詞が繋がり、この繋がった島に、動植物が戻っている事例も確認されているようです。

このような本を読んでいつも思うのは、自然界は楽園でもなければ地獄でもないが、ある程度の負荷をすべてのメンバーにかけながら、少しずつ多様性を増し、機能を磨いていっているのだという事実です。私にとっては期待したほど濃い内容ではなく物足りなさが残ったものの、このような自然界の姿を再確認することはできました。

内容の紹介


また、熱帯林の植物の多くは、大部分の動物にとっては消化しにくいか、まったく消化できないのだという科学者もいる。理由はどうあれ、熱帯の多くの鳥、ほ乳類、は虫類、両生類、昆虫が生きのびるためには非常に広い森が必要だし、そこで暮らしていける生きものはごく少ししかいない。 - 22ページ

本来はヒトも同じです。ヒトが暮らしていくためには、一年中食べ物を確保でき、しかも次の年になれば同じだけの資源が再生産されていくだけの、広大な土地が必要でした。農耕民が現れて、土地や水源の囲い込みを行ってしまえば、狩猟採集者は数を減らすしかありませんでした。



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「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

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