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「カルト村で生まれました。」高田 かや (著)(文藝春秋社 2016年2月)

→目次など

■「カルト村」で暮らす両親の下で生まれ、否応なく村で過ごし、成人するとともに村を離れた本人がマンガで伝える「カルト村」の暮らし。ウェブに連載された漫画を単行本化■

「カルト村」と呼ばれていますが、教祖もおらず、怪しい礼拝もしていないとのことで、カルトと呼ぶことがふさわしいかどうかは疑問です。経済優先の社会に対する疑問や食の安全を求めるひとびとによる集団生活のようであり、本書には具体的な名称が記されていないため特定は避けたほうがよいかもしれませんが、ヤマギシ会を想定しながら読みました。

カルト村といっても、その生活の様子は、イスラエルのキブツを思わせます。村の暮らしには、次のような特徴があります。

・集団生活
・早起きして労働
・一日二食(朝食抜き)
・親子別々の暮らし(年数回だけ親元にお泊り)
・私有の制限
・テレビ視聴の制限
・子どもの世話を一手に握る「世話係」の強権ぶりと厳しい体罰
・各地の村で農工業生産を分業
・健康食

本人は現在35歳、東京暮らしで、10年前に結婚した50歳の夫と暮らしています。村での暮らしで、自分は絶対子どもを作らないと決心したと本書に2度書かれています。ほのぼのした絵の効果もあって、同じ境遇に置かれた仲間に囲まれて展開されていく村の生活は、お金を持たない不自由さや、子どもらしい楽しみの少ないことを越えて、かなり楽しそうに見えます。確かに、成人して村を去ることを著者が選んだとき周囲の人々は驚いたように本人は村になじんでいるように見えます。それにも関わらず、実際には、大きな苦痛を抱えて暮らしていたのでしょう。

村は完全に閉鎖的でもないようで、外から村に働きに来るひとがあったり、途中からは親が村人でなくとも子どもを受け入れるようになったりもしています。確かに大変な暮らしですが、生きがいのある仕事を持ち、山や田で遊んだり木の実を採って食べたりし、村で作った安全な食べ物を食べることができる暮らしにはあこがれるところもあります。

山暮らし始末記』では、男女2人の山暮らしを経て、「人間関係は自給自足できない」という結論にいたっていましたが、カルト村では集団を作り、各地に分散しながら交流も持つことで人間関係の煮詰まりは、ある程度解消されているように見えます。すでにずいぶん長く続いてもいるようです。

「カルト村」での暮らしとはいっても19歳までですから大人の世界についてはそれほどまだわからない状態だったと思われますが、普段知ることの少ない、共同体的な暮らしについて知ることができます。ユートピアを目指すと管理社会が訪れるという法則はこの村にもあてはまるようです。両親も村をやめて一般社会で就職されたそうです。

私自身は、人類史の99%を占める、定住しない狩猟採集生活こそ、最も本来的で、最も現実的に最適な暮らしであると考えています。人はエゴイストであることを認めながら、権力者の登場を回避しつつ、平等性の高い社会を作っており、生物の本質から目をそらさず、多くの生物と関わりながら生きていることに意味があると感じるためです。

そのような視点から狩猟採集社会、本書のカルト村などを知ることで逆にわたしたちの生きる社会の本当の姿が見えてくると私は感じています。

内容の紹介


村ではお金のいらない社会も
目指していたため
身近にお金はなく
お小遣いも存在しない

欲しくても手に入らないのが
当たり前で、我慢したり
お願いしたりしているうちに
だんだんと嫌気がさして…

(セリフ)今は反対に所有欲があまりないんだよねー  - 29ページ


森を歩きまわるだけの
女子とは違い
男子は基地をつくったり
罠を仕掛けたり

大人に見つかったら怒られることを
積極的にやっていた

でも世話係や大人は森へ入ってこないので
私たちは何かと森へ出掛け(逃げ)た - 47ページ


初等部には
1台だけ
テレビがあったが
見るのは禁止

週に一度放送される『まんが日本昔ばなし』だけ見せてもらえる

土曜の夜は
子供たちの走る音が
地鳴りのように響き渡る

食い入るように見る
30分はあった言う間に過ぎて…
次の土曜日を心待ちにする - 49ページ

子どもの頃、このカルト村と似たような自然に囲まれた環境で育ちました。 秘密基地を作ったり、森へ弁当を持って出かけたりもしました。

ただ、家にテレビがあったことで、外出する遊びの時間は大幅に減っていたんだと、今になってわかりました。大人は当時もそんなことを言っていた気がします。

私は『偽情報退散! マスコミとお金は人の幸せをこうして食べている』を読む前から、テレビが静かに思考する時間を奪うことは大きな問題であると考えていましたが、本書を読んで、子供が体を動かしたり、複雑な環境の中で過ごしたりする時間をテレビが奪うことも大きな問題であったのだと気付くことになりました。

それはそうと、テレビ番組も、この当時とは違って、グルメ番組、戦闘もの、セレブ取材など、ゴイム化を進めるものばかりになっていませんか?


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「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

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