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「ダイドー・ブガ ― 北ビルマ・カチン州の天地人原景」吉田敏浩(彩流社 2012年5月)

→目次など

■焼畑農業と精霊信仰と国家・文明への組み込み/これを伝える側にかかるバイアス■

ゾミア』の中心部ともいえる、北ビルマカチン州で焼畑農業を中心に狩猟や採集も組み入れながら暮らし、脱国家の生活を続けてきたカチン人の暮らしぶりとミャンマー軍事政権による武力制圧に抵抗する様子を伝える写真集です。

全体で142ページのうち、108ページ以降は主にゲリラ部隊としての訓練や活動、空爆された村の様子などが記録されています。

焼畑農業は収奪農業であると喧伝され、信じ込んでいる人もあるでしょうが、耕作地を増やしていくこともなく、森全体を切り開くこともない焼畑は、けっして収奪農業ではないことがわかります。また、森に囲まれて生き、精霊信仰を続ける人々の世界観が伝わってくる内容にもなっています。

マラリアで亡くなった少年を弔う場面がありますが、アイヌ、ブッシュマン、ピダハンらと同様に、葬儀が終わってしまえば二度と墓参りをせず、土に帰るのに任せるとあり、精神世界の共通性を感じます。

そのような暮らしぶりを伝える写真の後に、これを奪い、強制的に国家に組み込んでいこうとするミャンマー政府と抵抗するカチン人の様子を伝える写真と説明文が続いています。

問題は、金に目をくらませた軍事政権が人々の故郷を無理やり奪おうとしており、キリスト教系の人権援助団体などがこの実態を調査して明らかにしているという構図の伝え方になっている点にあります。これは真実ではありません。

『ゾミア』に記されているように徴税機関として民を増やし経済活動を拡大することを欲する、国家・文明の本質にこそ問題があるはずであり、キリスト教も大衆宗教としてこの支配のために利用されてきたということこそが真実であるはずだからです。

本書からは、「人間には自動車も電気も西洋医学も必要なく、精霊信仰こそが人と自然の調和を支える」というメッセージだけをあえて受け取っておきたいと思います。

内容の紹介


伐り開いた土地をそのまま使って連作したり、どんどん森を伐り開いて農地を拡大したりすれば、 いつのまにか土地は痩せ、森林も減少し、結局は生活の基盤が崩れてしまうことを村人はよく知っている。 - 13ページ


死者の魂は墓にはいない。遺族は最後の別れを告げた後、墓参りはしない。 墓は雨に打たれ、陽にさらされ、風に吹かれて朽ち、草木におおわれる。死者は土に還る。 - 90ページ


カチン人の村人のこうした森・自然との結びつきは、国家というものを必要としない自立した暮らしを成り立たせてきた。 しかし、国家の支配の手はかれらをそのままにしてはおかず、何か恩恵をもたらすどころか、政府軍による強制移住作戦や空爆をめぐって述べたように、痛み、苦しみ、傷と死を強いてきた。 かれらに対して国家は多くの場合、銃口を向けてくる軍隊という姿かたちで現れてきた。それがビルマの現実である。 - 140ページ

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「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

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