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「動物の計画能力: 「思考」の進化を探る (プリミエ・コレクション)」宮田 裕光 (著)(京都大学学術出版会 2014年4月)

→目次など

■哺乳類と鳥類という、ともに体温を維持し、育児を行う種にみられるプランニング能力の収斂進化をさぐる■

チンパンジーは石のないところで木の実を割るために遠くから石を運んできます。カケスなどの鳥たちは、木の実をすぐには食べず、貯蔵します。実験でも、ヒト以外の霊長類に加え、鳥類にも現在だけでなく将来の必要を満たすためのプランニングをするという示唆が得られてきています。しかし、これらの行動は、特定の種に特化した適応的特殊化の産物である可能性があります。また、鳥類のプランニング能力の可能性は、霊長類と比べるとまだ知見の蓄積があまり進んでいません。

こうしたことから、本書の研究では、種特異的な学習に依存しない一般的な学習課題で、かつ系統的に多様な種を同一の手法で直接的に比較することができる、コンピュータ画面上でのナビゲーション(空間移動)課題と迷路課題を用いています。

ハトを使ってコンピュータ画面上でのナビゲーション行動という研究手法を確立した後で、同じくハトによって1〜数手先を読む先読み課題(短期的プランニング)を検討し、さらにより長期的な解決方略を持っているかどうかを、コンピュータ画面上で複数の課題を順に訪れる巡回セールスマン課題での経路選択によって調査します。また、ニュージーランドに生息するオウムの一種であるキーアを用いた鍵開け課題によって、鳥類におけるプランニング能力の種による比較も行っています。

最後に、ヒトの3〜4歳児を対象にハトに用いたものと同様の迷路課題を課して、系統も発達段階(年齢)も大きく異なる2種間で課題の遂行成績を比較しています。

こうした実験の結果、哺乳類と鳥類という系統的に大きく異なり、脳の構造も異なる生物種間で、プランニング能力に収斂がみられました。

こうした収斂の背景として、(1)代謝率と(2)繁殖戦略という二つの要因が挙げられています。

爬虫類は代謝率が低く、ブドウ糖の分解過程から筋収縮エネルギーを得るため、素早いエネルギー供給が可能な一方で、すぐに筋肉に疲労が蓄積してしまいます。このような短期即決型のシステムには中脳系による行動制御が非常に適しており、中脳から背側脳質突起(DVR)、大脳基底核を介して運動系を制御することも可能です。一方哺乳類は体温を維持するために高いエネルギーを必要とするため食物を酸化する過程で得られるエネルギーを用いています。そのため常に食物を得る必要があることで、対象の状況を的確に把握する戦略が適応的となる可能性があり、そのための機構として大脳新皮質が機能しています。

爬虫類の繁殖戦略は、基本的に育児を行わないことです。哺乳類は育児を行うために子どもに対する投資が増えることから生涯に産む子の数が減るため、健康で強い子どもを生み出す遺伝子を持った配偶者を獲得する必要性が生じる可能性があります。こうした状況が、時間をかけても慎重な対象分析や状況判断を行う戦略を適応的にしている可能性があります。

鳥類は、この代謝率と繁殖戦略という枠組みに当てはめたとき、特有の位置を占めています。哺乳類と同様に代謝率が高く、育児を行う繁殖戦略をとっているため哺乳類同様に慎重かつ柔軟に行動決定することが適応的になります。しかし、鳥類は進化したDVRを持つところから始まっていて、大脳を発達させる方向へは進まず、DVRを恒温動物としての必要に合わせて進化させる方向に進むほうが合理的であった可能性があります。また、飛翔のために素早い対象の認知や、連続的な運動も必要とし、脳の重量をできるだけ軽く抑えることも重要でした。こうした条件が、爬虫類の短期即決型のシステムを維持しつつ、ある程度以上は脳内で心的表象を操作することによるプランニングを使った複雑で柔軟な問題解決もできるように脳を改良したのではないかと推測できます。

代謝率と繁殖戦略と、高度な状況判断や計画の能力とが実際にこの推測通りの関係にあるかどうかはわかりません。しかし、こうした物理的な条件が私たちの脳の発達に関係している可能性を知ることは、私たちが物理的な条件に大きく影響を受ける存在であると再確認させてくれます。

内容の紹介


言語の重要性は疑いえないにしても、それが思考のすべてというのは一種の思い込みあるいは決めつけにすぎない。 - 5ページ

逆に人は言語を用いた思考に頼りすぎて、言語という道具に操られていると見ることもできそうです。



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「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

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