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「謎の絶滅動物たち」北村雄一 (著)(大和書房 2014年5月)

→目次など

■アフリカから北米大陸にまで広がったゾウの仲間、1億2000万年前に孤立した南米大陸で独自に進化した大型の哺乳類たち、肉食ウォンバットなどホモサピエンスの登場によって姿を消した大型動物たち■

動物たちはどうして絶滅したのでしょうか。本書で取り上げられている45種類の動物たちは、恐竜のように古い動物ではなく、もっと最近になって滅びた動物たちです。特に、今ではアフリカを除けばほとんど見られなくなった大型の哺乳類が中心になっています。たとえばシベリアや北米大陸まで分布を広げたマンモスの故郷はアフリカであり、古い人類と共に進化していったように、ここに登場する動物たちは超古代の生き残りではなく、人類とともに進化の道を歩んでいた隣人でもあります。外国語で書かれた多くの文献が参考文献に上げられています。

ゾウ、サイ、ライオンなど、アフリカと共通する大型動物が多かったユーラシア。古い時代にユーラシアから渡った動物たちや空を飛ぶ巨鳥のいた北アメリカ。独自に進化した大型哺乳類や有袋類の住んでいた南アメリカ。肉食のものや大型のものなど今よりずっと多様な有袋類たちが住んでいたオーストラリア。そして、島という環境で進化した動物たち。数万年前の地球には、多くの大型動物たちが暮らしていました。

本書によれば、その大部分の絶滅に、言葉を持った人類である私たちホモサピエンスの活動が関係しているようです。本書では、ホモサピエンスとなって人類が初めて言葉を持ったことに言及されていませんが、ネアンデルタール人や北京原人とは共存していたユーラシア大陸の大型動物たちが滅び始めたのは、ホモサピエンスが進出した時期と重なっています。特に、本書に収録されている最初の絶滅動物としてネアンデルタール人が上げられていることが象徴的です。

なぜ、アフリカには大型動物たちが生き残ったのかについて、本書では、アフリカは人類の発祥地であり、アフリカの動物たちは人類とともに進化してきたからだとされています。しかし、アフリカでも人類が言葉を持って狩猟方法が進歩したことに違いはないと思われ、考察の余地はありそうです。

大陸ごとの概要をまとめて示したあとで、個々の動物がイラスト付きで紹介されています。草を食べる動物の口はウシやカバの口のように横に広がり、木の葉などを食べる動物の口は鹿の口のように細くなるそうです。群れで狩りをする肉食動物たちは脳が大きくなり、沼地にはまりこんだ獲物をあさりに来るのも群れで狩りをする動物たちです。体の大きい動物は放熱のために裸になります。このような知識も披露しながら、絶滅した動物たちが紹介されていきます。

ホモサピエンスは、アフリカを出てヨーロッパや中央アジアに広がり、数万年前にはオーストラリアに渡って独特の進化を遂げていた大型有袋類を滅ぼしました。3万5千年前ほどに裁縫を知って寒冷地に進出し、1万数千年前にベーリング海峡から北米に渡って北米と南米の大型獣を滅ぼしました。新しくは船を作って海を渡り、島々に住んでいた動物たちを滅ぼし、銃を作って動物たちを追い詰めていきました。本書では指摘はありませんが、裁縫にも船にも銃にも言葉が必要でした。

人類が初めて言葉を持ったとき、地上には多様な大型動物たちが住んでいました。将来の地球にはどのような動物たちが住んでいるのでしょうか。寂しい世界に変わっていくのでしょうか。

内容の紹介


絶滅の始まりはユーラシアへの人類進出から
  440万年あまり前、アフリカの草原を最初の人類が歩いていた。彼らは熱帯の乾いた草原に暮らして、2本の後ろ足で直立して歩き、ごく単純な石器を使っていた。
  何百万年にもわたる進化の過程で、人類の血脈は分岐し、異なる種族がいくつも生まれた。ネアンデルタール人もそのひとつである。最後に現れた種族がホモ・サピエンス(Homo sapiens)、つまり我々現代人とその祖先だ。
(中略)
  大陸に吹き込んでくるのは乾き切った冷たい風だ。このため、ユーラシアの大部分は冷たい草原になっていた。これをマンモス・ステップという。
  そこでは、トナカイ、ホッキョクギツネ、クマ、サイ、ゾウ、ライオンが一緒に暮らしていた。現在ならアフリカにいる動物と、北極にいる動物がごちゃまぜになっていたのである。
(中略)
  マンモスたちは、新参者のホモ・サピエンスを知らなかった。ホモ・サピエンスより一足早くユーラシアにやって来ていたネアンデルタール人とは共存できていたが、新たにやってきたホモ・サピエンスは、やがて画期的な武器を手にする。弓矢や投槍器などの飛び道具だ。
  このまったく新しいハンターの突然の出現により、マンモスやネアンデルタール人を含めて、数多くの種族が絶滅することになる。 - 12-13ページ

人類の誕生は800万年前または700万年前とも言われ、元々森で進化したとも考えられるようになりました。それでも、ホモ・サピエンスが登場するまで人はほぼ野生動物でした。『はだかの起原』にあるように、私たちが野生動物ではなくなったのは、言葉を発する能力を得てからでした。それが動物たちの絶滅につながりました。


船と銃器により世界の隅々で加速する絶滅
(最後の段落)
  こうした島にもやがて人類が到来するようになった。船という技術を手に入れたからである。とくに、大航海時代に入ったヨーロッパは、大型船を用いて、地球上の隅々にまで足を延ばした。
  それまで知られていなかったモーリシャス島ではドードーが絶滅した。古くから知られていたものであっても、たとえばオオウミガラスは逃げ場を失ってついに滅びた。
  これは別に、島に限ったことではなかった。近代的な銃が発明されると、それを手にした人間たちは、船に乗って世界の隅々にまで行きわたった。こうして最後の絶滅が始まる。 - 177ページ

ホモ・サピエンスの歴史は工夫を重ねることで多くの動物たちを絶滅させてきた歴史でした。歴史は、言語を持った動物であるホモ・サピエンスが飢えをなくそう、もっと住みやすい場所をめざそうとしていくと、他の動物たちを滅ぼしていってしまうということを示しています。中には、ネコやウシのように家畜となって数を増やす動物もいるでしょうが、命の輝きはありません。それは、文明社会に生きるヒトの姿そのものでもあるようです。

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「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

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