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「森田療法」岩井寛 (著)(講談社 1986年8月)

→目次など

■「あるがまま」といういこと。双子の性格を分けるもの。逃げられないということ。東洋的手法■

1986年第一刷発行、2013年第五二刷発行のロングセラーです。 著者は、本書を口述筆記で著し、校正刷りがでる前に亡くなられました。

森田療法の概要について、森田療法とは?から抜粋してみます。

精神科医の森田正馬先生(1874〜1938)によって、昭和初期に創始され、その後継者である高良武久先生(精神科医)達によって発展してきた神経症(不安障害)に特化した精神療法です。

森田療法は「あるがまま」というキーワードで有名ですが、神経症(不安障害)の症状に悩んでいる人の姿勢、つまり行動の仕方を現実の生活の中で変えて行く精神療法だと言っても良いと思います。

本書では、このような森田療法の基礎理論から、神経症のメカニズム、神経症の諸症状、治し方、そして日常生活への森田療法の応用が説明されています。

私は、森田療法の入院療法で、庭仕事などの作業が取り入れられている点に着目して本書を読んだのですが、残念ながら目的の情報は得られませんでした。代わりに、森田療法における「あるがまま」についてや、神経症のメカニズムについて知識を得ることができました。

あるがままということ
たとえば、初舞台に立つ俳優は怖くて当たり前であり、この怖いということをそのまま受け入れることが「あるがまま」であるといいます。子どものような純真さや、嫌なことを避けることではないのであり、人間として意味を求めながら生きようとすれば、このような場面が多くなります。

双子の性格を分けるもの
神経症の発症に関するメカニズムは一卵性双生児の例を読むとよくわかります。兄弟を区別して接する両親に育てられた二人は、同じ父親に対してまったく異なる受け止め方をしています。 対人恐怖症を発症した兄は、(父親は)権威主義で拝金主義者である。心の交流をもったことがない。嫌いだ。と表現し、弟は、同じ父親を努力家で真面目である。無口ではあるが、いろいろなことを話してくれたと表現しています。二人がどれほど違う待遇を受けてきたのかが偲ばれます。この事例は、後天的な環境の大きさを示しており、性格が変り得ることも示しています。

逃げられないということ
神経質に悩む人間は、日常者と同じような不安・葛藤を持ちながら、この苛酷な軋轢に耐えるのではなく、症状を理由に逃げてしまうことが日常人との大きな違いであり、このような性質は、権威主義的な親などの後天的な環境によって作られる面が多いのです。

森田療法の入院療法では、最初に一週間の臥褥(がじょく)期があり、被治療者は安静を保つ中で不安が極限状態には至らないことと、自分は生の欲望を持っていることに気づくことになります。第二期が私の注目した作業療法期です。この期間も症状は続いていますが、それを理由に逃避するのではなく、作業や人間関係を続けて、生活をよりよいものにしていきたいという向上的欲求を生かしていけるように設定していくのが、この時期の骨子です。

東洋的手法
森田療法のこの手法は、ヴィパッサナー瞑想における、 問題と向き合わなければなければならない心に生まれた感情をただ観察することで、汚れは自然に消えていき、私たちはそこから解放されますという言葉と、通じるあり方ではないでしょうか。

私は、この本によって、ようやく神経症のメカニズムと、森田療法の手法を、自分なりに理解できました。 伝統的な社会における成人儀礼もこのような「逃げられない」という観点から分析すると、面白いかもしれません。


ピダハン』には、次のように記されています。

このようにして育てられた子どもはいたって肝の据わった、それでいて柔軟なおとなになり、他人が自分たちに義理を感じるいわれがあるとはこれっぽちも考えない。ピダハン王国の住人は、一日一日を生き抜く原動力がひとえに自分自身の才覚とたくましさであることを知っているのだ。

ピダハンの世界を知ると、単に個人の問題というよりも、現代社会の問題が神経症として表れていると考えることもできそうだと感じます。職が「何とかなる」世界から「何ともならない」世界、長時間の拘束や夜間作業など生物的な欲求と相入れない行動を求められることの多い世界、高速移動など本来不安を感じて当然である場面が人工的に作られていく世界、画一化の進む世界、日々を精いっぱいに生きることが難しい世界。 確かに逃げないことは必要ですが、ピダハン王国の住人のような肝の据わった人間になるためには、何か重要な要素が抜けているのではないでしょうか。

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「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

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